「怪獣8号」
若い男性アナウンサーの声とともに、テレビの画面に歪なドクロ顔が映し出される。
「この個体は防衛隊がコードネームを付けた8体目の怪獣となりました。この怪獣は、現在の時点でも依然として姿をくらましているため、防衛隊が全力を上げて捜索を行なっています。この怪獣の特性は…」
徳さんは、テレビの電源を切り大きなため息をついた。周りの部下たちも憂鬱そうな表情をしていた。確かに、危険な怪獣がそこら辺にいるかもしれないという状況はあまり良いものではない。
「まだ見つかんないんですかね。こいつ」
「さあな、もう死んだんじゃないか」
そんな憂鬱そうなくだらない会話を聞き流しながら、市川もため息をつく。
もっとも、市川の場合は少し異なっていた。彼は8号の正体を知っているから先輩達のような心配をする心配はない。彼の場合、怪獣8号いや日々野がバレずにいられるかの心配だった。
先程のニュースの様子からわかる通り、すでに世間一般には、初の人型識別怪獣である日々野の大層な肩書きは知られており、日々野は正体を隠すための気苦労を強いられるようになってしまった。それは正体を知っている市川も同様だ。
彼は憂鬱そうなままの顔で周りを見つめた。周囲には古金や先輩がた、そしてその奥に事務の上司がいた。気づくと、その事務の一人が彼を読んでいる。
「市川、お前にこれ届いてるぞ」
市川は紙を渡された。そこには第一次試験合格と書いてあった。
彼は上司に礼を言い、古金にもそれをつたえると、二人は日々野がいる外へと駆け出していった。
「先輩‼︎一次試験通りましたよ」
「まだ一つ目が通っただけなんだからそんなにはしゃぐなよ」
日々野は、めんどくさそうにしながらで市川をなだめる。
「っていうか、日々野さん人間に戻れてません‼︎顔がそのまんまです」
古金がツッコミを入れる。日々野の顔はテレビの画面に映ったドクロ顔とほぼ同じだ。
「え、何が?」
「顔です顔、日々野さん今の状況わかったんすか‼︎」
彼女は少し強い口調で言いながら自分の顔を指差す。日々野はそれに気付くと慌てて顔を手で覆う。3秒くらいで離すと、顔は人間のものに戻っていた。
「悪い悪い、気を抜くとたまにそうなっちまうんだ」
「そういや、さっきテレビで先輩見ましたよ。古金さんも言ってますけど気をつけたほうが良いですよ」
「え、テレビでたんすか?ここまでくると本当にやばいですよ」
古金は驚いた顔でそう言った。日々野が怪獣になって3ヶ月、初めて変身した時は市川とともに、病室から出てきてしまったのは、びっくりして逃げ出してしまったからと弁明したが、これから先はこれですら通用できなくなるかもしれない。
「それで、市川さんを送ってくんですか?熊谷基地に」
「そうだな、まあ車で送るだけなら大丈夫だろ。ここ3ヶ月で人間そのものに戻る方法とか、特訓の間にやってみたりしたけど、無理だったからな」
日々野はそう言って炭酸水のフタを開けようとする。
「まあ、先輩がそう言うならなんとか期待しましょう」
市川は少し微笑む。しかし、
「フタ硬ぇ‼︎」
そう言うと同時に、日々野の身体は筋肉質になり、顔はドクロへと変化してしまった。
解体現場で男女二人の悲鳴が聞こえた。
「でっかいですねぇ」
古金は、そう言いながらそびえ立つ熊谷基地を見つめる。第3部隊の司令部がある立川複合基地ほどではないとはいえなかなかの大きさだった。あまりに広いせいで日々野が少し心配になった。
「ここで変身したりしたら…ひとたまりもないですよね」
市川も、試験を受けるっていうのもあるが少し緊張している。
日々野は、これだからお前らってやつは、とでも言うようにため息をつく。
「すぐ帰るから安心しろ。いくら俺でもこんな早くバレるようにはしないから」
「ねぇ、おじさん」
若い少女の声が聞こえた。だが、日々野は話に気を取られて気づいていないようだった。
「ねぇ、おじさん‼︎」
今度は語気を強めたために、市川と古金の二人が声に気づいた。市川は膝で日々野をつついた。振り向くと、執事をつれた金髪の少女が仁王立ちをしている。
「ん?」
「なんか言われてますよ」
彼はボソボソと日々野につぶやく。
「そこ、なんで大声だしたのに気づいてないのよ、そこのウスノロ‼︎」
この人も受験生なのか、と市川は彼女を見る。なんとなく年長に対して強い口調と、その見た目から、なかなかキツそうな性格だなと感じた。
「おい、俺はまだ30歳だ。それに駐車場はかなりガラガラだぞ」
「十分おじさんじゃない」
え、といった顔で日々野は市川に目で訴える。市川は首を縦に振った。
確かに、数台しか駐まっていないから、駐車場がかなり空いてるのは彼も理解できていたが、さすがに30歳でおじさんじゃないは無理だと考えていた。
「あと、空いてるとかの問題じゃなくて、私はそこに駐めたいの。あんたが停めた場所が今日の私のラッキーナンバーの753だから」
日々野は駐車したところのナンバーを見た。確かに753だ。
「ラッキーナンバーだけで駐めるだと。どうせ送るだけだからすぐに退こうと考えてたが、流石にそれは許容できないな。そこのお嬢ちゃん」
彼は静かに怒っているようだった。
市川もドン引きしていた。ラッキーナンバーってそこまで気にする物なんだろうか?占いなどを基本信じない彼は、彼女の考え方を理解できなかった。
「あっそ。じゃあ自分で動かすから」
少女はそう言って、着ている服を半分脱ぐ。下には防衛隊のAMSGRを着ているようだった。そして、彼女はモンスタースイーパーの車を持ち上げる。一般人なのに、防衛隊の中隊長からしか着れないスーツを持っているのか?と市川と古金は驚いている。日々野は、年長者らしくない悲鳴をあげた。
「あーッ‼︎会社の車が」
少女はフンと軽く力を入れて、車を投げ飛ばすように横転させてしまった。
「ちょっと、流石に車倒すっていうのは器物破損ですよ。弁償してもらうので名前と住所、教えてください」
古金は少女を睨みつける。
少女は謝っている気配を見せないままこう言った。
「受験番号1996番、四ノ宮キコル。趣味は怪獣殺し。覚えておきなさい」
四ノ宮、もしや長官の娘か。市川は心の底で驚きつつ、車の方を見る。
「まったく、面倒なことしやがって」
見た方向には。そんなことを言いながら車を戻している先輩の姿があった。
キコル登場です。多分明後日もう1話出します