遠山キンジの独白 作:緋色
「ははは…7千万の負けか。さすがに痛いよ。 でも、こんなに金を落としてやったんだ。可憐なディーラーさん。せめてキミのケータイ番号だけでも…教えてくれないか?」
と顔を上げた社長さんは、どうやら転んでもタダでは起きない性格らしい。だから社長になれたんだろうけど。落としてやったってお前ただ負けただけだろ。
「お引き取り下さい。今日はもう帰った方がいいですよ」
「いや、そこをなんとか…じゃあメアドだけでも」
「お集まりの皆さんもお帰り下さい」
往生際の悪い若社長をスルーしてレキは見物客たちに語りかける。
ん?なんでだ?
「良くない風が吹き込んでいます」
と俺に視線を寄越しつつ言った。
この物言いは――敵か。
「せめて、キミの名前だけでもっ!」
なおも社長が食い下がった時、ばんっ!
レキの背後、並べられた動物の剥製の間から疾風のように
何が狙いだ?
フロアの片隅からこっちに走ってきていた、人間?に体当たりした。
全身に黒いペンキでも塗ったかのようなそいつは上半身ハダカで頭がアフリカンゴールデンウルフ(※エジプト周辺のジャッカルは2015年に新種だと発覚した)で腰に茶色の短い布を巻き付けている。なんだアレ?獣人か?エジプトのアヌビスか?
手には半月型の斧を持っているから金目当ての強盗ではなさそうだが――とりあえず倒してから考えるか。
ハイマキごとぶち当たった壁際のスロットマシンはほぼ真っ二つに割れてコインが飛び散り、 漏電の光がほとばしる。
「な、何のイベントだよ!」
「カジノ強盗か。エジプト系のテロリストかな?」
ネクタイを外した俺が出した拳銃を見て、若社長は声にならない声を上げて逃げていった。
他所もパニックなったのか悲鳴が漏れて聞こえるし、他にもいそうだな。急いで制圧しねえと。
「アレ知ってる?」
「気をつけてくださいキンジさん。あれは人間ではありません」
「首にハイマキを噛みつかせたまま起き上がるとか人間じゃねえな。というかあいつ呼吸して無くね?何アレこわい」
首に嚙みつくタイプの狩りする獣は首を押さえて窒息死させるか、致命傷を与えるかの二択である。ハイマキは訓練で前者をやっているんだろう。気絶したところで離せば死なないし。きっとたぶんメイビー。
しかしアヌビスは頭をぶんっ!と振り回し、ハイマキを床にぶち当てて振りほどいた。ハイマキはバイクぐらいの体重があるはずだが格闘戦はヤバいな。ピヨってるハイマキはしばらく復活しそうにない。
客たちが逃げていった階段から、逆に1人のバニーガールが駆け上がってきた。
「
虫?あの獣人にしか見えない姿が?
よくわからない理屈でオカルト的な何かを見抜いているらしい白雪は背中に手を回し刀を抜くような手つきをしたが、その背にいつもの銘刀イロカネアヤメはない。一瞬眉を寄せた白雪はすぐさまバニーガール衣装のシッポに手を突っ込みそこから何枚かの御札を出し
「
ひらひらら、と札は白雪の前方で横一列に滞空し、バッ!と一斉に燃え上がった。
「キンちゃん伏せて!」
ぱちん! 叫んだ白雪が両手の甲を合わせて鳴らす。
それに呼応して、火球と化した5枚の札が照明弾みたいにアヌビスに迫った。そして敵が振り向くとその視線を避けるように5方向に分かれ、逃げられないよう各々カーブを描きながら火炎放射器のように、炎を浴びせかける。
「え、えげつねえ技だ…。いや殺すなや!?」
一気にオレンジ色の光に包まれた室内に、俺は身をかがめて
「中身は死なないでしょうし、あれはおそらく火に強い」
熱風にショートカットの髪を揺らすレキが、 テーブル裏に隠していたらしいドラグノフ狙撃銃を取り出しつつ言う。
事実、白煙からのしのしと白雪の方に出て行ったアヌビスは、ほとんどダメージを受けた様子がない。
超能力には非常に複雑な『属性』があるらしく超能力者たちが使う術には70から80種にも及ぶ複雑な属性
と相性があるらしい。炎が効かないって事はそういう事なのだろう。
「レキ。景気付けにお兄ちゃんと呼んでくれない?」
「キンジお兄さん。白雪さんを射線からどかしてください」
「オッケ」
白雪の肢体とレキの甘えによってバフが掛かる。
さっきの白雪の発言から素手で触れるのは危ないようだ。しかし拳銃は使いにくい。ならば
床に固定されてる椅子の柄をへし折ってから、アヌビスに走り寄り遠心力を利用するように思いっきりスイングで殴りかかる。
――ボスッ
なんだこの手ごたえ?砂が詰まってるタイプのサンドバック殴ったかのようだ。効いてないらしくすぐに反撃されたためやむなくブラドナイフを刺して距離をとおおおおお!?
