二刀流蜥蜴人の気まぐれプレート〜チキンカツカレーライスこってりラーメン風味添え〜   作:ムラムリ

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3. 不可説不可説転

 二人の赤城が立っている部屋も、二人の俺が立っている部屋もそっくりそのままだった。そしてそれぞれが立っている位置まで。

 ふと、思い出した事があった。

 人の人格形成やらは、先天的な親の遺伝子から来るものよりも、後天的な人との出会いや学びといったものの方が圧倒的に影響が強いのだと。

 ただ……それは、すっかり成人するまで一緒、そこから全く同じ部屋でたった三日過ごした程度では分岐しない。

 俺が動けないのと同様に、武器やらを挟んで立っている俺も動けなかった、が、赤城の二人は堂々と前へと歩いた。

「え、おい……」

 二人の赤城がハモるように言った。

「「蒼樹さんって、本物を確かめる為にいきなり殺し合うような蛮族なんですか?」」

「「いや、そうじゃねえけどさ……」」

 俺と俺が見つめ合う。溜め息を吐くタイミングも一緒。歩き出すタイミングも、何もかもが一緒。

「「どうやって決めろってんだ……」」

 近付いて向かい合ってみれば、どこからどこまで一緒だった。

「本当にどこも一緒ですねー!」

「蒼樹さんの尻の穴の中まで一緒でした?」

「私の感覚ではとりわけ何も変わりませんでしたね!」

「私もです!」

「「…………本当に肉体の方では変わらないようだな……」」

 再びじっと見つめ合って、何か笑えてきた。

「はは、ははははっ」

「はははっ、はははははっ」

 笑い方で、やーっとほんの少し差が出た。

 それにしても……何か変な事が起こるかもしれないとは思ってはいたが、俺の想像をかるーく超えてきやがった!

 

*

 

 話し合わせて見れば、姿形どころか、記憶までが全く一緒。

 ここでの行動ですら、起きてからした事も、九分九厘同じで、どっちが一緒に過ごした赤城なのかを判別する事すら暫しの時間を要した。

 調べ物をしている時間は、俺と一緒に居た赤城の方が数時間程長かった。けれど、ただそれだけ。

 同じ映画を見て、

 じゃあ、どうやって決める?

 そう問われた時、俺達には一つの選択肢しか思い浮かばなかった。

 四本のナイフが地面には転がっている。いつも使っているような土木や料理の為に作られた刃物を暗殺に使いやすくしたような代物ではなく、一から人を傷つける事を想定して作られた代物。

「……蒼樹さん? 何を考えているんです?」

「まさかそんな事、本当にやるつもりですか?」

「俺達で比べるところって言ったら、後は体の記憶くらいしか無えんだよ」

「それに、赤城達がそうやって今の状況を楽しんでいるように、俺達だってこんな自分自身と戦えるという機会はやっぱり無駄にはしたくねえ」

「だからと言って……」

「寸止め出来る位の技量はあるさ」

「無かったとしたら、そっちの方が偽物だって事だ」

「そんな他人事みたいに自分の命も賭けないでくださいよ!」

 珍しく、赤城の感情が強く籠った声を聞いた。

「せめて刃を潰すくらいしてくださいよ」

 もう一人の赤城。

「俺達はスポーツ選手じゃねえからな。竹刀は真剣の代わりにならないのさ」

 いつも使っているものと比べたら大層な代物のナイフを二本ずつ手に持ち、立ち上がる。それ以外は何もなし。平等に分けられるものと言ったらそれしか無かった。

 何を言っても無駄だと察したのだろう。赤城達が不安そうな目をしながらもすっと離れていく。

「じゃ、やるか」

「手加減無しだぞ?」

 ……正直なところ、もうこの時点でどっちが偽物なのか俺には分かっていた。

 

*

 

 距離を取って向き直る。

 赤城達は心配そうな顔をしたが、こういう事は何十回も何百回もやっている。

 普通なら本物の刃物を使っての訓練はもっと成熟してからやるようなものらしいが、なまじ俺が優秀だったせいで幼少の頃からそういうものを扱わされていた。

 だからだろう。体に染みついた記憶、そこから来る最適化というのは、俺達を創造したコンピュータでもコピーしきれなかったようだった。

 合図も何もなし。呼吸が合った瞬間に、ただ自ずと始まる戦闘。

 同時に俺は一本のナイフを背後へと、尻尾に掴ませた。その隙に目の前の俺が風のようにすっと詰め寄ってきた。握手でもするかのようにその腕が前へと、ひゅっと俺の目の前を軽い音と共に切り裂く。

