リコリコ常連系リコリス【完結】   作:Iteration:6

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アニメ二期が待ち遠しいので番外を書きました。


番外『コーヒートーク』
『心中お察し致します』


「あ、ヒメコちゃん! 仕事帰り?」

「そうだ。千束とたきなは──ライセンス更新の時期でもない筈だが」

「楠木さんが模擬戦に出ろってうるさくてね〜」

 

 ヒメコは、DA本部の廊下で千束とたきなに偶然出会った。千束の模擬戦など結果は目に見えているが、楠木司令が直に彼女を呼び出すとは珍しい。ヒメコは首を捻り、怪しがる。

 

「模擬戦か。千束は出禁じゃなかったか?」

「まっさかぁ。まあ、普段は敬遠してるけどね。あんまり面白くないからさ」

「そう言えばヒメコさんは、まだ寮で生活されているのですか?」

「いや、リコリスの寮は出て近場に宿を取っている」

「そっか、じゃあ引き止めちゃ悪いね」

「先輩! 今日は私の寮でゲーム会ですよ!」

 

 ご覧の通りだ、と。やって来たスミレを見てはにかんだヒメコは、歯切れを悪くして言う。

 

「最近はスミレの寮に通ってる。仕事が遅くなった時に泊めてもらったのがキッカケだったんだが……」

「へぇ〜、あんまり遅いと帰るの大変だからね。お泊まり会って訳だ。楽しそうだね!」

 

 頭を抱えるヒメコを見て、何故そんなに決まりが悪そうにするのかと、たきなは率直に疑問を口に出した。しかし、千束は彼女を引っ張って場を離れると、ヒソヒソ声で言う。

 

「ほら、ヒメコちゃんってもうリコリスを辞めたじゃん。なのに、元相棒の寮に入り浸ってたらどんな風に見える?」

「別にどうにも。情報部勤めでしょう? 職場の近くで寝泊まりするのは合理的ですし、DA本部内の寮に宿泊するのは理に適っているかと」

「も〜、たきなは頭が硬い! カッチカチだね!」

 

 呆れて何事かを諭そうとする千束。しかし、そんな四人の元に楠木司令が顔を出す。

 

「DAの情報部員とは言え、部外者が寮に屯するのは宜しくない。いっそリコリスに復帰するか? そうすれば誰も気にはせん」

「なるほど、だから人目を忍んでいたのですね」

「楠木さんも頭が硬いなぁ……」

「お前の模擬戦の結果は相変わらずだな。さっさとDAに戻って来い。人材は常に不足している。と言っても、暖簾に腕押しか」

「べ〜」

 

 千束は悪戯げに舌を突き出すが、楠木は鼻で笑って気にもしない。心臓を二度も取り替えたにも関わらず、千束の生意気は健在だった。正しく鋼の心臓である。

 

「千束の模擬戦ですか。彼女の戦い方は誰の参考にもならないですし、勝敗も明らかでしょう。何故、彼女を本部に呼び出したのですか?」

「なにおう! ヒメコちゃん酷い事言うねぇ。ちゃんと、後輩達の手本になるように先輩らしく戦ったもん」

「そうだな。千束はまるで参考にならん。というか、あれを参考にすれば先ず間違いなく死ぬ。こいつを呼んだのは単なる実力の再確認だ」

「え〜……」

 

 目に見えて落ち込む千束。しかし、彼女の戦い方はあまりに非常識であり、模倣の対象にできるものではない。他人に継承不可能な技術を才能と呼ぶならば、彼女のそれは正にそれそのものである。

 

「千束さん頑張ったのになぁ……。たきなは私の活躍見てたでしょ!?」

「しっかり見ていましたよ。複数人の一斉射撃による弾幕を正面から躱しきり、相手の弾薬が尽きてから悠々と一人ずつ射殺していました。あれは、何かしらの示威行為ですか?」

「鬼っすね……」

 

 スミレはドン引きした。

 

「いやいや、やっぱり先輩らしく格好良いとこ見せたいでしょ? いや〜久しぶりに張り切っちゃったね〜」

「馬鹿野郎。あれは蹂躙とか、虐殺とか、そういうんだろ。お前の頭の中の先輩らしさはどうなってんだよ」

「あ〜? この上なく先輩でしたけどぉ? あれ、サクラちゃんは?」

「お前がさっきの模擬戦でペイント弾塗れにしただろうが」

「マジで? それはごめん。大丈夫だった? 怪我とかしてない?」

 

