現在俺達は長いテーブルがいくつも並ぶ大広間に場所を移していた。
おそらくここは晩餐会を開催する場所なのだろう。
ここに案内されている時、思ったより静かだったのは、状況の理解が追いついていないからだろう。移動中香織が腕にしがみついていて震えていた。
後は事情をランゴバルドが説明すると言ったことや、天之河が持ち前のカリスマで場を鎮めたこともあるだろうが。
教師よりも教師らしく纏めている姿に愛子先生が涙目になっていたのは、なんというかいたたまれなかった。
全員が着席すると同時にメイドがカートを押しながら入って来た。
思春期男子は憧れの本物メイドに視線ががっつり向いていた。
メイド全員が不自然なほど美女、美少女だった。
馬鹿だな…ハニトラの可能性があるのに…それはともかく香織…香織さん。俺の足を踏むのは辞めた貰いたい。
地味に痛い。
あ、幸利も恵里に踏まれているみたいだな。
仕方ないと香織の機嫌が戻るまでランゴバルドの説明を聞く。
内容は、この世界はトータス。トータスには人間、魔人、亜人の3種族。人間は北一帯、魔人は南一帯を支配し、亜人は東の樹海でひっそりと生きているらしい。
そして人間と魔人は長い間戦争をしている。人間は物量で、魔人は質量で拮抗していたのだが、魔人が魔物を使役し始めたらしく、拮抗が崩れて人間が追い詰められこのままだと滅びの危機を迎えているらしい。
なるほど異世界転移ものか……
「あなた方を召喚したのは『エヒト様』です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という『救い』を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、『エヒト様』の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
ランゴバルドは恍惚の表情をしながらそう訴えた。
老人の恍惚の表情なんて誰得だよ……気色悪い。
そもそもの話、なんで俺達を呼ぶ力があるのに何故魔人を滅ぼさないのかが不思議でならない。その力があるなら簡単に滅ぼすことができるのにだ。
裏があるとしか思えない。
すると畑山先生が立ち上がってランゴバルドに対して声を上げる。
「ふざけないで下さい!結局、この子達に戦争させようってことでしょ!そんなの許しません!ええ、先生は絶対に許しませんよ!私達を早く帰して下さい!きっと、ご家族も心配しているはずです!あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
おぉ〜相変わらずぷりぷりと怒っておられる。
しかし返って来た言葉は残酷なものだった。
「お気持ちは察します。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
生徒までもが凍りつく。
テンプレありがとうございます。
「ふ、不可能って喚ぶことが出来たなら帰せるでしょう!?」
「先程も言ったようにあなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間には何も出来ません。あなた方が帰還出来るかどうかもエヒト様のご意志次第ということですな」
「そ、そんな……」
畑山先生は脱力して椅子に腰を落とす。
なるほど帰せるけど帰すか帰さないかはエヒト次第ということか。
「嘘だろ?帰れないってなんだよ!」
「いやよ!何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ!ふざけんなよ!」
「なんで、なんで……」
そこからは阿鼻叫喚というのだろうか周囲の生徒も騒ぎ始める。騒ぎ出した生徒を見るランゴバルドの顔は明らかに俺達の事を見下すように見ていた。恐らくエヒトに召喚されたのになぜ喜ばないのかがわからないといったものなのだろう。
ふざけたやつだな。勝手に喚んだのに有無を言わさずなんて酷いやつだ。
そう思った時だった。『バン!』とテーブルを叩く音が響く。その音の元に視線が集まる。叩いたのは天之河光輝だった。彼は視線が集まるのを確認するとおもむろに話し始めた。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん?どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いは無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が張っている感じがするんです」
「ええ、そうです。この世界の者と比べ物にならないほどの力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように、俺は世界も皆も救って見せる!!」
握り拳を天高く掲げて戦争参加を宣言する天之河。
アイツは馬鹿なのか?
言ってることは立派だと思うっているのか、そんな簡単に戦争に参加していいのかな?ここに喚ばれた皆は人を殺した事さえないのに、そんなことが出来るのだうか?
(ククク…あの勇者は馬鹿だな〜)
「?!何だ今の声」
俺は頭の中に聞こえた声の主を探すが見当たらない。
そんな事をしていると香織が心配そうな顔をする。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
香織、雫、龍太郎は天之河に賛同する。
龍太郎と雫は分からないが香織はこの場に乗るしかないのだろう辛い顔をしながら参加すると賛同する。
後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。
しかし…俺はイシュタルの目を見てこの状況を打開しようとある言葉を全体に聞こえるように言った。
「俺は反対だ」
俺のその言葉で全員俺の方に向いた。
「は、ハジメ君?!」
「どういうことだ南雲…」
「そうだ!」
「何言ってんの!」
クラスの大半からブーイングが来た。
だから俺は机を叩き殴り殺気を向ける。
勿論机は穴が開き、ブーイングしていたクラスの馬鹿どもは黙る。
「おいおい。たかがこんな殺気でビビる事ねぇだろうが、これからお前らはもっと過酷な人生送るんだらな」
「何を言っている?」
どうやら天之河達は理解していない。
「今からお前らは人殺しをするって事だよ!」
俺の一言に全員が息を飲む。
そんな中反論してきたのは天之河だった。
「ふざけるな南雲!クラスのみんなを脅して何になる!
安心しろ!誰も人殺しをさせない!
皆は僕が守る!」
「ならどうやって魔人族を倒すんだ?」
「それは…話し合えば理解「そんなもんで解決するならこの世界の奴らが既にしてるだろうが!」…だが人殺しは僕が許さない!」
馬鹿馬鹿しい…結局コイツは何もわかっちゃいない。
俺は立ち上がって、 イシュタルに向かって歩き出す。
そしてイシュタルの前で止まり、 見下ろす形になりながら睨みつける。
イシュタルも俺を見上げてくる。
さっきまで騒いでいた生徒達も静まり返った。
「おい爺さん!交渉しようぜ!」
「交渉とは…」
「俺から提案する2つの願いを応じるなら俺も参加してやる。もし不可とか言うなら俺はこの戦争に参加しねぇ」
「条件とは?」
「一つ、俺達は今さっき言ったように戦争なんかやったことないし、この世界のこともよく知らないからな、訓練と学問の指導、二つ、戦争を拒否する奴がいたらそれを認めて身柄の安全と前線に立たせず国の警備などにつけろ」
「…」
「で、どうする?」
「おい、南雲! イシュタルさんが困ってるだろ!」
「うるせぇよ、てめぇは黙ってろ」
「そうですな…その条件をのみましょう」
俺はその言葉に笑みを零しながら
「交渉成立だ」
そして、俺は少し条件をのんでくれたことに安堵し、不満だが戦争に参加することになった…。
ただし、イシュタルと言う爺さんには警戒されたがな。
(コイツは面白い奴に拾われたものだ。
もっと憎しみを高まった時に会ってやるか)