遠山キンジの独白 作:緋色
「
急に理子がそんなことを言い出し、窓から投げ捨てられた。
「
流石に学校で手出しはしないとは思うが認識が甘すぎたのか。
確実に死んだことを晒したいなら衆人環視の中で殺すことは全然あり得る。ただそれが義の行いかは疑問だが。
走りながら思考を纏めつつも第一体育館へと向かう。
防弾ガラスの向こう、闘技場の中心から銃声が聞こえてくる。
「
俺が押しのけた強襲科の生徒たちが、興奮気味の声を連ねている。
「やれややれや! どっちか死ぬまでやれや!」
カットジーンズから長く伸びた脚でガンガンと衝立を蹴っている蘭豹。瓢箪持ってるけど中見酒か?お前19歳だろ。
このアホは酔ってても判断は誤らんはずだから殺すことはないと踏んでるんだろうが――いやそんなことよりカナとアリアだ。
「おいで神崎・H・アリア。もうちょっと――あなたを見せてごらん」
目眩がするほど美しいその顔に、憂いの色を浮かべたカナは……パァン!
あの
バシイッ! とアリアが鞭で叩かれたような音にアリアは短い悲鳴を上げ、見えない足払いをかけられたように前のめりに倒れた。
アリアが死――殺す
「落ち着け遠山」
この体勢は――ヘッドロックか。
おっぱいが頭に当たってる……。ていうか動けねえ!?頭割れる!?
「安心せえよ。遠山。あいつが殺す気ならウチがとっくに殺してる」
「ギブギブギブギブギブギブシヌシヌシヌシヌ」
「ん?ちょっと強く締め過ぎたか」
ちょっとじゃねえよ。
「大丈夫かこれ?頭割れてない?」
「この程度で死ぬなら去年死んどるやろ。――頭回りだしたようだしな」
途中、死にかけたせいで若干萎えてるが甘ヒスと言っていい状態にはなってる様だ。即座に見抜くあたり実力は高いんだよな。死にかければ強くなると思われてるっぽいけども。――それはさておき、カナと戦うには不十分だが、アリアを逃がすことはできる――か?自信ないが最悪は動けるはず。
もっとも甘ヒス状態だからこそ気が付いたがカナから殺気はあんまり感じられない。
こっちに気が付いたのかこっち見てなぜか?マーク出してるっぽいカナは「やっ!」と掛け声を上げて背中に斬りかかるアリアを振り向きもせずにあしらう。
術理は知らないがカナは死角が存在しない。父も視界が360度あったようだし遠山家の技術なんだろう。……それをなぜ俺にも伝承しないんだか。
ふわりとアリアを吹き飛ばしたカナは緊張感の欠片もない欠伸をしながら
「カナ姉。決着付けなくていいのか?」
「想像以上に想像以下ね。最短で見積もっても成らないし、第二の可能性以前に第一の可能性があるようには見えないわね」
「あん?可能性?」
第一の可能性は恐らく巨凶とかいうやつだろうけど第二?
疑問に思うのもつかの間、抱き着かれる。
「カナ姉人前では止めて」
「オトウトニウム充電中」
ダメだこれ。こうなるとよっぽどの事ないと離れねえぞ。
「なんや知り合いか?」
またかこいつという目で蘭豹と周りに勘違いされてるのか刺すような視線で見られているため一応弁明する。
「あ~。これは遠山のカナです。長子ってやつです。俺は次子」
「姉弟か」
「……兄弟です」
ふーん。と蘭豹は興味ないのか流してたが、カナが正気に戻ったのか抱き着きながら蘭豹に話しかける。
「カナです。キンジがお世話になってます。…キンジの先輩か何かですか?」
「蘭豹や。ここで教師やってる。学生の教育に良さそうだからやらせたが次はないで」
「ふふ。用事は済みましたけど――キンジ」
「なに?」
「教師に手を出すなら卒業してからにしなさいね?」
……はい?