 春川フキもまた、千束達の雑談に顔を出した。フキは呆れ果てた表情をして愚痴を漏らす。

 

「司令、こいつにはマジで手加減ってもんを教えるべきですよ」

「いいや、問題なのは千束の強さではなく、それに対抗し得るリコリスが存在しない現状の方だ。しかし、先の模擬戦はあまりに一方的だった。そうだな……」

 

 楠木は思案した。そして発案する。

 

「バランスを取ろう」

 

 

 

 

 

「かなりシッカリした拘束だな」

「本番を想定しないと訓練の意味が無いからね。ほら、猿轡もするよ」

 

 ヒメコは、屋内戦闘訓練場の一室で両手足を結束バンドで縛られ、猿轡をかまされていた。模擬戦の人質役として、彼女に白羽の矢が立ったのだ。

 

「さ〜て、人質の見張りは任せたよ」

「千束はどうするんですか?」

「私は遊撃だよ。人質奪還に来たフキたちを排除してくる。たきなは此処を守って。もし何かあったら直ぐ助けに来る」

「分かりました。どんと任せてください」

「ふふ、頼りにしてるよ〜」

 

 映画の悪役のように悪どい笑顔を浮かべて、千束はフキたちを探し始めた。訓練場を見下ろせる監視室からは、楠木とその助手が模擬戦の趨勢を注視している。彼女は、千束の有用性を示したかった。

 延空木の一件の後に、千束は新しい心臓を手にいれた。だが、人間は人形ではない。電池を入れ替えるようにはいかないのだ。上層部は訝しんでいた。手術後の彼女はこれまで通りの実力を発揮できるのか、と。

 

「今の千束には、セカンドやサードが束になっても敵わなかった。成る程、ファーストだ。だが彼女はその程度ではない」

「以前のリコリコへの依頼では十全な活躍だったそうですが」

「所詮は銃を持ったチンピラと傭兵崩れが相手だ。試金石とするには温過ぎる」

「それで、フキとスミレのコンビと、千束とたきなのコンビの模擬戦で真価を見定めようと言う訳ですか?」

「そうだ。ファーストのコンビが敵わなかったと言えば、千束は未だ有用だと上は理解する」

「……何様のつもりでしょうか?」

「おっと、沈黙が金だぞ」

 

 楠木は内心で同意しながら助手を嗜めた。直にここに来て千束の戦いぶりを見れば疑いも晴れるだろうに。データしか信じない相手を納得させるのは面倒だ。

 

「ともあれ、今は観戦を楽しもうじゃないか。実戦では有り得ない公平公正な一戦だ。スポーツと言っても過言ではない。ちょっとしたサバイバルゲームだな」

 

 千束たちの勝利条件は、人質を確保しつつ敵を排除する事だ。一方、フキたちの勝利条件は、人質、又は、敵の排除である。

 

「人質の排除が勝利条件なのですか? 救出ではなく?」

「情報部員の人質だ。どんな機密が漏洩するか分かったものではない。故に、口封じの成功も勝利と見做す」

 

 

 

 

 

 模擬戦が始まり、スミレは部屋から部屋へと移動していく。フキとは二手に別れて人質を探す事にしたのだ。彼女達の目的は人質の排除だった。千束を倒す事よりも、より現実的な勝利方法を選択したのだ。

 

「勝てる訳ないし、会いたくないっすねぇ……」

 

 模擬戦では、全員がベレッタM9を使用していた。それは、セミオートマチック式の拳銃であり、ペイント弾が装填可能なように手が加えられたものだ。つまり、千束には当たらない。

 スミレは溜息を吐いた。千束相手にこの装備は有り得ない。類稀な観察力と動体視力で相手の動作と射線を読み切る彼女には、徹底的な面攻撃を加える他ないからだ。散弾銃かグレネードが欲しいっすね。可能なら訓練場の照明も全部落として暗視ゴーグルを使いたいっす。まあ、無理っすけど。

 

「悪い子は居ねが〜? 何処かな〜?」

 

