1話でもしもカフカが入隊を断っていたら?   作:刀持ちの烏

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8:試験の春

 3月11日、少し風に暖かみを感じれるようになり、春の始まりを感じることができるこの季節、市川レノは防衛隊入隊筆記試験の会場である熊谷基地の前にいた。

「もう、こんな時期なんだな」

 彼はこれまでの人生を改めて振り返る。幸いまだ時間はあった。彼が防衛隊に入ろうと志したのは5年前、彼が15歳の時だった。当時、彼は小田原の高校で怪獣6号と遭遇した。それはもうひどい有様だった。 

 5年前、2015年に相模湾で発見されたこの巨大生物は、全長50m、フォルティチュード9.5を記録し、その圧倒的な力でNo.s4を着た当時の第2部隊隊長四ノ宮ヒカルを初めとする防衛隊員406名、民間人4000名の犠牲者を出し、市川が住んでいた小田原を現在でも住めなくなるほどまでに壊滅させてしまった。

 市川は6号に復讐をしようとは思わなかった。いくら斃すために努力をしたところで人間は人間である。そのため、彼は可能な限り自分みたいな思いをしないでほしいという思いで防衛隊を志した。そして、可能な限りに、なったのはやはり彼の先輩の影響だった。

「本当に、いろいろあったんだなあ」

 自動ドアのロックが外された。もうすぐで受付が始まるらしかった。

 市川はゆっくり歩を進めた。

 

 

 

 日々野と古金は、会社の車の中から熊谷基地に市川が入るのを見守っていた。

「上手く行くといいですね」

 古金は少し微笑んだ。しかし日々野の方はムッとしている。

「あのなぁ、この入隊試験ってのは3つに分かれているんだ。これはそのうちの一つ、しかも基礎問題しか出さない筆記の部なんだぞ」

「つまりは他が重要だと?」

 日々野は頷いて続ける。

「そう、これからが重要なんだ。二部の体力試験はまだできるが、三部のちっさい怪獣と戦うやつなんてキツかった。俺はそこで落ちたからな」

 彼はそう言って身震いする。

「とにかく、それぐらい次が重要なんだ」

「そういえば、話変わっちゃって悪いんですけど…日々野さんは受けなくて良かったんですか。入隊試験」

 古金は気になって聞く。

「俺は、なんか年下の下について足引っ張っちゃうってのが嫌なんだよな。第3部隊に俺の幼馴染がいるんだけどな、そいつがめちゃくちゃエリートで、自分と比べてすごいって感じちまったんだ。それに、怪獣で防衛隊になんか入れると思うか?」

 古金は首を振る。

「な、そう言う事なんだ。それに俺は今の仕事が気に入ってるからな。少なくとも広告でアピールしまくってる討伐庁よりはマシだぜ」

「でも…結構個人的な理由なんですね」

 彼女は以外そうにする。

「まあ、防衛隊に入るか入らないかなんて最後は個人が決めるんだから、そんなもんだと感じるがな」

「まあ…そうですけど」

 古金は質問しようとしたが思いとどまった。彼が悲しい顔をしているのを見たからだ。

「あっ、すいません。そんなつもりじゃ」

 日々野は首を振って言う。

「いや、大丈夫だ。それよりも、もう見送ったところだし俺たちは帰るとするか」

「は、はい」

 彼はエンジンを回した。

 

 

 

「これより、7号対策委員会改め、第一回特殊怪獣特別対策委員会会議を始める」

 鳴海は、議長席にすわりながら机に身を預けていた。

 保科は息を呑む。好きで入ったとはいえ、このような会議になるとやはり緊張する。

「自己紹介とかは後々各自でやってもらうから、まずは本題に入ろう。小此木」

 鳴海がそう言うと、脇に座っていたおさげに丸眼鏡をかけた女性が、ホワイトボードに資料を貼り付ける。目立ちはしないが、根は真面目そうに見えた。

「まず、今回はみんなテレビで見ているかと思うが、8号なんていう新しい怪獣モドキについて話していこうと思っている」

「怪獣モドキ?なんですのそれ、怪獣じゃないの」

 防衛隊技術研究部の本岩マンゲツが疑問符を浮かべる。

「正しくは怪獣であってるんです。ですが、鳴海隊長がこいつは怪獣じゃないと強情で…」

 小此木が資料を貼り付けながら補足する。

「そういうことでしたの、まあこの特撮バカならありえますわね」

「おいそこー、聞こえてんぞ」

 彼は少し睨みつける。

「そういえば…」

 保科の隣にいた白衣を着た男性が声をあげた。なかなか快活そうな青年だ。

「怪獣8号は人型で人間とほぼ同じサイズと聞きましたが、本当なんですか?」

「そうだな、藤沢君」

 藤沢と呼ばれた青年は目を光らせる。

「面白いですねぇ、今までは体がでかいほうが強いと言われてましたから。それにこのサイズで識別怪獣クラスとは、なかなか面倒そうですね」

 小此木は、少し眼鏡をクイッと上げながら話を続ける。

「先程藤沢さんが言ってくださったように、今回の怪獣は人間とほぼ同程度のサイズにもかかわらず、フォルティチュードは約9とおそるべき怪獣であることは間違いないでしょう。

 しかし、怪獣8号に助けられた子供がいますからね。もしかしたら対話もできるかもしれません。なので希望は残っているでしょう」

「なんか、ウルトラマンみたいですね。怪獣から人を助けるなんて」

「ウルトラマンは普段から等身大で戦っているわけじゃない。どっちかっていうと仮面ライダーの方が近いと思うがな」

 鳴海は少し保科を睨みつけた。ふと、気になった保科は疑問に感じたことを口に出す。

「そういえば、怪獣8号と対話できるって小此木さん言っとりましたけど、四ノ宮長官とかに突き出せばすぐ殺せとか言われるんじゃないんしゃないんですか。味方にすることは出来…」

 鳴海は不敵な笑みを浮かべる。

「君、何のために僕がこの委員会を作ったと思ってる?」

「え、知らないんですけど…」

 保科は、そう言って周りを見回す。鳴海と小此木以外知らないような顔つきだった。

「あの、全員知らないみたいですよ」

 海自の制服を着た青年がそう言った。蛇みたいな顔やな、と保科は感じた。

 鳴海はめんどくさそうに言う。

「全員知らないとはな、まあいい、この委員会の真の目的はな、四ノ宮長官に手を打たれる前に怪獣8号を戦力化することなんだよ」

 周りにいた全員が唖然とした。

 

 

 

 その後、会議は2時間ほど続いた。

 保科はその会議を通じて怪獣8号に興味が湧いてきた気がした。人型で同じ人間とほぼ同じ背丈、そして人間を守っている正体不明のヒーロー。

「怪獣8号か、結構面白そうなやつやな」

 彼はそう言って立川基地へと戻っていった。

 




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