遠山キンジの独白 作:緋色
海上警備とどれくらい離れてるんだ?
「海上からカジノ襲撃犯が逃亡中!至急応援を!」
間に合うかどうかは微妙だが湾岸警察署に協力要請し、アヌビスを追う。
水上バイクと崩れかけのアヌビスでは若干、水上バイクの方が速いようだ。
海上に遮蔽物はないし、跳弾の危険性もない。この距離ならベレッタM92Fの射程範囲内だ。
水上バイクで追いかけながら片手撃ちで放った
「ちょ!?なにが!?」
急な事で海に投げ出されたアリアがアップアップとしてるが――そういや泳げないんだっけ?
ライフジャケットとか持ってくれば良かったな……。
短絡的に飛び込むのは簡単だが、おぼれてる人間に近づくとなりふり構わず掴んでくるので一緒に溺れる可能性が高い。
浮くものか棒や縄を投げて引き上げるものだが、風呂敷持つかなあ?
危ないのでゆっくりと近付き――
は!?
一瞬だったから見間違いかもしれないが今のはナイルワニ!?
サイズが規格外だった――アヌビスの仲間か!?
とっさに水上バイクのシートの上に立ち海面を警戒するがそれらしい影は見えない。
飛び込んで確認すべきか?いや水は空気の800倍の密度があるため抵抗によって弾は威力を失うから海中で銃は使えねえしワニとはやり合えねえ。
――ゾワッ
振り返ると異様な船が浮かんでいた。
金銀で飾られた船体は細長く、L字に湾曲した船首と船尾は柱のように天を指している。5mはあろうかという長い櫂をそれぞれ整然と構えるのは6人のアヌビスたち。甲板には立方体の船室があって、飾りの宝石がギラギラと夕陽に輝いている。
その船室の屋上にツンと高い鼻。プライドの高そうな切れ長の目。金のイヤリングは大きな輪の形をしていて、額にはコブラを象った黄金の冠をつけている。
胸当ては冗談のように細く、その上から黄金の飾りがじゃらじゃらと胸を覆っていた。 腰回りには、細い金の鎖で留めた帯のような絹布を一本垂らしている。ハダカと見まごうほどに過激な衣装を着た、おかっぱ頭の美人が立っていた。
その女は深紅のマニキュアを塗った長い爪の指で、
俺の持っている拳銃の有効射程は約50m。対してWA2000の有効射程は1km程。
現状は目測で150m程度の距離だがどうあがいてもこちらからの攻撃は届かない。
足場は悪いが行けるだろう。
振りかぶるように拳銃を持ち投手のように投擲のフォームで繰り出す
投擲の運動エネルギー+銃の音速を越えるエネルギーだ!こっちからの攻撃が届かないだろうと高をくくっている女の王冠へと銃弾が吸い込まれていき――
――カァン
不気味なほどの無表情のまま女の首だけがグラっと揺れ、また無表情のままWA2000を構える。
どうやら射程距離は伸びたがあの距離では威力は消しゴムを投げあてたくらいの威力でしかなかったようだ。
それ見てをこっちに攻撃を当てる手段はもうないと見たのか躊躇なく女は引き金を引く。
集中!
銃弾がスローモーションと化す中、左手を突き出し着弾の瞬間、腕を弾と前方にマッハで突進する桜花の逆の要領で後ろへと受けながらその場でターンしつつ、弾の突進力を体重で相殺していく。360度の後ろ回れ左を終えれば、弾には弾道安定のためのスピン運動だけが残り掌で回る小さな鉛のコマと化す。
一回見ただけだが、
……やべえ。詰んだ。
こっちからは攻撃が届かず向こうの攻撃も受けられる程度。何度も受けたら流石に分が悪い。
頼みの綱は水上安全課の警備艇が来るまで耐える事か?
――タァン
突然、超音速の銃弾が女の額に命中した。
振り返れば、ピラミディオンの開け放ったガラス扉から安定性を高めるために両脚を広げて伏せたレキがドラグノフ狙撃銃の先端を突きだしていた。
狙撃銃の銃声に気が付き即座に捕捉して射殺したといった所だろうか。
武偵はいかなる理由があっても人を殺してはいけない。
味方が死のうが自分が死のうが許されない武偵法9条で決められたルールだ。レキは武偵免許剥奪からの死刑コンボは免れない。
冷や汗かきながら救命措置を行えば減刑は免れるかとコブラ女の方を向くと。
――ざさぁ
と、その身体が砂へと変わっていく。
どうやらアヌビスと同じムシヒトガタ?とやらだったらしい。
崩れながら金銀宝石の装飾品がばらばらと落ちていく。――よかったびっくりしたな。いやよくねえ!アリア何処だ!?
――ガチャ
とりあえず船に乗り込んで沈めてから再び索敵をしようと方向性を決めた時、微かな扉の開閉音を耳に捉えて警戒心を上げて見た景色に心臓が止まる。
「なんでそこにいるんだ――兄さん!?」
「夢を見た。――長い眠りの中で、『第二の可能性』が実現される夢を…な」
答えになってねえ。だがポエミー具合と振りまく殺気から砂で出来た偽物ではなく兄さん本人であると確信できる。
カナの姿でないところを見ると兄さんは休眠明け直後で、自律神経が狂ってしまっている状態で体温の調節ができず真夏なのに漆黒のコートを羽織り上から下まで薄皮の手袋さえも全て黒ずくめの服を着ている。 異なる色は首回りをたてがみのように覆う白い毛皮と、少しはだけさせた胸元、あとは顔ぐらいだ。
「キンジ残念だ。パトラごときに不覚を取るようでは『第二の可能性』は無い。夢はただの夏の夜の夢でしかなかった」
「どーでもいい!パトラとやらに兄さんが協力してるのか!?アリアはどこにいる!?」
場合によっては兄さんと戦わないといけない状況――だが兄さんは本調子じゃないし、こっちはまだヒステリアモードは続いている。
倒すなら今しかチャンスはない。
「これは『太陽の船』。 王のミイラを当時海辺にあったピラミッドまで運ぶのに用いた船を模したものだ。それでアリアを迎える…そういう計らいだろう?――パトラ」
後半は俺を無視して海へと語りかける兄さん。
兄さんはアレの味方じゃない?潜入してただけか?
