彦兵衛の気の迷い~がばがば江戸時代遊興物語~   作:貯金缶

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なんだか、ふと考えついただけなので、行き当たりばったりなのです。
なお、このお話の江戸時代は、時代考証は何もしていません。


第一話

 彦兵衛が住んでいる長屋の戸を叩く音が部屋中に響いている。あー、五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い!彦兵衛は頭から布団に潜り込みながら、もう少し上手い方法があったはずだとも思っていたが、これまでの行いを若干悔やんでいた。

 

 どうしてこうなった。どうしてこうなった。どうしてこうなった。ただの気の迷いというか、ちょっとした小銭稼ぎだったはずだ。貧乏旗本の四男坊だった自分には、将来や財産も何もかもがないことを自覚していた。武士は食わねど高楊枝と言いつつ、馬鹿みたいに困窮している生家が嫌だった。

 

 だから、気の迷いだったんだ。前世のTRPGみたいなのを書いてみただけだったんだ。同じ貧乏旗本の穀潰し共と一緒にTRPGを使って、生まれ変わった自分だけは知っている死んだ後の輪廻転生というか来世について話し合っていただけなんだ。4人でサイコロを転がして、色々と物語を考えて、貴重な安酒の勢いもあったが、どんちゃん騒ぎをしながら皆で現実逃避をしていただけなんだ。それで終わりだったはずなんだ。

 

 誰が言いだしたかは分からないが、物語の中でついでに魑魅魍魎の類を登場させてからがおかしくなり始めたきっかけだった。忘れていたのは、物語の中でだけでも悪を成敗するヒーローになりたいと思うのは、過去未来に限らずいつの世も同じだったのだ。

 

 あれよあれよと自分が大まかな話とルールを作り、KP役を兼ねつつ、佐助衛門、徳之進、菊五郎の3人がプレイヤーとして魑魅魍魎が跋扈する世界で想像上の冒険をすることになった。途中から冒険の道中を記録するために、記憶力が良く、綺麗な速筆ができる同じ貧乏旗本の穀潰しの亮吉が加わった。

 

 その後、さらに現代で言うところのデフォルメの絵を描くのが得意な穀潰しを1人加えて、これまでの冒険の歴史を1冊の本に書き記した。あるときは金を出し合って安いが独特な臭さがある鰯油の灯りのもとに幾夜を過ごし、何日もかけて冒険をしつつ全ての冒険が終わった時は6人全員が腑抜けていた。

 

 それぞれの生家に帰り、再び集まった時に皆それぞれでこれまでの冒険の歴史の本の写本をしていた。とにかく時間をかけてでも綺麗に書きたかった自分が最終的に原本を保管することになった。そこまでは、所謂青春の1ページというものであろうが、その後が悪かった。

 

 自分を含めて我々は貧乏旗本の穀潰しである。であるからにして、もちろん金が無い。金が無いから、ツケをする。ツケなので当然借金だ。借金だから、差し押さえがある。いつも自分よりも景気よく遊んでいた佐助衛門、徳之進、菊五郎の3人は、各々の冒険の書の写本を質に入れた。当たり前だが、その当時では控えめにいって二束三文にもならなかったので、自分がなけなしの金で他の人の手に渡るまでに買い取ろうとしたが、3冊のうち1冊しか買い取れなかった。

 

 

 6人の穀潰しの男の青春の記録が世間に流出した瞬間であった。

 

 

 うわーぐえーと布団の中で現実逃避をしていた彦兵衛は観念して、布団から抜け出し心張り棒を外し、戸を開いた。馴染み商家の辰五郎が目の前にいた。大層儲かっているみたいで、平均的な男よりも控えに言って幾分かふくよかな体つきだった。辰五郎が彦兵衛の顔に自身の顔をずいっと近づかせ、商人特有の愛想笑いで話しかけてきた。辰五郎は儲け話で興奮しているようで、少々鼻息が荒かった。彦兵衛は顔をしかめた。

 

「彦先生、彦先生。辰五郎です。原稿は仕上がりましたか?彦先生のことだから、何か月分かの原稿があるはずでしょうから、早速頂きに参りましたよ」

 

「辰さん!一昨日、新しいお話の原稿を渡したでしょう。物語というものは、ぽっと出てくるものではないのだけれど…。それにそれなりに金が溜まったから、適当に風呂屋へ行ったり飯屋に行ったりして気分転換をしたい。あぁ、そうだ。家賃も払わなければ」

 

「彦先生のお話が人気あるのは、ご自身でも承知しているでしょう。彦先生の原稿を写本すればするほど、飛ぶように売れていくのですから。それに写本作業は彦先生と同じようなお侍さんにお願いしています。皆、内職が出来て嬉しいみたいですよ」

 

 今では生家を出て長屋で独立して人並みよりも良い生活が出来ている彦兵衛は、貧乏旗本の生家での堅苦しい生活を思い出した。同じ境遇の会ったことも無いような人間たちだったが、その苦しい気持ちはよく理解できた。小遣い程度かもしれないが金があると無いとでは、行動できることに大きな差が出る。

 

 彦兵衛は部屋の中に戻ると、しぶしぶ箪笥から一冊の本を取り出し辰五郎に手渡した。

 

「辰さん。今日はこれで勘弁してください」

 

 辰五郎は恭しく原稿を受け取ると軽やかな声で彦兵衛へ去り際の挨拶をした。

 

「大丈夫ですよ。彦先生。しっかりと儲けさせてもらいます。あっ、家賃もそうですが、彦先生達のツケは全部払っておきましたから、次の作品を待っていますね」

 

 辰五郎が去って行く後ろ姿を見送ったあと、彦兵衛は静かに戸を閉めた。周囲からの視線が無くなったことを確認してから、声を抑えながら激高した。あまりの怒りに腕が震えていた。

 

「あいつら!俺の名前でツケやがったな!道理で辰五郎が来るのが早いはずだ。それに楽しみにしていた布団の打ち直しが出来ねぇじゃねぇか!畜生め!」

 

 きーきーと猿のように暴れて叫びたい気分だった彦兵衛だったが、辰五郎に渡した原稿を思い出して冷静になり、今後の予定を考えていた。とりあえず床の板を丁重に引きはがし、慎重に隠されていた箱を取り出した。この箱の中には数か月分の原稿を納めていたのだ。

 

 箱の中身を眺めていた彦兵衛は思った。現状の出稿の頻度を考えるともう少し原稿の余裕が欲しい。この時代には、生命保険とかは無いのだから、病気になった時を考えると、もう少しお金に困らなくなる余裕が欲しい。

 

 そうとなれば、彦兵衛の名前でツケをした不届きものの輩から取り立てなければならない。取り立てるとは言っても、どうせあいつらは金なんぞ持っていないだろうから、体で支払ってもらうことにした。支払えない時はあいつらの冒険の軌跡であるキャラクターシートを燃やしてやろうとも考えていた。

 

 憎きあいつらのキャラクターシートを火付けの道具の近くに置いてから、彦兵衛は乱れた髪を手早く総髪に整え、気持ち程度に身なりを綺麗にしてから我が家である長屋を出た。すぐそばで交通事故みたいなものがあったようで、けが人を適当に治療して、不届き者の行先を幾つか考えたが、あまり見当がつかなかったので、ホンダラダラホイホイといった感じでいつもの馴染みの店から訪ねていくことにした。

 




序章みたいな部分の3話まで書きました。それ以降は、(;'∀')
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