同じ夢を見る。
黒く鋭い爪の怪物の様な手、そして紅く輝く鋭い目。
(力だ……もっと俺様に力を寄越せぇ!!)
巨人の怪物はそう叫ぶとこちらに向かって右手を伸ばす。
「?!」
そこで目が覚め慌てて起きあがる。
身体中汗まみれで息も荒い。
何なんだ今の悪夢は……。
俺は頭を掻きながら水を飲むために立ち上がる。
「やっぱりコイツが原因なのか」
机の引き出しを開け中から1つの石を取り出す。
小学校の遠足の時、遺跡見学に行った時にたまたま見つけた紅い結晶。
その遺跡に詳しい人でも分からないと言いお土産にどうぞと言うので家に持って帰る事にした。
それ以降からかこの様な何かを求める巨人の夢を見るようになったのは……
「はぁ……憂鬱だ」
少年は高校の制服に着替えてため息をしながら学校に向かう。
学校の教室に到着すると早々に彼女が目の前に現れる。
まるで俺が来るのが分かっていたみたいに……
「おはようハジメ君!今日は遅かったね?」
彼女の名は白崎香織。
俺の恋人であり、学校では二大天使とも言われる程の美少女だ。
何故そんなに女子が俺みたいなオタク野郎と付き合っているかと言うと、
確か中学の頃、帰宅途中で子連れのばあちゃんが何故かヤンキーらしい男3人に謝っていた。
子供が持っていたアイスを躓いた際にズボンに当たったらしい。
ばあちゃんは謝ったはいいがヤンキーはそれでは満足いかねぇと金を集ろうと恐喝していた。
「はぁ……気に食わねぇな」
俺はそう言いながらヤンキー共の方に向かいリーダーと思われる奴に金的を食らわした。
「……て、テメェ!」
「おいおい、年寄りいじめて何楽しんでる?」
「んだとゴラァ!!」
すると下っ端2人が殴り掛かってきたので軽々と躱す。
だって遅い拳を態々食らう意味ないし。
それに……
俺は1人の顔面に肘打ちしてもう1人を蹴り飛ばす。
男は悲鳴を上げながら地面に転がり悶え苦しむ。
周りを見るとギャラリーが増えて警察が来るのも面倒なのでさっさと撤退しようと準備をする。
「悪ぃなガキんちょ。お前のアイス俺の足で潰してしまった。お礼にこれで好きなアイス買いな。但し、今度はばあちゃんと手を繋いで帰れよ」
俺は財布から野口1枚をガキんちょに渡してその場をさっさと撤退した。
どうやら香織はその場にいたらしく、翌日また同じ道を通った時に出会い。
「好きです!付き合って下さい!」
と唐突に告白された。
最初は何かの罰ゲームか何かかと思い無視していた。
しかし、来る度来る度告白してくるので試しに別の道から帰るも直ぐにバレた。
「……て事があるんだがどう思うよ幸利?」
「それを僕に聞くかい?と言うか羨ましいを超えて嫉妬しそうだよ」
コイツの名は清水幸利。
中学1年の時に漫画やゲーム好きと趣味が合うと言うので仲良くなった。
「ハジメはギャルゲーの主人公かよ。
喧嘩した翌日に美少女から毎日のように告白されるとか」
「実際俺は名前を知らないんだよな〜」
「それなら今すぐ名前を聞いて付き合えよ!そしてこのリア充爆発しろぉおお!!!」
と叫び声を上げる清水を見て思わず苦笑いする。
そして遂には学校の校門まで来て告白されたので諦めて付き合う事にした。
「おはよう香織。昨日は母親のアシしてたから寝る時間が3時間もなかったんだよ」
「大丈夫?私にもできる事ないかな?」
「生憎俺独断で何かしてくれとは言えないからな。母さんが何か頼むようなら手伝ってくれ」
「うん!」
俺と香織の関係を好ましく思ってないのかクラスの奴らからの視線は痛い。
まぁこんな美少女が彼女じゃ妬まれるだろうな。
特に檜山、中野、斎藤、近藤の4人は俺が気に食わないのか毎回ちょっかいをかけてくる。
更に3人がこちらへ近づいてくる。
「おはよう南雲君。毎日大変ね」
