彦兵衛の気の迷い~がばがば江戸時代遊興物語~   作:貯金缶

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江戸時代を調べていると、どの時代というかどの年号が人気なのかよく分かりません。


第二話

 えーじゃないか、えーじゃないかと適当に考えながら、馴染みの漬物屋に彦兵衛は向かっていた。そろそろ白瓜の漬物ができているはずだから、ツケの犯人探しもそうであるが、酒のつまみについでに買いたかった。彦兵衛にとっては、漬物は飯を食う時には絶対に必要であるし、酒の肴にも絶対に必要だった。漬物のあのパキッとかシャキッとした食感がなんとも言語化できないが、兎に角良い。この漬物屋には色々と江戸時代ではないような漬物について、その製法を惜しみなく伝えていたので、対面ならば買うと言っても殆ど無料で漬物が買えた。ただし、彦兵衛の名前でツケをされると、通常の料金で彦兵衛が金を払わなければならないのは当然のことである。

 

 今しばらく歩いていると目的の漬物屋についた彦兵衛であったが、あいにくと不届き者を捕まえることが出来なかった。漬物屋の主人によると沢庵を買って馴染みの居酒屋に向かったらしい。仕方が無いので、旬の白瓜の漬物を買ってから、これまた馴染みの居酒屋へと彦兵衛は歩みを進めた。ついでに、お話の中で登場させる見返りの袖の下として、漬物屋から大層綺麗な沢庵を貰った。これ絶対美味いやつだと彦兵衛は、ちょっとだけ歓喜した。

 

 不届き者を追っているという態で適当に歩いていた道中で色々な店から袖の下を貰っていた彦兵衛にそそくさと近づいてくる人影があった。見知った人間であったので、彦兵衛はそのまま道中で貰った干し柿を食べながら耳を傾けた。その様子を見た人影から話し声が聞こえてきた。

 

 「彦先生、彦先生。お探しの人達を見つけましたよ。ささっ、手前の後について来てくだされ」

 

 「はいはい、よろしく頼むよ」

 

 「ではでは、こちらへどうぞ」

 

 見知った人間である岡っ引きに連れられて、彦兵衛が考えていた場所に辿り着いた。まぁ、結局のところ、いつもの居酒屋であった。いつものように不届き者の3人がいつもの店先の席に座り、いつものように酒を飲んではしゃいでいた。彦兵衛は岡っ引きに謝礼を渡し、ついでに辰五郎への言伝を頼み、いつものように足元の小石をいくつか拾って、貴様らの避ける方向なんぞ分かっているぞと思いつつ投げつけた。不届き者は避けたと思ったようだが、見事に3つの小石が3つの頭に当たった。

 

「あっ、痛っ。彦兵衛さんよ。もう少し手心というものがあればいいんじゃねいかい」

 

 「さてさて、頭に小石が小突いた諸君。私に言わなければならないことがあるだろうが、今の私は小石が上手いこと当たってとても気分がいい。それに我々の共用の財布があったはずだが、この様子を見るに使い切ったみたいだな」

 

 彦兵衛は投げずに済んで手の平に残った小石をお手玉のように投げ上げてそのまま受け取るように扱いながら不届き者の弁明を待った。

 

「応とも!財布の中身はすっからかんだ!それに儂らのツケだと信用が無くてねぇ。仕方がなく彦兵衛の名前を借りてるだけだから。そんなに怒らないでもいいじゃないか。きちんと返すよ」

 

 その言い訳に彦兵衛は我慢しながら、これで何回目になるのか憶えていないが、いつものように最後通牒を行うことにした。

 

「ふむふむ、相分かった。三日待つ。金か体で支払え。とりあえずは、最近やった卓上遊戯の諸君の登場人物の紙を破くから、きちんと考えてくれたまえ」

 

 彦兵衛はそう言うと小石を後ろに投げ捨て、懐から取り出した紙束を不届き者の目の前で破った。破り千切られた紙片はつむじ風にのって散らばっていった。

 

