遠山キンジの独白 作:緋色
酒と女は、男の口を軽くする。『男の機密が欲しくば、まずそいつの女をあたれ』という格言が武偵業界にあるほどこういった店での諜報は有効なものだ。――逆も然りだったりするが。
「あんたなんでバニー着てないのよ」
「?脱がしたいんですか?趣味じゃないんで着ませんけど」
着たらはみ出るだろうしと考えつつも、シェイカーを振ってミックスジュースを作る。
それをグラスに注ぐバーテンダークロメーテルは場の雰囲気にマッチしているだろう。
代わりにウサ耳つきのヘアバンド、蝶ネクタイ、丸いウサギのシッポをつけた黒レオタード、カフス、網タイツにハイヒールというステレオタイプな衣装を着たアリアの方が浮いていると思う。なぜか後輩もバニースーツ着てやっていて、似たような幼児体系はもう一人いるが、大人っぽさ0なので浮いている。
こんな部屋で何しているかいうとカジノの警備に行くアリアに練習役として呼び出されてのトレーニングだ。
客役とホステス役を交互にやっている様は新人研修みたいな雰囲気だが。
「どうぞ♡」
「どうも」
胸の谷間を強調するような前かがみポーズで渡されたワイングラスの
「あれが女の色気…!」
「立ち振舞からして違うわね…」
普通に呑んでるだけである。
「雰囲気だけじゃない」
「雰囲気すら作ってませんが?」
「うっ…」
美人らしいので勝手に補正掛けられるのか投げやりに行動しても勝手に評価される。
無駄に天職扱いされてるので恐ろしいものである。兄貴もこれを実感してたのだろうか?
「CVRの女帝は参考になりますわ!」
「参考にならないと思うけど。あと女帝はやめろ」
「ハイ。訓練終了。お疲れ」
ある程度、緩んできたところで潮時と見たのかアリアが訓練終了を告げる。
「しかしなんでバーで訓練を?」
「バニーガールの訓練ならここって勧められたのよ」
ピラミディオン台場はメインがカジノでバニーはウェイトレスくらいだからバイトも結構多いはずだし、何なら武偵校にちょくちょく依頼出してたはずである。ここまで真面目に訓練する必要はないと思うが――そういえばアリアは前回潜入する際に理子にしっかり基礎を仕込まれていたはずだから下準備はしっかりするべきって意識があるのかもしれない。ただでさえ幼女体形で武偵のメイン戦場である大人っぽい場所には向いてないし。……ああ、大人っぽく見せたいのか……。
「訓練に付き合ってもらったお礼――と言っちゃ何だけど1年のみんなに情報よ。登校日に武偵高に集団で研修生が来るわ。
「ナゴジョ?」
「ナゴジョってのは、名古屋武偵女子校。生徒の9割が強襲科、軍人育成校みたいなタカ派の学校だぜ」
「そういうのもあって強さ基準で考えるチンピラが多いんですよ」
よく知らないらしい間宮に火野が簡単に説明し、そこに付け加えて説明する。
一応武偵なので依頼解決能力を基準で考えるべきなのだが、強さは美しさで搦手を好まないためバカ学校扱いされる武偵校の中でもアレな方な学校扱いされているっぽい。
「ケンカを吹っ掛けられるかもしれないから気を付けなさいね」
「そっちの間宮ちゃんいるから大丈夫では?」
アリアの忠告にふと思ったことを言う。
「あんたなんか知ってるの?」
「ナゴジョのトップと知り合いですし…」
武極とは最近頻繁にメールする程度の仲ではある。アレの持っていた刀は特注品っぽかったのでその伝手で手に入れ損ねたデュランダルの代わりの名刀を注文しようとしているのだが――揉めている所である。
御揃いにするつもりはないというのに。
「そういえばそうだったわね。で、なんであかりがいるなら大丈夫なのよ?」
「研修に来るのも間宮だそうですよ?親戚がいるとかでこっちに来るそうです」
中身からして目的はスカウトっぽいけど。
「私は面倒くさそうなので姿を消しますから、ナゴジョから来た娘達に聞かれたら依頼でアメリカに行ったとでも伝えといてください」
「あんたも面倒なのに惚れられてるわね……」
「あ、アリアもナゴジョに来ないかと言ってましたね」
「いかないわよ。断っときなさい」
適当にいなした後に解散となった。
姿を戻し、予定があったので
「キンジさん」
出待ちしていたのか待ち伏せていたのかレキがいた。
「クロメーテルさんはいないようですね…」
「え?まあいないけど」
何かを警戒してるのかチラッと周りを確認したレキはいつも通りの無表情に戻った。
なんか敵でもいるのか?