「色々待って?なんでそうなる?」
いや原因は結構はっきりしてるな。蘭豹で甘ヒスったのを見抜かれてるからだろう。
「あー、遠山。気持ちはうれしいがウチは賢いのが好きなんや。単位不足になるのは論外だ出直してこい」
「あんたわかってて揶揄ってるよな!?」
「あらキンジ成績悪いの?」
「
「あらあら……キンジも困ったさんねぇ。実際どうなんです?」
「サボり気味やな。強襲科なら頼られてて問題なかったけど探偵科で動かんのは悪い」
ため息をつかれるけどなんで急に三者面談始まってるのでせうか?
「強襲科に戻ったら?」
「……いやー将来的にいろいろできるようになりたいし。戦力しか取り柄ないとか悲しいじゃん」
「考えるより動くタイプだろうが遠山」
「あんまり否定できない」
「キンジも大変ねぇ」
そこでくぁっと大き目の欠伸をするカナ。
「……カナ姉もしかして眠くて頭が動いてないね?」
「ねみくなみから」
「すいません。これ連れて帰って寝かせます」
「そうかい。ならさっさと出ていきな。――ガキどもいつまで暢気にしてるんや!訓練に戻れ!」
喝を入れて生徒を動かす強襲科の教師に戻った蘭豹を尻目にさっさと強襲科から退散する。
チラッとアリアを見るとショックを受けてるのかわなわなと震えながら目を見開いた後にふらふらとこっちに背を向けてどこかへ向かっていく。
フォローしたい所だけど今は逆効果だろうなあ。とりあえずカナに肩を貸しつつ体育館から出る。
「理子。悪いがフォロー頼めるか?」
体育館の入り口でなぜか婦警コスプレをして覗いていた理子に対して顔だけ向けて頼む。
「やったげるけどキーくんはりこりんを便利に使い過ぎだぞ?」
「今の俺がなにやっても拗れるだろ。貸しでいいから」
「いらないよ。恩返しとして何とかしといてあげる」
恩?なんかあったっけ?
「キーくん。ってそういうとこあるよねえ。女たらし~」
俺の顔見て何か察したのかくふっと笑って去って行った。
着替えに行ったのかな?
とりあえずバスで自分の部屋に向かう。
カナ姉の拠点知らんし、巣鴨の実家まで行くのは流石に面倒だしな。
ただカナ姉は『睡眠期』――カナ姉は一度眠りにつくと信じられないぐらい長時間、眠り続ける習性がある。長い時なんか2週間起きてこなかった事もある。――が近いんだろう。
これは神経系、特に脳髄に過大な負担をかけるヒステリアモードのせいだ。モードが数十分しか続かない俺でも終わった後は眠くなることが多い。俺は寝るのが長くても丸一日だが、それを兄さんはカナ姉になりきっている間じゅう続けているわけで……その神経にかかる疲労は、超長時間睡眠で後からまとめて回復する仕組みになっているらしく、初め数十分ずつ寝たり起きたりするあいまいな状態になり 半日もすれば10日前後は寝る。
流石に俺の部屋でその『睡眠期』に入られても面倒なので数十分ほど俺の部屋で寝かせた後に巣鴨の実家まで送ろうと思う。
というか祖父母に怒られろ。婆ちゃんなんか滅茶苦茶泣いてたんだからな。
「気をつけなさいキンジ。あなた達には敵が…迫っている」
「カナ姉?」
眠いのを堪えてるのかすっと立ったカナ姉は真剣な眼差しで言う。
「ホームズ家の人間は変わり者が多いから、今朝はまだ疑ってたの。キンジがそんな家の子を――私に銃を向けてまで守ろうとするなんて信じられなかったから。だからまずどんな子なのか見てみたかった。神崎・H・アリアを。それで強襲科にお邪魔したの」
「私、これから「寝る』わ。台場にホテルを取ってあるの」
「実家に顔出してやれよ」
「ヤマが終わってからね」
「……殺すのかアリアを」
「殺さないわ。『第二の可能性』がある限りは殺さない」
さっきそれ以前とみてませんでした?
「創世記2章18――独りなるは善からず。我、彼に適う助者を彼のために造る――」
聖書の一節――アダムとイブあたりの話――を引用したカナ姉は
「覚えておきなさいキンジ。 アリアは危険な子。誰かが導いてあげないといけない子。その『誰か』があなたであれば……わたしは誇らしいのだけれど」
そう言いながらカナは夕日の中に消えていった。
いや、育てろって言うなら方向性とか説明すべきでは!?