遠山キンジの独白 作:緋色
ずずん……
遠雷のような音が響き、柩が揺れる。
地震か?――いやここは船の上だから船が揺れたのか。
柩が少しずつ傾く事から――あのエジプト女め。アンベリール号の船底に爆弾でも仕掛けてやがったな!?
「しゃあねえ。無理にでも脱出するぞ」
「う、うん」
角度を計算しながら、柩の蓋の一片に背をつけ、渾身の力を込めて黄金の蓋を押し上げにかかる。
事態を把握しきれていないながらも、アリアが手伝ってくれる。
俺たちの頭上に90センチは積もっていたらしい砂金は、それでも柩の中を埋める程には流入してこない。 それだけ船体が傾斜しているのだ。さっさとパトラを見つけ出して脱出機かなんかを奪い取らねえといけねえ。
「な、なによ、ここは…っ」
周囲を見回せばイヌ、タカ、ネコの頭に人間の体をした古代エジプトの神々の巨大な座像が俺たちを見下ろしている大広間だった。入口にはパトラの座像だったがこっちにはいないようである。
「パトラのピラミッドの中だな。あいつ座像が趣味なのか?」パシャパシャ
「写真撮ってる場合か!脱出するんでしょ!?」
怒られた。
「そうは言ってもどっちが出口なのかねえ?」
いくつかある廊下への道を自分たちが通ったルートと照らし合わせてルートを推測する。位置から考えると落ちてきたであろう穴に4番目に近い廊下がさっきの『王の間』?に戻る最短ルートかな?
視界の端に見覚えのある人影が映り、上空めがけてベレッタをフルオートで撃ち放った。
きんっ! 弾切れになったベレッタがスライドをオープンさせるまで撃つが、皿のような黄金の丸盾が宙を舞い弾丸を全て弾いた。
その盾を砂金に戻しながら、パトラがさっき俺たちが落ちてきたであろう穴から金の床に降り立った。
「落ちてきたってことは兄さんに負けたのかい?」
「黙るのぢゃ。トオヤマキンジ。妾は――今度ばかりは退いてやる。だが、それは返せ」
「生憎、俺の(妹)なんで。パトラは兄さんの――だろ?逃げるなら追わないよ?」
「まだ違うわ!――こほん。お前はトオヤマキンイチの弟ぢゃからの。簡単には殺せんぢゃろう。ぢゃがそのお前も水に沈めば死ぬ。ここは海。船が沈めば、生き残るのは妾だけよ。 妾は水中でも長らえられる術を持っておる。妾の都はかつて海辺にあったでの」
まだ――なのか。
それは兎も角、船が沈めば俺と兄さんは兎も角泳げないアリアとあまり得意ではない白雪を助けることが難しい。見捨てれば俺一人だけでも生存率はあがるが……考えるだけ無駄だな。
パトラだけ沈める方法考える方が建設的だ。
「その心臓 妾に捧げい」
パトラは携えていた長銃を構えサディスティックに笑う。狙撃銃・WA2000に増設されたレーザーサイトの照準が左胸へと、蛇が這うように上がっていく。
「させっかよ!」
アリアの前に飛び出し、
それを見てパトラは少し眉を寄せて
「それは銃を防ぐものぢゃな?ならこれには対応できまい」
足場となっている砂山から戦斧を持ったアヌビスが現れる。あ、まずい!
「三歩後ろに下がれ!」
アヌビスの戦斧を白刃取りの要領で押さえながらアリアに命令を飛ばす。
武器を持たず水着みたいな恰好をしているアリアは足手まといな事を自覚しているのか悔しそうに引き下がる。
それを見逃すパトラではなく、WA2000のレーザーサイトが
俺の頭に照準を合わせている。
こいつ俺の排除を優先するか!冷静だなこんにゃろ!
だけどこの状況じゃ避けれね
――ダァーン!
血が舞い散る景色をぼんやりとアリアの金切り声を背後にひっくり返った。
「――――――――キ ン ジ ぃ ―――――――――――!」
あ、顎が痛い…。
何が起きた?
視界はゆがんでいるものの、うっすら開けた目は見えている。俺の顔を覆ってかばうようにするアリアが、両目をきつく閉じて顔をぶんぶん振ってるのもなんとか見える。
肉体に通常の30倍のスペックを発揮させるヒステリアモードは、 時に自分の思考力をも上回るスピードで行動を起こすことがある。
今回もたぶんそれだ。脳震盪を起こしている。今は、口がきけない。 身動きも取れない。即死したように見えるだろう。
顎――というか奥歯?が痛く。舌でゆっくりとなぞってみると明らかに歯でない塊が。
身体が動かせそうだったのでよろよろと起き上がり――口から銃弾を吐き出した。
…奥歯が砕けたのかボロボロと歯の破片が口から出てくる。
どうも俺は反射的にパトラの銃弾を、噛んで止めていたらしい。反射的に頸をひねって弾丸を止めようとしたが、弾丸の運動エネルギーは止めきれず俺はブッ倒れながら盛大に鼻血を噴いた――と。
あーくっそ。歯医者いかねえと――虫歯一つ許されない武装検事の道は断たれたな……。あれ?怪我だから問題ないのか?
