26:救済団の逆襲
2020年9月25日、季節上では秋とこそなっているが、温暖化の影響なのか知らんがほとんど夏と間違えてしまうぐらいの暑さだった。
「あれからもう1ヶ月以上も経っているのか…」
そんなことを言いながら、3日間休みの日々野カフカは、山から相模原の都市を見つめていた。
確かに7号討伐時とは全く違うように見えるほど相模原は変化していた。いや、この際は戻っていた。というべきかもしれない。7号と8号、そして防衛隊が死闘を繰り広げ、戦場と化したこの都市には人が戻り始め、前ほどではないにせよ活気を取り戻しつつあった。
これほど早く復興できたのはやはり被害が少なかったことが大きい。彼が湖まで吹き飛ばして戦ったおかげでなるべく建物の損害を少なくしていたのもあるし、怪獣7号の被害そのものがそこまで多くなかったという理由もあった。だいたいフォルティチュードという単位そのものは、怪獣から放出されているエネルギーから戦闘能力を数値化したものであるため、F-9ということであれば被害が大きいというものではない。その証拠に、怪獣7号は誘導弾や大砲などでも倒せない程の防御力と、防衛隊に行方をくらませ、捜査を混乱させた体の分離能力こそ持っていたが、攻撃手段ほとんど持っていなかった。それでも、体から出るエネルギーなどを計測すれば、識別怪獣なのである。
日々野はしみじみしながらまだ復興作業が進んでいる箇所を見ていた。あの後彼はなんとかその場から逃げ出して仲間の元に戻ってきた。仲間には途中で7号に襲われたと言っておいたことで、そこまで怪しまれずに済んでいる。しかし油断はできない。慎重に行動しなければ自分の命は危うい。
「あれ、日々野さんではありませんか。奇遇ですね」
後ろから声が聞こえて彼は振り返った。職場で聞いたような声だ。あんまり喋ってなかったから、あんまり記憶に自信はないが、たしか名前は穂高だったはずだ。
「奇遇だな穂高。おまえは何しにここにきたんだ?」
「私は識別怪獣二体の襲撃があった相模原が今大丈夫なのかと心配で見にきたんですが、見た分だと大丈夫そうですね」
日々野は嬉しそうに微笑む。
「そうだな。俺もお前とおおかた同じような理由でここに来たんだ。あとはここに用はない。それと、タメ口でいいぞ」
穂高はまずい、と言った顔になるとギクシャクしながら口を開いた。
「あっ、うん。わかった。えっと、あ、じゃあどっか行きま…行こう」
「あ、タメ口慣れてなかったんだな。すまん。敬語でいいよ」
「あ、すいません」
穂高はフゥと安堵した。
彼は今までの仕事が、ここまでアットホームじゃなかったため、正直なところタメ口にそんな慣れていなかった。
現在の彼は所属しているだけでは尻尾は掴めないと判断し、個人にそれぞれ怪しいか確認することにしたのである。その中でもこの日々野という男は今の時点でもっとも怪しい。なんせこの相模原に来た時、彼は忘れ物取りに行くと言って、途中で怪獣に襲われて行けなくなったとか言って戻ってきたのである。どうだろうか、まず今忘れ物を取りに行ったところでどうにかなる話ではない。徳さんとかは、あいつにもそんな所あるんだな〜とか言ってそんなに気にしていなかったが、間違いなくこの中では1番怪しい。何か怪獣部位の横流しを行なっている可能性がある。
それからどこに住んでるだとか、趣味がなんなのかという話になった。幸運なことに日々野は穂高と似たような趣味、思考を持っていたためすぐに取り入ることができた。
ここはうまいぐらい話を聞き出さなくては。彼は日々野に聞いた。
「もしよかったら、明後日どこか食いに行きません?おすすめの店があるんだすよ」
一応どこか食いに行くかとは聞いたが、彼の目的は盗聴されないような場所に日々野を呼び寄せて話を聞き出すことで、もし何か隠していた場合は即刻捕えるつもりだ。
「ああ、いいかもな。予定があった時は連絡する」
こうして二人はその場を後にした。
「こんなところに怪獣がいるとは驚きですなぁ」
救済団幹部の小野寺は嬉しそうな顔をしながら水槽を見つめた。ここは基隆市から西側にある陽明山の麓、沿岸部にある怪しい大型建造物で、内部には25mプール2つ分は入りそうな水槽が取り付けてあった。中には体長5mはありそうなエイに似た怪物が泳いでいた。
エイとはいっても多少は原型から異なっている。口の部分には口吻にも似た細長い口があって体にはマダラ模様がついている。
小野寺の隣にいたセールスマン風の男性はニヤニヤしながら口を開いた。
「いいでしょう。これは我々が日本から取り寄せたクローン海中怪獣の一種です。こいつはなんとオイルを吸う怪獣でして、吸えば吸うほど巨大化していくんです。私たちの施設にはこの怪獣を10体飼っておりまして、おそらくあなた方の目的には十分な数と思われますが」
「予約しておいたのと同じで二体買います」
「しかし、まあ東京に向かわせるのですか?」
「そうですね。まあ我々の作戦上、なんでなのかは言えませんが」
小野寺は即答で答えた。彼らにとってはそれぐらいあればよかった。
怪獣8号の存在、それが彼らの目的である7号を利用した防衛隊の戦力に対する打撃が失敗してしまったことにより、彼らは作戦の変更を余儀なくされていた。
そして、先週に行われた会議でこのような方針が決定された。「出現率が上がってきているとはいえ、いつ次の識別怪獣が来るかわからない以上、それまでに自分たちの持っている怪獣をぶつけるしかない」
妥当な判断だった。いくら怪獣の部位やそのものが闇ルートで売られているとはいえ、流石に識別怪獣まで手に入れる事は出来ない。ならば識別怪獣でなくとも、首都圏にある程度の怪獣を出現させれば防衛隊の戦力の低下、それに経済への打撃をもたらし、うまく行けば救済団が東京を占領することだってできるだろう。
ただ、一気に登場させるわけではない。もしそんなことをしてしまったら、怪しすぎて彼らの関与が疑われてしまう可能性がある。
彼はセールスマン風の男と一言二言喋ると、怪獣を海へと離した。あとは簡単だ。この怪獣の頭部には極小のチップが埋め込まれており、勝手に東京に向かうように仕向けることができる。
小野寺は仕事を終わらせてすぐに帰った。
それから5時間後、沖縄沖にエイのような怪獣が目撃された。
今回は結構出せるかも。