人の感情を読み取る才能を持っています。
そして、変人です。
入学式後のホームルームで自分の自己紹介をした時、金髪碧眼の男の子が私の名前を聞いた途端に勢いよく席から立ち上がった。
クラス中の視線が彼に集まる。しかし、彼はそれどころでは無さそうで死人を見たような表情を浮かべていた。
一回見たら忘れないような顔の整い様だが、私の記憶にはそんな子と知り合いになったことすらない。
(愛情...いや、後悔?違う、もっと複雑で暗い...。この感情は私と誰かを重ねている?)
私の感情を読む力がプラスの感情で無い事を強く告げている。
「アイ...」
「え...?」
(私の名前を呼んだ。でも間違いなく私の事じゃ無い)
本来この感情を読み取った際は危険な状況であるはずなんだけど、彼の場合は何か違うような気がした。
「アイ...だよな...?」
「え、あ、うん。君は...?」
こういう時は落ち着いて情報を引き出すのが適した判断と言える筈だ。
しかし、次の瞬間彼は気絶してしまい、その場から崩れ落ちた。
周囲からは悲鳴が上がったり、私以外のクラスメイトが彼から離れる。
無理もない反応だ。
いきなり女の子の名前を呼んで、そして気絶するなんて気味が悪すぎる。
(でもこの人は放っておいてはいけない気がする。このままだと多分、取り返しのつかない事になる...気がする...!)
「先生」
「んっ!?な、なんだ?」
「私、彼を保健室に運びます」
「一応聞くが、知り合いか?」
「いえ、今日が初対面です。でも放っては置けないので」
「先生も手伝おうか?」
「先生はホームルームを続行していてください。私こう見えて力持ちなので♪」
「そ、そうか」
気絶した彼の腋の下から自分の首を差し入れた後、肩の上に相手を担ぎ上げる。
通称ファイアーマンズキャリーと呼ばれるその搬送方法は、自分よりも図体の大きい人でもひょいと運べるので少し小柄な私でも問題なく持ち上げられる。
周囲からどよめきが上がるが私がゴリラというわけではないのだから勘違いしないでほしい。
保健室に着いて、扉を開けると保健の先生が私を見て「おぉ..!?」と一瞬目を輝かせるがすぐに真剣な目に変わって
「こちらに」
とベッドへ誘導してくれた。
「それでどうしたのですか?」
状況の説明を求められたのでなるべく詳細に情報を伝えた。
「ふむ...なるほど、心因性のもの...トラウマの様なものが刺激された可能性が高いですね。過労や病気では無さそうだ。確かこの生徒は...」
先生は立ち上がって棚からファイルを取り出した。
「君は何組かな?」
「えっと、B組です」
「ふむ、B組ね...。あ、あったあった。うちの偏差値で何で受けたのかわからないって職員の間で話題なのよねこの子」
「それって?」
「この学校の普通科は偏差値40でしょう?でもこの子の偏差値は70。理由は十中八九芸能科にいる身内でしょうね」
「彼の名前は一体...?」
「名前、そう名前も話題のネタ...いや話の中心になってたのよね。星野愛久愛海っていうのよその子」
「アクアマリン...?」
「所謂キラキラネームっていうやつね。それについてはデリケートな問題だから職員間でも触れないようにってお達しが出ているけどね」
「そうなんですか...」
「ま、何はともあれ命に別状は無いよ。アタシはちょっと芸能科にいる身内に声をかけてくるから倉敷さんはここで待ってな。担任には連絡しとくから」
「はい、分かりました」
保健の先生はこの場を私に任せて廊下に出て行った。
星野アクアマリンくんが横たわっているベッドのそばに椅子を置いて座る。
彼は何かにうなされているようで苦しそうだった。
(とりあえず手でも握っておいてあげよっかな。安心できるかもだし)
投げ出された手を両手で包み込む。
すると、心なしか意識のないアクアマリンくんの表情が安らいだように感じた。
(アクアマリンくんは誰と私を重ねているんだろう...?あの感じからして恋人...いや、どんなに容姿が整っているとはいえそんな若い歳で恋人に重い感情が発生することはないか。だとすれば、家族?)
倉敷アイは次にアクアマリンという少年の愛称について考える事にした。
(アクアマリンだと長いから多分省略されてるよね。目立つ名前だし。マリン...は女の子みたいだから消去法でアクアかな?...そうだ!目が覚めたらアクアって呼んで反応を確かめてみよっと)
[この少女、何気ない軽い気持ちでアクアという少年を甚振ろうとしている]
アクアマリンくんが目覚める前に廊下から誰かがこっちに向かって走ってくる音が聞こえた。先生かな?
ガララッ!っと扉が勢いよく開くと金髪サイドテールで赤い目をした少女が保健室に飛び込んできた。
「お兄ちゃん、大丈夫っ!?」
(アクアマリンくんの妹ちゃんかな?)
そう思って振り返ると目があった少女はどこかで見たような反応をした。
「え...嘘...なんでなんでっ!!!」
(あれ、この反応さっきも見たような...)
倉敷アイは強いデジャヴを感じていた。
アクアマリンの妹と思わしき人物は青い顔をしており、目元には涙が浮かんでおり腰が抜けてしまっている。
(この感情...アクアくんとは違うけど、でも似たようなものを感じる。でも危なくはないね、うん。不思議だ)
こんな状況でさえも倉敷アイという少女はマイペースであった。
ルビーサイドマジでどうしよう....。