「シア、無事だったのか!」
「父様!」
初老の男性がシアに駆け寄ってきた。どうやら彼女の父親らしい。
シアと一言二言話をすると、ハジメの方に向き直った。
「ハジメ殿で宜しいか?私は、カム・ハウリア。シアの父であり、ハウリアの族長をしております。
この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助けいただき、何とお礼を言えばいいか。
しかも、脱出までご助力下さるとか……父として、族長として深く感謝いたします。」
そう言って、カムと名乗った族長は深々と頭を下げた。後ろにいた他の者達も同じように下げていた。
「別に礼はいらん。ただし樹海を出るまでの約束だ。後安直に信用するな。テメェらそれで襲われているのを忘れるな」
しかし、カムは苦笑いで返した。
「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」
”いっその事こいつらを鍛えるか?”
ベリアルの言う通り安全地帯に着いたら鍛えるのもありだと頭の中に入れておく。
その結果ハウリア族は亜人族最強最悪の戦士へと生まれ変わるとはこの時ハジメは思わなかった。
しばらく歩きようやく、ライセン大峡谷の出口に到着した。
それは良かったが、本当に帝国兵がいたよ。
「おいおい、マジかよ。生き残っていやがったのか。
隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ。こりゃあ、いい土産が出来そうだ。」
「小隊長!白髪の兎人もいますよ!隊長が欲しがってましたよね?」
「おお、ますますついてるな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」
「隊長ぉ、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ?
こちとら何もない所で三日も待たされたんだ。役得の一つや二つあってもいいでしょう?」
「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ。」
「ひゃっほ~、流石、小隊長!話が分かる!」
……下衆が。まぁ、これから死にゆく馬鹿に何言っても無駄か。
「あぁ?お前誰だ?兎人族……じゃあねぇよな?」
「見て分かるでしょうに。人間だよ。」
「はぁ~?何で人間が兎人族と一緒にいるんだ?しかも峡谷から。
あぁ、もしかして奴隷商か?情報掴んで追っかけたとか?そいつぁ商売魂がたくましいねぇ。
まぁいいや、そいつら皆国で引き取るから、置いて行け?」
「は?嫌に決まってんじゃん。」
俺のこの馬鹿どものあまりの無能さに、怒りすら通り越して呆れを感じながら即答した。
「……今、なんて言った?」
「耳悪いの?いや、頭が悪いのか。嫌だって言ったんだよ」
馬鹿の隊長が睨んでくるが、ベヒモスの方がまだ強い。
「……小僧、口の利き方には気を付けろ。俺達が誰だかわからないほど頭が悪いのか?」
「いや、初対面の人にいきなり上から目線で、「置いていけ」とか言ってくるアンタらの神経の方が疑わしいんだけど。
てか、帝国っていうのは、他国の王族すら見分けられないほどの無能なのか?
あぁ、皇帝が野蛮だから、下っ端風情まで山賊みたいななりなんだ」
売り言葉に買い言葉。ハジメは口の進む限り、相手を罵倒しつくす。
後、後ろのユエをじろじろ見てきたのでその分も。
「あぁ~なるほど、よぉ~く分かった。てめぇが唯の世間知らずな糞ガキだってことがな。
ちょいと世の中の厳しさってやつを教えてやる。ククッ、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。
テメェの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらって…」
その瞬間、瞬間移動して左手で帝国兵の頭を握りつぶした。
おかげで血しぶきが顔に飛び散り顔がなくなり首から上がなくなった死体が出来上がる。
「次はテメェらの番だ。死にてぇ奴から前に出ろ。苦痛を与える前にあの世に送ってやる」
それを合図に、ものすごい速さで次々と首なし死体が出来上がっていった。
反撃しようとする者もいたが、あまりの速さに追いつけず、そのままやられた者もいた。
それもそうだろう。
まるで生き物のように動く雷光が、自分たちに襲い掛かってくると錯覚してしまう程なのだから。
30秒もしないうちに、帝国兵共は全滅した。
「歯ごたえがない雑魚ばっかりだ」
「あ、あのっ、……今のは、全員殺す必要はなかったのでは?」
俺はその能天気すぎる発言に溜息をつくと、「うっ」と唸るシア。
が、その時……
「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからといって見逃して貰おうなんて都合が良すぎ」
「そ、それは……」
「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメに向けるのはお門違い」
「……」
「ふむ、ハジメ殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。
ただ、こういう争いに、我等は慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」
「ハジメさん、すみません」
「気にするな。別に慣れろとは言わねぇ」
ハジメは早速、無傷の馬車や馬の所へ行き、ハウリア達を馬に乗る者と馬車に乗る者に分けることにした。
ハルツィナ樹海の平原に到着したハジメ達は馬車を降りて歩いて向かう。
気配を消しながら奥地へと歩くと突然、忙しくなくウサミミを動かしながら索敵していたカム達が、苦虫を噛み潰したような顔になった。
シアに至っては、顔を蒼褪めさせている。その相手の正体とは……
「お前たち……何故人間といる!種族と族名を名乗れ!」
虎の獣人か。しかも、周りに数十人くらいはいる。
「あ、あの私達は……」
カム、言っても無駄だ。こういう奴らは直ぐ実力行使に出てくる。
「白い髪の兎人族…だと?……貴様等、報告にあったハウリア族か!亜人族の面汚し共めっ!
長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとはっ!反逆罪だ!
もはや弁明など聞く必要もない!全員、この場で処刑する!総員かッ!?」
「あぁ、ハジメ。コイツらやって良かったのか?」
バルロスが10匹の虎人や猫人を倒していた。
そしてハジメはドラグナーをリーダーの虎人の頬に当てる。
「生憎だが、あいつらは一時的だが護衛対象でな。殺すならこのトリガーを引いて殺す」
「……その前に一つ聞きたい。……何が目的だ?」
「樹海の深部、大樹ウーア・アルトの下へ行きたい」
「大樹の下へ……だと?なんのために?」
あぁ?何言ってんだ?
「そこに、本当の大迷宮への入り口があるからだ。
俺達は七大迷宮の攻略を目指して旅をしている。ハウリアは案内のために護衛しているだけだ」
「本当の大迷宮?何を言っている?七大迷宮とは、この樹海そのものだ。
一度踏み込んだが最後、亜人以外には決して進む事も帰る事も叶わない天然の迷宮だ。」
……やっぱりな。
「それは違うな」
「何だと?」
「まず、大迷宮というには、ここの魔物は弱すぎる。
少なくとも、オルクス大迷宮の魔物の方が強い」
「……弱い?」
「それに、大迷宮っていうのは、"解放者"達が残した試練。
亜人族が簡単に深部へ行けるのなら、試練にはなっていない。
だから樹海自体が大迷宮っていうのは間違っている」
「……」
……"解放者"も知らないみたいだな。
「お前が、国や同胞に危害を加えないというのなら、大樹の下へ行く位は構わないと、私は判断する。
部下の命を無意味に散らす訳には行かないからな」
「ならさっさとしろ」
その後フェアベルゲンに案内され、アルフレリックという森人族と話をして今は
霧が濃いので向かうことは出来ないらしい。
ちなみに今気づいたカムと言い訳をするハウリア達は絶賛ユエにお仕置されている。