ヒュドラを倒し、本当の敵を見つけたハジメ達はオスカーの隠れ家で10日間訓練をして過ごしていた。
ハジメは左腕を隠すためにマントを羽織る。
「いいか。俺達の力は教会からしたら脅威だ。それにバルロスは魔人族だ。
確実に俺らは異端者認定される」
「何だハジメ。今更俺を解放したことに後悔しているのか?」
「馬鹿野郎。それなら俺はあの場で無視していたさ」
だろうなっとバルロスは鼻で笑う。
隣にいるユエは笑顔でハジメを見つめる。
「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」
「神殺しをするのに今更……」
「ふん、そうだったな」
「俺達は神を殺し、香織と再開する」
ハジメ達は魔法陣に乗り光り輝くと3人の姿は消えていた。
魔法陣の光に満たされた視界、何も見えなくとも空気が変わったことは実感した。奈落の底の澱んだ空気とは明らかに異なる、どこか新鮮さを感じる空気に俺の頬が緩む。
やがて光が収まり目を開けたハジメの視界に写ったものは……
「まぁいきなり外ってないよな」
洞窟内だった。
そのまま道通りを歩くと漸く外に到着した。
そして、ライセン大峡谷の谷底にある洞窟の入口にいた。地の底とはいえ頭上の太陽は燦々と暖かな光を降り注ぎ、大地の匂いが混じった風が鼻腔をくすぐる。
「…遂に戻ってきたのか…」
「…うん」
「久しぶりに空を見たな」
3人はハイタッチして外に戻ってきた事に喜ぶ。
ただ、こういう時は魔物が襲ってくるのがセオリーだが…
「怯えてるな」
恐竜に近い魔物は物陰でハジメ達を見ながら怯えていた。
”バーカ!お前達の気配で怯えているんだよ”
ベリアルに怒られ気配をもっと抑える。
しかし、先程の気配にビビり近くにいた魔物は近づくことはないだろう。
その後ハジメは宝物庫から魔装駆動二輪を2台を出してバルロスに1台、ユエは身長の問題でハジメの後ろに乗り移動を始めた。
ライセン大峡谷は基本的に東西に真っ直ぐ伸びた断崖だ。そのため脇道などはほとんどなく道なりに進めば迷うことなく樹海に到着する。
しばらく魔装駆動二輪を走らせていると、それほど遠くない場所で魔物の咆哮が聞こえてきた。
「あぁ?」
魔装駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見た恐竜モドキに似ているが頭が二つある。
そしてその前に走っているのはウサミミの女だった。
「……何だあれ?」
「……兎人族?」
「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」
「……ん、聞いたことない」
「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」
「……悪ウサギ?…助ける?」
「あぁ…何故此処に兎人族がいるのか知りたいしな」
「なら俺が行くぜ!」
ハジメはウサミミ女を助けようとした時、バルロスが魔装駆動二輪から降りて双頭の恐竜モドキに向かっていった。
それなりの距離があるのだが、ウサミミ女の必死の叫びが峡谷に木霊しハジメ達に届いた。
「だずげでぐだざ~い! ひっーー、死んじゃう! 死んじゃうよぉ! だずけてぇ~、おねがいじますぅ~!」
滂沱の涙を流し顔をぐしゃぐしゃにして必死に駆けてくる。そしてウサミミ女が次の言葉を言う前にバルロスの雄叫びが聞こえた。
「うぉぉぉぉぉらぁ!!」
バルロスの拳が双頭の恐竜モドキの頭を真上から叩き潰す。衝撃音と共に地面にヒビが入り地震が起きたかのように揺れる。
追われていたウサミミ女が思わず「へっ?」と間抜けな声を出し、おそるおそるハジメの脇の下から顔を出してティラノの末路を確認する。
「し、死んでます…そんなダイヘドアが一撃なんて…」
「おい、お前…大丈夫か?」
「……ん、大丈夫?」
「はっ…先程は助けて頂きありがとうございました! 私は兎人族ハウリアの一人、シアといいますです! 取り敢えず私の仲間も助けてください!」
「「…」」
ハジメとユエは何とも図々しい女と思いながら睨み、とりあえず話を聞くことにした。
シア達、ハウリアと名乗る兎人族達は”ハルツィナ樹海”にて数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた。兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られる傾向が強いらしい。性格は総じて温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族だ。また、総じて容姿に優れており、エルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので、帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる。
そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、その子の髪は青みがかった白髪だったのだ。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
しかし、樹海深部に存在する亜人族の国”フェアベルゲン”に女の子の存在がばれれば間違いなく処刑される。魔物とはそれだけ忌み嫌われており、不倶戴天の敵なのである。国の規律にも魔物を見つけ次第、できる限り殲滅しなければならないと有り、過去にわざと魔物を逃がした人物が追放処分を受けたという記録もある。また、被差別種族ということもあり、魔法を振りかざして自分達亜人族を迫害する人間族や魔人族に対してもいい感情など持っていない。樹海に侵入した魔力を持つ他種族は、総じて即殺が暗黙の了解となっているほどだ。
故に、ハウリア族は女の子を隠し、十六年もの間ひっそりと育ててきた。だが、先日とうとう彼女の存在がばれてしまった。その為、ハウリア族はフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たのだ。
行く宛もない彼等は、一先ず北の山脈地帯を目指すことにした。山の幸があれば生きていけるかもしれないと考えたからだ。未開地ではあるが、帝国や奴隷商に捕まり奴隷に堕とされてしまうよりはマシだ。
しかし、彼等の試みは、その帝国により潰えた。樹海を出て直ぐに運悪く帝国兵に見つかってしまったのだ。巡回中だったのか訓練だったのかは分からないが、一個中隊規模と出くわしたハウリア族は南に逃げるしかなかった。
女子供を逃がすため男達が追っ手の妨害を試みるが、元々温厚で平和的な兎人族と魔法を使える訓練された帝国兵では比べるまでもない歴然とした戦力差があり、気がつけば半数以上が捕らわれてしまった。
全滅を避けるために必死に逃げ続け、ライセン大峡谷にたどり着いた彼等は、苦肉の策として峡谷へと逃げ込んだ。流石に、魔法の使えない峡谷にまで帝国兵も追って来ないだろうし、ほとぼりが冷めていなくなるのを待とうとしたのである。魔物に襲われるのと帝国兵がいなくなるのとどちらが早いかという賭けだった。
しかし、予測に反して帝国兵は一向に撤退しようとはしなかった。小隊が峡谷の出入り口である階段状に加工された崖の入口に陣取り、兎人族が魔物に襲われ出てくるのを待つことにしたのだ。
そうこうしている内に、案の定、魔物が襲来した。もう無理だと帝国に投降しようとしたが、峡谷から逃がすものかと魔物が回り込み、ハウリア族は峡谷の奥へと逃げるしかなかった。そうやって、追い立てられるように峡谷を逃げ惑い……
「……気がつけば、60人はいた家族も、今は40人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
「…」
「いいんじゃね、助けてやれば」
考えている中、満足したバルロスが戻ってきた。
どっちにしろこの樹海を抜けるには亜人族の力が必要になる。
「分かった。だからお前達の住処まで案内してくれ」
「はいっ!」
助けることになったのでシアをバルロスの後ろに乗せ颯爽と向かう事になった。