遠山キンジの独白   作:緋色

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本来なら金糸のような亜麻色(黄色がかった薄茶色)の髪がアリアの過去の髪色なんですけど
他の巻だとただの金髪なんですよね
めんどいので金髪で統一しときます


da capo

 アリアの光も指先を離れる。

 光と光は俺たちとシャーロックの中間で衝突し今回は空中で、静止した。

 恐ろしいほど、静かに。

 

「僕には自分の死期が推理できていた。どんなに引き延ばしても2009年の今日この日までしか保たないと。だからそれまでに緋弾を子孫の誰かへ『継承」する必要があったのだ。 元々、緋弾は『ホームズ家で研究するように』と女王陛下から拝領したものだからね」

 

 シャーロックの声が、 光の向こうから聞こえてくる。

 強まった緋色の光の中で、俺はアリアの目が悪化しないようにと盾になる。それにこっから先何が起きるのかわからないのもある。

 一旦強まった2つの光はすぐ、まるでお互い打ち消し合うように急速に収まっていく。

 

「しかし、その後の研究で分かった事だが… 緋弾の継承には難しい条件が3つあった。1つは、緋弾を覚醒させられる人格に限りがあること。情熱的でプライドが高く、僕は自分がそうとは思わないが――どこか、子供っぽい性格をしていなければならないらしい。しかしホームズ一族は皆、そうではなかったのだ。だから僕は、条件に合う子孫が現れるのを待ち続けなければならなかった。そして現れたのがアリア君。君だ。2つ目の条件は君たちの今後の関係のために詳細は伏せるが……緋弾を覚醒させるには、アリア君が女性として心理的に成長する必要があった事だ」

 

 語るシャーロックの手前で、 緋色だった光球が透明になっていく。融合していく2つの光は、形を変えていき直径2メートルほどのレンズのような形に変わっていく。

 

「3つ目の条件として継承者は能力を覚醒させるまで、最低でも3年のあいだ緋弾と共にあり続ける必要があった。抱卵する鳥のように片時も肌身離さずに――これは簡単なようで最も難しい条件だった。なぜなら緋弾は他のイロカネ保有者たちから狙われていて、覚醒した者でなければ守る事ができない状況だったのだからね。だから、今日までは覚醒した僕が緋弾を保有し今日からは覚醒したアリア君が緋弾を保有する。これを成立させるために、僕は今日までこの緋弾を持ち続け、さらに3年前の君に渡さなければならなかったのだ。これは僕にとっても、生涯最大の難問の一つだった。だが、その難問を解決してくれたのもまた緋弾だったのだよ」

 

 

 破綻した理屈を嬉しそうに語るシャーロックの姿が、ぼやけていく。

 宙に浮かぶ光のレンズの中に、何かが浮かび上がってきている。

 何か……人のようなものが。

 

「これだ……!これが日本の古文書にある『暦鏡』――時空のレンズだ。 実物を前にするのは僕も初めてだよ」

「……あれは……アリア……か…………?」

 

 振り返ってみてみるがピンクブロンドのアリアとは別に、もう1人のアリアがそこにいる。

 金髪のツインテールを煌めかせて、アリアの赤紫色(カメリア)とは違うサファイアのような紺碧の瞳をしてる。

 妹か?しかし、双子であっても仕草は違う。あの仕草や表情はアリア以外の誰でもない。

 背中の開いた白いサニードレスを着たアリアは、ここからは見えないレンズ外の誰かと楽しげに喋っているよう

だった。こっちにはまるで気づいていない――映像か?ホログラム?

 

「アリア君。君は13歳の時母親の誕生日パーティーで銃撃されたことがあるね」

「う、撃たれました、 何者かに。でも、それが今、何だと……」

「撃ったのは僕だ。いや、これから撃つのだ。これはどちらの表現も正しい」

 

 言ってシャーロックは左手に構えた拳銃、アダムズ・マークⅡの撃鉄を起こした。

『僕の『緋色の研究』にピリオドを打つ、極めて重要な1発になると推理している』

 先ほどのシャーロックの言葉が頭をよぎる。

 まさかこれは過去に繋がって!?

