Soul Sacrifice ν   作:TAXEL

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第1話 ② 『魔物』

第1話 ② 『魔物』

 

 

詞が目を覚ました時、時刻はすでに夜の9時を回っていた。学校から帰ってきてすぐに横になり、そこからの記憶が丸々と無い。

 

「やば……ちょっと寝すぎた」

 

目を擦りながら体を起こすと、胃袋が上げる空腹の悲鳴が鳴る。それを聞いて買い出しに行かなければいけないことを思い出した。

 

「めんどくさぁ……」

 

しかし空腹を訴える腹には勝てず、適当な洋服に着替え机の上にあった千円札を財布にしまい家を出た。

この辺りの地域は静かだ。夜風が揺らす木の葉の音が優しく響く。満月に照らされたアスファルトも、鳴り響く虫の声も、どこか風情を感じさせる。

 

詞が目指すのは地元のスーパーだ。22時半まで開いているはず。1000円でも、恐らくこの時間なら半額の品がそれなりに買えるだろう。

 

「今日はお弁当も買っちゃお。オムライス残ってるといいなー」

 

そんなことを呟きながら、人気のない道に通りがかった。すぐ横に森が広がり、夜になると今日のような満月でも出ていない限り本当に真っ暗になってしまう。気味が悪いこの道を、こんな時間に通る人はほとんどいない。

だがこの道はスーパーに向かうにはちょうどいい近道。こんな遅い時間に通るのは初めてだったが、時間をかけたくなかった詞は何気なくこの道に入って行った。

 

(こういう時パッと作れる料理ないかな……またヒナに新しいレシピ教えてもらうか………ん?)

 

何気ないことを考えていると、詞は地震のような足元の揺れを感じた。しかし、地震にしては揺れが細かく頻度が高い。

 

ふと、すぐ横に広がる森に目が付いた。夜風に仰がれた木々が揺らめき、暗さも相まって一つの生き物のようにすら見える。

 

森の中から、何かの気配を感じる。

 

「何……?」

 

気が付くと、詞の脚は石垣を超えて森の中に踏み入っていた。なぜそうしたのかは、詞自身にもわからない。だが、何かに引き寄せられるようにその脚は動いていた。

 

懐中電灯代わりのスマホを頼りに森の奥に進むほど、振動は大きくなっていく。次第にわすがに聞こえていた音がはっきりとし始めた。何かが倒れるような、へし折られるような音に聞こえる。

 

やがて進んでいくと、不自然にに開けた場所に出た。頭上を見上げると、雲一つない空に浮かぶ満月と、微かな星空が見える。しかしそれ以上に、この場所は不気味なまでに不自然だった。

 

本来ここに立っていたはずであろう木が、低い位置からなぎ倒されている。木の断面は乾ききっておらず、まだそう時間は経っていない。つい先程、強い力で叩き折られたようだ。

 

「なんなの一体……不気味だなぁ」

 

バキッ

 

背後から木の枝が砕ける音がして、思わず振り返った詞。

 

何なのかはわからない。しかし、真っ暗な暗闇の中を、何かが蠢いている。この森全体を揺さぶるような何かが。

肌を刺すようなただならぬ気配に、詞は音と逆の方向へと、逃れるように後ずさった。

 

 

 

『あナタ、ダァれ?』

 

 

 

その声が聞こえたのは、詞の背後。気配とは逆のはずの方向だった。

 

ゆっくりと声のする方向を向く。

 

月灯りが反射して不気味に光る見開かれた巨大な双眸が、ほんの1メートル足らずの距離でじっと詞を見つめていた。

 

その瞬間、詞は全力で走り出した。森へ、障害物となる木が生い茂る森の中へ。身を隠し、少しでも遠くへ逃げなければマズい。

 

どうにか手近な木々の間に飛び込み、身を隠しつつ走って距離を取る。

しかし次の瞬間、凄まじい衝撃と共に詞の身体は宙を待っていた。

 

「あぐっ……!!」

 

木に叩きつけられる詞。呼吸が詰まり、全身がギシギシと音を立てる。どうにか身を起こして辺りを見回すと、先ほどまで間を走り抜けていた木々が、丸ごと薙ぎ払われていた。直撃こそ免れたが、その衝撃だけでここまで吹き飛ばされたのだ。

 

そしてその衝撃を起こした張本人が、ゆっくりと首を持ち上げる。

そこで初めて、詞は先ほどの双眸の持ち主の全貌を見た。

 

月明かりに照らされたのは、身体から生える異様に長細い脚。4足で立ってはいるが、よく見るとその手足は人間のものだ。

そしてそれよりも異様で、不気味な、首。大きなまだら模様をまぶした、手足の何倍も太く、長い首。

 

「キリン……?!」

 

しかし、その長い首の上に乗っているのは、不気味な笑いを浮かべこちらを見つめる、人間の頭。首に合わせたかのような巨大な頭。

 

人間の、女の頭だ。

 

逃げようとするが、脚が動かない。手足が震え、思うように力が入らないのだ。それでもどうにか立ち上がろうともがくが、上手くいかず再び地面に倒れ込んでしまった。

 

「やだっ……死にたくないよっ……お母さん……ヒナ……!!」

 

突然現れた死の恐怖。ただの無力な女子高生でしかない詞からすれば、あまりにも突拍子もない。ただ受け入れることしかできない理不尽な殺意に、自然と恐怖の涙が溢れだす。

 

『壊レちャえ』

 

キリンの化け物は一瞬頭を後ろへ振りかぶり、そのまま頭をまっすぐ詞めがけて振り下ろした。

 

「いやぁああああ!!」

 

バキバキバキ!!

 

凄まじい音を立てて、巨大な頭が地面に突き立てられた。

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