なぜか追撃してこないパトラに疑問を持ちつつ血にまみれた顔面を手で拭うとパトラはコブラの冠の下で切れ長の眼を大きく見開いていた。
だがそれは、撃たれた俺が起き上がったことに驚いて――ではない。
青ざめて後ずさるパトラより大きな威圧感がある。
しかし、この感覚はどこかで感じたような――?クソ犬が雷で強化されたときに似ているような――
がしゃん!と傾いたピラミッドの壁面から渡ってきたらしいカナと白雪が壁面のガラスをぶち抜いて侵入し、パトラと同様に何かを見て愕然としている。
『 神崎・H・アリア。あの少女は巨凶の因由。巨悪を討つのは義に生きる
――なんでその言葉が頭をよぎる?
カナと白雪の視線の先とパトラの視線が交わる場所に恐る恐る身体を向ける。
「アリア…?」
アリアが立ち上がってパトラを見ていた。
だが、あれはアリアか?
知らない気配に眼の中から緋色の光を発している。
神懸かった雰囲気に眼を離せない。蛇に睨まれた蛙のように下手な動きで死ぬと理解するように。
――す。
アリアは右手を前に出し、パトラを指さす。
それにパトラはすくみ上り
「何ぢゃ、これ……?……こわい……?わ、妾が……恐れて……?」
パトラの手が、膝が震えている。
身を隠すように黄金の盾がせり上がりパトラを隠すが――アレじゃ防げない。
根拠もないがあの自信満々のパトラが怯えるほどならパトラの実力では防げないように思う。なんなら見えないようにしているのが悪手だと思うが――それを見たくない恐怖に負けたのだろう。
アリアの人差し指が緋色に輝く。
「……緋弾……!」
白雪の声が広間に響く。
――緋弾?緋弾のアリアは
アリアから漏れ出す太陽のような燃え上がる発光が――
「避けなさいパトラ!」
緋色の光が飛び出す間際にカナが叫び、それにパトラは反応して浮き上がった盾の下を滑り台を滑るように飛んでくる光を避ける。
緋色の光は盾を貫通しパトラの立っていた場所を通過して――
パシュウウウウウウ
爆発でも銃声でもない聞いたこともない音を響かせながら大きく弾けた。
思わず両眼を閉じて両腕を盾にしても感じ取れる緋色の光が貫く。
たっぷり10秒が過ぎた所で身体が動くことを確認し恐る恐る目を開ける。
「……屋外?」
青い空が広がっていた。
見渡すと部屋は残っていて天井が丸ごと消えたようだ。――ピラミッドの頂点ごと。
崩したにしては球状に消えてる跡がおかしい。どこに消えた?
ん?球状?そういやピラミディオンのモデルとなった流れ着いたピラミッドって下が丸かったような……?
「う…あ、ああああ!」
パトラが呻く声にそっちを見ると金冠や衣装が砂金に戻っていく、どうやらピラミッドが壊れて魔法が使えなくなったらしい。――横着しすぎだろどんだけ砂で作ってたんだあいつ?
薄い水着姿になったパトラが両腕で隠してるのはエロいが――ピラミッド自身が崩壊し、鉄骨やガラスの破片が降り始めている。
脱出しないと不味いな。
「カナ!パトラを確保!俺はアリアを!白雪は安全な場所を探してくれ!」
叫んで呆然としているのか無機質な表情をしてるアリアの服も水着を残して砂金に戻っていく。
マネキンが倒れるように傾いた所で俺が抱き留めた。
俺は崩れ落ちるピラミッドの破片を避けながら、なぜかパトラを片手で抱きしめ鎌で破片を弾いて白雪を守ってやっているカナと何とか合流する。
パトラは無礼者!などと喚き、ジタバタしていたが……
「――パトラ。おとなしくしなさい。わたしと一緒に行きましょう?ずっと」
と、カナに言われて――おとなしくなった。
……兄さんの時は何とも思わないけどカナの姿で誑かしてんのスゲー嫌だ……。
パトラは手錠されてませんが
カナの腕の中なので手錠するよりおとなしいと思います