遠山キンジの独白   作:緋色

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ここ数話は原作漫画の絵面がすごいですよ
特にキンイチ


狂弾舞踏会

 視界の向こうにはアリアを抱えてイ・ウーの甲板を歩くシャーロックの背が見える。

 遠い。かなり離されてしまっている。

 シャーロックの周囲にはダイヤモンドダストの吹雪が吹き荒れ、足元は銀氷の雪原と化している。足元から巨大な流氷同士が触れ合って軋む音が響き渡る。

 ジャンヌより十数倍の魔術規模だな――直感だがクソ犬(ブラド)以上、無限パトラ以下の塩梅だろう。

 どっちも倒れたんだ。勝てる。

 

「恐れるなキンジ!こんな氷はサーカス芸に過ぎんッ!俺たちには拳銃がある!完全被甲(フルメタルジャケット)の弾丸が秒速300mの亜音速で目標を撃破する拳銃こそが、人類が編み出した至高の近接戦器。 そしてその拳銃をこの世で最も有効に使いこなせるのがヒステリアモードなのだ!」

 

 俺というより自分に言い聞かせているような兄さんの言葉。思ってたより状況は悪そうだ。

 いや当然か。心臓射貫かれてる兄さんは死にかけ(アゴニザンテ)。対して俺は五体満足の狂戦士(ベルセ)である。兄さんは長く持たないであろうしシャーロックが潜水艦に入り込む前に追い付いての殴り合いは俺が担当すべきことであろう。

 その前に追いつかないとな。

 

「先手必殺!」

 

 アリアを抱えている以上、警戒すべきは魔術ぐらい。ならば狙うのは両足!

 ベレッタの三点バーストと兄さんの不可視の銃弾(インヴィジビレ)でシャーロックの背中と両足を撃ち――

 

 ――ギギギギンッ

 

 シャーロックの背後10Mほどで空中で火花が上がる。

 今のは銃弾撃ち(ビリヤード)?何で撃った!?拳銃……いや狙撃銃か!?

 

「――キンジ!」

 

 叫ぶ兄さんが不可視の銃弾(インヴィジビレ)で追撃するがまたも空中で弾かれ――その銃弾を俺のベレッタでさらに弾き返す。

 単に銃の射線を読み切ってるだけでは読むことのできない変則挙動は――ギィン!

 三度目の火花で防がれたことを証明しただけに終わる。射線を予測してるだけなら今のは防げねえ――見えてるのか?

 それを見ていたかのようにシャーロックは半分だけ振り返り微笑する。

 そしてアリアを抱いたままの右腕を少し上げ、チッチッチ、とまだまだだねと言わんばかりに人差し指を振る。

 ――なめやがって!

 ほぼ同時に兄さんが不可視の銃弾(インヴィジビレ)の連射を、いつの間にか取り出したコルト・ピースメーカーを含めて16連撃がシャーロックを襲う。

 

  ――ギギギギギギギギンッ

 

 全てが空中で火花と金属音を上げる。

 同じ16連撃の銃弾撃ち(ビリヤード)防御された!?

 何で後ろ向きながら防げるんだよ!?しかも最小限の銃撃で弾と弾を弾いて安全を確保しやがった!

 ヒステリアモードの反射神経は、俺の思考よりも先に長弾倉(ロングマガジン)に挿し替え、フルオートに切り替えたベレッタとリボルバーS&W M360で、宙に散った無数の銃弾を兄さんと共に弾き返し隙間を狙ってさらに銃弾を追加する。

 ヤツが発砲した光源銃口の位置を狙う鏡撃ち(ミラー)も織り交ぜてやるが、その攻撃も全てシャーロックの銃弾で防がれていく。

 見る間にイ・ウーの甲板上では32発――64発――128発を超える拳銃弾が激突し合い、無数の火花を三次元的に展開させていく。

 名付けるなら、『冪乗弾幕戦(べきじょうだんまくせん)

 史上初の『銃弾の弾き合い』による射撃の応酬戦だ。ハリウッド映画も真っ青だぜ!

 

「つれねえな!ダンスは嫌いか!?」

 

 叫びながらも詰まっていく敵との距離。累乗数的に増えていく空中の銃弾。それを視覚的に処理しなければならない時間がコンマゼロ秒ずつ縮まっていく。まさに一瞬の油断が命取り。だからこそ相手の処理容量を削るために叫んでみるが梨の礫。

 脳が焼ききれそうなぐらい負担を自覚する。全力のヒステリアモード、その上を行くというヒステリア・ベルセでさえ限界になりそうだ。

 その人ならざるレベルの銃撃戦―そして初めて見る阿修羅のような兄さんの姿にアリアが目を丸くしている。

 ああ、なるほど。アリアの眼球に映る反射でこっちを見ていたのか――今、シャーロックと眼が合ったし。

 ニヤッと笑ったシャーロックは体を捻るようにしながら跳び上がった。7mはある艦橋までたった一足で。あいつホントに人間か?

