遠山キンジの独白   作:緋色

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揺らぐ鎌と砂の王
幽霊


 理子にメールで指定された場所―――武偵高のある学園島とレインボーブリッジを挟んだ向かいにある人工浮島。空き地島。

 4月に俺が飛行機(ANA600便)をぶつけたせいで折れ曲がり、回ることを忘れた風力発電機。

 そのプロペラの1枚に、黄昏時の東京を背に腰掛けていたシルエットは―――カナ、だった。

 

 死んだはずの人間に再会するだなんて幽霊に会うという予言はあってたな。

 

 時が止まるほどの美しさ。

 濃厚な緋色に燃える、日没直後の美しい空と雲さえも……カナを前にしては、引き立て役の背景画に過ぎない。

 ロングスカートのワンピースを着たカナは、編んだ長い後ろ髪を海風に揺らし

 祈るように閉じていたその眼を、そっとそっと開いた。

 長い睫毛の下の瞳に、魂を射抜かれる。

 柔らかな視線は地球よりも強い引力で心を、ふわりと宙に浮き上がらせる。

 写真に収めて壁紙にしたい。――カメラ持ってくれば良かったな。いやカメラごときじゃ収まりきらないか。

 

「久し振りだねカナ姉。今までどこに?」

「キンジ。ごめんね。()()()()は遠かったわ」

 

 その薔薇色の唇で言った。

 

「キンジは、神崎・H・アリアと――なかよしなの?」

 

 何言ってんだ?

 アリアとなんて

 

・奴隷になれとか言ってくる -1

・ももマン買ってこいと命令される -1

・急に銃を撃ち放ってくる -1

・面白い話しろと無茶振りしてくる -1

・話が面白くないとキレられる -1

・クロメーテルに俺の事愚痴りまくってる -1

・戦闘時は頼りになる +1

・かわいい妹 +5

 

 ……。

 

「仲は悪くないんじゃないか?良くもないけど」

「キンジが肯定したら1人でやろうと思ってたんだけどな。しなかったね」

 

 なにが?

 というかなんか嫌な予感がする。

 顔が引きつるのを自覚しつつもその先の言葉を言わせないように何かを言おうとしたが

 

「――これから一緒に、アリアを殺しましょう」

 

 

 カナは確かにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カナはそんなこと言わねぇ~

 

 

 武偵法9条『武偵は如何なる状況に於いても、その武偵活動中に人を殺害してはならない』

 海外では場合によっては殺しもOKだが日本の武偵は武偵法9条で明確に殺人を禁じられている。破ったらどんな理由があろうと3倍則により死刑は免れない。例外は公安0課(表向き武偵と活動してるのがいるらしい)だがそれはそれ。

 カナ姉は敵地に孤立してしまい、他の武偵たちが見捨てたような絶望的な人命でも助けに行った。

 戦略上の捨て石になったような武偵でさえ、生還させることのできる人だった。

 カナと共に戦って、死亡した武偵はいない。

 解釈違いで頭に血が上るが一旦落ち着こうたぶん聞き間違いだ。聞き間違いに違いない。うんそうだ。保護しましょうって言ったんだそうに違いない。

 

「なんでだ?アリアに危険が?」

 

 そう言いながら飛行機の傾いた翼を坂道を上るように渡っていく。

 

「アリア。 神崎・H・アリア。 あの少女は巨凶の因由。巨悪を討つのは義に生きる遠山家(わたしたち)の天命」

 

 ……聞き間違いじゃなかった。

 義。すなわち『正義』。

 ここまで言うって事は何らかの確信をもって討つ必要性を感じているって事だろう。

 

「巨凶の因由?なんであいつが巨凶が起こる原因になるんだ?短気で飽きっぽく衝動的で欲求不満耐性が低いサイコパス一歩手前――手前?みたいな子供だがあれでも一応法治寄りの武偵だぞ?」

「それは……教えられないわ」

 

 教えられないのに殺すの?なんで?

 カナ姉なら義に迷いが無いなら言えるはずだろ……!?

 

「……カナ姉がいたイ・ウー絡みか?」

「イ・ウーの話は――できないわ。あなたを危険に晒したくない」

「もうイ・ウーの構成員と何度か喧嘩してるしNo2のブラドを逮捕してるんで手遅れだよ。むしろ知らん方が危険なんですが!?」

 

 どいつもこいつも俺を重要な位置に置きながら蚊帳の外にしようとするんじゃねえ!

