遠山キンジの独白   作:緋色

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ちゃんと読み返してからと投稿してるのに誤字減らねえ……
いつも誤字報告ありがとうございます


伝説の区切り
死に際と狂戦士と


 ここまでのあらすじ

 

 突如現れた原子力潜水艦ボストーク号こと伊・Uに乗ったシャーロックホームズが現れ、遠山兄弟は狙撃され、ピラミッドが崩壊したアンリベール号に魚雷が撃ち込まれて沈没兼炎上中。

 もう助からないぞ♡

 


 

 悲鳴を上げていた涙目のパトラが兄さんの左胸に空いた銃創を押さえ、青白く光り始める。

 その光景から直感的に分かるが、どうやら手から人の傷を治す秘術を使っているらしい。

 だが、その必死な表情から察するに魔力の源となるピラミッド無しで兄さんの致命傷を治せるかどうかは分からない。

 俺の見立てだとトリアージ黒――救命の見込みがない――がパトラという最高位の魔術師(ステルス)がいて一分の望みが出るかって所だ。

 

 これが英雄のすることかよ。

 

 イ・ウーのリーダー、1世紀前のイギリスの英雄・シャーロック・ホームズ。

 ヤツの立つ伊Uの艦名は60年前の日独の潜水艦コードネーム。艦体は30年前のロシア旧ソ連から盗んだ原潜。搭載する魚雷はさっき打ち込んできた威力からして現代の米軍が使うMk-60。

 推測だが各国から最新の軍事技術を盗んで搭載し、進化し続けているんだろう。

 各国が潰したがりつつも協力できないわけだ。こんなもん独占できないなら確実に揉めるし逃げ回れば各国の領海か経済水域(縄張り)に逃げ込んでさらに揉める。そんな中、伊Uは悠々と航海するわけだ。ふざけてんな。

 

 ごすん……という低い音と共に、どうやら海面下でイ・ウーと接舷したらしいアンベリール号がまた大きく揺れた。

 アンベリール号の舳先は火災を起こしているが――乗り込んでくるか?

 狙いは恐らくアリアだが、ここで配下投入してくるのは十分あり得る。

 ブラドクラスは流石にいないだろうがジャンヌレベルでも数人送り込まれるだけで詰みかねねえぞ。

 アリアは茫然自失。兄さんは死にかけでパトラはそれの治療。確か治療にはすごい神経使うとかで戦闘は期待できない。白雪はビビってたから救命ボートを反対側に下ろしてる最中。

 戦力的には俺一人。

 アンリベール号は沈んでるから脱出のためには救命ボートしかないが、それでボストーク号から逃げ切れるとも思えん。遭難信号でも出せば運が良ければどっかの軍が来てくれるかもしれんが……伊U相手してくれるかもしれんが俺らは助からなさそうだな……。

 俺が残って戦い、引き付けることで一人でも道ずれにするか。そうすりゃうまくいけば他は逃がせる――といいなあ。

 

 そう思った俺の眼前を、ちら――と、何か白い物が風に乗って横切った。

 炎にきらめくそれは宝石のように、角度によって輝きを変えながら宙を舞う。

 ぱらぱらとその数を急速に増やしていく微細な氷は

 

「ダイヤモンドダスト?」

 

 銀氷の魔女・ジャンヌが使っていた魔術の氷が黒煙と火炎を貫くようにして飛散してきているのだ。

 俺がそれに気づいたのと同時に、煙と炎のカーテンが銀氷の渦に押し退けられる。

 ジャンヌが向こうに着いたのか――あの女地獄見せてやろうか。

 そして、キラキラ・・・・・・と炎に煌めく氷をその身にまといながら――シャーロック・ホームズが姿を現した。

 

 コツコツと黒い革靴を鳴らして歩くシャーロックの背後の海面には、いつの間にか海水を凍結させて作ったらしい巨大な流氷群が艀のように浮いていた。

 流氷からは、アンベリール号の舳先まで架けられた黄金の階段がサラサラと砂金に戻っていくのが見え……砂金と銀氷が混じり合い、煌めいて彼の背景を舞っている。

 

 パトラの協力――でもないなシャーロックに一瞥してからは兄さんの治療に全力を注いでいる感じだ。

 

 ああ、なるほどつまりそういう事か。

 兄さんの技――不可視の銃弾(インヴィジビレ)

 ジャンヌの氷の魔法

 パトラの砂の魔法

 

