1話でもしもカフカが入隊を断っていたら?   作:刀持ちの烏

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20:迷いと葛藤の間に…

 1時45分、今回の解体作業はいつもより遅くなってしまったため、昼休憩もいつもより遅くなっていた。

「ここに呼び出したのって、もしかして俺が今どうなのか知りたかったから?」

 古金はコクリと頷く。ここは解体現場から少し遠くにある名前がブラックスターとかいう、どことなく名前がオシャレなラーメン屋だ。昼を少し過ぎたころのためか客は多少少ないように感じる。

「そうです。しかしこの話は日々野さんから言わないと始まりませんからね。私から切り出すのもなんだかなと感じて…」

「気持ちはわかるよ。それで、俺が7号と戦ってどう感じたかについてだけど、まあ、君も分かってるように、この戦いを通して、怖くなったんだ。自分の能力に。余波だけで地面にヒビが入っちゃうし、殴り合った衝撃でビルが壊れてしまう…そんな自分が恐ろしいんだ」

 彼女も同情的に頷いた。

「私も、よく分からないんですけど、あなたの気持ちが少しは分かる気がするんです。未知の力を手に入れるって怖いですもんね」

「俺はヒーローになりたいとか言ってたんだけどな、自分に怖くなってしまうとそんなんでなれるのかって気もしてきたんだ。そんな事を聞くのもなんだが、ヒーローになれると思うか?俺が」

 古金は真面目な顔になって一気に捲し立てた。

「私はよく分かんないんすけど、少なくともヒーローっては完璧なものじゃないんだって思ってますし、別に自分の理想のヒーロー像とは違くても十分周りはヒーローに見えてると思いますよ。それに、怖くなっちゃうのもわかりますけど、ヒーローになりたいんだったらその事を考慮しても助けに行くものだと思ってます。いくら自分が戦ってる時に被害が出たとしても、日々野さんが止めない時の方が絶対被害は大きくなると思うんですよ」

「は、はあ…」

 一気に言われたもんたがら、日々野は対応に困ってしまった。もしかしたら彼女もなんか日頃溜まっていたのではないだろうか?

「まあ、俺だってヒーローが完璧じゃないことは理解してるよ。でもな、自分の力が怖いっていうのは、個人的に今すぐ治せるものじゃない」

「それは…そうですね」

 彼女はすこし暗い顔をする。しかし、日々野は少し明るい表情をしていた。

「いや、今すぐ治せないと言っただけで、今回前向きになれたから多分もう少しで治る。すまんな心配させて」

「いえいえ、役に立てたなら何よりですよ。あ、昼食べてませんでしたしここで食べてきます?」

「それもそうだな。じゃあ俺は醤油ラーメンの味玉トッピングを一つで」

「私は、この蟹味噌ラーメンなんて美味しそうなのでそれにしますかね。あ、すいませーん」

 その後、昼が遅かったため、それぞれラーメンが来るないなや2人は勢いよく啜り始めた。一方、テレビでは相模原の避難が完了したと報道していた。

 

 

 

 同じ時刻、市川は冷や汗をかきながら73式大型トラックに揺られながら相模原に向かっていた。

 途中に識別怪獣が乱入するアクシデントこそあったが、最終的には見事試験を突破して第3部隊に入った彼は、現在上司である斑鳩の率いる第5中隊に所属して戦闘を行う。

 そして、今回の作戦は遠距離からの火力攻撃が中心となっていたのと、第5中隊は、隊長の斑鳩がどちらかと言うと近接戦闘向けだったため、保科副隊長率いる第1中隊や第1部隊普通科と共同で待機することになる。つまり良い言い方をすれば奥の手か最終手段という訳だった。

 それに、識別怪獣が相手だからか、今回は第1部隊とも共同で実戦を行う事になっている。第1部隊は、防衛隊でも最初に出来た部隊とあって練度、装備ともに最高峰だ。別名として首都防衛部隊とか関東最後の砦と言われているぐらい民間にも知られている。何が言いたいのかと言うと、今回の7号災害は、そんな最強の戦力を持ち出さなくてはならないほど重要なのだ。どうしても新人である市川は緊張してしまう。

「大丈夫か?新人」

 彼はキョトンとしながら顔を上げる。そこには心配した表情の斑鳩が彼を見ていた。彼は慌てて返事する。

「いえ、大丈夫です。つい緊張で考え込んでいました」

「あまり気を張り詰めすぎるな。お前はまだ新人なんだし、まずは自分が生きることを考えろ。なんせ先輩である俺だって識別怪獣と戦うのは初めてなんだ。なにもお前だけが緊張してるわけじゃない」

 斑鳩以外の隊員も話し始めた。

「そうだ新人。隊長の言う通りだぞ。それに、お前はまだ最初の任務なんだろ。だったらなおさらさ」

「なんかあったら先輩についてくればいいから、とにかく焦らないようにしよう」

「はい」

 市川は元気を取り戻したらしく柔らかい表現で頷いた。

「さて、もうそろそろ着くから改めて我々の行動を伝える。まず、我々第5中隊は後方である田名付近で待機する。本作戦は、敵をエネルギーでおびき寄せた後は二段階作戦となっているが第一作戦は特科による遠距離からの攻撃になるため基本は行動しない。そして、効果が認められない場合我々に出番が回ってくる第二作戦に入るわけだ。動きとしてはまず、市街地の被害を抑えるために第1中隊や第1部隊普通科とともに敵を山のあたりに誘導する。そしておびき寄せたところを特科か航空部隊のミサイルを大量に打ち込んで撃破。と、そんなところだな」

「やはり、いくら被害を最小限に抑える為とはいえ難しいですね」

 隊員の1人が顔をしかめる。

「実際もしものために用意しているのが第二作戦だからな。それに、詳細をあまり書いてないところを見るにあくまで細かいところは現場に任せるつもりだろう。好きにやれるだけまだいいだろう。ん、作戦本部からか」

 斑鳩は何かあったかと思いながら送話器に出る。しばらく聞いていると彼は驚いた表情になった。

「なんだって、ああ、だがこれでまともな作戦が出来るのか。少なくとも第一作戦は厳しいだろうが、分かった、現場に着いたらだな」

「なんでした?」

 市川は斑鳩の顔を伺いながら聞く。

「緊急事態だ。なんでも特科大隊が移動の途中で爆破事故に遭ったらしい。警察も避難している都合で捜査が進まず原因は不明。特科の移動は遅れるだろうな」

「では、作戦はどうなるのでしょうか?これでは我々の想定が」

「分かっている。現在本部は現場に着いたら改めて作戦を修正すると言っている」

「.間に合いますかね。それで」

 斑鳩はため息をつく。

「難しいだろうな。このままのペースだと間に合わない」

「…いけますかね」

「やってみなければ分からない。とりあえず我々は今できる事をやるしかない」

 トラックの揺れが止まった。どうやら、現場である相模原に着いたようだった。

 




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