市川は今まで酒を飲んだことがなかった。
なんせ討伐大学は防大と同じように国民を守る盾となる隊員を育てるための施設だ。と、入る前の彼は思い込んでいたために、可能な限り慎まやかな生活を整えていた。ましてや飲酒など彼にとっては禁句だったのだ。
しかし、7号討伐後、退院した人の慰労会という事でみんなで集まって飲むことになっていた。場所は基地の近くにある居酒屋の宴会場を借りてやるらしく第1部隊の人も来るようだ。
今の彼は正直不安に感じていた。先程言った通り彼は飲酒の経験がない。一応斑鳩中隊長からはノンアルでもいいよ。とこそ言われたが、やはり緊張してしまう。
市川は少し心配しながらも、四ノ宮と古橋と合流して宴会の会場へと向かった。この二人とは、試験以降あまり合っていなかったが、同期ということもあってかそこそこ話が進んだ。話の内容はやはり怪獣8号のことが多いような気がする。近頃の防衛隊にはやはり今までとは違う怪獣とあって話題になることが多いのだ。
古橋がううんと唸りながら考える。
「しかしまあ本当に謎が多いよなぁ、怪獣8号って。市川、お前はなんか知ってることとかあるか。元々モンスタースイーパーだったんだろ?」
彼はハッと目が覚めたようになった。話は聞いていたが宴会の事に気を取られすぎたため、返答に困ってしまった。四ノ宮が心配そうに聞く。
「どうしたの。元気ない?」
「ああ、いや大丈夫。で怪獣8号についてだっけ。僕もあんまりわからないなぁ。噂とかあんまり耳にしてないし」
彼は適当にそう言った。古橋はそうか〜と言った表情になる。
「市川もわからんかぁ。となるとますます分からなくなるな。本当になんなんだろうな、あいつ」
「味方の可能性が高いってのが唯一の救いよね。そうじゃなかったら今時やばいことになってただろうし。なんか上層部でも、怪獣8号を味方につけようなんて言ってる奴が数人居るってパパが言ってるぐらい人類の味方だと思ってるやつも居るらしいわよ」
「そういや俺も第1部隊隊長だかが8号を味方につけようとしてるなんて聞いたな。よくわかんねぇけど派閥争いなんかが起きてんのかな」
そんなことを5分程度話していると、四ノ宮がある店を指差した。
「たしかあそこが会場だって」
「お、もうついたのか。さっさと入るか」
3人はそれぞれ入店した。
「退院おめでと〜‼︎」
大きな声が聞こえたかと思うと、拍手がそこらじゅうに響いて全員が退院した人々を祝福する。
少なくとも悪くない空気だった。市川もまだ多少はぎこちないが、少なくとも店に入る前よりはよくなっていた。
誰かが後ろに近づいてきた。振り向くと、斑鳩中隊長が立っていた。片手には生ビールのジャッキが握られていた。彼は市川にこう聞く。
「こんな時に聞くのもあれだが、どうだった?初めての実戦は」
市川は真剣な顔になる。
「識別怪獣だったってのもありますけど、やはりすごかったっていうか討伐大の訓練とは次元が違いました。正直…怪獣が恐ろしいと感じてしまいました」
斑鳩は小さく頷くとビールを少し飲んだ。
「恐ろしく感じることは悪くない。むしろ当然のことだ。誰だって弾丸や誘導弾を当てて死なないやつを見れば怖がるに決まっている。だが、これからもこんなことが続くことは肝に銘じておけ」
「はい」
「よし、まあ、今は可能な限りゆっくりしていくといい。そうじゃなければこんな仕事やってられないからな。金は俺らが払うから遠慮はするなよ」
「あ、はい。わかりました」
斑鳩はニヤリと笑みを浮かべ元いた場所へと戻っていった。
彼と入れ替わるように一人の女性が彼に近づいてきた。髪をピンク色で染めており、正直かなり派手な外見をしている。
「君って、たしかモンスタースイーパーから防衛隊に入った子だっけ?」
市川は戸惑いながらも答える。彼自身、先輩と仲良くするのはステータスだと感じているので自己紹介もした。
「え、あ、はい。僕は今年入隊したばかりの市川レノです。よろしくお願いします」
「私はここで中隊長やってる中之島タエっていうの。よろしくね〜」
二人は互いに握手して、会話を続ける。
「いや〜若い子っていいねぇ。生き生きして眩しいよ」
「そういう中之島先輩は何歳なんですか。僕から見たらまだ20代に見えますけど」
「人の年齢について聞くのは禁句だよ。まあ、でも当たりだね。私の今の年齢は27歳だよ」
「あ、すいません。あと、こう改めて考えると防衛隊って若い人多いですよね」
中之島はうーんと考える。
「たしかにそうだね。結構年齢上のほうの斑鳩中隊長も30代だったし、あと40代ぐらいに見えるのは海老名中隊長ぐらいかなぁ」
「やっぱり第3部隊の隊員の平均年齢って低いんすね」
「個人的は、第3部隊ってたしか、6号災害の時に結構被害受けちゃって再編されたって話を聞いたから、もしかしたらそういう事情があって新人の比率が多いのかなぁ。近くだから第1部隊にもいくらか行ったけど、隊長以外そんなに若い子いなかったよ」
彼女はそう言って生ビールを一気に喉に流し込んだ。市川は少しウッとなる。
「よくそんなに酒飲めますね。僕初めてなんでそこまでいけませんからね」
「私も自分が好きなように飲んでるだけだから、飲む飲まないなんて個人の勝手だから気にしないでいいよ〜」
「いや、そうじゃなくて、そんなに飲んでて大丈夫なのかなって」
「市川君だっけ。覚えておくといいよ。私のように年齢的にそろそろ結婚しないと、と思っている人間は、特に私のようなタイプの人は酒に逃げるんだよ…」
「いわゆる現実逃避ってやつですか」
「まあ、そう考えてもいいよ」
中之島はそう言って机に伏せる。
「でも、まだ中之島先輩はまだモテると思いますよ。やっぱり世の中の男性だって結婚を諦めてない人だってまだいるかもしれないですし、以外といけますよ」
「そうかい、君もお世辞が上手だねぇ。まあ、でも前より元気出たよ。さあ、今日は好きなだけ飲む」
「え、結局元気が出ても飲むんですか?」
てっきりモテないという悩みがあるから飲んでいたとばかり思っていた市川は突然の言葉に驚く。
「防衛隊員がモテないだけでそんな凹んだりしないよ〜話せる人が欲しかっただけ」
「は、はあ」
彼女はよーし今夜は飲むぞーと言ってその場から立ち上がった。市川は長くなりそうだな。と感じた。
彼は手に持ったノンアルコールドリンクを半分ほど飲んで机に置いた。
次からまた新しいエピソードです。