「しばらく会わない方がよろしいかと、クロメーテルさんにも伝えておいてください」
「それは構わないけど。なんかあったのか?」
よくわからんので聞いてみるがレキはそれを無視し。
「カジノ警備されるそうですね」
「あ、あぁ単位足りなくてな…」
「私もやります」
「なんで?単位足りてないとか…?」
「風を感じるのです。熱く、乾いた、喩えようもなく……邪悪な風を……」
……。
少し待ったがどうやら言いたいことは終わったらしくスタスタと去って行く。どういうこっちゃねん。
ただあの感じからすると敵の気配を感じ取っているの――のか?対外的には戦闘力低い事になってるらしいクロメーテルを引き離そうとしてるし。嫉妬とかではなさそうだな。純粋な心配っぽい?
表情が動かな過ぎてよくわからんけども。
『無用の者立ち入りを禁ず 超能力捜査研究科』という立て看板のあるSSR棟にたどり着いたが――門からビルの入口までトンネルみたいに連なってる朱色の鳥居。入口付近を見回すと、右は狛犬だが左は獅子だと聞くが実際に置かれてるのは小さなスフィンクス。周囲にはトーテムポールや地蔵、モアイや燈籠なんかが所狭しと置いてあり頭上には注連縄が掛かってるが、手前に吊されてるのは真鍮のベル。
もはやなんの施設かわからんレベルでこちゃまぜでバランスが悪い。
入口から入ると古今東西の宗教画で埋め尽くされているし、超帰りたい。
一応メールで依頼した奴がいることはわかってるが、性格がアレな奴らしいので白雪も仕事から戻ってきてるのでついてきてもらう事にする。専門家の意見も欲しいしな。
5階の『星伽白雪』という絵馬型のプレートが掛かった部屋をノックする。が、返事がない。試しにノブをひねると開いた――不用心だな。気配は一人だが話し声はする。電話してるのか?
「――敵は異国の蟲術を使います。霧雪、粉雪、気をつけて、持ち場を離れないように。しっかり星伽を守るんですよ。それじゃあ…うん。お疲れ様」
電話が終わったようなのでその背に声をかける。
「………妹たちは、みんな元気か?」
「ひゃあ!」
いきなり声をかけられてビックリしたらしく、白雪は正座したまま30センチほど飛び上がった。どうやってんだそれ?
「キンちゃん!?すみません気が付かなくて」
「おう。俺だ。いや勝手に入った俺が悪いし――」
彼氏じゃなければ許されない行動ではある。いや彼氏でもアウトだけど。だがそれより
「で、敵ってなんだ。星伽神社、宗教戦争でもしてるのか?」
「あ…あの…恥ずかしい話なんだけど...その、さっき、イロカネアヤメが何者かに盗まれちゃったみたいなの」
「いつも持ってた刀か。――みたい?星伽に置いてきたのか?」
「取り上げられちゃったの。私、いろいろ星伽の制約を破っちゃったから……」
武偵校は帯銃、帯剣(ナイフでも可)の校則なのでそれはそれで問題なのだが……夏休みだからいいか。
それで盗まれてちゃ世話ねえが。守りの巫女の割に守れてねえな。
白雪は少し考えるような表情をしてから和紙と筆ペンを出し……絵を描き始めたな。
「キンちゃん、あのね。星伽でよくない虫が見つかったの。忍び込んでたの。こんな感じなの」
書き上がった絵で自分の顔を下半分隠すようにして、両手で俺に見せてくる白雪。
「コガネムシに見えるぞ」
「うん。これはスカラベ。タマオシコガネだよ。この虫、どうやら使い魔らしいの」
スカラベ
甲虫類のコガネムシ科にタマオシコガネ属の属名及びその語源となった古代エジプト語。単独の種名ではないため、いくつもの種が存在する。古代エジプト人が聖なる甲虫としていたのはヒジリタマオシコガネ。通称フンコロガシ。
古代エジプトでは糞塊を転がして大きな球体を作るスカラベの習性を神秘的なものと考え、その球体を太陽に見立てスカラベを太陽の運行を司る神である太陽神と同一視したとかなんとか。
というかこの虫アリアの浴衣に入り込んだ虫そっくりだな?
そういやジャンヌもコガネムシに似た虫を見たとか言ってたな。
「キンちゃん、この虫…最近、身の回りで見かけませんでしたか?」
「…見た。こないだアリアと2人で七夕祭りに行った夜」
和紙の上に見えている白雪の目がいきなり刃物のようになった。浮気じゃないよ?浮気かも……。
その長いまつ毛の目は、怒るというより何やら真剣な色を浮かべていた。よかったそのことに怒ってる感じじゃないっぽい。
「キンちゃんは夏休みにカジノ警備のお仕事するんだよね? アリアと」
「あ、ああ」
「――私もやります」
白雪は何やら強い意志のこもった声で言うと、虫の絵を折りたたんだ。
なんかやる気になってるが白雪はカジノ警備とか向いてなさそうなんだよなあ。しかし使い魔がアリアに接触したという話を考えるをオカルト的な奴がなにか企んでる敵がいると考えてもいいのか?
