ハジメ達が街に到着すると既に住人達が最低限の壁を作っていた。
ユエ達に聞くと、最初こそはパニックになった。町長を始めとする町の顔役たちに罵詈雑言を浴びせる者、泣いて崩れ落ちる者、隣にいる者と抱きしめ合う者、我先にと逃げ出そうとした者同士でぶつかり、罵り合って喧嘩を始める者。明日には、故郷が滅び、留まれば自分達の命も奪われると知って冷静でいられるものなどそうはいない。彼等の行動も仕方のないことだ。
だが、そんな彼等に心を取り戻させた者がいた。愛子先生だ。ようやく町に戻り、事情説明を受けた護衛騎士達を従えて、高台から声を張り上げる〝豊穣の女神〟。恐れるものなどないと言わんばかりの凛とした姿と、元から高かった知名度により、人々は一先ずの冷静さを取り戻していた。
「もうあの人が勇者じゃん」
ハジメは仕方ないと高めの壁を錬成する。
そこまで高い壁では無いので登られたり、飛ぶ魔物には無意味な壁だ。
あるだけ感謝してもらいたい。
するとそこへ先生と生徒達、ウィル、デビッドを除いた護衛騎士がやって来た。
「南雲君、準備はどうですか? 何か、必要なものはありますか?」
「いや、問題ねぇよ、先生」
「それより後ろの女性は?」
「彼女はティオ。ウィルと同じく黒竜から隠れていたのを見つけた」
本当は本人だとは黙った。
まぁユエとシアはティオだけは黒竜であり最後の竜人族だと言うことは伝えてある。
「魔物の大群は俺とバルロスで相手をする。もし魔物が街中に入った場合の為にユエ、シア、ティオは街の壁で待機」
「…わかった」
「はい!」
「うむ!」
「わかった」
そして幸利の耳元でハジメは囁く。
「デビッドを探せ」
「わかった」
そして時が来た。
偵察機が大量の魔物がすぐ目の前まで近づいているのを通達してくれた。
ブルタールのような人型の魔物の他に、体長三、四メートルはありそうな黒い狼型の魔物、足が六本生えているトカゲ型の魔物、背中に剣山を生やしたパイソン型の魔物、四本の鎌をもったカマキリ型の魔物、体のいたるところから無数の触手を生やした巨大な蜘蛛型の魔物、二本角を生やした真っ白な大蛇など実にバリエーション豊かな魔物が、大地を鳴動させ土埃を巻き上げながら猛烈な勢いで進軍している。その数は、山で確認した時よりも更に増えているようだ。五万あるいは六万に届こうかという大群だった。
更に、大群の上空には飛行型の魔物もいる。敢えて例えるならプテラノドンだろうか。何十体というプテラノドンモドキの中に一際大きな個体がいる、その個体の上には薄らと人影のようなものも見えた。
そしてその魔物達にはティオに付けられた首輪が付いていた。
「さ〜て!殲滅を始めるぞ!」
「久しぶりに大暴れ出来る!」
ハジメとバルロスはベリアル、ダークザギに変身して魔物の大群へ飛び込んで行った。
街の外では爆発音と凄まじい殺気に叫び声が響き渡る。
紅い閃光が魔物たちを次々と切り刻み蹂躙、更には紅黒い光線が無数の魔物を飲み込み消滅させていく。
それでも倒せたのは2000と言ったところでまだまだ魔物は前進してくる。
「チッ!まだこんなにいるのか」
「なんだハジメ。もう終わりか?」
少しであるが息を荒くするバルロスはまだまだ余裕そうだ。
「なめんなよ!ここからが本番だぁ!」
上空から突進してくるプテラノドンを殴り飛ばして魔物の軍勢に突撃する。
「南雲君…」
街の中では愛子先生が住人に指示をしながら避難をさせている。
外ではハジメやバルロスが戦っており、壁際では護衛騎士団やユエ、シア、ティオがこぼれた魔物達を撃退している。
「愛ちゃん先生〜みんなの避難が終わりました」
「はい!皆さんは先に避難をお願いします」
生徒たちは先に住人がいる避難所に向かう。
少しすると愛子の隣に幸利が到着した。
「どうでした清水君?」