「また彼の世話をやいているのか?本当に香織は優しいな」
「ようハジメ!」
挨拶をしたのは八重樫雫。香織の親友であり女子からはお姉様と呼ばれているが、本人は可愛いもの好きである。
香織は優しさでハジメに構っているとご都合解釈し、言葉を発したのは天之川光輝。名前を表すかの様にイケメンで正義(笑)マンだ。
最後に挨拶のは坂上龍太郎。
コイツを一言で言うと万丈龍我並の筋肉バカだ。
「おはようさん雫、龍太郎」
「おい!なぜ僕には挨拶しない!」
「あ、いたんだな」
「お前は……!」
「え?私がハジメ君と話したいだけだよ?」
キョトンとしながら香織はそう返した。
瞬間俺に殺気が襲いかかるが絶対零度並の殺気をぶつけて黙らせた。
「あっ、龍太郎。今日ジムに行くから親父さんに伝えといてくれ」
「おっ!遂に筋肉の有難味を知ったか?!」
「違ぇよ。この間故障したトレーニング機の調子を見に行く話しだ」
そう言い俺は自分の席に向かおうと歩く。
天之河はまだ話があると言いたげだったが無視して席に向かうが……
「何があった幸利?」
目の前には机にベッタリと
張り付く清水の姿が。
顔色は悪く、まるでゾンビのようだ。
隣には俺の義妹の南雲恵里(中村恵里)
が座って見ていた。
「あっ、ハジメ君おはよう。実はね」
どうやら幸利の推しアイドルが妊娠したとニュースがさっきあったらしい。
そのショックでああなっているらしい。
そんな事でショックを受けるとは……
オタクも楽じゃないな。
てかすげぇーな、自分から机に頭突きするとか…
「ハジメ〜アイたんが〜僕の推しがぁ〜」
「はいはい。推しの代わりに恵里に励ましてもらえ」
「恵里〜」
「何で彼女のボクが慰めるのさ!」
こうしていつも通りの日常が始まった。
昼休みになり各生徒は弁当や購買に向かう。
俺はと言うと香織が弁当を2袋を持って隣に座る。
正面は幸利と恵里が座り2つの机を引っつけて囲む。
「はいハジメ君!」
「別に毎日作る必要ないのに」
「ダメだよ!キチンとご飯は食べないと!お母さんから聞いてるよ。休みの日は栄養ゼリーで済ませてるって!」
確かに土日は親の手伝いで忙しいから素早く済ませるゼリーや最近は1つで満足パン系で済ませる事が多い。
さらに言うと恵里からもしっかり飯を食べろと脅される事もある。
まぁ心配してくれてるのは嬉しいが。
そして箸を手にして食べようとした途端、教室一体を囲う魔法陣が描かれる。
しかも発動中心には天之河が立っている。
「皆さん!教室にから___」
愛子先生が言いきる前に、教室にいた生徒、先生は跡形もなく消えた。
ただ、ハジメの鞄内にあった紅い石は光り輝き姿を消した。
光が収まるとそこは神殿内の様な場所だった。
壁には謎の文字や壁画が一面に描かれており、この広間の最奥の台座の上に俺は立っている。周りの人もおそらく昼の時間にいた人、つまりあの教室にいた人がこの場にいる。
そして少し背伸びをして台座の前を覗く。そこには祈りを捧げるように両手を胸の前で組み跪いていた。格好は金の刺繍がなされた法衣を纏っていて、いかにも異世界の神官か何かのようだった。
その内の1人がその場に置いてある錫杖を手にして顔を上げる。その顔はひび割れたようなシワがいくつも拡がり長い間生きていたことがわかる。歳は70くらいだろう。
そして落ち着いた声で俺達に話しかけた。
「ようこそトータスへ。勇者さま、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位についております、イシュタル・ランゴバルドと申す者。以後よろしくお願い致しますぞ」
老人は好々爺とした不気味な微笑みを見せた。
そしてこの老人を信用してはいけないと、俺の直感が告げた。