だとすると白雪の参加は願ったりかなったりか?
「そういえばキンちゃんは何の用事でここに?」
そう白雪のキョトンとした言葉で思い出した。
「今大丈夫だったか?ちょっと白雪がいない間にオカルト品の鑑定結果出してたから一緒に来て欲しいんだけど?」
「オカルト品……?キンちゃん何か変なモノでも買った?」
旦那が詳しくないのに骨董品に手を出し始めた眼で見るな。そういうのじゃないから。
「狩ったなあ。白雪が予言――予知?してた鬼の指。一応見て貰っててな」
「――鬼?」
「吸血鬼を名乗る犬。今、長野の留置所に封印されてるらしい。――で、鑑定依頼していた土御門が鑑定終わったから来いってさ」
「え?キンちゃん土御門さんに頼んだの?私に頼んだらよかったのに」
「なんかそう思ってたけど急に首突っ込んできてハイテンションで押し切られてね……」
S研の奴に鑑定依頼するか白雪が戻ってくるか待つか悩んでいた所に「妙なもの持ってますね!?鬼ですか!?」と声を掛けられあっという間にそういう事になったわけだが――今更だけどあいつ大丈夫だったんかな?
そんなこんなで土御門とだけ雑に描かれた張り紙がしてある部屋の前までくる。
「ノックしてもしもーし?」
「客待ってるので緊急じゃないなら後回しにしてくだされ!」
なんか爆ぜるような音がした後に中からそんな風に中から声がした。
「依頼してた遠山だ。はよ出てこい」
「いっで!?ちょっと待ってくださいな!?」
何かが落ちる音がした後、バタバタと騒がしい足音で近づいてきた後に扉が勢いよく開かれる。
「やあやあ。お待ちしておりましたよ遠山侍君!」
「侍というか武偵だけどな」
「おや星伽巫女も一緒ですか?彼女連れとは余裕ですなあ。まあ入って入って」
そう言いながら引っ込む瓶底眼鏡をかけた狩衣の女の後について行く。
中では変な壺を煮込んでいたり和紙にラテン語らしい文字で何か書いてたり作りかけのモアイみたいなのが置いてあったりと雑多だが、何となく工房みたいな雰囲気を感じる。
「土御門千春さんは魔術道具や術式の研究を得意としてるの」
その雰囲気を察したのか白雪が説明してくる。
「吾輩の家はいろいろやってますが吾輩はこういうのが趣味にあってましてなあ!っと遠山侍君!これが生まれ変わったものですぞ!」
そう言いながら渡されたのは――
「…なにこれ?ペーパーナイフ?」
修学旅行で奈良行った時のお土産屋で見た形状だ。アレは鹿の角だったけど。
「ノンノン!確かに切れ味はゴミですがそれの真価は対魔術にあります!素材の吸収する性質により魔力を吸い取るわけですよ!欠点は貯めれるわけじゃないので刺さったら噴水の用に魔力が抜ける上に霧散するから回収も出来ないわけですが」
「そこはどうでもいいが」
俺は魔術使えんし。
「これなら魔術的防御も貫通できます」
「切れ味ゴミなら役に立たね―だろ。というか鑑定依頼したのになんでナイフになってんだよ」
「いやー血肉は、試しに血を与えたら蠢いたんでド素人に渡すのは危険かと。あ、鑑定書はこれね」
そう言って渡された鑑定書を斜め読みしてみるが――吸血性の生物で数段回変身ができるって所以外は魔術素材としての活用とか云々で正直よくわからないので白雪に渡す。
読んでて目を見開いて軽く震える白雪を横目に話を続ける。
「で、もう一本の指は?」
「ナイフ制作料として頂きます。いやー遠山侍君は金払い悪そうだし魔力払いも出来そうにありませんからなあ!でもこれがあれば十分ですよ。というか研究し足りないので全身持ってきてくれませんかね!?」
「本体は逮捕済みだから警察庁に相談したら?あとそれ粉y――星伽神社に渡るものだから殺されても知らねえぞ」
「すいませんでした!耳揃えて返しますんで許してください!」
なんやかってあって返品された指を白雪は厳重に封印して星伽神社に郵送するらしい。
ペーパーナイフはキンちゃんが持ってた方がいいと持たされてるが使う機会あるのかね……?
土御門はマッドサイエンティスト的なイメージ?
魔女だからマッドウィッチ?うまい言い回しが思い浮かばない
吸血鬼は上等な素材になるとか西洋忍者が言ってたのでブラドはどんな素材に……。と考えてたら生えたキャラです
次回からカジノです