「お疲れ様〜」
「お〜お疲れさん、じゃあな〜」
日々野は、帰っていく同僚を見送りながら満足そうに挨拶した。やっとこれで一番クッさい過程は終わった。腸作業自体も、もう少ししたら終わるだろう。
「先輩」
日々野はギョッとして振り向いた。後ろには市川が立っている。
「お…市川、お前もご苦労さん」
そう言って彼は、昼の仕返しかと思って身構える。彼は諦めたとはいえ防衛隊を目指した身だ、逆に関節技かけてやる、と考えた。だが、市川は綺麗な直角45°で礼をして、こう言った。
「おかげで、一日乗り越えることができました。ありがとうございます」
「お…おう」
日々野は困惑した。最近の人って、結構すぐに態度変わるもんなのだろうか。いや、ここで油断させて攻撃してくるのかもしれない。
しかし、彼の考えは外れた。
「あ、それから…」
市川は続けてこう言った。
「33歳までに引き上げられるなんてこと言われてましたよ、防衛隊の募集。周りからは少子化の煽りだと言われました。俺としては、入るか入らないかは他人の人生ですしどうでもいいんすけど…諦めたこと根に持ってるのかな、と思って」
なんだよこいつ、すげぇいいやつじゃねぇか。日々野は少し泣きそうになり、関節技かけようとした自分を恥じた。朝に、防衛隊入らなかったことを蔑んでたように見えたけど、午後になってから気が変わってくれたんかな?いずれにしても、そういう配慮は嬉しい、だが、
「すまんが市川、聞いてくれて悪いが、俺は防衛隊に入ろうと思えなくなってしまったんだ」
日々野は悲しそうに言った。
「あ…別に勘違いだったらいいんです、ただッッ」
突如、地面が崩れて、市川の背後からトカゲの様な化け物が飛びかかってきた。
いくら討伐大に通っている身といえど、急な襲撃にはすぐに対応できない。
その時だった、彼は大きく後方へと飛ばされた。突き飛ばされた方向には日々野が腹ばいになって倒れている。足を大きく怪我していた。
「市川!全力で走れ、逃げれたら119番を呼んでくれ」
日々野が叫んだ。
「でも、先輩だけじゃ…」
「人間の身体はそんなに脆くねぇ!それに、」
日々野がそこまで言いかけた時、後方から射出音がした。市川はその音に聞き覚えがあった、銃器の授業で使ったパンツァーファウスト3だ。と言うことは、
彼がそこまで考えた時、怪獣の首が吹き飛ばされる。日々野がニヤリと笑った。
「それに、まだ防衛隊員が出張っているからな」
後方から、特殊なスーツを着た人達が駆け寄ってきた。
「サイレン、鳴ってたんですね」
市川は集中しすぎて、サイレンが鳴っているのに気づいてなかったようだ。
日々野は、後は防衛隊がなんとかしてくれるだろうと考え、地面に身を預けた。
日々野の意識はそこで途切れた。
「日々野さん、大丈夫ですかね?」
古金は、少し憂鬱そうに呟く。
「本当に、あの状況に対応できないだけじゃなく、先輩を助けることもできなかったなんて、防衛隊員失格ですよ」
市川は大きく気落ちしていた。彼の手には、お見舞いの花束が握られている。彼は花を買うときに、お見舞いに良い花を調べていたらしく、かなりいい花束になっていた。
「市川さんも元気出してください、日々野さんが言ってたみたいですけど、この程度じゃ人間やられないんですから」
彼女は、気落ちしている市川の肩を軽く叩く。
「それに、初日から怪我させるわけにはいかないじゃないですか、それに、本人は気にしてないだろうし」
そんなことを話しているうちに、日々野の病室に着いたようだった。
「失礼しま〜す」
気落ちしてる市川に変わり古金が中に入る。
「お〜、お見舞いありがとな」
日々野は、足を怪我こそしてたが見た感じは元気そうであった。
「とりあえずで花にしちゃいました。あ、でも結構いいの選んだと思いますよ。なんせ市川さんが調べてくれましたからね。例えば、ガーベラの花言葉は…」
日々野は、しばらく彼女と花についての話や怪我の病状の話をしてからこう言った。
「悪いが、市川と2人にしてくれないか、言いたい事があるんだ」
了解、と言い彼女は病室の外に出た。
市川は、ぎこちなく謝ろうとした。
「今回は…こんなことになってしまって…」
日々野は首を振った。
「そんなことはない、あの状況で助けにいってたらお前だって怪我をしていた。お前は防衛隊に入りたいんだろう?だったら尚更じゃねぇか」
「ですが、防衛隊は自分の命を犠牲にしてでも…」
「市川」
日々野は険しい顔をした。
「お前は防衛隊は命をかけていると言った、だが、今お前は防衛隊に入ってるわけじゃない。だから自分の命を天秤に掛ける義務はない」
「先輩だって身を挺して助けてたじゃないですか」
日々野はフンとでも言いそうなった感じに、
「あれは近くに防衛隊がいると分かったうえでの行動だった。はなから自己犠牲するつもりはないさ」
と、言った。
「じゃあそうじゃなかったら…」
「うん、助けはしなかった……軽蔑するなよ?」
しばしの沈黙が流れた。
市川は大きくため息をつき、そして大きく微笑む。
「軽蔑なんてしませんよ。むしろ人間くさくてホッとしました」
「ありがとな。そう言ってもらえて」
「ええ、こちらこそ」
市川は病室を後にした。
さて、これからだな。そう考えた日々野は寝る前に周り見回す。変な虫が周りを飛んでいた。
新種とかかな、と考えた彼は目を窄めた。
すると、突如彼の目の前に例の虫が飛んできていた。彼は、あっと口を開けようとする。
それは虫ではなかった。触覚こそあるが、エイリアンのような口があり、手も四本しかない。まるで怪獣だ。
日々野がそう思った時、その生物が口をもごもごさせた。
「ミツケタ」
喋るのか、と彼は口にしようとする。その生物は開いた口の中に入り込んでいった。
突如、地面が揺れた。
「ヒェッ、地震、ですかね?でも警報来てないし」
古金は怖がりながらも、不思議そうにする。その時、市川は心配そうな顔をした。今の地震なら震度5近くあるはずだ。と言うことは、
「先輩が大丈夫か見てきます‼︎」
彼は彼女の静止も聞かず、道を引き返す。市川は病室に着くと目一杯ドアを開けた。
「え?」
市川は絶句した。
日々野のいたベットには、人間大の怪物が横たわっていた。
カフカさんが何故防衛隊に入らないのかは、いつか説明する予定です。