 ナマハゲかよ。スミレは、物陰に身を隠して千束を睨み付ける。現状、彼女に有効な攻撃は意識外からの急襲、即ち不意打ちだけだ。もし発見されれば、正面からの銃撃戦へ移行し、間違いなく敗北する。奇しくも、千束相手の戦いは鬼ごっこや隠れんぼに近い。

 模擬戦の舞台は入り組んだ廊下と部屋が連続する構造になっており、各所に障害物やカバー、バリケードが設置されていた。隠れる場所には困らないが、隠れてばかりでは何れ見つかる。

 

「出てこ〜い。お前達は包囲されている」

 

 芝居がかった調子で千束は声をあげていた。彼女の声を辿ってきたフキが、スミレの反対側の物陰に隠れている。舐めてんじゃねぇぞ、ぶっ潰してやる! いやいや、落ち着いて下さいっす……。

 アイコンタクトと手ぶりで意思疎通する二人は、意見が分かれた。結局、フキは千束に不意打ちを仕掛け、スミレが人質を捜索する段取りで動き出す。物陰から飛び出した二人は、千束と、部屋の出口へとそれぞれ駆け出した。

 

「うひゃあ! キタキタ〜!」

 

 フキの正確無比な背後からの不意打ち。キッチリ仕留められるよう放たれた三発の弾丸を、千束は第六感と呼んでも過言ではない反応で回避した。実際には、彼女は間一髪で衣擦れの音に気付いて、フキを視界に捉える事に成功していた。舌打ちをしてフキは悪態をつく。テメェは背中に目でも付いてんのか!

 

「わぁっと……」

 

 千束相手に尋常な射撃は意味を為さない。不意打ちに失敗した時点で、フキの思考は足止めへとシフトしていた。千束の視界の端に、スミレが人質の探索の為に部屋を飛び出していくのが映る。

 

「たきな! スミレが人質を探してる!」

 

 フキが放つペイント弾を鮮やかに躱しながら、千束はたきなと通信を取る。

 

「余裕だなぁオィ! 舐めてんじゃねぇぞ!」

 

 心は熱く、しかし頭は冷たく、フキは怒りながら冷静に、千束に対して絶え間なく発砲する事で射撃の隙を与えない。それは、本来であれば致命傷になり難い下半身や、銃を構える腕へ向けた射撃だった。勿論、フキがリコリコの面々のように不殺主義に染まった訳ではない。

 

「リコリスの養成所や日々の訓練では、対象の急所を撃ち抜く術を学ぶ。人体の上半身には重要な臓器が存在し、頭部は言わずもがなだ。だが、あの射撃はそうしたセオリーからは外れている」

「千束の体勢を崩そうとしている、ですか?」

「そうだ。銃弾を躱される事を前提とした牽制。対千束に特化した射撃だ」

 

 フキは千束との模擬戦では負け越していた。彼女はダントツの最強で、敵わないのは無理もないと他人は言う。それでも、フキは彼女に挑む事を厭わず敗北を重ねていた。敗北は糧になる。だが、糧は喰らわなければ身につかないし、放っておいても腐るだけだ。

 敗北を恐れない強さと、苦渋を味わう覚悟を兼ね備えたフキにとって、千束はいつか負かすべき相手だった。心臓が手に入ったって? そりゃあ良かった。勝ち逃げはさせねぇ。

 

「うっひゃあ……」

 

 堪らずカバーに入って千束は射線を切る。彼女は、15発分の発砲を数えたタイミングでカバーから飛び出して、アイソセレス・スタンスで拳銃を構えた。両手で銃器を握り、腕を完全に伸ばして銃を安定させたスタンスだ。特に正確な照準が可能な構えで、弾倉を空にしたフキを狙い撃ちするのが目的だった。しかし──

 

「っう!?」

 

 フキは、千束の目の前にいた。カバーに身を隠さずに、超低姿勢の高速移動で一気に距離を詰めていたのだ。本来近接格闘の間合いが十八番である千束に対して、逆に接近戦を挑むと言う意表を突き、伸ばし切られていた彼女の腕を掻い潜ってフキは懐に潜り込む。

 

「やるねぇ」

「この……」

 