「…いません。やっぱりデビッドさんが魔人族と手を」
幸利はこの作戦前から街一体を走り、デビッドが居ないか探し回っていた。
結果、護衛騎士団達の前にも居そうな場所にはいなかった。
「…そうでしたか」
「園部達が行った避難所にもいないので…多分あの中だと…「清水君避けて!!」えっ?!」
考え事をしていると突然愛子先生に押される幸利。
しかし次の瞬間、目の前に赤い水滴が幸利の目の前を通り過ぎ、幸利は尻餅をついていた。
赤い水滴は愛子先生の血だった。
すぐにその方向を振り向くとそこには……デビッドが不気味な笑みを浮かべ立っていた。
「ちっ!あと少しだったのに」
「デビッドさん…あなたは何したか分かっているんですか!!」
「何。俺の計画に参加しなかった貴様を殺そうとしたまで。ですが、本来の目的が達成したので良いでしょう」
デビッドは愛子の体を踏みつけ見せつける。
「先生から離れろ!!」
幸利は愛子を助けようとデビッドを殴り掛かるが軽々と躱され横腹を蹴り飛ばされる。
「ぐはぁ!!」
「全く。人間とは無様ですね。
ちょっとした誘いでホイホイと付いて来る」
デビッドは愛子を踏みつけながら、高笑いする。
「し…みずくん…逃げて…下さ…い」
愛子は血を流しながらも幸利に逃げろと言う。
「実に絵に書いたお芝居ですね〜
反吐が出そうですよ!」
「かはぁ!!」
「デビッドぉぉ!!」
デビッドは更に強く愛子の背中を踏みつける。
そのせいで愛子の口から大量の血が吐き出され呼吸も酷くなる。
(ふざけるな…)
幸利の心の中で黒い闇が徐々に強くなる。
(コイツは……この下衆は……
先生を……俺の大切な存在を傷つけた)
「ゆ、許さない!!」
幸利の体から黒いオーラが吹き出る。
愛子はそのオーラを感じとり驚きの目をしている。そしてそれは愛子だけではなくデビッドもだ。
そして幸利はブラックスパークレンスにトリガーダークキーを挿入しガンモードから変身形態スパークレンスモードにする。
「未来を染める漆黒の闇…トリガーダーク!!」
そのままブラックスパークレンスを胸の前に持ってくる。
『Trigger Dark.』
竜巻に飲まれ晴れると全身に白く禍々しい鎧のような体つきをしている。所々からトゲのようなものがあり、胸の部分には青く光るカラータイマーがある。
「へぇ〜例え姿が変わろうが貴様に倒されるとでも?!」
デビッドの目の前に幸利が一瞬で現れ、足元にいる愛子を抱き抱えデビッドを街の外に蹴り飛ばす。
そしてそのまま壁際にいるユエとシアの前に向かう。
ユエとシアは何者と思いながら警戒するが、抱き抱えられている愛子に気付き直ぐに神水を飲ませ治療をする。
「先生を頼む」
幸利はそう言い壁を飛び越え魔物たちがいる方へ飛び出す。
ハジメとバルロスは魔物を蹂躙していると空が人が落下してきたのに気付いた。
その人物にハジメとバルロスは何となく察しがついた。
「くっ…あのガキ…」
「本性を表したか裏切り者さん?」
デビッドは目の前にいるハジメとバルロスに気付き直ぐに直そうとした。
「お前の事は出会った時から気付いていた。目的もな」
「…そうでしたか…では追加と参りましょう!」
デビッドが指を鳴らすと更に奥から魔物の軍勢が増える。
数は1万ぐらいだ。
「どうですか?今で漸く半分を切った所にこの数の魔物。あなた達2人で倒す事が出来ますか?」
デビッドは勝ったと高笑いしているが、ハジメとバルロスは何も無いと首を振る。
「それに俺達だけでは無いしな」
ハジメの背後に何かが飛び降りたのか地響きと轟音と共に現れたのは、トリガーダークの姿をした幸利だった。
「大丈夫か幸利?」
「大丈夫だ。それよりアイツを倒すのは僕だ」
「そうかい。なら俺とハジメは魔物を相手するか」
3人は隣に並んで拳を構え走り出す。
それと同時に魔物達も再び襲撃を開始する。