 

「緋弾の力を以てすれば過去への扉を開く事さえもできる。 僕は3年前の君に、今から、緋弾を継承する」

「やめやがれ!」

 

 せめてもの抵抗にデュランダルを射線を封じるように投擲するが――

 

「心配には及ばないよ。僕は銃の名手でもあるんだ」

 

 ズレたことを言いながらシャーロックはレンズの中のアリアへ銃を向け――

 

「アリア!避けろ!」

 

 声が聞こえたのかレンズの中のアリアがこちらを向き――目が合う。

 しかしそれはシャーロックに背を向けているという事でもある。

 

『あたし、ここであんたと会ったことがある』

 

 あの言葉はそういう事かよ!

 

 パァーーーン

 

 乾いた銃声が上がり『緋弾』を打ち込まれた過去のアリアは驚愕の表情のまま倒れ――霧が消え去る様に『暦鏡』は消え去った。

 アリアは――13歳の時に銃撃された際の弾が、まだ体内にあると言っていた。それはシャーロックが緋弾の力で過去への扉を開き、今、撃ち込んだ。

 とんだタイムパラドックスだ。3年後の曾祖父が曾孫を撃つとは……。

 

「アリア君2つ、ことわっておこう。緋弾の副作用についてだ。 緋弾には延命の作用があり共に在る者の肉体的な成長を遅らせる。あれから君は体格があまり変わらなくなったことだろう。それと文献によれば、成長期の人体にイロカネを埋め込むと体の色が変わるらしいのだ。皮膚の色までは変わらないようだが、髪と瞳が美しい緋色に近づいていく。今の君のようにね。以上で僕の『緋色の研究』に関する講義は終わりだ。緋弾について僕が解明できた事はこれで全てだよ」

 

 延命の力があるという緋弾を失ったせいか、いきなり何歳か歳を取ったように見えるシャーロックが言った。

 

「キンジ?大丈夫!?」

 

 ようやく目が回復したのかよたよたと寄ってくるアリア――こいつシャーロックの話聞いてなくない?俺も髪の色が変わるぐらいしか聞いてないが……。

 

「……何がしてえんだよてめえ」

「アリア君、キンジ君。『緋色の研究』は君たちに引き継ぐ」

「はぁ!?」

 

 どう考えも武闘派であって超常現象(ステルス)の研究は俺もアリアも専門外だ。

 というかシャーロックがベラベラ知らんことを話してただけで研究内容で重要そうな『緋天』とか『暦鏡』について何もわからん。

 

「イロカネ保有者同士の戦いは、まだお互いを牽制しあう段階にある。しばらくは、その膠着状態が続くだろう。だが戦いはこれから本格化し君たちはそれに巻き込まれていくかもしれない。その時はどうか悪意ある者から緋弾を守り続けてくれたまえ――世界のために」

「 て め え が 巻き込んだんだろうがっ!」

 

吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!

なにも知らぬ無知なる者を利用する事だ……!!

自分の利益だけのために利用する事だ…

曾祖父がなにも知らぬ『曾孫』を!!

てめーだけの都合でッ!

 

「キンジ君。君は世界におけるアリア君の重要性が分かっていない。1世紀前の世界に僕が必要だったように彼女は現代の世界に必要な重要人物なのだ」

「それお前が変なのを無理矢理継承したからだろうが!?」

「キンジ君。この世に悪魔はいないにしても悪魔の手先のような人間はいくらでもいるのだ。 この広い世界には君の想像も及ばぬような悪意を持つ者がイロカネを――」

「それお前だろうが。どう見ても研究に向いてない頭「風穴」――そういうとこだぞ。のやつに超常の核なんぞ渡したら争いが起きるに決まってるだろ。アリア――緋弾とやら何ができて何ができないのかわかるか?」

「――さっきの『緋天』ぐらい……?もう一回撃てと言われてもよくわかんないわ」

「……どこが研究を引き継いだんだてめえ?」

 

 白髪が増え始めたシャーロックはふむと頷き。

 

「――頑張り給え」

 

 ブチッ

 

「おーけー。おれ おまえ ころす」

 

「わっぷ!?」

「何の真似だい?」

 

