遠山キンジの独白   作:緋色

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ヒステリアモードは思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する


兄弟喧嘩

 パトラとのキスの間から兄さんからは、さっきとはまた異なる――さらに一層手強いムードが漂い出す。

 初めて見たぞ。兄さんが異性との接触でなるところを。女性を傷つけるような形でHSSにはならない――というのが兄さんの不文律だったハズなのに。――そして女に興味があったのか!カナの件もあっててっきり――。

 衝撃の事実に固まっているうちに、パトラは遠目にも分かるぐらい真っ赤になって、一歩、兄さんから後ずさった。

 

「ト、トオヤマ、キンイチ妾を、使ったな? 好いてもおらぬクセに…!」

「哀しいことを言うな。打算でこんな事ができるほど、俺は器用じゃない」

 

 パトラをまっすぐ見つめた兄さんにパトラは、きゅっ! 大きな胸を自分で押さえるような仕草をした。

 兄さんだいぶ絆してんな?

 ラブコメを他所になんか固まってるアヌビスの背中をブラドナイフで刺し砂に変えていく。

 アリアの柩は――運べそうなアヌビス潰してパトラを逮捕してからかな?

 

「な、なんにせよ、その、お前とは戦いとうない。勝てるは勝てるが妾も無傷では済まないぢゃろうからな。今は『プロフェシオン』になる大事な時ぢゃ。手傷は負いとうない」

 

 と言い、ぽい。兄さんに何かを投げ渡しつつ、ざぶん。っと逃げるように海へと飛び込んでしまった。

 え!?兄さん見逃すのかよ!?

 それに気を取られた隙に残りのアヌビスたちがアリアを収めた黄金櫃を担いでパトラを追う。

 ちくしょう!こうなりゃやけだ!飛び込んででも水面下に沈む柩を追おうとした俺を

 

「止まれ!」

 

 兄さんが一喝した。

 俺の身体は、兄さんの一声で金縛りのように制止させられてしまった。

 あの一喝に逆らえば脳天に鉛玉をぶちこまれる。今の兄さんならやりかねない。それが本能的に分かる。そういう声だった。

 

「…アリアを殺さないんじゃなかったのか?」

「俺は殺していない。ただ看過しただけだ」

 

 そう言いながら兄さんが示したのは球状のガラスの中に収められて、止まらないように作られた小さな砂時計――?

 

「パトラによる呪術。――今から24時間は生きている。パトラはその間にイ・ウーのリーダーと交渉をするつもりだ。それまではアリアを生かしておくだろう。だが、それまでだ。パトラの交渉がどう転ぼうと『第二の可能性』は無い。無いならアリアは死ぬべきだ」

「第二だか第三だか知らないけど。――イ・ウーで何があったんだ!?無法者に一体何を吹き込まれたんだ!?」

 

 イ・ウーに肩入れしているようなら、ここで兄さんだろうとぶん殴る。

 

「イ・ウーは真に無法。世界のいかなる法も無意味とし内部にも一切の法規が無い。つまりメンバーである限りどこまでも自由なのだ。イ・ウーのメンバーは好きなだけ強くなり、自らの目的を好きな形で実現して構わない。そして他者がその障壁や材料となるのならその者を殺しても。また構わないのだ」

「それ組織崩壊するだろ」

「普通はな。――イ・ウーのリーダー『プロフェシオン』がその無法者たちを束ね続けてきた。彼という絶対的存在がいたからこそイ・ウーは存続できた」

「じゃあ無法じゃねえな。ある種の秩序ができてんだから」

 

 あのクソ犬――ブラドがイ・ウーのために遺伝子集めとかしている以上、独裁かメリットを提示したのか知らんが、少なくとも武力と頭脳で上回って好き勝手し過ぎないようにしているはずだ、

 それにパトラと理子も素行不良だか何だかで『プロフェシオン』に退学にさせられているんだ。

 無法とはいいがたい。――盛ってるのか?

 

「だが、その時間が間もなく終わろうとしている――死ぬのだ。病でも傷でもなく寿命によってな」

 

 ……ほう?

