1話でもしもカフカが入隊を断っていたら?   作:刀持ちの烏

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9:怪獣9号の誕生

 モンスタースイーパーとは、かなりの力仕事だ。ある程度の体力があり、人もそれなりにいなければかなりキツい部類の仕事と言える。

「まじかよ、今日は4人もいないのか?」

 昼休み中に、徳さんは唖然としながら推理小説を読んでる部下に聞く。表紙には「千社札殺人事件」と書いてあった。彼はそういう小説をよく読んでいる。

「ですね。まあ日々野さんとアオは、レノの入隊試験の送迎って言ってましたから途中で来ると思いますよ」

 ふーん、とでもいった態度で、彼は頷いた。あとで来るならとりあえず一安心だ、やっぱ人は多い方がいいからな。

「途中から来るならいいか。あ、あと一人いたよな。そいつ誰だったっけ」

 彼の部下は出勤簿をめくりながら答える。部下のほうもあと一人をなかなか思い出せないようだった。

「穂高タケミチさんですね。なんか家の用事があるみたいです」

「ん、わかった」

 徳さんはゆっくり頷いた。部下も、お前から先に聞いたのに反応薄いな。と感じながらも再び小説の世界にのめり込んでいった。

 次第に時間が経ち、彼らは再び仕事に取り掛かった。途中で二人が加わるとさらに仕事が進み、かなりいいところまで行った。

 穂高が休んだ理由は、いかにも胡散草げであり、少し怪しいようなものであったが、二人はまったく気にしていなかった。彼らにとって見ればそんなことよりも今日の仕事内容を済ませる方が大事だからである。

 

 

 

「それで、モンスタースイーパーには怪しいところはあったかね」

 左目に眼帯を付けた男性が、タバコを咥えながら部下に対して少し探るような感じで報告を聞いている。

「今の時点で、怪しいところは見あたりません。特にこれ以上調べる必要はないでしょう」

 スーツ姿でいる男性の部下はそう答える。彼の名前は穂高タケミチ。彼は解体業者への密偵として、防衛隊捜査本部の対外捜査員として活躍していた。今年で三年目に突入する。

 1947年以降から続く、米国とソ連による東西冷戦により、国家間同士のまともな戦争は、核の第三次世界大戦を恐れ、なりを潜めることとなった。それの代わりとして、2000年以降からは国家間、特に米ソの代理戦争と言えるようなテロ組織の活動が盛んになっていった。特に近年は、そんなテロ組織に怪獣の肉片などの生体部品が、武器として流通されており、それを取り締まることを理由として。彼の仕事である対外捜査員が生まれた訳だった。

「そうか、なら良かった。…それでなんだが、君にはこれを輸送してほしい」

 そう言って眼帯の男性、乃木坂は首を縦に振った。その後、彼は穂高に一枚の写真を手渡す。

 穂高は複雑そうな顔をした。写真には肉塊というべきおぞましい物体が大きく写っている。

「これは…地上からのやつですか?」

「そうだな。こいつはなかなか運ぶのに厄介な品でな、解体業者としての仕事にも慣れてる君に頼もうと思ってたんだ」

 穂高はなおさら複雑そうな表情をした。彼は約二年間ほど様々な解体業者を調査し、仕事にも同行してきたが、怪獣の肉片などの輸送はあまりやったことがない。

「普通なら、このような仕事は専門の人にやってもらう方がいいんだがな。やはり身内の方が信用できるし、君ならやった事はあるからな」

 それを聞いた彼は、納得したように頷いた。なるほど、たしかに身も知らずの人に運ばせるもんじゃないな。彼はそう思っていた。

「なるほど、ではその仕事、引き受けました」

「すまんな、君に仕事を押し付けしまって」

「いいんですよ。私としては今やる仕事を精一杯やることが大切ですから」

 穂高は微笑みながらそう言った。乃木坂は懐からメビウスの箱を取り出す。

「1本どうだ?」

 穂高は首を横に振った。

「いえ、僕は遠慮します。最近禁煙してるんですよ」

「そうか、ならこっちをあげよう」

 そう言って、乃木坂は穂高にキシリトールガムを手渡した。

「くれぐれも気を付けろよ。あれは今まで処理したものとは訳が違う。それに、こいつは運ぶんだからな」

「わかっています」

 穂高は、そう言って地下にある執務室を出ていった。

 

 

 

「オーライ、オーライ」

 誘導員の指示により、肉片がクレーンによって持ち上げられた。肉片とは言っても、その大きさは2m以上はある程のでかさだ。

 ここは神奈川県の怪獣処理場。ここで、秘密裏のとある作業が行われていた。全員が防衛隊員らしく、AMSGRを着用した中隊長がおり、全員が小銃を持っている。

「よーし、おろせー」

 肉片は、上手く誘導されてトラックの荷台に下ろされた。監督をやっている穂高は、緊張による冷や汗を拭った。彼以外も同じような状態らしかった。

 彼の部下達は、恐る恐る乗車してエンジンをかける。

 その時、肉片がピクピクと動き始めた。

 周りがざわつき始める。作業を行っていた全員は、心配してトラックから離れる。

 そして、肉片に足が生え、人間を襲い始めた。

 あちこちで悲鳴が上がった。人々がバラバラに後退しながらも対象に向けて銃を放ち、一部の勇敢な部下達や穂高らが、止んだ後に押さえつけようとする。

 しかし、肉片、いや肉の怪物はそれをもろともせずに跳ね除けた。同時に一人の勇敢な部下が飲み込まれる。

 まずいな、と穂高は思った。

「穂高さん…どうしますか」

 部下の一人があまりのことにテンパりながらも聞いてきた。

「君たちはすぐ逃げろ。ここは僕が引き受ける」

「しかし、スーツありだとしてもこれでは…」

「ああ、無理だろうな。しかしこっちも最後までは悪あがきする。まあ、死んでも葬式ぐらいは来てくれ」

 そう言いながら、彼は肉の怪物へと向かって行き、射撃した。怪物の方も、当たったことにより彼に向かって直進して来る。

 上手く引きつけられた事を確信した彼は、時間稼ぎのために部下とは反対方向へと向かっていきながら小銃を撃つ。

 案の定、化け物は穂高についていった。彼は、護身用に持っていた手榴弾を投げつける。

 しかし、この程度の攻撃では怪物にさしたるダメージを与えられなかった。

 そんな状況にあっても、彼はかなり奮闘したが、怪物のほうが素早く、次第に追い詰められていった。足に何か物を引っ掛けてしまい、転倒する。

「これで万事休す…か」

 彼は降参とばかりに両手を挙げ、目を閉じた。彼が最後に見たのはおぞましい口のような肉の物体だけだった。

 

 

 

 

 

 




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