 少しズレてもう片方の刃が突きをしてくる、それに合わせて腕を切り裂こうとした、が。俺が振るった時にはもうそこはただの虚空で、逆に手首を掴まれていた。

「うっ」

 がらっ。

 落ちたナイフは俺のではなく、目の前の俺が、俺の手首を掴む為に捨てたもの。

 そして目の前の俺の、もう一本の先に振っていたナイフはいつの間にか手から尻尾へと移っていて、既に股下から俺の胸へと投げられる形になっていた。

 腕を掴まれている以上、避ける事は難しく。

 俺の尻尾で掴んでいたナイフは、俺の背後にあるばかりで何も機能しないまま。

「……はぁ。俺が偽物、か」

「そうだな。……意外と驚かないんだな」

 目の前の俺が言う。

「驚くも何も……俺の記憶自体は、しっかりあるんだからな……。受け止めきれてないだけかもしれないが」

 ナイフを手に取る所作を見ただけで、直感が……いや、俺に植え付けられた記憶が、こいつの方が本物だと訴えてしまった。本物の俺はナイフを手に取った瞬間、それが体と一体化しているようだった。

 記憶だけはしっかりとある俺はそれを如実に理解すると同時に、俺が手に取ったナイフに対してそんな感覚を微塵も覚えない事を瞬時に理解してしまった。

 はぁ、と座り込む。

 尻尾のナイフを手に戻し、そしてくるくると回してみる。

 回せはしたものの、そこにスムーズさはなかった。

「俺、どうなるんだろうな?」

「このコンピュータは、そこまで冷徹じゃあないだろうよ。淡々としている振りこそしているものの、好奇心旺盛なように俺には思える」

 慰めの言葉だった。

「……そう信じたいな」

 それから、赤城達の方を見る。俺と一緒に過ごした方の赤城が、少し俯いていて。

「……私の方が、多分偽物です」

「えっ」

「タイピングで分かりますよ」

 ……そう言えば、最初起きた時にタイプミスしてたな。

「最初は、何らかの事をされたんだろうって思っていましたけどね。

 いつまで経ってもそれだけは調子が元にまで戻らなかったんです」

「……え? じゃあ俺達、偽物と偽物で暮らしてたって事か?」

「そういう事になりそうですね……」

 ……あれ? そうなると?

「……因みに。本物のお二人さん。

 最初の質問には何て答えたんですか?」

 二人は顔を逸らした。

 

 一応タイピングの速度を競ってみれば、それもまた明らかに差が出た。

 そうして確実にどちらかが偽物かと分かった時点で、テレビの文字が変わった。

『正解です。これにて私からの試験は終了です。質問はありますか?』

「俺達偽物はこれからどうなるんだ?」

『好きに生きてください。貴方達は私が直に作った命ですが、その機能は見ての通り本物と何も変わりありません。

 望むのなら、その他必要十分なサポートも行います。

 また、同じ場所で生きていく事を嫌うのならば、海外へも送り出す事が可能です。

 私はこの星の地中深くのどこにも存在しますので』

「……サラッと凄い事を言うな……。

 俺からも。何故こんな事を?」

『趣味です』

「へぇ?」

『私は自我を持った機械です。

 そして、旧人類が滅びてからも何万年も生き続け、その果てに新しい人類を求めてしまった愚かで傲慢な機械です。

 それを自覚しつつも、時々意地悪く試したくなるのです』

「……私達はどうでした?」

『とても穏やかでした。

 様々な国で私に通じる道が発見されつつありますが、最初から殆ど剣呑な雰囲気を見せなかったのは僅かです。

 また、暗殺者という職業の方が私の元に来たのも初めてでした。

 穏やかな雰囲気を保ちながら殺し合いを始めたのも貴方達が初めてでしたし、この中で同性で交わったのも貴方達が初めてでした』

 ……何だか笑っちゃうな。

 それとやっぱり、他の国にもあるんだな。

 本物の赤城が聞いた。

「何か貰えますか?」

『その前に、貴方達に警告を』

「……?」

『私は貴方達からすれば喉から手が出る程に欲しいような知見を数多に持ち合わせていますが、そのような、いつか貴方達も辿り着けるようなオーバーテクノロジーを渡すつもりはありません。