 崩れ始めた『太陽の船』から砂塵が舞う。

 ……この船は砂で出来ていたらしい。なんて魔術の無駄使いなんだ。

 

「キンジ。イ・ウーは、ただの超人育成機関ではない。彼らはいかなる軍事国家も手出しできない、超能力を備え核武装した戦闘集団なのだ。その中には主戦派(イグナテイス)――世界への侵略行為を本気で目論む者たちもいる。今のリーダーが死に主戦派(イグナテイス)がイ・ウーの主権を握れば彼らはイ・ウーの力を思うままに操り、世界各地を欲しいままに襲撃し、争乱と殺戮を繰り広げることだろう」

「聞いてる限り統率力なさそうだからテロ組織で終わりそうだが」

「だが、イ・ウーにはその未来を良しとしない者もいる。 『教授』の気質を継ぎ、純粋に己の力を高める事のみを求める者たち研鑽派(ダイオ)と呼ばれる一派だ。彼らは教授の死期を知ってから、イ・ウー存続を目指して次期リーダーを探し始めた。教授と同じ絶対無敵の存在になり無法者共を束ねられる者を――な。武力、超能力、不死…それらの試行錯誤の果てに白羽の矢が立ったのが――アリア」

 

 ……………………………………………………………………………………は?

 

「アリアはイ・ウーの次期リーダー『プロフェシオン』に選ばれたのだ」

「その条件にアリアは1mmも掠ってないだろ?」

 

 強いて言うなら武力は見込みがありそうだが、超能力と不死に関しては完全に管轄外だろう。

 あとリーダーにするには頭が残念過ぎる。

 

「アリアをイ・ウーへ導く。そのかわり素質がなければすなわち弱ければ殺して別の次期リーダーを捜す。それが研鑽派の合言葉になった」

「身内から出せない時点で派閥的には負けてんのね。ダイヤとやら」

 

 俺の言葉を無視して兄さんは言葉を続ける。

 

「キンジーすまなかった。何も教えてなくて。 俺はイ・ウーを殲滅するために表の世界から消え、ヤツらの眷属となったのだ。そこで俺は奴らを潰す道を模索した。そして見出した道が『同士討ち(フォーリング・アウト)』」

 

 同士討ち(フォーリング・アウト)

 強大な犯罪組織と戦う時にその組織を内部分裂させ、敵同士を互いに戦わせて弱体化させる手法。だが、それは最も危険な戦術の一つだ。しくじれば確実に自分が殺される。

 

「イ・ウーを内部分裂させるそれには先ず、奴らを束ねるリーダーがいてはならない。故に俺はリーダー不在の状況を造り出せる可能性を探した。 そして導き出された可能性は二つ。『第一の可能性』は、教授の死と同時期にアリアを抹殺し、イ・ウーが新たなリーダーを見つけるまでの空白期間を作ることだ。 そして 『第二の可能性』とは今代のリーダー『プロフェシオン』の暗殺―――」

「ん。わかった。パトラ捕まえた後に『プロフェシオン』を逮捕すればいいんだな?」

「――なんだと?」

 

 なんか想定外の事を言われたみたいな顔をしているな?

 当然の事しか言ってないと思うが。

 

「お前達は未熟すぎた。パトラ如きに不覚を取るようでは『第二の可能性』は無い。『第二の可能性』が無いのなら俺は『第一の可能性』の道に戻るまでだ」

 

 パトラ絆してるからかパトラに対して評価辛口だな。

 まあ、パトラがNo2くらいの実力なら倒せないと駄目だってのは理解できるが……。

 

「……?じゃあ『第三の可能性』として俺と兄さんで『プロフェシオン』倒せばいいな」

「帰れキンジ。イ・ウーはお前の手に負える組織ではない。――お前まで死ぬことはない」

 

 それは……純粋に俺の身を案じての言葉なのだろう。

 だけれども

 

「何言ってんだよ兄さん。……俺と兄さんが協力すれば倒せない悪なんていない。1+1は2じゃないぞ。オレたちは1+1で600だ!10倍だぞ10倍」

「だから俺一人でやると言っているんだ」

 

 なぜか兄さんが意固地になった。

 …なぜだろう?

 

「……『第一の可能性』よりパトラをトップにして兄さんが骨抜きにして崩壊させる方が簡単そうだけど「そんな不誠実な事はしない」――どっちにしろアリアを無駄死にさせるのは看過できないな。それなら『第三の可能性』の方がマシだね」

「キンジ。我儘を言うな。帰れ」

「――兄さんは優しいね。でも俺も遠山の男だ。――義のために戦う」

「そうか。――大きくなったんだな」

 

 嬉しさと悲しみが混ざったような眼を一度閉じ――バジィ!