「え!?なにこれ!?」
ブラドナイフが刺されたところから崩れ去り砂の山となった。
塵になる効果あるのかとドン引きしたが、ナイフ回収のために近寄ってみると塵ではなく砂鉄のようである。
「キンちゃん避けて!?」
「虫?」
砂の中から虫が飛び出したのでゴキかと思いっきり飛びのいたが、コガネムシ――スカラベに運悪く接触してしまう。
とりあえず近くに落ちてたドリンク用のコップで虫を入れ地面に、コップをひっくり返すように捕らえる。
「キンちゃん呪いが!?すぐに治療しないと!?」
「呪い?」
別に身体に不調はないが――しかし白雪が青ざめてる以上何かあるのだろう。
ブラドナイフで自分の手の皮を薄皮一枚ほど傷つけてみる。
「え?呪いが霧散した…?」
「なるほど。これこうやって使うのか」
確か体内の魔力が抜け落ちるとか言っていたが便利なものである。一ミリも自覚はないが白雪が呪いが消えた?とぺたぺた触診しているので大丈夫だろう。
「それより白雪。これ何かわかるか?なんか砂が動いてた?みたいだが」
「う、うん。海外じゃゴーレムと呼ぶ魔術で動く操り人形みたいなもの。これは虫を核にして砂を
……?
「理解が追い付かんが…この虫がアンテナみたいになってるって事か?逆探知できるか?」
「難しいけど――出来ます。ただ向こうが繋がり切ったらわからなくなるよ?」
「それでも別にいい。掴めたら反撃に行って根元から潰さないといけないが今は警備だ。レキ!すまないが白雪を護衛してくれ。犯人を割り出させる!」
レキは狙撃手だから護衛には向かないが――カジノ警備に参加したしハイマキいるから逃げるくらいはできるだろう。
「キンジさんは?」
「他にもいるから仕留める」
ドラグノフ狙撃銃の先端に銃剣を取り付けたレキが上を警戒しつつ近寄ってくる。
その視線の先を辿ると――絢爛なシャンデリアの向こうホールの天井に今のアヌビスがウジャウジャと何人も張り付いていた
――ゴキブリみてえだな。
「キンちゃん私も!」
「却下。殴り合いならまず負けないし。拳銃使えるならさほど脅威でもない。だが、操る頭を見つけ出して止めないと何度でも来る可能性がある。それを仕留め――逮捕するのは白雪。お前の仕事だ。頼りにしてるぞ?」
ウィンクして白雪を押し留めた所で、我慢が利かなくなったのか2,3人?が飛び降りて襲おうと構える。
そこに――バスバスバスッという2丁のコルトガバメントが連射される発砲音!
続いて明滅する発砲閃光に薙ぎ払われるようにして――どちゃ、どちゃ!黒いアヌビスが2、3人、天井から落っこちた。
「はぁー。また、こういうタイプね?」
と、呆れるアリアは更にバスバスと足元の敵に45ACP弾をぶち込み、ピンクのツインテールを反動で躍らせる。
容赦ねえなあいつ。
「ほらバカキンジ、何ボーっとしてんの!こういうときは敵が降りてくるのを待つんじゃなくて、自分から上がるの!」
「膠着状態だったんだよ」
アリアは、バンザイするような姿勢でばかすか天井の敵を撃ちつつホールの中央までずかずか歩いていく。敵はアリアに注目してるな。なら手ごろな手すりに足をかけて飛び上がり柱を濠蜥蜴で登る。姿勢が安定しないが左手と足で無理矢理落ちないようにしがみつきながら銃撃する。――もっとも天井からブラ下がる巨大なシャンデリアにしがみついたが「レキ!」シャンデリアの金具が破壊されたのかアリアを乗せたままぐるぐるん メリーゴーランドみたいに回り回転砲塔と化したアリアが、天井のアヌビスたちを撃って、撃って、撃ちまくる。
――俺いらなかったかなこれ?
天井から落ちたアヌビスが蠢いているので降りてそっちに止めを刺していく。
「おしまい」
アリアはやれやれと言わんばかりにそう言って最後の一匹をシャンデリアを落っことして押しつぶした。
「おまえ人間じゃないからいいものを」
「あたしはそんなミスしないわ」
お前、些細な事でキレたら発砲するぐらい引き金軽いくせによく言うよ。それはそうと
「これ警備失敗になるのかな?こいつらが悪いんだけど依頼人にそんなの関係ないよなぁ…」
「これだけが任務じゃないわよ」
「諦められてる」
とりあえず白雪の所に戻って犯人探知出来てるか聞くか?一旦退けた以上パトラの事明かして逮捕しに行くべきか。
相手の手駒であった砂の塊に目を向けて、ヒステリアモードの観察力でバラバラに落ちてる砂の塊が倒された数より
「?――アリア避けろ!」
「へ――きゃあぁ!?」
可愛らしい悲鳴を上げてさっきより所々不自然な崩れのあるアヌビスがアリアを抱えて窓をぶち抜き屋外へ逃げて行った。
とっさに銃を構えるがアリアに当たりかねねえ!?
くっそあの砂崩したら効果なくなるのかと思って油断した!虫が核なら復活すること自体は不自然じゃねえ!?崩れていた所は外から虫が潜り込んだ途端に崩れなくなる。死んでない虫を集めて無理矢理形を作っているだけなのか?いや分析は後だ。
水面を走って逃げるアヌビスを見てウェイトレスが乗っていたが逃げて放置されている水上バイクに乗り追跡するしかねえ!
キンちゃんは焦っています