「どうも、君。知ってるかもしれないが、僕は日本防衛隊第1部隊の鳴海という者だ。よろしく頼む」
「私も怪獣清掃業者をしているので存じ上げております」
穂高はそう言いつつ頭の中で考え始めた。第1部隊と言えば防衛隊内部でもかなり有力な、いや最強とも言える部隊だ。その隊長がわざわざ自分のところにやってくる用事があるのか?
彼は清掃業者として、そして本当の仕事の関係で鳴海のことは知っていた。たしか防衛隊の中でも変人のような扱いを受けていたはずだ。現に今話せているほどだから別に危険な人ではないようだが。
鳴海はじっと彼を見る。
「どうやらどうして僕が来たのかわかってないみたいようだな」
「いや、まあ、そうですね。わざわざ1部隊の隊長がやって来るほどなんかしたかな、と…」
「いや、君が日前の怪獣災害の時、現場で倒れてたところを僕が助けたんだ。流石に被災地で倒れてたから心配で見に来たんだ。もっとも、本当に話したいことは別にあるのだがな」
ああ、そう言えばそうだった。穂高は思い出す。たしか自分は横須賀で倒れてたところを防衛隊に救助されたんだっけか。いやまさか第1部隊の隊長だとは思わなかったが。
彼はすぐに頭を下げた。
「そうだったんですか。それはどうもありがとうございます」
鳴海は首を横に振った。
「いや大丈夫だ。防衛隊、いや人としては当然の行動をしたまでだ」
「それでも私としては命の恩人ですよ。助けられなかったら私はここにいないかもしれないですから」
「そりゃよかった。仕事柄そう言ってもらえるのは光栄だ」
鳴海はうんうんと頷くと、急に表情を変えてこう言った。話し方もさっきとは異なり少し真面目な口調になる。
「悪いが部屋のカーテンを閉めてもらえないか。なにしろこれからの話は外部にはあまり聞かれたくないのでな」
「え、あ、はい」
穂高は鳴海の変化に少し面食らいながらカーテンを閉めた。現在は正午、白の多い病室はその部分部分を反射していたが、カーテンで光を遮られたことにより今度は周りが薄暗い黒に包まれた。
「君が窓際でよかった…さて周りの患者にもあまり聞かれたくないから小声で喋る。聞きにくいが我慢してくれ」
穂高は少し驚いた表情になる。
「一体どういうことです?私なんかしました」
鳴海は彼の耳元でボソボソと呟くように言った。たしかに小声ではあったが彼の耳にはよく聞こえた。
「君、ただの清掃業者じゃないでしょ」
「そりゃまたなんで…」
穂高はすぐに反論しようとする。
「あくまで私の考えだがね。君、ただの清掃業者だとするとなんであそこにいたんだ?助かったときは私服だったから休日だったんだろうが、そしたら尚更横須賀市内で倒れていたのはおかしいだろう?」
「私は軍事マニアで護衛艦を見るために横須賀に来てました。これじゃ駄目ですか?」
「横須賀基地は金沢市の方じゃない。たしか西逸見町のほうだっだろ。だいたい君が軍艦マニアだったとしても、警報が出されてる場所にわざわざ行くほど馬鹿じゃないだろう」
「まあそれは、そうですね…」
穂高はすぐに食い下がった。鳴海は少し頷く。
「僕としてもすぐには断定できないが、想定としては情報関係の仕事…かな?」
「そうである確証は?いくら私が怪しい場所に倒れていたらと言って情報関係の仕事とはならないでしょう?」
鳴海はううんと唸ってから再び口を開いた。
「僕としては残念なのだが、現在ここに証拠はない。それに話の内容としてもここで話すべきではないからな。退院したあと話せるか?」
「変な施設に連れてかれないんだったら大丈夫ですけど…」
「いや場所は君の好きなところでいい。だがなるべく外部に聞かれるとまずいから2人になれるところがいいな。君だって多人数にその話を聞かれるのは嫌だろう」
穂高もああ、といった表情になった。
「確かにそうですね。ならば退院した後は、私の家で話を続けることにしますかね。証拠があるなら見ておきたいですから」
「すまないな」
鳴海は彼と連絡を交換してから病室を去った。
穂高は少しゾワっとした。
四ノ宮キコルは常に他の同世代の人間よりも結果を出し続けてきた。
理由としては、彼女の父である四ノ宮イサオが「将来防衛隊に入るんだったらとにかく結果を出し続けろ」と言っていたからだった。イサオはとにかく教育などには特別熱心というわけではなく防衛隊に入らせることを強制はしなかったし(むしろ今思えば可能な限り入ってくなかったのだろうと感じた)、母親のヒカルも仕事の合間を使って彼女に会いに行ったりしてくれたため愛情に飢えているわけでもなかった。
四ノ宮が防衛隊を目指したのはやはり親の影響があった。両親はどちらも防衛隊において高い地位についており、彼女もそんな存在になることを望んでいたのだ。
彼女は親とはあまり会う機会がなかったが、いやむしろそんな親の弱みを見る機会がなかったからこそ防衛隊を目指したのだろう。彼女の目には両親の姿は輝いて、しかしそれは自分とはほど遠い存在に思えたのだ。
それは憧れではなく渇望だった。とにかく親に追いつきたい。その一心で彼女はイサオの言葉の通りに結果を残し続けた。だが、前にも言ったように彼女は親の愛を受けてきていたし、学生生活もそれなりに送れたため少なくとも幸せではあった。
2014年の夏までは。
この年、小田原の戦いで日本防衛隊第2部隊隊長、そして彼女の母である四ノ宮ヒカルが死去した。享年40。まだ…活躍できそうな年だった。
それから彼女は自分の中の何かが壊れたような気がした。キコルの場合はある程度現実を受け入れることはできた(というか受け入れさせた)が、父であるイサオはまた別だった。キコルよりも多く生きてきた彼も受け入れることはできたようだが、それでも心底から受け入れているようには見えなかった。
彼女はそんなわだかまりを抱えながらも防衛隊に入った。
そして現在、第3部隊は窮地に陥っていた。というのも現在の第3部隊は怪獣6号災害の後に再編成されたもので、かなり慌ただしく編成されたものだった。そのため他の関東圏と違ってNo.sは持っていない。
まあそれだけならよかった。実際人の数は揃っていたし戦力そのものの不足は皆無に見えた。
しかしそうはうまくいかなかった。怪獣7号、8号、9号と識別怪獣が立て続けに発生する今、第3部隊が対処できる可能性は限られていた。それに横須賀での戦いで保科副隊長を始め少なくないが負傷したこことによってその戦力も徐々に減ってきている。
第3部隊は急速な対応に迫られていた。
やーっと投稿できた!!