リコリコ常連系リコリス【完結】   作:Iteration:6

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どうも、初めまして。リコリス・リコイルを全話一気視聴し、リコリス・リコイル Ordinary daysを一気読みし、可笑しくなったテンションで書き殴りました。

とても遅筆ですので、ゆっくりお付き合いいただければ幸いです。アニメ二期が待ち遠しいですね。


本編『ヒューマニスティック・アプローチ』
第一話『安息は休息と共に』


 東京の東部、墨田区錦糸町の下町を一人の少女が軽やかな足取りで歩んでいた。彼女は岩鏡(いわかがみ)ヒメコ。その目的は、喫茶リコリコである。駅から少し歩いた場所にあるお洒落なその喫茶は、彼女の行きつけの店だった。

 

「こんにちはー」

「いらっしゃいませー。あ、ヒメコちゃん!」

 

 扉を開けると、さっそく店員の一人がヒメコを出迎える。彼女はすっかり常連なので、店員から顔も名前も覚えられていた。尤も、ヒメコと店員達の一部には喫茶リコリコで出会う以前から面識があるのだが。

 

「今日もいつものかな?」

「はい、ミカさん」

 

 カウンターの奥から物静かな声がする。店長のミカである。黒い肌をして和服を纏った彼は、否応なく目を引く見た目をしていた。ただ、ヒメコにとっては馴染みの顔であり、それを奇異の目で見ることはない。

 

「はい、メニュー。甘味はどうするー?」

 

 洋風でモダンな外装が目につく店舗からは意外だが、店員は皆和風の制服に身を包んでいる。和洋折衷という奴だろうとヒメコは捉えており、そうした雰囲気も悪くないと彼女は思っていた。

 

「うーん、じゃあ、クッキーで」

「くうー! ヒメコちゃんさぁ、一回和菓子にチャレンジしてみようよ!」

 

 淡い黄金色をした白髪に赤リボンをつけている少女が、メニューを手にしてヒメコに詰め寄る。彼女は錦木千束(にしきぎちさと)。喫茶リコリコの看板娘の一人である。その手には、おはぎやモナカ、果ては落雁まで記載されているメニューがあった。コーヒーと和菓子が同居するメニューを前にして、ヒメコは苦笑する。

 

「ごめんね千束。ほら、私は保守派だからさ」

「人生はチャレンジの連続だよ。一歩踏み出さないと!」

「こら千束、お客さんの注文に文句をつけてはいけないよ」

「先生までそんな事言っちゃダメでしょ〜。お客さんにはジャンジャン新メニューを注文して貰わないと。だから、無料で試食して貰うのも悪くなくない?」

「千束〜、そうやってタダで甘味を出すとたきなに怒られるわよ。彼女、しっかり店の収支を把握してるんだから」

「もー、大丈夫だよ。ちょっとぐらいならバレないって。それとも、ミズキはたきなさんが怖いのかなー?」

「ふん、ガキらしい挑発なんて無駄よ。勿論怖いわ。怒らせたら次の賄いがどうなるか分かったもんじゃないのよ」

「それは……そっか〜」

「分かったら諦めていつもの出してやりなさいよ」

 

 カウンター席の片隅で、お猪口と徳利を広げて中原(なかはら)ミズキは飲酒を始めた。彼女は喫茶リコリコの店員の一人なのだが、稀に営業時間中にまで飲酒に及ぶ酒呑みである。美人な顔立ちや知的さを感じさせる垢抜けない眼鏡も、その紅潮した酒臭さには敵わない。残念美人、そういう類の人間だろう。

 

「ほら、いつものだよ。千束は」

「分かってるよ先生。いつものクッキーでしょ」

 

 ミカは、アメリカンコーヒーをヒメコに差し出した。一方千束は、渋々と言った様子で店内の奥に姿を消すと、ショートブレッドクッキーをヒメコが座っているカウンター席に届ける。

 

「ほんと、いっつもおんなじコーヒーにおんなじクッキーだもんねぇ。新メニューもあるのに頼んでくれない! これは由々しき問題ですよ先生!」

「ふふ、そういう人も居るんだよ千束。変わらないものを愛おしむのは悪いことじゃない」

「そうだぞ千束。何もかも忙しない世の中なんだから、口に入れるものぐらい変わらず豊かなものであって欲しいだろう」

「お爺ちゃんとお婆ちゃんか己らぁ! 若さが足りんぞぉ!」

 