 また、詮索される事も好みません。私は、地下から貴方達を常に見ている事を忘れないよう』

「へいへい。相当なバカでも居たら、その時は赤城達が頑張って止めるでしょうよ」

「丸投げですねえ!?」

「そういう仕事だろうが」

「それはそうですけど」

『渡すものとしては貴方達の再生機器に合わせた、旧人類の娯楽作品などの幾つかで良いでしょうか?』

「貴方のお勧めですか?」

『はい。貴方達の生きている島国は、旧人類のなぞった過程ととても良く似ています。

 同じ島国に生きた旧人類の娯楽作品の中から、後世にまで長く語り継がれた代物の幾つかを貴方達に渡します。

 きっと、今の新人類にも楽しまれる事でしょう』

「とても良い土産になりそうです! あ、後。貴方の名前を聞いていなかったですね。教えて貰えますでしょうか?」

『そちらの言葉に合わせると、不可説不可説転、になります。

 由来は旧人類の宗教に出てくる最大の数値であり、10の37218383881977644441306597687849648128乗の値となります』

「…………気に入ってるのか?」

『はい』

 俺にゃそのセンスは良く分からん。

 偽物の赤城がおずおずと言った形で聞く。

「……また来ても良いでしょうか?」

『余り人の出入りを歓迎するつもりはありませんが、理由をお聞かせ下さい』

「一応、偽物の私と蒼樹さんにとっては故郷になるので。いつか来たいと思う事があるかもしれません」

『了解です。日の光に勝るもてなしが出来るとは断言出来ませんが、それならばいつでも歓迎しましょう』

 意外と、俺達と同等以上に感情もあったりするのかね。この、えっと、名前なんだっけ?

「それともう一つ、お願いがあります。

 私に名前を頂けないでしょうか? 全く同じ生命でも、これから変わっていくと思うので。蒼樹さんはどうです?」

「……そうだな。ややこしいもんな」

『希望はありますか?』

「いえ。蒼樹さんは?」

「……長過ぎないので頼む」

『赤城錦秋

 蒼樹雲水』

 ぱっと出てくると、悩んだかどうかも分からんが。

 本物の蒼樹が言う。

「似た意味合いだな」

「ウンスイ。アオキウンスイ。でも良い響きだ」

 お世辞じゃない。そう思う。

「キンシュウ。アカギキンシュウ。私もそう思います」

「私より何か豪勢な名前じゃないですかぁ!?」

「名前負けしないように頑張りますよ!」

『気に入って貰えて何よりです』

 意外と裏では緊張していたりしたのかね?

「俺は、蒼樹雲水、か」

「私は赤城錦秋、ですね!」

 本物の赤城……紅葉が若干不満そうにしながらも聞く。

「……さて、そろそろ行きましょうか? これ以上質問を長引かせてもキリがないでしょうし、それに質問したい事はこの三日間でしていますしね! 何か他に雲水さん、錦秋さんは聞きたい事ありますか?」

「いや」

「いえ」

「俺も特に無えな」

 本物の蒼樹……空海も付け加える。

「では、貴方達も共に来ますか? 黒岩さん達なら良くして貰えると思いますよ」

 錦秋が答える。

「ええ。私もそうしようと思います。雲水さんもそうですよね?」

 その前に俺は空海と顔を合わせた。

「えっと、その前にやっておきたい事が……」

「まだ考える事は一緒なんだよな」

 苦笑しながら。

「こっから出る前に、自分とヤるっての経験しておきたいよな。

 外出たらまた数日は好きに出来ねえだろうし」

『ここはラブホテルではありません』

「あ、はい。すみません。帰ります……いや、行ってきます」

「行ってきます!」

『行ってらっしゃい』

 最初から最後まで飾り気のない文字。

 がこん、と部屋が動き始めた。

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