遠山キンジの独白 作:緋色
ロックのかかった聖堂の扉は破壊できなかったため仕方なくシャーロックが消えた奥の扉を進むことにした。
イ・ウーの舵壊すか火薬庫見つけて爆破してから救難ボートで脱出するのが一番楽だったのだが仕方ない。ちなみにアリアにそれを言ったらドン引きされた。なぜだ?
奥の扉を抜けると、その先には鋼鉄の隔壁があり、アリアが前に立つとそれが自動ドアのように上下・左右・ナナメに何枚も開いていく。カメラかなんかで見られているのだろうか?
どっちにしろシャーロックに会う前に作戦会議はしておかなければならないわけだが……。
「ごめん。キンジ。曾お爺さまとは戦えない」
「……そうか」
マジかこいつ。
いや気持ちはわかるよ?身内補正があるとはいえ信仰対象に近いわけだし……。
「……シャーロックに付くとかは?」
「曾お爺さまに協力もしない。例えば曾お爺さまにキンジを撃てと言われても撃たないけど。曾お爺さまを撃ちたくもない」
……め、めんどくせぇ。
頭が痛いが寝返らないだけマシと考える。さっきは傷つけないように喧嘩したのが無駄だったとか思いたくもない。
「……ごめんキンジ」
顔に出てたのか謝ってくるアリアだが、いても役に立たないが邪魔にはならないならマイナスではないだろう。いつもの姫騎士(?)っぷりを考えるとなんなんだお前と言いたいところだが……いや待てよ?姫?
「アリア。俺とシャーロックを信じる気はあるか?」
「?」
通路の奥にラジオハザード――放射性物質に対する注意喚起のマーク――が描かれた厚い隔壁が、警戒する間も無く開く。
「おいおい……マジか」
今までで一番広大なそのホールの奥には数本の巨大な柱――
――世界のどこからでも発射でき、 どこにでも届く大陸間弾道ミサイルの上部だ。
原子力潜水艦なら想定するべき装備だったかもしれないが予想外の光景に背筋が凍りつく。
だが、隣から上がったアリアの声は俺とは違う事に驚いているようだった。アリアはキョロキョロと室内全体を見回していた。
そして改めて俺の顔を見て
「……あたし、この部屋を見たことがある!そして……あたし、ここであんたと会ったことがある!」
「何言ってんだお前?少なくとも俺は今日初めてここに来たが」
錯乱したのかとも思ったがアリアの目には思い出したことをそのまま話しているようだ。
……タイムスリップでもしたのか?昔見た未来の光景というものに微妙に心当たりがあるんだが。
――ブツ ツーツーツー ブツブツ
雑音混じりの音楽?が聞こえてきた。音量が上がっていくとそれは
「音楽の世界には和やかな調和と甘美な陶酔がある。それは僕らの繰り広げる戦いという混沌と美しい対照を描くものだよ。そして、このレコードが終わる頃には――戦いのほうも終わっているのだろうね」
落ち着いた声と共に、柱のようなICBMの陰から世界最高・最強の名探偵、シャーロック・ホームズが姿を現し、アンプに繋いだ蓄音機を足元に置くと、コツ、コツ。耐蝕鋼の床を踏み鳴らして、俺たちの方へ数歩だけ歩み寄ってくる。
「一応言おうか……孫の命が惜しければ降伏しろ。イ・ウーは売り払ってアリアの財産にしてやるからよ」
「キンジ!?」
「アリア君は孫ではなく曾孫だよ。――いよいよ解決編という顔をしているね。だがそれは早計というものだよ。僕は一つの記号『
prelude――劇やオペラ,組曲などの冒頭におかれ,導入の役目をもつ器楽曲。
fine――楽曲の終止を表す語で、五線譜法の終止記号
つまりゲームで言うチュートリアル終了みたいな感じの意味だが……。
「何言ってんのか知らんが今日がイ・ウーの
「それはどうだろうか?――この戦いはキンジ君とアリア君が奏でる協奏曲の序曲に過ぎない。僕のこの発言の意味はじきに分かる事だろう」
なんだろう。言葉は通じているはずだがきぶり爺相手にしてるレベルで話が通じてない感がある。あれか?IQが20違うと別の生物に見えるとか言う奴だろうか。――会話通じないのは当然か。
シャーロックは話題を変えるように古風なパイプを取り出し、マッチで火を点けた。
似合うなあ、ああいうの。そして目の前でそれやるってどんだけ舐められてんだ。
「曾お爺さま……」
衝動的に武偵弾叩きこんでやろうかと考えていたのを読んだのか知らないが、アリアが勇気を振り絞るような足つきで一歩踏み出す。
「あ、あたしは……私は、お爺さまを尊敬しています。だからこの銃を向けることはできません。
丁寧な言葉遣いでそう言うと、アリアは足元に自分の銃を置く。2丁とも。
――弾切れだから別にいいが喧嘩前にやることか?
