遠山キンジの独白   作:緋色

81 / 168
上司「高校なんて必要ないでしょ。今すぐウチに来なさい」
部下「え!?いやー一応高卒までは学生生活エンジョイしときたいかなと」
小卒「うちに来るなら必要ありません。内規だと義務教育完了後なら良しとされています」
高1「(知らんがな)――実は父が武装検事だったので武装検事目指してまして(流石に苦しいか……?)」
姐御「………………東大に入れないなら諦めて下さい」
弟君「あ、はい(最難関ルート設定された……高卒就職か……)」


海には亡霊がいる

「アリアが無事で本当に良かったよー!」

 

 などと言いながら白雪がアリアに抱き着く。

 傾いたアンベリール号の舳先に避難した矢先にアリアが目覚めたらこれである。親か。

 白雪が俺の家に飯作るときにちょくちょく出没するから娘という風に刷り込みでも起きてるのかもしれない。

 それは兎も角、さっきのよくわからん光にビビってたはずの白雪が無防備に抱き着くあたり危機は去ったんだろう。たぶん。

 いやなんなんだよさっきの光。兄さんの形見?のベレッタナイフのせいでああなったんじゃないか?

 アリアが変になったのは俺が倒れてからだから関係ないか?

 

「カナ」

「……わかってるわ。でもまだ待ってて。東京に戻ってから改めて話しましょう」

 

 いや確かに聞きたいことは大量にあるけど……。

 

「…。わかった後で聞く。――確か救命ボートは船尾側にあるよな?救助来る前に沈みそうだし持ってくる」

「ええ。左舷の方に見かけたわ。使えるわよねパトラ?」

「穴は空いてないはずぢゃ。場合によってはそれを使うつもりだったからの」

「ほいほい。じゃあ取ってくる」

 

 そう言って離れる。

 パトラはカナの近くにいれば暴れないだろうし、何かしてもカナが取り押さえるだろう。

 

 離れて見えなくなったところで頭を搔く。

 

 今回の件は謎が多すぎる。

 イ・ウーの次期リーダーとやらにアリアが選ばれたのはあの緋色の光でピラミッドを消す超常現象(ステルス)――強いて言うなら何度か見た一般の超能力(ステルス)とは次元が違う(暫定名称)スーパーステルスが原因だろう。

 それがリーダーに相応しい条件ならイ・ウーの現トップはそのくらいの実力がある――あるいはそれくらいないと越えられないかどちらにしてもとんでもない超能力(ステルス)の持ち主なことは間違いない。

 ただ、それならなぜ兄さんはイ・ウーに潜入した?

 今までのイ・ウーのメンバーは知る限り、髪を動かす双剣双銃(カドラ)の理子、銀氷の魔女(デュランダル)ジャンヌ、吸血鬼・無限罪のブラド。

 どう考えてもオカルト絡み――武偵ではなく白雪のような超能力を使う武偵こと超偵が動く案件だ。

 ……いや逆か?イ・ウーは白雪が何か知っているから狙って動いていたようだったし、そこに兄さんが必要だった?よく考えれば超能力者はガス欠する短期決戦タイプだし純粋な戦闘タイプで長時間戦える兄さんはバディとしては理想だろう。

 白雪と兄さんは何か知っていた様子。となると星伽と遠山でタッグを組んで動く話であり、今回の件は勝手にバックアップにされた俺も巻き込まれたと考えると辻褄が合うか?

 兄さんから託されたベレッタナイフは必須アイテムだったように感じるしな。なんか赤いし。

 

 ――じゃあアリアはなんだ?

 

 アリアは日英のクウォーターで父がイギリス貴族であり、どう考えても過去の因縁で星伽と遠山が繋がらない。あるとしてもWW2関係か?いやそれだと星伽は関係ないな。どっちにしてもアリアは1月まで日本に来たこともなかったようだし、アリア本人は関係なさそうだ。

 簡単に調べた限りだが母方の神崎も有名悪名はひっ掛からなかったしな。殺し合った因縁ではなさそう。

 そうなるとなぜ緋弾とイギリス貴族がどう繋がる?イギリスの方の秘宝とかなら星伽が知ってて遠山を巻き込むとは思えんし――

 

 ……考えても答えは出ないか。あとで聞こう。

 

 弾丸を止めた歯の治療用に砂金を風呂敷に包んで持って帰れるようにして詰めておく、パトラは調べた限り賞金が掛かってないし、カジノ警備も失敗で赤字だろうから仕方がない事である。パトラ逮捕の手柄は兄さんにして結婚させちまおう。その代わりこの砂金が海に沈んで回収不可能になるんだったら有効活用させて貰おうというわけだ。俺は悪くない。

 カプセル型の救命ボートを見つけたので(ざっと60kgぐらいか?)をえっちらおっちら舳先まで運ぶ。

 一応は10人乗りとか書いてあるし、余裕はあるだろう。

 

「戻りましたよっと。――誰か救助呼んだ?カプセル救命ボート(これ)もう広げとく?」

「しばらくは沈まないでしょうし、いよいよとなってからね」

「へーい」

「返事ははい」

「はい」

 

 となるとしばらくは手持無沙汰だな。

 何となく海の方を眺めると集まってた鯨はいつの間にかいなくなっていた。

 そういえば魚雷避けの為とかでピラミッドパワー?で集めてたんだっけ。

 

「キンジ!逃げなさい!急いでここから撤退しなさい!」

「待つのぢゃカナ!海に逃げても逃げれぬどころか海の藻屑ぢゃ!」

 

 急にカナが叫んだのでパトラが暴れだしたかと思ったが――違う。

 パトラもカナも海の方を注視して取り乱している。――海?