『ブラドは600年も前から交配ではない方法で他者の遺伝子を写し取って進化してきたのです……つまり、『吸血』で。その能力を人工化し誰からでも写し取れるようにしたのが私です。君たち高校生には難しいかもしれませんがレトロウイルスを使った選択的なDNA導入を用いて』

 

 能力のコピーはブラド戦で見ていた体質のコピーだと思っていたが、言ってたな。

 イ・ウーとは、天賦の才を持つ超人たちが集い、能力をコピーし合う場所なのだと。

 天才たちによる、際限なき能力の共有。その完成――

 

「もう逢える頃と推理していたよ」

 

 シャーロックの第一声に、俺の全細胞が硬直した。

 隙がねえ。油断どころかこっちの事をこっちのこと以上に把握している。たった一言で頭の中を見透かされたような――。

 いや、やめよう。勝てない言い訳なんぞ周りが死ぬだけだ。

 

「――卓越した推理は、予知に近づいていく。僕はそれを『条理予知(コグニス)』と呼んでいるがね。つまり僕はこれを全て予め知っていたのだ。 だからカナ君……いや、遠山金一君。君の胸の内も僕には推理できていた」

 

 試験の答え合わせをするような態度で、シャーロックは瀕死の兄さんにそう告げる。

兄さんは声にならない声で何かを言ってからガフッ、と喀血した。

 読唇術で読み取ったその言葉は『そうかよ』

 

「さて、遠山キンジ君。君も僕の事は知っているだろう」

「知らん」

「確かに君からすれば僕を知らないだろう。なにせ僕という男はいやというほど書籍や映画で取り上げられているのだからね。その話と今の出来事はだいぶ印象が違うだろう」

「どっちにしろ初対面だろ。映画も小説も誰かから見たお前だろ?」

「なるほど。これは一本取られたね。でも僕自身も小説は書いているんだ。キミは映画派だから知らなかったようだけど。確かに君は僕を知らなかった。どうやら僕は僕が思っている以上に傲慢だったらしい。非礼を詫びるためにそれではまずは自己紹介させて貰おう」

 

 なんでこいつ映画派だって知ってるんだよ。

 

「初めまして。僕はシャーロック・ホームズだ」

 

 

 ……。

 撃たれる心配はなさそうだ。こっちから仕掛けない限り――盾にしていたデュランダルを構え直し、きっちり顔を出して相対する。

 

「……ドーモ、シャーロックホームズさん。トオヤマキンジです」

「礼儀正しい少年だね――さてアリア君」

 

 自分を呼んだシャーロックに茫然としたアリアはビクッと身体を伸ばし、血族同士の眼と眼が合い――一瞬で生涯を語りつくしたかのような奇妙なムードが流れる。

 ………無視かこの野郎。

 

「待てやゴラ」

「何かね?」

「人を射殺しといて「死んでねぇ」ただで帰れると思ってのかよオイ」

「思っているさ。試してみるかい?」

 

 装甲貫通弾(アーマーピアス)不可視の銃弾(インヴィジビレ)がある以上下手の動きはできねえが、デュランダルを傾いだ盾にして防弾装備の上に当たれば即死することはない。

 ならばやることは

 

「……殺人未遂。銃刀法違反。装甲貫通弾(アーマーピアス)は武器等製造法違反か?あと未成年略取誘拐で役満だ。おとなしく墓場に還れ!」

 

 デュランダルを盾にした突進。

 寸勁の踏み込みで飛び掛かる秋草(しゅうそう)での突撃は必殺の域までは高められてはいないが車で撥ねられたように相手を轢くことはできるはず。

 その体当たりをシャーロックは一瞥し、ふむ。と一瞥し

 

「すこし頭を冷やすといい」

 

 ズルッーーと足を滑らせた俺に対し、シャーロックは軽く腕を伸ばし、俺の勢いを利用するように海へと投げ飛ばした。

 なんだ!?足滑らせるものはなかったはず!?

 飛ばされながらも一瞬見えたが、氷と砂を利用したトラップを即席で生み出し滑らせたらしい。

 あの野郎。歩幅と勢いを一瞬で計算して怪我しねえように場外に飛ばしやがった!??

 着水前にデュランダルを納めてドパァンと派手な水しぶきを上げる。

 先に潜水艦に張り付くか?