疑問を他所に海からゴボ――ゴボゴボと棺桶みたいなのが浮かび上がってきた。
四角形ではなく、人型をしている。歴史の教科書に載っていた。これは古代エジプトで用いられていた、王族や貴族を収める黄金でできた
傾いたから海水が抜けていくと、そこにはぐったりと動かないアリアが収まっていた。
そして――一切の浮きを使わず、 まるでエレベーターか何かで上がってくるかのように海面にはもう一つ、その枢にかぶせる黄金の蓋が現れる。さらに、枢と蓋をそれぞれ片手で持ったさっき狙撃してきた女も浮上してくる。
砂ならおとなしく水に沈んでくれよもう。
「気安く妾の名を呼ぶでない、トオヤマキンイチ」
さっきのムシヒトガタ?と同じ金銀財宝でその身を飾った半裸の女はばん!と、その頭上でアリアを収めた黄金柩と蓋を合わせてしまう。そして1トンはありそうなそれを、指一本で軽々と船に投げた。アヌビスたちが全員でキャッチするが、何体かは下敷きになってしまう。
あの細腕で持ってるのか?白雪がやっている身体強化――鬼道術みたいなものかな。
「タンイだったか? 欲しかったものの代償、高くついたのう。小僧。妾に下賤の事はよう分からんが、下僕どもに任せてみれば簡単なことぢゃったのう。大方、金か地位に関わるものぢゃろ。タンイとは。それを餌にしてみればほれ。簡単にここまで来よった。妾の力が無限大になるこのピラミッドのそばに、アリアという最高の手土産を持ってな」
……?
なんか引っかかるな。俺が最終的に思い通りに動いてたとはいえ、
偶然か?
「――妾が呪った相手は、必ず滅ぶ。イ・ウーの玉座を狙っておった目障りなブラドも、妾が呪っておいたゆえ……このような小娘にあっさりやられたわけぢゃ。 くくくっ」
――ブラド倒したの俺の割合がほとんどだと思うが?
女は思い出し笑いをしながら、兄さんが『太陽の船』と呼んだ細長い船に上がっていく。ハシゴも使わずに見えない階段を上るかのように。
「
やっぺ。ゆっくり水上バイクで近寄ってたのがバレたか――近づいて船に飛び移るつもりだったのに。
「そういえば、1人も殺しておらぬ。祝いの贄がないのはちと淋しい。お前。ついでぢゃ死ね」
「散らせるもんなら散らせてみろ」
スッ、と両手を俺に向けてまっすぐ差し出してきたパトラはニヤニヤ笑いながら、見えないピアノでも弾くかのように指を動かし始めた。
「妾が直々にミイラにして柩送りにしてくれよう。 ほほほ。 名誉ぢゃの。 光栄ぢゃの。うれしいのう――」
「リモコン操作で見えてなかったか?そこ
「む?魔除けか?」
話を聞いているのかいないのかニヤニヤ笑いをひっこめて鬱陶しそうな顔になる。
そういや風呂敷に強化した魔除けを施して貰ったっけ。じゃあ今度はこっちの番だ。
問題は何処を打ち抜くかだが――足でいいか。
「パトラ。それはルール違反だ」
「なんぢゃ…妾を『退学』にしておいて、いまさら
甲板を歩いて真横まで近づいた兄さんに、女は細めた目で向き直る。
なんだ?兄さんが抑えるのか?少なくとも仕掛ける時ではなさそうだ。
「イ・ウーに戻りたいのなら、守れ」
「…気にいらんのう」
「『アリアに仕掛けても良いが、無用の殺しはするな』俺が伝えた『プロフェシオン』の言葉忘れてはいないだろう」
出たな――プロフェシオン。イ・ウーのトップか。
パトラを仕掛ける事を認めつつアリアに絞っている?アリアはイ・ウーの――なんだ…?
なぜそこまでアリアに固執する?
…とりあえず船に乗り移ろう。
水上バイクで船の横に付け、
兄さんたちの方を見ると
「それでもいいと云うか!?」
なぜか激昂しているパトラに兄さんは、すっ―――と流水のように自然な動きで詰め寄り、パトラの顎を右手の人差し指で上げさせると
いきなり、キスした。
パトラは初め抵抗するような手つきで、兄さんの胸を押し返そうとしたが······ やめた。
そして、ゆっくりと目を閉じ……全身から力を抜いてしまう。
脱力したパトラの腰を、いつの間にか兄さんは左腕で抱いて支えてあげていた。
「――これで赦せ。あれは俺の弟だ」
……ああ、うん。兄さんも女ったらしだったわ。
キスヒットは次男だけの特権じゃないぜ!
追記
なんか本家の作者がX(旧Twitter)で妹選手権とかやってます
参考までに