遠山キンジの独白   作:緋色

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東京さ行ぐだ

 粉雪が8時までに就寝しないのは不衛生だと言って聞かなかったので…俺は、仕方なしに夕食のあとすぐ寝室に入ってゴロゴロしていた。

 まあ最近寝るの早かったから寝るのは構わないんだが……。

 

「…を慎みなさい粉雪。 言っていい事と悪い事が…私は彼女の死を望んでなど…ません…どころか…れは…」

「…れは…口が過ぎました。 でも…――緋弾は何れ、潰える――」

 

 なんか聞こえちゃいけないもんが聞こえてる気がする。中身はほとんどわからんが不穏である。あの様子だと星伽はアリアの事は認識してるんだろうが……会話の内容は全然聞き取れない。

 何やら姉妹ゲンカらしく……しかしそれは次第に仲直りムードになっていき寝床となる和室へと向かう物音がした。

 どうやら仲良く寝る気になったらしい。

 多少気になるが首突っ込むのも野暮だとウトウトし始めた所でキシ……キシ……と不慣れな忍び足の音が響く。

 こうなると逆に気になって目が覚める。

 玄関の方に向かっているようなのでソロリと扉を開けて盗み見ると

 

「……ゆ、勇気を出すのです。チャンスは今夜しか無いのですから。ファイトです」

 

 流行りのレイヤースカート。ちょっと大人っぽいUネックの半袖カットソーにデニムのベストを重ね、バックルの大きなメッシュベルトでキメている。

 全体的にはちょっと背伸びして、女子高校生向けのファッション雑誌に載っていたコーディネートをそのままマネたような感じだ。

 おしゃれしてるからにはそれなりに理由があるのだろう。

 あんだけ星伽の決まりと吼えていたのは破らないという印象を付けたかったからかな?現に何も言わずに何度も深呼吸をしてから扉に手をかける。

 わかりやすいなぁ。粉雪は()()()()()()()()()のだ。

 

「……シークレットサービスは無料(ロハ)でいいぞ。世話になったしな。それに白雪はそういうの向いてないだろ?任せな」

「お願いします。粉雪の気持ちもわかるから止められなくて……」

「星伽に夜遊び怒られたら俺のせいにしとけばいいよ。前科あるし。終電で帰らせるからその後説教しな」

「はい」

 

 当然のように起きてた白雪といくつかやり取りしてから目立たないように防弾性能のある私服に着替えて粉雪を追跡する。

 モノレールの切符の買い方を通りすがりの武偵校女子に聞くほどの箱入りを見せた粉雪の目的地は台場のようだ。

 台場に着いた粉雪は、フセン紙をいっぱいつけたタウンガイド誌を手にちょっと緊張した足取りで街に出ていく。

 物陰から見ると、粉雪はキラキラ輝くヴィーナスフォート――女性向けのショッピングテーマパーク――を嬉しそうに見上げていた。

 御上りさんらしくウィンドーショッピングからオルゴールを買ってから勢いがついたのか商品の紙袋を増やしていく。

 女性店員しかいない店ばかり選んでるのは筋金入りだが……変なところに入り込まない分逆に安心か。

 小洒落たオープンカフェでパフェをキラキラした瞳で味わっている粉雪を写真に撮って白雪に[護衛順調だお(`・ω・´)]とメールしておく。

 うわ……一分もかからず長文で返信来た。大体なんかのノロケだから流し読みしてから護衛を続けることにする。

 ……そろそろ時間切れ(タイムアップ)かなー。

 

 ヴィーナスフォートを後にした粉雪は自由の女神像を経由して台場駅に向かうつもりらしい。

 人気が少ない道だし軽く脅かして諫めておくべきかな?なんて考えていたのが悪かったのか……。

 

「こんばんはー、いっぱいお買い物したねー」

「あっれー?もしかして1人い? 可愛いのにもったいない」

 

 公園の方から粉雪の方へとチャラチャラした格好の男たちは後ずさる粉雪をすぐに取り囲んでしまう。

 見た感じ大学生かな。手慣れてるし常習犯か……面倒クサ。特に鍛えてないようだし弱すぎて怪我させないようにする方が難しいな。

 粉雪は毅然とした表情で右左、あるいは後ろを振り向いたが逃げ場が無いので、その場を動けない状態だ。

 