 ビシィと、ミカとヒメコを指差す千束。するうち、店の扉が開いてベルが鳴る。店員の二人は来客に対応しようと視線を向けたが、入店してきたのは客ではなかった。

 

「店長、買出し完了です」

「お疲れ様、たきな」

「はい。ヒメコさんもいらしてたんですね。ごゆっくり」

 

 黒く長い髪をした彼女は、喫茶リコリコの看板娘のもう一人である井ノ上たきなだ。彼女は、ヒメコに軽く会釈して買出しの荷物を店の奥まで運んでいく。

 

「おお、帰ったのかたきな。お前もゲームやるかー?」

「はい。時間が空けば参加します」

「なら後で準備を手伝ってくれ。ボクだけだと手間取りそうなんだ」

「構わないよたきな。今はお客さんもヒメコだけだ。手伝ってあげなさい」

「はい、店長」

 

 白い肌をしていて、金髪碧眼の幼女が座敷席でゲームのセッティングをしていた。なんでも、常連客とのゲーム会が定期的に開かれているらしい。そのゲームマスター兼プレイヤーであるクルミは、全く謎の存在だった。

 どう見ても日本人ではないが日本語に堪能で、幼さを感じさせる見た目ながら子供らしくない物言いが多い、大人びた子だった。ヒメコも彼女の事は詳しくは知らない。ただ、ミカ曰く訳アリの居候であるらしく、深く詮索はしない事にしていた。そう、この喫茶には訳アリが多いのだ。ヒメコもまたそうである。

 

「ヒメコも参加するかー?」

「勿論です。クルミちゃんのゲームはいつも面白いからね。今日は何のゲームなのかな?」

「ふふふ、見て驚け! これだ!」

 

 クルミは自慢げにTRPGのルールブックを見せびらかす。

 

「絶版になっていて入手困難なTRPGのルールブックのデータをネット上で漁って書籍化したんだ。このサルベージされたルールが織りなす失われた世界を共に体験してみようじゃないか」

「それって著作権とか大丈夫なの?」

「なーに、リコリコで使うだけさ。売り出す訳じゃないし気にするな」

 

 サイコロやらキャラシートやらを用意しながら笑顔を浮かべるヒメコと、仏頂面のたきなを千束は見ていた。特に、現在の彼女の関心はヒメコにある。

 

「ふむ、このキャラシートというのは、つまりプレイヤーの分身(アバター)のプロフィールなのですね。なら、私は喫茶店の店員としましょう。ですが、裏の顔は暗殺者(アサシン)と」

「おいおい……」

「冗談です。射手(アーチャー)の冒険者にします。ヒメコさんはどうしますか?」

「私は騎士(ナイト)にしよう」

「ならボクは魔法使い(ウィザード)だ。ふむ、中々バランスの良いパーティーになったな」

 

 千束は三人の輪に入りたい気持ちをグッと堪えて、ミカにヒソヒソ声で語りかける。

 

「ねえ、ヒメコの様子に変なとこない?」

「いいや、至っていつも通りに見えるぞ」

「可笑しい様子って言ったら、あの子が初めてリコリコに来た時が一番可笑しかったわよ」

 

 座敷席には届かないように声量を抑えて、ミカと千束とミズキの三人はヒメコを見やる。リコリコでは、実はヒメコは要警戒対象だったのだ。

 

「ともあれ、暫くは様子見だな」

 

 スパイか! やはりスパイなのか! 千束は洋画のスパイ映画に被れたような仕草でヒメコに疑いの視線を向ける。だがそれも、クルミ達と楽しげにルールブックを眺めている彼女を見て揺らいでいた。

 

「ほら、やっぱり騎士は防御スキルが豊富だ。防御を積んで庇う。仲間には傷一つ付けさせない構成。これが最適解だな」

 

 

 

 

 

 常連客とのゲーム大会も好評の内にお開きとなり、閉店時間も過ぎてお客さんが帰った後の店内で、リコリコのメンバーが顔を突き合わせて相談し合っていた。

 

「やはり異常だぞ。ボクは詳しくは知らないが、DAと言うのはそんなに暇なのか?」

 

 DirectAttack、通称DA。それは、日本の治安維持を目的とした秘密組織だ。犯罪者達を極秘裏に抹殺する事で平和を守る、超法規的な権限を有する組織であり、喫茶リコリコもその一支部といった立ち位置であった。