 目が見えるようなって邪魔されかねないので上着を脱いでアリアに被せて視界を防ぐ。

 ぐるりと辺りを見回して当たりを付けておく。

 

「さっき言ってただろ?素手(ナックル)で殴り倒して欲しいってよ?」

「……それは言ってないが――ボクシングなら相手になろうか。発射前に壊されても困るしね」

 

 やっぱICBMは逃亡用か。ジャンヌとかが使ってた魚雷みたいな船で逃げるにはこの部屋からは遠いだろう。

 しかしなんか準備しているのか唸るような音を立てるICBM用の大筒には人が入れそうなハッチの付いた弾が見える。

 どうすりゃ阻止できるのかもよくわからんから適当に壊すことも考えたが――デュランダルは床に刺さってる。重いしあれは置いとくか。それにスクラマサクスで受けられるだけだ。

 生きて帰るんならあんまり壊さん方がいい……はず。

 

「『桜花』――まともに受けたら引き千切れるぜ」

「やってみたまえ」

 

 真っ直ぐ行ってぶっ飛ばす。

 右ストレートでぶっ飛ばす!

 

 ダンッと足音を響かせ一気にシャーロックへと迫る。

 ヒステリアモードの反射神経は爪先で時速100km、膝で200㎞、腰と背で300km、肩と肘で500km、手首で更に100km、それを同時に動かせば時速1236kmの最強の一撃『桜花』が放てる!

 

 

 

 

 

 


 

「あの桜花って技。欠陥技よね?」

 

 回らない寿司を姐御(マキリさん)に奢って貰っているときに唐突にそんな事を言われる。

 

「――急になんすか。あれは一応必殺技みたいなもんなんですけど」

 

 お任せで運ばれてきたカンパチの握りを飲み込んでから答える。

 

「自分を傷つける技は欠陥でしょ?腕が使えなくなるデメリットに見合ってるわけでもない」

「……音速挙動だし十分見合ってると思うけど」

「では――あれで私に勝てる?」

「ふむ?――当てられる気がしないな」

 

 真面目にシミュレーションしてみるが身のこなしと経験数を考えると避けられる可能性の方が高い。というか先にマキリさんの攻撃喰らって絶命する可能性が高い。

 

「当たれば私なら倒せるでしょう――でも死にませんし、あれなら当たらない。あのくらいの威力ならあのゴリラなら直撃しても気絶すらしないでしょうね」

「それゴリラじゃなくて具体的な人物思い浮かべてません?誰?俺の知り合い?」

 

 ゴリラと言われると蘭豹か関教官あたりだが……姐御は知らんだろうから違うだろうな。

 

「教えないわ。――それでもあれを使い続けるの?」

「……改良しないとあかんって事か。実際問題音速挙動時のダメージ無くさんと使えない家の秘伝技結構あるんだよな。……どうすればいいと思う?」

「自分で考えたら?」

「おい。相談したの俺なんですが!?」

「でも使えない技があるって事は改善する答えはあるって事でしょ。まず音速を超える所から見直してみたら?」

 


 

 

 音の壁というものがある。

 飛行速度が音速に近づくにつれて、空気の圧縮性の影響から生じる造波抗力の急増、翼表面に生じる衝撃波の後流における流れの剥離、その他空力変化や空力弾性的な問題が生じる。

 簡単に言うと音速を超えると音速より遅い空気が壁のようになってぶつかるという事だ。

 その壁にぶち当たる速度は時速768マイル=時速1235.976km

 すなわちその速度ぴったり出せれば空気はただの壁となる。何度か破った音速の壁だが体感した速度を繊細に調整すれば――すなわち空中を踏んだ2段ジャンプができる!

 

「なんだと!?」

 

 跳んだ俺を迎撃しようとしたシャーロックが――空中で軌道を変えたことを察し驚きの声を上げ――

 

「歯ぁ食い縛れ!」

 

 ガスッッッッッッ!

 

 ガードをする間もなく世界最高の頭脳に拳が炸裂した。

 

「!」

 

 世界最強の名探偵はぐら、と真後ろに頭を倒し――ずしんと鋼鉄の床に背を叩きつけられて――『魔笛』のレコードと共に沈黙した。




キンちゃんは音の壁にぶつかりました
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