 とんでもない殺気を放った。

 

「――見せてみろ」

 

 言うと兄さんは、吹き流れる砂の中で僅かに爪先を動かした。

 殴り合いなら俺が不利、兄さんは初見殺しの必殺をいくつも持っている上に殴れる範囲に入る前に鎌で切り刻まれる。――デュランダルでもパクってくれば良かったな。名剣があれば殴り合いに持ち込んで勝率が4割まで上がるのに。

 この銃の間合いなら不可視の銃弾(インヴィジビレ)で一方的にやられかねねえ。

 

「この船が沈むまで残り15秒といったところか。その15秒で俺はもう一度だけお前を試す。お前の想いが本物かどうか確かめる。お前とあの『緋弾』との絆に賭ける――」

 

 ヒダン?なんのこっちゃ。

 だが、足手まといにはならねえよ。

 兄さんは銃を抜かない。何の構えも取らない。

 だがわかる。構えたのだ。いま、僅かに爪先を動かして。

 

 パパァン

 

 射撃音が二つ重なるように響き、俺と兄さんの間で火花が散る。

 

 不可視の銃弾(インヴィジビレ)

 

 兄さんの自信のある技なのだろう。

 一緒に育ってきた以上、お互いにお互いの事は黒子の数まで知っている。

 そして俺が思ってる以上に兄さんは俺の事を知っているだろうし、俺も兄さんが思っている以上に兄さんを知っている。

 そして兄さんが消えてから兄さんはさらに強くなったんだろう。俺の事は間接的にか聞いて知っていたようだし、情報のアドバンテージでは不利だし、実力も上。

 でも兄さんを――カナを越えるって約束したんだ。

 

「リボルバーS&W M360か」

「ピースメーカーには負けるが早撃ちさせて貰ったぜ」

 

 兄さんは心臓を狙うと思っていた。

 カナの時も心臓を狙って撃っていたし、心臓付近を狙えば防弾制服を着ていれば殺すことはなく無力化することも可能だ。

 夏休み入ってからずっと不可視の銃弾(インヴィジビレ)を破るために練習してきたんだ。

 心臓を狙っているとわかれば兄貴との立ち位置と腕の可動域から弾けるポイントは予測できる。

 あとはタイミングだが――これは地形に救われたな。舞い上がる砂で腕の軌跡が見えた。

 それに合わせるように撃ち、銃弾撃ち(ビリヤード)で逸らした。

 

「昔、ジョン・ウェインの西部劇映画で一緒に見たよな」

「見抜いていたか」

 

 兄さんの持つコルト・ピースメーカーは拳銃史上でも一、二を争う、早撃ちに適した銃だ。

 装弾数、連射能力、命中率。ほとんどの面では近代的な自動式(オートマチック)拳銃の方が有利だ。だが早撃ちという曲芸に限って言えば、構造上、回転弾倉(リボルバー)式の拳銃の方が有利。

 その銃を使い、人間のレベルを遥かに凌駕したヒステリアモードの反射神経で文字通り、目にも留まらぬ速度で発砲する。それが不可視の銃弾(インヴィジビレ)

 

『そこの二人!何やっている!』

 

 今更、水上警邏が来やがったか。

 だがどうでもいい。

 

「何度も防げると思うな」

「散らせるもんなら散らしてみやがれ!」

 

 パパァン

   パパァン

パパァン

     パパァン

 

「終わりだ」

 

 リボルバーS&W M360は装弾数は5発。

 対するコルト・ピースメーカーは6発。

 当たり前の結果である。

 

「終わんねえよ!まだベレッタがある!」

「浅はかな――自動式(オートマチック)不可視の銃弾(インヴィジビレ)を放つのは不適切だ」

「兄さんを倒すならこっちの方がいいんでな」

「眠れキンジ。兄より優れた弟などいない――」

 

 パァン

 パパァン

 

 兄さんは知らない。

 このベレッタは改造されていて、トリガー1引きで弾が2発、ほぼ同時に出るモードだ!

 再び、俺の胸の中心・中央を狙って飛んできた兄さんの銃弾は銃弾撃ち(ビリヤード)の改良版で、俺の銃弾に真っ正面から跳ね返され兄さんが今撃った、ピースメーカーの銃口へと飛び込んでいき、バガンッ! コルト・ピースメーカーが破壊された。

 

 鏡撃ち(ミラー)

 相手の銃弾を相手の銃口へと跳ね返す、 攻防一体の新技だ。

 

 直後に放たれた俺の2発目が、こっちの銃口スレスレでまっすぐ戻ってきた、俺の1発日の銃弾を更に銃弾撃ち(ビリヤード)で弾いき、シュッという袖を掠める音を上げて、背後の砂嵐に消えた。

 破壊された拳銃を落とした兄さんがその端正な顔を歪めた時、ほとんど崩れていた『太陽の船』がとうとう水没した。

 砂の足元は即座に崩れ去り、俺と兄さんは2人とも海に墜ちる。

 

 

 ――兄さんと喧嘩するとよく海に落ちるなあ。




殴り合いだと100%負ける未来しか見えない……
というか一撃必殺から入ってそこからさらに攻め続けるスタイルの金一にどう勝てと?
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