 

「いや、そんな筈はない。最近も楠木は忙しくしているようだ」

 

 ミカは、眼鏡を掛け直しながらクルミに答えた。DAの元訓練教官であった彼には、DAの現司令官である楠木とのパイプがある。曰く、DAが殊更に暇をしているなどと言う話は古今東西絶無であるらしい。

 

「そりゃそうよ。延空木でアンタらが派手にやってからの後始末もあるでしょうしね」

 

 元DAの情報部員であったミズキは、自らの経験談を元に言う。大抵の場合、大事件が起こった後は泉に石が投げ込まれた後のように、波紋が尾を引くものであると。

 

「アタシらは一番忙しい時期はハワイにおさらばしてたけど、本部勤めのエリートさんらは気の毒ねぇ」

「ヒメコさんは、リコリコの定休日を除いて丸一ヶ月も毎日来店されています。やはり、クルミの言う通り異常です。千束もそう思いませんか?」

「う〜ん、怪しいねぇ。ヒメコちゃんは常連客だし怪しむのも悪いけど……やっぱり怪しい!」

 

 千束とたきなはクルミに同意した。DAのエージェントであるリコリスとして多くの任務を経験してきた二人にとって、やはりヒメコはどう見ても怪しかった。

 

「だってさぁ、DA関東本部・東京支部所属のファーストリコリスでしょ? エリートもエリート、出世街道まっしぐら、仕事塗れのモーレツ社員みたいなもんよ。一カ月もずっと喫茶店に真っ昼間から居座れるようなご身分じゃないわ」

「ミズキもそう思うかぁ〜。実際、本部にいた時は私もそれなりに忙しかったし。いやぁ、懐かしい」

 

 普段はジーンズにシャツというラフな格好で、飾り気もなく黒髪をポニーテールにして纏めているヒメコ。しかし、その実は凄腕の暗殺者であり秘密組織のエージェントなのだ。やっぱり映画みたいでかぁっくい〜! 千束はそう笑顔を見せるが、面々は呆れ顔だ。

 

「ミカ、もう構わないだろう。最悪、楠木かもっと上が千束を監視する為に送り込んできたスパイかもしれん。ボクに任せろ」

「しかし、先ずは楠木に聞いてみるのが先だろう」

「ふむ、ならこうしよう。ボクはDAのシステムに侵入してヒメコについて調べる。ミカは楠木に話を聞いてくれ。彼女の証言とボクが調べたデータが合致すれば白。そうでなければ……」

「ああ、分かった」

 

 苦い顔をしたミカの返答を聞いたクルミは、リコリコの押入れ上段へ向かった。そこは彼女の居住スペースであり、ハイテクなマシンが鎮座している。インターネット黎明期から活躍する最強のハッカーである彼女は、DAが誇る最強のセキュリティを難なく破って情報を収集していった。

 

「流石はDA、それもファーストの情報はガードが硬いな。それでも、ボクを阻むには力不足だ」

「アンタ、よくやるわねー。もしバレたら殺されるわよ」

「身をもって知ってるさ」

 

 ミズキはピックアップされたプロフィールデータを見て首を傾げる。クルミもまた目を細めた。

 

「え、これマジ?」

「データ上ではマジだな」

「……信じられないわね」

「ミカの方がどうなったか見に行こう」

 

 ピョコンと、ノートPCを手にして押し入れから飛び出したクルミはミカの元へ向かう。一方、ミカは備え付けの黒電話を手にして眉を顰めていた。何度か確認を取ってから受話器を置いた彼は、目に入るようにクルミが掲げるPC画面に目を通して、そして頷いた。

 

「ああ、そうだ。楠木からもそう聞いた」

 

 千束は画面上の表示を目にして絶句し、油が切れた人形のように首を回してミカに問いかける。きっと信じられないのだろう。

 

「先生、ホント?」

「ああ、詳しい経緯は機密だと教えてもらえなかったが、そうだ」

「ウッソでしょ……」

「どういう事ですか? 私にも見せてください」

 

 たきなは、クルミの手からPCを受け取ってディスプレイに目を通した。そこには、ヒメコのプロフィールが顔写真付きで表示されている。

 

 

 

 

 

 岩鏡ヒメコ、DA所属、ファーストリコリス

 

 ステータス:休職中

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