「の、退きなさい。星伽の巫女は悪徒の威には応じません!」

 

 ……身元を明かしてどうすんだよ。星伽は周辺含めて特区とされる土地で地元じゃ敬われてるが――それが通じるのは星伽周辺だけだろう。

 

「ハァ?」「日本語喋れやガキ!」「剥くぞオラ!」

 

 案の定チンピラが逆切れしだし各々が武器を取り出す――がその中の一つが不味い。

 拳銃――五一式手鎗(クロボシ)。旧ソ連のトカレフをコピーした、中国製の粗悪な拳銃だ。

 粉雪は両手に提げた紙袋を落とし、自分の懐をまさぐるような手つきを一瞬したが……オシャレな服のそこによく身に付けていた守り刀は無い。さっき着替える際に置いてきたからだ。

 打つ手がなくなった粉雪が気丈な顔を歪ませた所で割り込むことにする。

 

「駄目だよー。粉ちゃん深夜徘徊なんてー」

 

 ふらっと拳銃持ちと粉雪の間に割り込む。

 

「遠山様!?」

「は!?」

 

 急に割り込んだとはいえ突然現れた俺に対して全員驚いてる様だ。

 

「遊びに行くんだったら俺に声掛けなよ~。探すの面倒くさかったんだからね?流石に夜に子供一人出歩いてて安全なわけじゃないし。変なのも出るからねえ」

「てめえ誰だ!?」

「まあそろそろ終電だし帰ろっか?お説教はその後だね」

「無視すんじゃねぇ!」

「あ、まだいたの?相手するのも面倒だったし逃げとけよ」

 

 あからさまにため息つくと逆上したのか武器を見せて

 

「フクロにされたくなかったらその子おいて消えろヒーロー気取り」

「ヒーローじゃなくて武偵だよ。武偵校(そこ)のな。文句あるなら武偵校――は面倒だし交番まで手錠(わっぱ)付けて連れてこうか?刑務所行の材料はそろってるし」

 

 持ち方から何からど素人だから武器見せて脅してたチンピラの類だろう。

 どっちにしろ銃が出てきた以上逃がすことはしないけども。

 

「お、おい。アイツ撃て。お前、人撃った事あんだろ」

 

 銃を持っていた男が、ぽん、とそれを仲間の1人に投げ渡す。

 

「あ、え、オレのあれはフカシで……」

「いいから撃てよ! アイツぁ武偵だぞ! 先手必勝だろうが!」

「オメェが撃てよ! オメェの拳銃(チャカ)だろうが! オメェが先手必勝やれって!」

 

 どうやら銃を撃ったことがないらしい学生たちが怒鳴り合ってる。

 うん。暴発する前に制圧しないとあぶねえなこれ。

 

「ちょっと目を瞑って10秒数えててね。その間に終わらせるから」

 

 掌で目隠しするように覆わせて――

 

「はいカウント」

「え!?い、いーち――」

 

 拳銃を投げたばかりの奴を近かったので当て身で気絶させ、次に拳銃を受け取った奴から拳銃を奪い取り、銃弾を抜きながら回し蹴りで意識を飛ばす。

 銃弾を抜いた拳銃を捨ててからやっとこさ逃げようとしてる残りをサクッと捕まえて頸動脈を押さえてさっさと落とす。

 

「と、遠山様……」

 

 全員無力化したところで途中から見てたらしき粉雪が目を丸くしてる。

 

「ちょっと待ってね」

 

 と手で制してからケータイで110番し、拳銃持った奴が公園近くで喧嘩してると通報しておく。

 

「よし。これで警官来たらこいつら捕まるだろ」

「と、遠山様……。ほ、星伽にはこの事、な、何とぞ内密にしてください……!」

 

 べたぁー。と白雪そっくりな動きでその場に土下座した。

 それ星伽の風習なの?

