「もう一体いたのか」
[もりゆき]からの情報を聞いた鳴海は、厄介そうだといった顔をする。元よりさまざまな状況に対応できるように策を練っていたため対応はできていたが、少し驚いていた。
「現在もう一体の方は依然として東京湾に向かって進んでいます」
「少し、ヘリからの映像を見せてもらいたいんだが、よろしいか?」
小此木は鳴海に対して少し頷くと、送られてきた映像を見せる。
「これですね。倒した後の漂流物を写した映像です」
「ん?」
藤沢が妙な顔になる。鳴海も頷いた。
「これ、どこの高度から写した映像ですか?」
「高度までは聞いていませんね」
「そうですか、なんか、内蔵が前言われた5mクラスの敵にしては大きいと感じるんですけど」
「つまり、なんかデカくなったるということすか?」
保科が真剣な顔で質問する。
「断定はできませんが、おそらく大きくなっている可能性はあります」
「それも、多分石油を食ったのが原因だろうな」
「ええ、私もそう思います」
藤沢は同意するように頷いた。
「護衛艦も海上部隊にそこまで予算が回されてなくて弾薬の消費にすらカツカツですものねぇ、そりゃ魚雷一斉発射してしまったらすぐに次の敵に攻撃することなぞ出来ませんや」
矢沼は不服そうに顔をしかめながら言う。弱い海上部隊に予算渡すぐらいなら海自にも少しよこせと本音では思っているが、事態が事態のためあくまで触れないようにしておいている。
本岩も口を開いた。
「仕方ないでしょう?海中怪獣に船で対抗しようとしても大型だから取り回しがしづらいし、そもそも上が上陸しようとしてくるとこを叩こうなんて言っちゃったんだもの」
彼女の言った通り、護衛艦などは船の中でも大型で、取り回しがしにくい、今回の水竜2025型相手に対潜兵器をほとんど使ってしまったことからも、海中怪獣相手に護衛艦で少し相手しづらいのがわかる。それに、もし船を襲う怪獣が現れたとしても巡視船に防衛隊員を乗せて討伐すればいいと考えられていた。(なお、自衛隊との共同作戦は予算を食うため護衛艦はあまり使用されない)
ではなぜ採用したのか、怪獣6号討伐作戦の際、海上で仕留められなくて上陸を許してしまったからである。部隊を乗せるには時間がかかるし、巡視船との共同作戦には海上保安庁との打ち合わせで時間を食ってしまう。だが、最初から護衛艦を浮かばせておけばすぐに対応できる。そう思われたからだ。とはいえ、最近作られた部隊だし、そもそも海上戦力に回せる金がないため今回のようなことが起きてしまったのだ。
「まあ、まずは水竜2025型に対処することを考えなくてはならない。僕としては敵が水性生物の怪獣だとはいえ、陸に上がる可能性もなくはないため、僕ら第1部隊や第3部隊が海岸を固めておく。ただし、敵をやれば石油が当たり一体ぶちまけられるかもしれないから、東京湾に来させないように努力する」
保科も頷く。
「その場合僕ら第3部隊は海岸からの砲撃になりますんで、近接戦用の僕は後方待機になりますね」
「あと」
藤沢が再び話し始めた。
「私の作戦として水竜2025型は多分体が爆弾のようなものですが、首だけ切り落としたり頭だけ攻撃すれば、もし上陸されたとしても石油をぶち撒けずに討伐できると思います」
神楽木も口を開く。
「その場合はどうやって首を落としますか」
藤沢はムムムと唸る。彼にしてみても防衛隊の武装は基本は射撃武器が中心だと思うし、だから大体の中隊長や連隊長も小銃を持っている人が多い気がする。その中で近接武器か。
本岩も口を挟んだ。
「第1部隊か第3部隊ですと、やはり保科さんの0式改か委員長の試整大型銃剣とかしかないでしょう。もしくは遠距離武器でもやれることはやれまわね」
「アドバイスありがとう、だな」
鳴海はそう言ってニヤリと笑った。
「時間は一刻も争う。なので、これで会合を終了する」
鳴海は現場へと急いだ。
「上陸するまであと1日か」
テレビを見ながら日々野はどうしたものかと頭を抱えた。というのも彼が怪獣7号の戦闘が出来たのは事前に現場付近まで向かえるモンスタースイーパーという肩書きだからこそであって今回のように休みの日だとすぐに行くというのは難しい。かといって無視しても東京に来られたら自分たちが迷惑する怪獣だろう、どうしたものか。
彼は20分程度考えた後このようにすることにした。まず変身するのはあくまでも東京都内に入って来た時のみ、でなるべく沖合、いやせめて東京湾の外まで敵を離して戦闘することにしよう。そうしなければ面倒なことになる。
彼は改めて市川に連絡してみることにした。なるべくすぐに情報を知りたいので通話で聞く。朝向こうから連絡してきたぐらいだし大丈夫だろう。
「もしもし市川、現在怪獣の状況はどうなっている?」
スマホの向こうから声がした。
「あ、先輩。こっちも急いでるで手短に話しますね。現在水竜2025型は東京に向かってそのまま来ています。僕たちは東京湾に入らないように三浦市で迎撃します」
「三浦市、神奈川県だな」
「ええ、もうすぐ行かなきゃなんで切りますね」
「ああ、忙しいとこすまなかった。もしもの時には行くからな」
「できればそこまで悪化しないことを祈ります」
電話が切れた。日々野は再び考え始めた。
「報告、現在特科誘導弾連隊および普通科部隊全て揃いました」
「ご苦労、君たちも持ち場につけ」
「ハッ」
そう言いながら連絡を切ると、第3部隊隊長亜白ミナは他の隊長らとともに立ち上がった。顔は凛々しく、現在は周囲に美しさよりも先に殺気を感じさせるほどの空気を発散させていた。
彼女は、目の前にあった73式大型トラックで運ばれた専用武器である試製110mm対獣狙撃砲を手に取る。大きさは、女性の中でも大きな部類の彼女の体格と同じぐらいあり、AMSGRがなければ持ち上げることすら困難な代物だ。すぐに使える状態にしてある。
周りの遠距離戦を得意とする隊長たちが持つ武器、中之島が持つ95式6連装対獣誘導弾や、海老名が持っている彼女の110mm対獣狙撃砲の改良型である20式90mm対獣狙撃砲、および特科誘導弾連隊の1式対獣誘導弾などの装備、その全てが使用可能になっていた。
後方にある指揮所から連絡が入った。
「現在目標との距離は200kmを突破、対獣誘導弾攻撃開始してください」
「誘導弾発射始め」
噴煙が巻き起こった。
夏休みも終わりですね