「やべぇ、儂らの彦兵衛が怒髪冠を衝いてるぞ!わははっ」

 

 徳之進がおちょこで酒をあおりながら、おおげさに驚いたような姿で飄々としていた。その一方で佐助衛門と菊五郎は、彦兵衛が破いた紙片の数々に飛びついて中身を検めていた。もちろん二人の目の中には、自分の筆跡の卓上遊戯の登場人物の内容が断片的に書かれていた。その悲惨な状態が分かってしまった菊五郎が叫んだ。

 

「徳之進!俺の息子も死んだし、折角大名に嫁いだお前の娘も仏になったぞ!」

 

「僕の妹がまた死んでしまった。いや、まだだ!まだ、つなぎ合わせればなんとかなるはずだ」

 

 無駄だというのに、既に風に流れて散らばってしまった紙片をかき集めている佐助衛門だった。

 

 ちゃっかりと居酒屋から酒を買って、二人の狼狽している姿を酒の肴としつつ、店先の徳之進の隣の椅子に座っていた彦兵衛は上機嫌に語り掛けた。

 

「やってみせろよ、佐助衛門!」

 

「なんとでもなるはずだ!」

 

 佐助衛門が根拠なく叫んで答えた。しかし、菊五郎は冷静に佐助衛門を諭した。

 

「いや、佐助衛門。もうどうにもならんぞ。ところで、彦兵衛、いつもなら写しがあるはずだが、幾らだ?」

 

「今晩の味噌汁の温めなおしの火付けで、もしかしたら消えてなくなるかもしれないねぇ。そろそろ亮吉が私の家に来て味噌汁を集りにくるはずだから、私にはどうしようもない。いや~、残念だねぇ。こればっかりは仕方がないねぇ」

 

 何かを期待するように彦兵衛は、ちらちらと目線を動かした。

 

「分かった。佐助衛門と俺は体で支払う。頼む。俺たちの家族を助けてくれ」

 

「諸君ら二人はそう言うと思って、運が良ければ辰五郎が証文代わりに保管してくれるよ。ただ、あの徳之進は駄目だね。いつものように死んだよ」

 

 さもあらんといった感じで隣に座っていた徳之進は彦兵衛のツケで追加の酒を頼んでいたが、彦兵衛はその様子を横目で見ながら適当にデコピンをした。その徳之進の額は厚かましかったので、彦兵衛はちょっと指先を痛めた。

 

 これまでの一興を見ていた群衆の中から町娘が飛び出してきた。またいつものかと思いながら、彦兵衛は優しく尋ねた。ついでに両腕を広げ、町娘の通り道を遮るように立ちせんぼをした。

 

「はいはい、お嬢さん。お触り厳禁だよ~」

 

「徳之進様!いつも応援しています!スズメの涙位少ないですが、このお金を借金の返済に充ててください」

 

 彦兵衛の制止をなんのそのと振り払い、町娘が徳之進に金の入った巾着袋を差し出した。徳之進は巾着袋を町娘に押し返して、仰々しく伝えた。

 

「お嬢さんのご慈悲は大層助かるが、俺様はきっちりきっかりと自分の力で彦兵衛に金を返してみせる!」

 

 その啖呵に周りの群衆は、いいじゃねえかといった感想を言い合いながら解散していった。借金を返してもいない男なのに、人相が良ければここまで問題無いように扱われるのは、江戸らしいと言えばいいのかよく分からなかったが、ただ、なぜか自分が悪者扱いされている気分で彦兵衛は、ちょっと落ち込んだ。

 

 気を取り直して彦兵衛は拍手を鳴らして、不届き者達にこれからの予定を伝えた。

 

「ひとまずは、諸君。明日は風呂にでも入って身綺麗にしてから私の家に来い。話はそれからだ。分かったな。では、解散!」

 




アイデアはあるのですが、江戸時代を調べていると結構先取りされています。
野菜と魚の合戦の絵巻とかどういうことなんだよ。
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