 

「だ、誰にも言わないで……!」

 

 ぽろぽろ泣きながらこっちを見上げた粉雪は夜遊びには懲りた様子だ。

 

「粉雪。それは俺じゃなくて白雪に言いなさい。夜に遊びに行ったから心配してるよ?ま、俺が連れだしたことにしようか?」

「は、はい……。いえ。飛び出したのは私ですので遠山様は悪くありません!」

「粉ちゃんはいい子だねぇ……。じゃ終電も近いし帰ろうか」

 

 警察が来たら面倒なので粉雪の落としていた紙袋を持ってあげる。

 顔を赤くした粉雪は立ち上がり、ちゃんとついてくる。が、時間は少々怪しいか?

 

「粉ちゃん。終電時間ヤバそうし近道するけどいい?」

「遠山様にお任せします」

「そう?じゃ遠慮なく」

「きゃぁ!?」

 

 お姫様だっこに可愛らしい悲鳴を上げる粉雪が文句を言う前に人差し指で口を塞ぐ。

 

「舌噛むから口を閉じててね。腕を回してしっかり掴まってな。飛ばすよ」

 

 ちょっとだけサービスだ。

 時間はギリギリだが間に合うかな?

 東京には見栄えのいい夜景というものが存在する。ここから近いスポットへと駆け上がる。

 

「お、綺麗だな」

「わぁ――」

 

 駆け上がったビルの上から眺めるのは――ライトアップされた橋とピラミディオン台場。

 従来の橋に加えてピラミッド型のライトアップは東京観光の〆にはいいだろう。

 夜間の新しい観光名所になるんじゃないだろうか?もうなってるのかな?

 終わりよければチンピラの事で嫌な思い出で終わることもないだろう。

 

「遠山様……もしかして私のために……」

「さーねー?……あ、ホントに時間ヤバい」

 

 多少締まらないがモノレールまで急いで戻り、帰ってから白雪のお説教になってないお説教で今日は終わった。

 

 

 

 翌朝、俺の部屋に星伽の運転手を名乗るえらい美人のお姉さんがやってきた。

 車寄せを見下ろすと、そこには冗談みたいに長いリムジンが停車している。……こっから青森まであれで帰るんだろうか?

 帰る準備をすっかり済ませていた粉雪は、来た時よりかなり大きくなった風呂敷包みを運転手に渡すと玄関先

で、俺と白雪に折り目正しく三つ指をついた。

 

「逗留中、何から何までお世話になりました。遠山様、お姉様、ごきげんよう」

「粉ちゃんも元気でな」

 

 と一言返したが、なんだか収まりが悪いので……車まで見送ることにした。

 エレベーターを降りると、 粉雪は微妙に歩く速度を変えて俺のそばに寄ってきてー

 

「……なんだ?」

「ありがとう……ございました」

「なんかあったっけ?」

「……遠山様ですね……」

 

 特に心当たりはないが粉雪は気が済んだのか真面目な顔をして向き合う。

 

「実は昨夜、遠山様についての『託』が降りました。星伽の巫女の義務で、一昼夜の内にお伝えしなければいけない事になっていますから……今お伝えします」

「白雪が傍にいない時を見計らってだからなんか都合が悪いことか?」

 

 少々顔を赤くした粉雪はそれには答えず。

 

「遠山様は求婚されます。今月中に」

「……それ男に?女に?」

「知りません。ただ、間違ってもお姉様ではありません。それは確実です。――男に?」

 

 困惑してる粉雪は置いといて、またクロメーテルに告白が来るんだろうか?月一は告白されてる気がする。予定はないがクロメーテルに化けるのは控えよう。

 

「気にせんでいいさ。今からでも粉ちゃんが求婚してくれたら問題ごと起きないんじゃ……?」

「それは嫌です」

 

 べーっとあっかんべしてから、とたたたと先に行く。

 流石に怒ったかな?そう思ったのもつかの間。くるっと振り返って

 

「今後とも、何とぞよろしくお願いいたしますね。遠山様」

 

 まるで舞い落ちるひとひらの粉雪のように可憐な笑顔だった。

 敵わないな。まったく。




存在するはずのピラミディオン台場の霊圧は4巻以降存在しないよなあ……
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