 千束は、フキの殴打を紙一重で回避した。銃撃を回避する相手だ。拳を命中させるのもまた至難。千束は微笑みながら身を躱す。

 

「まるでアクションヒーローだ」

「スクリーンに帰りやがれ!」

 

 フキは拳銃を千束に向けて投げ捨て、両手で彼女に掴みかかった。自ら武器を捨てた予想外のフキの動きへの動揺と、投擲物に対する反射的な回避で一拍遅れた千束は、両手首を掴まれて力尽くで銃口を逸らされる。

 一瞬の膠着状態の後に、フキは力なく項垂れて千束から手を離した。自らの背中にペイント弾が命中したからだ。振り向くと、そこにはフキに銃口を向けているたきながいた。

 

「ナイス、たきな!」

「バカが……お前、人質を放って来やがったのか。此処にお前らを誘き出せたなら私達の勝ちだぞ。スミレが人質を」

「いいえ。人質は隠して来ました。千束、スミレさんも早く倒しに行きましょう」

「オッケー、ささっと行っちゃおう!」

 

 困惑した表情のフキを置いて、たきなは千束を連れて人質の隠し場所へと向かう。全てを監視室から俯瞰していた楠木は、目を閉じて沈黙した。

 

「あの〜……人質を隠すのはOKなんですかね?」

「当然だろう。寧ろ、隠さない方が可笑しい」

 

 楠木は、鼻で笑って観戦を続ける。存外彼女は、たきなと気が合うのかもしれない。

 

 

 

 

 

 フキが千束とたきなを引きつけている間に、スミレはフィールドの各所を虱潰しにしていた。しかし、一向にヒメコは見つからない。フキが脱落した通信を受けて焦りを隠せずに、息を切らしながらスミレは捜索を続けるものの、遂にその時が訪れる。

 

「クソ!」

 

 廊下で前後からの挟み撃ち。人質の捜索を優先していた為に、スミレは不意を打たれた形となった。彼女は千束を目にして咄嗟に障害物に身を隠したが、その姿はたきなから丸見えだ。

 一瞬、スミレとたきなの視線が交錯する。既に銃を構え、狙いを付けているたきなを見て諦めた彼女は、力なく銃を置いた。たきなは一切の躊躇いなく引き金を引き、彼女の頭部を撃ち抜く。

 

「ははは……負けっすね」

 

 新品のマグカップに淹れたてのアメリカンコーヒー。下ろし立ての制服とピカピカに磨いたローファー。身嗜みに気を遣えば自然と活力は湧いてくる。スミレなりのそうした習慣は、彼女をベストコンディションに保っていた。

 自分には負ける理由がない。そう言う時は大抵、原因は自分の外側にある。千束。神々の寵愛を一身に受けた才能の塊。太陽のように暖かく、熾烈で、手の届かない存在。この上もない理由。だが──

 

「それでも……楽しかったっす」

 

 そんな事は百も承知で挑むのだ。敗色濃い難敵に、全霊を持って臨めるこの僥倖。その上、公平公正且つ、勝ち負けに生き死にの関わらない何処までも平和なゲーム。これを楽しめずに、一体何を楽しめるだろうか?

 

「で、人質は何処っすか?」

「私も気になる〜! ヒメコちゃん何処に隠したの?」

 

 模擬戦が終了し、たきなに連れられた三人はヒメコが隠された部屋へと案内された。なんの変哲もない場所だったが、たきなは障害物として設置されていたドラム缶の天蓋を外す。

 

「え〜……ちょっとズルくない?」

「せ、先輩……」

「てめぇイカれてんのか」

 

 三者三様の反応を見せた三人をよそに、ドラム缶の中に詰め込まれていたヒメコが引き摺り出された。彼女は身じろぎ一つ出来ないように、全身の各所を縛られている。千束と別れた後に、たきなが追加で施した拘束であった。

 

「今回の模擬戦は殆ど護衛任務です。人質の死が私たちの敗北条件ですから、隠さない訳がありません。妥当な判断です」

「リコリコじゃあ護衛対象をドラム缶詰にするのか? 相変わらず滅茶苦茶だな」

「命、最優先です」

「この過剰な拘束はどういう意図っすか」

「下手に動かれるとお二人にバレてしまうので、動けないようにしました」

「いやぁ、ごめんねぇヒメコちゃん。筋違えたりしなかった?」

 