「私は恐らくあなたの思惑通り……あなたに立ち向かおうとするパートナーをこの銃で追い返そうとしました。 でも、止めることはできなかった。彼は私がやっと見つけ出した世界にたった一人のパートナーなんです。曾お爺さまどうかお許し下さい。 私は彼に協力しようと思います。それはあなたに敵対する行動を取るという意味なんです。どうかお許し下さい」
俺と敵対した後にシャーロックとの戦いは傍観に回ってる時点で敵対してねえと思うのは俺が戦闘民族だからなのだろうか?それとも味方じゃないなら敵という極論的な思考なのだろうか?
――シャーロックを説得してくれないか一応試してくれと言ったはずだが、なんで懺悔してるんだこいつ。
なんかシャーロックが男だ女だとゴチャゴチャいってるが――時間稼ぎか?
ならその狙いはある意味成功している。そもそもアリアを取り返すためにベルセが発動した以上、アリアを奪った時点で血流が後退し始めている。シャーロックとの直接戦闘を避けようと聖堂から帰ろうとしたのもそれが原因だ。倍率がノルマーレ――通常のヒステリアモードくらいまで下がっていることを自覚してるからだし。
『遠山は自由に
爺ちゃんが前に言ってたことは理解できる。いざという時に戦えませんじゃ生き延びれないからだ。
ベルセは通常のヒステリアモードに自分以外の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情が加わって発現する。
ならばやるべきことは怒ればいい。
・シャーロックは黒幕である
・アリアを危険な目に遭わせている
・アリアを攫って俺に嗾けた
・カナを射殺
・ブラドに理子を襲わせた
・白雪攫うように命令した
よし――殺そう。
怒りによりエネルギーも沸いている気がする。
「つまり、何もかも自分の推理通り事が運んでるって言いたいのか。シャーロック」
「ははっ。こんなのは推理の初歩だよ、君」
「チョーシに乗ってるな。絶滅させるぞ」
「それがブラド君を破ったモードかい?ふむ。倍率は50いや51倍かな?」
一瞬で見抜いてきやがったなこいつ。
「この状態だと女も傷つけられる乱暴なモードだ。さっきも言ったよな?降伏しろって」
カチャ――
ベレッタをアリアの側頭部に押しあてる。
「これにはもちろん弾が入ってる」
「人質を取ったつもりかい?」
「知らねえのか?奪われるぐらいなら殺してしまえなんてよくある話だ――からな!」
こっちに注目したのを念入りに確認してから白い銃弾を投げつける。
――カッ――
俺たちとシャーロックの中間であたりを塗りつぶす光が弾ける。
真っ正面から戦ったって、勝ち目はない!兄さんから渡された
超小型化されているとはいえ威力は授業で不意打ちでくらわされた通常の閃光弾と同じ、いやそれ以上はある。閃光を直視した人間は例外なく、数分間は確実に目が見えなくなる。
ここで仕留める!
「キンジ……い、今よ!」
というアニメ声に、腕で目を覆っていた俺が顔を上げるとアリアが、体を竦ませるようにしゃがんでいた。
「あ、アリア?お前目を隠さなかったのか!?」
「あんたはあたしの背後で隠せてもあたしが目を隠したら曾お爺さまにバレる!キンジ!早く曾お爺さまを! あたしは見た、曾お爺さまは光を直視してたわ!」
……この作戦考えた時からこうする気だったのか悪いな疑って!ちゃんと敵対する気だったんだな!
すかさず棒立ちになっているシャーロックにデュランダルを鞘ごと叩きつけて無力化させる!
「死なない程度に死ね!」
世界最高の頭脳へと叩きこんだデュランダルだったが
――パシッ
シャーロックが、立っていたのだ―平然と。
「うん。今のは知恵を回した方だと思うよ。人質を取るフリをして、実際には閃光を使う作戦だったんだね。しかし、君たちは推理不足だったようだ――僕は盲目なのだよ。60年ほど前、毒殺されかけた時からね」
「お前の60年前とか知るわけねえだろ」
「それもそうだ。あの後も僕は目が見えるように振る舞っていたし、実際視覚に頼る君たちよりも自分の周囲で何が起きているのかよく分かっているのだからね。初めの頃は推理力が助けてくれたものだが今は音や気流で分かるんだよ。たとえばいま君の心拍数が驚きのために上がっていることも手に取るように分かる」
「そうかよ!」
蹴りを入れるがあっさり防がれるが、デュランダルから手を離したためその勢いで一旦距離を取る。
そして構える。
「義を見てせざるは勇無きなり」
歴史には残らないアホが1人いただけの話だろう。
それでも通すべき意地がある。
「アリア。逃げな。俺は死ぬまで戦う。――否、勝つまでやる!」
それでも立ち向かう――たとえ勝てる可能性などなくとも。
アリア擁護しにくい!