 

「その程度なら問題ないわ。イ・ウーの目的はアリアの成長だから」

「その程度……?アリアの成長……?」

 

 ……主に俺の方が成長してたような。

 いや事件通して社会性獲得しつつあるしそっちが狙いか?裏社会ほどコミュニケーション能力ない奴は排斥されるからな。そっちは後輩が原因な気がするけど。

 

「……それだとまるでアリアがイ・ウーに行くみたいだな?」

「ええ、このままだと行くでしょうね。その理由もある」

 

 冤罪の神崎かなえさんの件か?

 イ・ウーはアリアを取り込むあるいは利用するためにいろいろ仕掛けていたと?

 まるで誰かの書いた筋書き通りに。

 確かイ・ウーのトップはProfession――恐らくモリアーティ教授だろう。暗躍のやり方に少々疑問はあるが子孫かなんかだろう。アリアだってホームズ4世だし。

 

「……それなら予防逮捕するぐらいで十分じゃないか?その間にイ・ウー潰すとか」

「それは無理よ。イ・ウーはそんなに甘くない。芽が出ない状態にしないと意味がないの」

 

 悲しみを背負った天使は愁いを帯びたほほえみで言葉を続ける。

 

「おいでキンジ。私はキンジを信じてる。きっと力を貸してくれるって」

 

 ……。

 

「そう。ごめんねキンジ。そんな顔させる気はなかったの。やっぱり一人でやるわ」

 

 

「出エジプト記32章27――汝ら各々、劔を帯びて門より門と営の中を彼処此処に行き巡り、その兄弟を殺し、愛しき者を殺し、隣人を殺すべし」

 

 聖書の一節を諳んじつつ、煌びやかな東京のイルミネーションを背に立ち上がった。

 

「アリアはまだ幼い。パートナーさえいなければきっと簡単に仕留められる相手だわ」

 

 どうするべきかなんてわからない。

 ただここでやるべき事だけはわかる。

 

『どういうこと?』

 

 言葉は無かったが、そう心に問いかけるような視線を送ってくる。

 

「義を見てせざるは勇無きなり。俺にはそれが正しい事だとは思えねえよ」

 

 ベレッタを構えた俺に対してカナはまるで蝶が羽ばたくように小さな溜息をもらした。

 

「――軽々しく武器を見せるのはよくないわ。見せてしまえば装弾数、射程距離、その武器の長所や短所まで……全てを見抜かれてしまう。覚えておきなさい」

 

  パァン!

 

 俺の目が捉えたのはカナの手元で弾けた閃光のみ。

 発砲音と同時に、ピュンッ! という不快な音が右耳を襲った。

 何度か経験したから分かる。これは耳のすぐそばを銃弾が飛んだ音だ。

 ヒステリアモードなら何か見えたかもしれないが、銃が全く見えなかった。

 『不可視の銃弾(インヴィジビレ)』!?

 兄の技の一つでいつ銃を抜いたのか、いつ狙われたのか、いつ撃たれたのかさえ分からない――反撃はおろか、人間には反応すら一切できない攻撃だ。

 今の俺はノーマルだ。高く見積もってもAランク並だろう。

 だが、それでも悪に染まった遠山を止められるのは同じ遠山だけだ!

 

「義の為だ。死んでも止める。それが弟の義務だろ」

「義の為よ。お願い邪魔しないで」

 

 ベレッタを全弾発射モードに切替、しばらく行動できないように撃ち尽くす。

 ――しかし

 

「優しい子。殺さないように手加減するなんて――甘すぎるわ」

 

 長髪に隠してた鎌を取り出したカナは目に見えないほどの斬撃で大怪我させる気で撃った弾丸を全て斬り弾く。

 

「…予想もしなかった。 キンジが私に銃を向けるなんて。まるで蟷螂の斧――私とキンジの戦力差は、大人と子供……ううん、それ以上ある。分かってるわよね?」

「それ俺が止まる理由になると思ってるの?カナだって巨凶に敵わないとしても挑んだだろ!諦めてんじゃねえよ!」

 

 警棒片手に踏み込み、斬るのを躊躇ったのかあっさりと殺傷圏を通り過ぎ、ぶん殴ったが鎌の柄と警棒で鍔迫り合いとなる。

 揺れる瞳を見据えて続けて言う。

 

「そのアリアを利用しようとしてる巨凶を討つのは一人じゃ無理でも俺がいるだろ!協力する!可能性がないなんて言うんじゃねえよ!」

 

「そう――かしら」

 

 カナの力に弾き飛ばされ飛行機の上に戻る羽目になったが、説得は通じそうだ。情に絆されればあるいは

 

  ――パアン!

 

 銃声と共に胸のあたりに衝撃が来て体勢を崩し――そのまま海へと落ち。

 ドプンッと暗闇へと吞まれていった。




アンケート結果は苦戦してるので気長に待ってください(気まぐれで変なこと書かなければ良かった)
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