遠山キンジの独白   作:緋色

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兄の事は棚に上げてます


追復曲

「この際だからハッキリ言っておくけどね。シャーロック・ホームズを甘く見てはダメよ。曾お爺さまはただの天才じゃないわ。強い。強いの。歴史上最も強い人間なのよ――強くなったあんただったとしてもかないっこないの。キンジ分かって……あんたじゃ、ムリなのよ!」

 

 テコでも動かなさそうなアリアに――俺は長い瞬きをした。

 

「 ど こ が ?じゃあなんで俺がここにいるんだよ?そしてアリアの前に俺を立たせることをするか?」 

「それは――曾お爺さまに何か考えが……」

「あるといいな。と言っても――シャーロックに縋ってる奴が後継者になれるとはとても思えんのだが」

「――ッ!」

 

 図星かな。

 その場合、アリアを矢面に立たせて黒幕気取る気なのかと思ったがわざわざシャーロックが表に出てきた以上、それはない気がする。

 寿命が近いとも言ってたし、百何十年も生きているんだ。灰色の脳細胞もボケてるのが一番可能性が高そうだな。人間の寿命は120年だったか?壊れててもおかしくないな。犯罪者になってるわけだし。

 

「もはややってる事は海賊。英国紳士の探偵はとっくの昔に死んでるんだろうな。もはやあこがれるほどの存在じゃねえ」

「曾お爺さまを……侮辱してはダメっ!」

 

 アリアはもういっぱいいっぱい、といったカンジに目をきつく閉じた。

 見たくない現実だったか?ならそこから崩していこう。

 ベルセの攻撃的な思考をシャーロックを貶める方向に傾ける。

 

「侮辱?単なる事実だろ?犯罪者を捕らえ戦争を起こさないように動いた男が犯罪者を育ててるのに?確か英国からも刺客が放たれるとか言ってたよな?英国情報局秘密情報部(Intelligence Service)だっけか?英国の恥って事だな?」

「それは――」

「そんな奴の後継者に何の価値がある?ボケジジイは善悪の判断もつかなくなったと?」

 

 まあ、語られてるシャーロック・ホームズ像からすると犯罪解決は楽しむための手段でアヘンやモルヒネに手を出す(当時は法規制されてないので合法)薬物依存だったらしいから、刺激がなくなって犯罪者になること自体はあまり違和感はない。

 

「見ればわかるわ。曾お爺さまとは血縁があるのはすぐに分かったわ。知性の鋭さに衰えがない事もすぐに分かったわ」

「全盛期知らんだろお前――見た目が若返ってる時点で本物の可能性は限りなく低いだろうに。偽物の可能性が高い。血縁は隠し子とかでも血縁だしな。シャーロックの真似事してるダークロックかなんかだろあいつ」

「曾お爺さまは本物よ!悪く言わないで!」

 

 我慢が決壊したのかアリアはわなわなと眉を吊り上げて制服の短いスタートに手を伸ばす。

 説得失敗(バッドコミュニケーション)だな。

 

「風穴あけるわよ。今度こそ本当に」

「散らせるもんなら散らしてみな」

 

 戦闘タイプの意見が違えばこうなるのは必然だったか。

 武偵校(うち)の喧嘩じゃ拳銃が出る。

 

「2回目ね。あんたと()るのは」

「?初めてだろう?喧嘩は」

 

 言ってから気が付いたがチャリジャックの後にアリアに襲われたんだっけ。

 

「それもそうね。抜きなさいキンジ」

「レディーファーストで先手は譲るよ」

 

 アリアが遠慮無しにスカートを翻し目にも留まらぬ速さで発砲をデュランダルを抜き放って構え――弾く。

 弾け飛んだ銃弾が、 室内に飾られていた花を飛び散らせた。

 

 ダッ!

 

 その花びらが宙を舞う中を、アリアが駆ける。

中距離の拳銃戦では、相手の利き腕を外側に開かせた方が有利になる。その定石通り、両利きのアリアは右利きの俺の右側に走った。

 ばんっ!とアリアが側宙を切り、上下逆様になった状態からの射撃で攪乱してくる。

 

「――ッ!ふざけないで!」

 

 なぜかボルテージが上がったアリアに対して、刃は向けずに(Fuller)――血流しとも呼ばれる――に手を沿わせて剣の腹で銃弾を受けて弾く。

 ああは言ったが撃ちあう喧嘩などする気はない。そもそも弾切れだし。あっても今銃を向けるのは悪手だろう。

 思い込みが激しく持ち前の攻撃性はあるが、純粋であり善悪好嫌――善悪は社会基準からそれほど離れていないし好嫌は子供っぽいからそこまで理解不能なレベルではないはずである。