 いや、ここからじゃ微妙に遠い。アンリベール号に戻って走った方が早そうだな。

 たまたま近くにあった流氷に乗り上がり、アンリベール号へ飛び移る。

 

「行こう。君のイ・ウーだ」

 

 アンリベール号に戻ると――シャーロックがアリアをお姫様抱っこで抱えていた。

 

「アリアァ!」

「――キンジ!」

 

 不意打ちするつもりが反射的声を上げてしまい、その声に反応するようにアリアが声を上げるが――なされるがまま、混乱とも怯えともつかない表情で――今の状況を拒んではいない。

 やはり尊敬しているシャーロックを拒めないのだろう。

 逃げるそぶりも見えない。

 

 だが、勘違いをしてはいけない。

 アリアの母――神崎かなえに冤罪を着せ、今までアリアを苦しめたのがイ・ウー――シャーロック・ホームズなのだから。

 そいつについて行っても碌な事にはならない。

 

「行くなあああああ!」

 

 飛び上がるシャーロックとアリアに対し叫ぶことしかできない。

 

 ――ドクン――

 

 灼熱のように身体の中心に集まる感覚がする。

 ヒステリアモード……?

 いやいつもの感覚ではないどちらかと言えばブラドの時の――

 

「た、立つなキンイチ!立ってはだめぢゃ!まだ傷は癒えておらぬ!」

「……シャーロック――バカめ。心臓を撃ち抜いた程度で、もう、義を制したつもりか――ッ」

 

 振り返ると服を引き裂くように脱ぎ捨て、暗殺者のような漆黒の全身防弾アンダーウェア姿になった兄さんが立ち上がろうとしている。

 胸からの流血は治まりかけているものの、止まってはいない。

 

(パトラ)に治療されてな」

「これでいい――()()()()()()()

 

 少しでも軽くするためか鎌すら投げ捨てた兄さんはもうカナの面影すらない。しかしこれは――ヒステリアモード?普通のヒステリアモードとは違うな。

 

「キンジ、覚えておけ。 HSS――ヒステリアモードには、成熟や状況に応じた派生系がある。今の俺は、ヒステリア・アゴニザンテ――別名を死に際の(ダイイング)ヒステリア。瀕死の重傷を負った男は死ぬ前に子孫を残そうとする本能がありこれはその本能を利用して発現させるヒステリアモードなのだ」

 

 ブラドの時のアレか。

 ぱっと見では、兄さんの倍率はブラドの時の倍率より下に見えるが――いや今はそれより

 

「……一回なったことあるな。燃え尽きたら死ぬぞ?」

「覚えておけ。 好機の一瞬は、無為な一生にも勝る!」

 

 Blitznak――これは止められそうにないな。

 勝っても負けても俺は――

 

「聞け、キンジ。 さっきのお前の叫び声、あれで俺は確信した。今のお前のヒステリアモードも、もはや通常のものではない。通常のヒステリアモードはヒステリア・ノルマーレ。女を守るヒステリアモードだ。 しかし今のお前は、ヒステリア・ベルセ――女を奪うヒステリアモードに変化しつつある。目の前で……女を他の男に奪われた事でな」

「女というか妹なんだが」

「茶々を入れるな。――気をつけろ!ベルセは通常のヒステリアモードに自分以外の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情が加わって発現する危険な物だ。女に対しても荒々しく、時には力尽くでその全てを奪おうとさえする。戦闘能力はヒステリア・ノルマーレの1.7倍にまで増大するが、思考が攻撃一辺倒になる――いわば、諸刃の剣。その状態は不安定に明滅し制御は不可能ではないが、初めてでは困難だろう……キンジ、残念だがこれ以上の警告をしている時間はなさそうだ。船体があと1m沈んだところで跳ぶぞ!――合わせろ!」

 

 合わせろ――か。

 

「――シャーロックは俺1人では倒せない。お前1人でも無理だ。だが、2人なら……ヒステリアモード2人掛かりでなら、可能性がある!」

「前に俺が言った通りじゃないか。1+1が600だと証明しないとな」

「気が抜けるから黙れ」

 

 ……イラッ☆

 

「死にぞこないが!足引っ張ったら殺すぞクソ兄貴!」

「バカキンジこそ邪魔するなら纏めて射殺すぞ!アリアを救助(セーブ)しシャーロック・ホームズを逮捕する!続けッ!」

 

 兄さんの名を泣き叫ぶパトラの声を背に兄弟は超人的な跳躍力で飛翔した!




男兄弟なので急に口悪くなっても違和感ないですね
キンイチはキンちゃん普通に殴りますし
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