 兄さんと俺の発砲が同時に止まる。

 今撃てばアリアに誤射りかねん。

 ヒステリアモードの弱点でもある女性を盾にする行為か?と訝しんだが――シャーロックはアリアの両手をそっと動かして耳を塞がせた。

 

 ――耳を塞がせた?

 

 ヤツのスーツのネクタイが、ビリビリと破けていく。シャツのボタンが弾け飛んでいく。まるでバルーンのようにヤツの胸部が膨らんで―― これは!『ワラキアの魔笛』!?

 

  イェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア

 

 突如放たれたシャーロックの咆哮に間一髪のところで両耳を塞いでいた俺は、姿勢を低くしてその一撃に耐えようとした。

 それでも轟音は全身の器官が引っかき回される。肺が潰れ息が止まり五臓六腑が口から飛び出しそうになる。

 あのクソ犬(ブラド)だけの特技じゃねえのか人間にもできるとは想定外すぎる!

 

 ヤツの狙いはヒステリアモードの解除だろう。ヒステリアモードは――この一戦の命綱。30倍――いや30x1.7で51倍と30x1.2の36倍の二人がいてようやく対応できている。あいつホントに人間か?基礎スペックが違いすぎる……二人いて?

 ――まさか!?

 

 振り返ると兄さんが、耳を塞いでいない。

 両耳から血を流し、シャーロックに向けた手を鉤爪のように曲げて立ち止まっている。銃は――転がってるな。兄さんは『ワラキアの魔笛』を知らなかったのかまともに受けてしまっていて――最後(アゴニザンテ)のヒステリアモードを解かれてしまっている!マズイ!

 とっさに兄さんの前に出てシャーロックへと発砲するが――あざ笑うように一発の銃弾が通り抜けるように俺の頬を掠り――ドサッ

 何かが倒れる音がした。

 

「Blitznak!?兄さん!?」

「……キンジ…追え……!ヤツは、艦内に……に、逃がすな!」

 

 振り返ったら胸から血を流しつつも兄さんが、赤黒い血を吐きながら命令してくる。

 まさか心臓を狙い撃って……

 

「俺のミスだ!すぐに治療しねえと死ぬぞ!?」

「フッ、お、お前ごときに、心配されるとは…俺も、ヤキが回ったな…」

 

 そして長髪の内側に隠し持っていた9ミリ径の銃弾を――2発手渡してくる。

 

銃弾撃ち(ビリヤード)で撃ち落とされない戦闘で、使え!」

 

 ハーフムーン・クリップから外した、その白と黒に着色された銃弾は――DAL(Detective Amol Lethal)通称:武偵弾。

武偵弾とは一発一発が多様な特殊機能を秘めた強化弾。銃弾職人(バレテイスタ)にしか作れないため高価で希少な、超一流の武偵にしか流通しない必殺兵器(リーサルウェポン)だ。

 

「キンジ、行け攻めろッ……!俺達はここまで来た、来てしまったのだ……!」

 

 ゴホッ!と兄さんは血を吐きながら俺の袖を掴む。

 

「遺言なんて聞きたくねえぞ!?戻っ「振り返るな!」――がっ!?」

 

 先祖代々石頭の遠山家が最後に使う隠し技――頭突きで活を入れてくる。

 ――行けって事か。もう銃弾ねえんだけど。仕方ねえ。

 

「……帰ったら兄さんの奢りだからな!死んでたら地獄で殺し直すぞ!」

「生憎金欠なんだ。余裕ができたらな」

 

 流氷の一部を蹴り砕き、有無を言わさず兄さんに携帯用位置指示無線標識(PLB)を乗せパトラの方へ滑らせる。

 

「文句は聞かねえ!」

 

 イ・ウーの艦橋へとよじ登り開け放たれていた耐圧扉に飛び込む。

 

 ――イ・ウーめ。

 無事で済むと思うなよ?

 確実にぶっ潰す!




PLBの個人使用は日本だと2015年あたりで許可出るようになってますが
この世界だと銃の流通とか、その他考えるとこれの流通もあり得るんじゃないかと思います
武偵校に通信科あるからだいぶ緩くなってるんじゃないか?
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