 下手に攻撃して逆切れされて吹っ切れても困る。

 着地したアリアはそのままスライディングするような姿勢で発砲し、さらに両脚を振り上げ、背中で床を滑るようにしながらも撃ってくる。

 回避と同時に攻撃してくるアリアの動きは完全に我流で、非常に変則的だ。

 なら俺がするべき事は――

 

「ふざけるって言うのはこういう事か!?」

「!?」

 

 デュランダルを床に突き刺し、構えもしない。

 さあ賭けだ。死ななきゃ安いぜノーガード。

 

「死んでも知らないからね!」

 

 両肩に一発ずつ貰った――がこれでわかった殺す気はない。今のはノーガードの頭を狙えばよかったからな撃たないって事はそういう事だ。

 観の目強く 見の目弱く。

 アリアではなくアリアと周りを観るように予測していく。

 聖堂を一周しつつ攻撃してくるアリアに対し、半周で防弾制服をはためかせて布旗(マタドール)を行い残りの銃弾のダメージを最小限に抑え、一周するころにはノーダメージにまで抑え込む。

  アリアの表情に『バレたか』という色が混ざるのも見える。

 

「一応言っておくけど。弾切れのあんたに銃で襲うのは恥じゃないわ」

「お前日頃から癇癪で銃ぶっぱなしといて何を気にしてるんだ?」

 

 ストン、と着地したアリアに対して軽く返す。

 

「あんたも攻撃しなさいって言ってるのよ!ふざけてるの!?」

「――弾切れまで待つつもりだったけど。じゃあこっちから行くぞ」

 

 ステンドグラスが照らすアリアに対して、俺は――

 

 コツン、コツン

 

 ただ真っ直ぐに歩く。

 

「何考えてるの!?」

「俺はお前を信用している。それ以外の理由がいるか?」

「!?」

 

 意識して柔らかく微笑む。

 

「こ、こないで!」

 

 何に対しての脅えか知らないが顔を真っ赤にして撃つ銃はさっきよりも狙いが滅茶苦茶だ。

 むしろ防ぎにくいが51倍のベルセなら銃を予測して防ぎきれる。

 

 コツン、コツン

 

 ババッ!とアリアのガバメントが火を噴き続けるが俺の歩みを止めるには足りないようだ。

 そして目の前に立った時に――ガチン――と無理に撃とうとした時の音がガバメントから響く。――弾切れだ。

 

「捕まえた」

 

 反論されても面倒だ。人差し指を立ててアリアの口を軽く塞ぐ。

 

「武偵憲章1条『仲間を信じ、仲間を助けよ』――助けに来たぜアリア」

「!」

「だけど俺だけじゃシャーロックを倒す方法が思いつかなくてな。だからアリア、俺を助けろ」

「!?」

「『無理、疲れた、面倒くさい。この3つは人間の無限の可能性を自ら押しとどめるよくない言葉』――だっけ?」

「――」

「シャーロックに勝つのが有限の事ならば、無限の可能性ってやつが勝利に導くんだろう。アリアの言葉だ」

 

 アリアの言いそうな言葉を先んじて決めつけ、ゆっくりじっくり脳をのぼせる様に熱――声を震わせる。

 

「アリア。俺を信じろ。俺もお前を信じる」

 

 さっきは失敗したのでお兄ちゃんをは省く。

 そのまま指先を緩く動かし頷かせる。あくまで自分の意思だと錯覚させるくらい緩く導くのがポイントだ。

 もういいかな?と指先を離すとほとんどカチコチに固まったままだ。

 ……ミスったか?

 

「それじゃ行こうか」

 

 差し出した手にアリアはおずおずと手を伸ばし――しっかりと手を握る。

 アリアを連れて操舵室探しに戻ろうとしたが――ガシャンっと大聖堂の扉が閉まる音がした。

 遠隔操作?――閉じ込められたか!

 見回してみたが監視カメラの類は見当たらない。

 隠してある?センサーの類か?

 あれこれ推測しても全くわからない。

 

「キンジ。曾お爺さまはそこの奥の扉の先よ。あたしにここに残るように言い残してね」

 

 ……来いって事か。或いは逃がさないって事か。

 どっちにしろここは相手の本拠地(ホーム)。シャーロックとの戦いは避けられそうにないな。




アリアが 仲間に なった

しかし シャーロックが 待ち受けて いる
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