 ヒメコの拘束を解きながら千束は苦笑する。たきな特有のやり過ぎである。だが、筋は通っていて利もある。あまりに過激だが、間違えた事はしない、たきならしいやり方だった。う〜ん、たきなは悪い事はしないんだけどねぇ。加減を知らないからねぇ。千束さんは困っちゃうな〜。

 

「体が痺れて動かん……。肩を貸してくれないか」

「だ、大丈夫っすか」

 

 スミレが肩を貸し、全員は屋内戦闘訓練場を後にした。

 

 

 

 

 

「悪いねぇフキ。ま〜た私の勝ちだ」

 

 模擬戦の賞品として、色彩豊かな金平糖の詰まった瓶を手にして千束は笑う。ふっふ〜、こいつは美味いのだ。

 

「ふん、次は勝つ」

「リベンジマッチはまた今度ね〜。今日は早く帰らないと日が暮れちゃう」

「手遅れですよ千束。今から帰っても閉店に間に合いません。それどころか、日付が変わるまでに都内に戻れるかどうか……」

「もうそんな時間!? あちゃー……」

「兎に角、店長に連絡を入れます」

 

 たきなはスマホでミカに事情を話し、千束に結果を伝える。

 

「明日は休みを取って構わないそうです。ゆっくり帰ってくるなり宿を取るなり自由にしろと」

「ふ〜ん。ねぇ、楠木さん」

「分かっている。元はと言えば模擬戦の為に私が引き留めた所為だ。宿泊費なり交通費なり好きに申請しておけ」

「さっすが楠木さん。太っ腹だ」

 

 千束は笑顔で手を振って去って行った。元気一杯だ。戦利品の金平糖を引っ提げて、凱旋するかのようだ。

 

「じゃあ、寮で待ってるっすね」

「いや、私も一緒に行こう」

「うわぁ、跡が残ってるっすねぇ」

「直に消えるさ」

 

 ヒメコたちも場を後にし、残された楠木とフキの間に奇妙な沈黙が横たわった。フキは言い出しにくかったが、意を決して口を開く。

 

「ヒメコの奴は、情報部で上手くやってますか?」

「問題は聞かない。気になるのか?」

「あんなでも、昔馴染みですから」

「元気にやっているらしい。少なくとも、銃を振り回す仕事よりは性に合うようだ」

「冗談でしょう。奴程の才能、千束以外には見た事ないですよ」

 

 目を細めた楠木は、ぼうっとして溜息を吐く。どうにも儘ならないものだと、彼女は草臥れた声音で言った。

 

「才能か……」

 

 楠木の脳裏には、千束とフキとヒメコが肩を並べて共に戦った往日の風景が想起されていた。

 

「昔は良かった。そう言うと、まるで私が年を食ったように聞こえるな」

「千束が銀幕のアクションヒーローなら、ヒメコは西部劇のガンマンでした。私は映画館の観客でしたよ。それも最前列の」

「あの常識外れ共に食らいついたのは、同期ではお前だけだったな」

 

 だが、千束は人を殺す事を止め、リコリコで人助けを始めた。ヒメコも銃を置き、DAの情報部でリコリス達のサポートに回っている。フキは──

 

「お前は、変わってくれるなよ」

「……」

「これ以上ファーストに離れられると困る。だが、お前達のような若い才能に、良い年をした大人達が雁首揃えて縋る他ないのは醜態だ。呆れてくれて構わん」

「心配には及びません。同情してますよ、司令には、分からないでしょうが」

「私に同情?」

 

 フキは、踵を返して気怠げに言う。

 

「任務上の付き合いだけでも、お互い随分長くなりました。多少は心中お察しできるつもりですよ。今回の模擬戦も上が五月蝿かったんでしょう? これから模擬戦の結果をレポートにでもするんですか?」

「……」

「すんません。バカな事言いました。忘れてください」

 

 楠木は、去り行くフキを不意に呼び止めた。

 

「フキ、上に来る気はないか」

「……いや、その……すんません。嫌です」

 

 言葉を選ぼうとして、しかし出来ずに直球で答えざるを得なかったフキを見て、楠木は珍しく声を上げて笑ったのだった。

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