 

「な……何かが来る……こ、こわい……!」

 

 アリアから離れた白雪は自分を抱きしめるようにがくがくと震えている。

 ピラミッドパトラにも脅えなかった白雪が……?

 ……まさか!?

 

「白雪!敵方向は!?」

「あ、あっち……」

 

 白雪に駆け寄り確認する。

 相手が超能力者(ステルスロジー)の場合、白雪の戦力と知識は最重要になるだろうが……駄目だな。心が折れててもう戦えそうにない。

 

「安心しろ。俺が倒せるなら倒す。無理なら逃げ切る。これ借りるぞ」

 

 戦闘に役に立たなそうとみて、白雪からデュランダルを剣帯ごとスリ盗り装備する。バタフライナイフは現状不安要素しかないからな……。

 

「いざとなったら救命ボートで逃げる。準備を」

 

 動く理由を作って白雪に救命ボートの所で待機するように動かす。そうしてるうちに勇敢さを発揮したアリアが舳先ギリギリに駆けて

 

「あそこよキンジ!」

 

 何かを見つけたらしい。

 

 そうこうしているうちに目の前の海から滝のように海水を落としながら、真夏の陽光の下に30mのシロナガスクジラのさらに10倍はあろうかという巨大な黒金の固まりが浮上してきた。

 浮き上がってきた際に発生した波浪が、アンベリール号をまるで木の葉のように揺らす。

 黒光りする壁のようなその巨大な物体は―――アンベリール号の前で、大きく、大きく、ターンしていく。

 近づいた高層ビルが壁に見えるように、あまりにも巨大なこれが何なのか判断しづらいが幅がそれぞれ2mはあろうかという巨大な 『伊U』の2文字が眼前を横切っていく。

 

『イ・ウーの公用語は日本語とドイツ語だったからな』

 

 ジャンヌが言っていた言葉が頭に流れる。――そういう事かよ!?

 

『伊』――大日本帝国海軍の基準排水量1,000トン以上の一等潜水艦を示す名。

『U』――U-Boot、水の下の船(Unterseeboot)というドイツで用いられていた潜水艦のコードネーム

 

 おそらくこれは潜水艦。

 大きくターンしてアンベリール号に横っ腹を見せた、全長300m以上あるその艦型は――

 

「ボストーク号!?」

 

 武藤がこの間プールでその模型を作っていた、史上最大の超アクラ級原子力潜水艦 。

 出航直後に行方不明となった悲劇の原潜、ボストーク号だ。あれフラグだったのかよ!?

 

「見てしまったのね」

「日独の亡霊かと思えばソ連の亡霊かよ……。今2000年代だぞおい」

()()()――これはかつてボストーク号と呼ばれていた――戦略ミサイル搭載型原子力潜水艦。ソ連の極秘作戦ではないわ。盗まれたのよ。史上最高の頭脳を持つ『教授(プロフェシオン)』に」

 

 ……盗んだ?じゃあ日独の極秘作戦でもあったのか…?

 これか後ろに日本とドイツが関わってるのかとげんなりしていると

 伊Uはターンを終え、停止した原潜の艦橋に立っていた男が見えた所で、カナが立ち上がって叫ぶ。

 

「『教授(プロフェシオン)』やめて下さい! この子たちと戦わないで!」

 

 ダッ!と駆けたカナは俺たちを護るように舳先のさらに前方に立ちはだかり――ゾワッ

 

 全身の産毛が逆立つ死の感覚にとっさに風呂敷を盾にし、ゴッと殴られたように吹き飛ばされる。

 

「キンイチ!」

 

 パトラの悲鳴に合わせるように一発に等しい二発の銃声がタターンっと遠い雷のように響いた。

 ブチ撒かれた砂金に紛れるように腕の防弾制服にめり込んだ塊がある。

 銃弾?――いやただの銃弾なら防弾繊維で作られた風呂敷を打ち抜けない――これはまさか開発が国際的に禁止されてる装甲貫通弾(アーマーピアス)か!?

 だとしたらマズイ!

 慌ててカナの方を見ると――カナが胸を撃ち抜かれている。それも防弾制服の上から。血の池に沈むように――殺さ(とら)れた!

 あの男は動くそぶりすら全く見せず、あの距離から俺とカナを撃ったのだ。

 兄さんの不可視の銃弾(インヴィジビレ)を狙撃銃でやりやがったってのか!?

 マズイマズイ!風呂敷あっても防げないような攻撃なんて全滅するぞ!?

 役に立つか心もとないがデュランダルを盾にするようにして白雪を庇う。――アリアが目的なら危険度が高いのはパトラでその次に白雪か俺が狙われるはずだ。

 次の一撃を見極めないと死ぬ!

 一挙手一投足も見逃すまいとその姿を睨みつける。

 その姿は――ひょろ長い痩せた身体。鷲鼻に角張った顎。

 右手に持った古風なパイプと左手にはステッキをついている。

 写真や探偵科の教科書に載っていた絵でかぶっていたハンチング帽は無いが――

 

 神崎・()()()()・アリアがかすれ声で呼ぶ。

 

「曾おじいさま……!?」

 

 あれは世界一の名探偵()()()()()()()()()()()()だ。

 なんで地獄に落ちてねえんだよクソが!




しれっとパトラを見捨ててるキンちゃん
別に味方じゃないので仕方ないね
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。