二刀流蜥蜴人の気まぐれプレート〜チキンカツカレーライスこってりラーメン風味添え〜   作:ムラムリ

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4. お兄ちゃんを遂行する

「結局、頭脳も肉体も、持ってきた装備も何にも要らなかった訳だ。

 そういう優秀そうな奴が、初めての事態に直面した時、どういう反応をするか見たかっただけで」

「その為だけに俺達が生み出された、と。

 まあ……」

 恨むまでは行かないかな。

 その言葉は飲み込んでおいた。

 

 部屋が動いている最中に床に散らばっている装備をきちんと整理している間。

「……そういや、俺達どちらかは全裸で出ていけって言うのか?」

 ふと気付いたその疑問。 

「そういえば……」

 この三日間、ずっと裸だったし、そんな裸で居る事に抵抗感も無いしで、今更気付く。

 部屋の揺れが収まると扉が開く。真っ直ぐな通路、その下には先にエレベーターが待っていた。

「流石に用意してくれてたか」

 通路から出たところには衣服が幾つか用意されてあった。

「ちゃんと俺達用に尻尾の穴もあるやつだな」

 旧人類達のだったらどうしようかと。

 そう思ってると、空海が先に衣服を選び始めた。

「雲水と錦秋はそっちの防護服着ろよ。その方が面白いだろ?」

 別にフル装備の俺に襲われてもいなせる自信があるんだろうな、という邪推をしてしまいつつも。

「そうだな。そうさせて貰おうかな」

 その提案を楽しみにする俺も勿論居る。

 防護服を着込み、散らばったナイフやらを仕込み直す。銃を手にすると、ナイフよりも違和感があった。

 コピーされた肉体。コピーされた記憶。その記憶の中では銃器を使った記憶もそんなにない。

 どこか、俺自身の事を客観的に見ている事に気付く。

「……やっぱり、偽物って自覚しちまうと、少し来るものがあるな」

 俺が生まれてから、実は四日目。

 着替え終えていた空海が言った。

「ま……俺達が何を言おうが根本的な解決にはならないだろうが、それでも言える事はある。

 俺達は国に選ばれてこういう場所に送り込まれた位には、肉体と頭がそれぞれ優秀で、相性も良いって判断されている。

 その肉体はしっかり使いこなせば、食う事に困る事はないだろうよ。

 それに……俺はあんたの事少し羨ましいって思ったりもするんだぜ?

 お前の手はまだ血に汚れてないんだからな」

「そう、か」

 俺は、まだ誰も殺してないのか。

 

 何千年、もしかしたら何万年も地中に埋まっていたであろう割には、揺れや騒音もとても僅かなエレベーターの前に、ぽつんと俺達のコンピュータに合うような記憶媒体が複数置いてあった。

 紅葉が大切そうに拾う。

「これが褒美ですかー」

 そして錦秋に渡した。

「入れといて下さい」

 受け取って入れながら。

「本当にお金になるんですかね?」

「ならなくても私の成果としては十分過ぎますね!」

「……私、これからどうやって生きていくんでしょう?」

「私の頭があれば、そんな困らないんじゃないのですかね? それに機動隊もこなせる位の肉体もありますよ!」

「っていうか、お前と同様に飼い殺しじゃねえの?」

 と、空海が。

「そう言うなら俺もどうなるんだ? 殺しのスキルが備わってるのは同じだろ」

「それならそもそも、モラルの無い殺し屋がどうなるかも知ってるだろ」

 さっさと使い捨てにされる。もしくは暗殺される。

「俺もお前も赤城……紅葉みたいに、好奇心で法を犯すまで突っ走ったり、銃器やらをこっそり隠し集めておくみたいな習性まで持ってねえだろ。俺がそうだったら、そもそもこんな場所に居ねえしな」

「ひどいこと言いますねー!?」

「事実だろうが。

 ま、お前は自由だって事だよ。再三言うが、俺が羨ましいって思う位にはな。

 ほら、さっさとエレベーターに乗ろうぜ。流石に太陽に恋焦がれてる」

 

*

 

*

 

 初めて見るはずの太陽には懐かしさを覚えた。

 初めて踏むはずの大地は何の感慨も覚えなかった。

 初めて感じるはずの風は心地良さばかり。

 初めて嗅ぐはずの、食べるはずの味噌汁はほっとする味だった。

 全てが初めてのはずなのに、良く言うような電流が走るような感覚は、何にも訪れなかった。

 

 数日掛けて、本物達と精密な検査を受けた。

 一卵性の双子という診断を受けた。

 戸籍を貰った。

 仮の住まいと、数年は軽く暮らせる位の金を貰った。

 そんなに、と思ったが、あの記憶媒体に入っていた情報は、娯楽作品だけではなく新人類がどのように生まれたかの情報もきちんと入っていたらしい。

 それだけでこれよりも桁が一つ二つ多い金を貰っても良いし、そもそも俺と錦秋の存在自体がそれ以上に価値があるのだとか。

「ただ、遊んで暮らしたいとは思っていないだろう?」

「んまあ、そうだな」

「私も紅葉以上に刺激的な生活を送りたいですね!」

 黒岩がそんな錦秋に溜め息を吐きながらも、改まったように向き直る。

「記憶に全くの相違もなく、異なる点と言ったら多少元々のあいつらより仕事への最適化がされてない程度。

 あいつらが一年間だらだら何もせずに生きていたら、きっと本当にあんたらとの見分けは付かなくなるだろう。

 慣れる必要もないだろうが、あんたらが生まれて一ヶ月と経っていない事も事実だ。

 あんたらが、複製された存在っていう事実を理解してからも、な。

 そんな悩みは、今のところは……あんたら自身で解決して貰うしかない。各国で同じような試みが為されているとしても、上が新人類の成り立ちを公表しないと決めたように、他の国の複製された人に会う事も出来ないだろうからな。

 だから、そう言う意味でも暫くは好きなようにこの世界で生きてくれ。

 その上であんたらが決めた道に関しては、こちらの不利益にならない限りはサポートしよう」

 生まれて、まだ一ヶ月と経っていない。その言葉がずしりと響く。

「ま、私は紅葉と一緒に働きたいと思ってますけどね!」

 黒岩の顔がまた一段と濁った。

 俺は……どうするかなぁ?

 

*

 

 ピンポーン…………。

 ピンポーン。

 ピンポーン。

 ピンポーン、ピンポーン。

 ピンポンピンポンピンポンピンポン!

「……誰だよ!」

「お兄ちゃん達ですよー」

「お兄ちゃん言うな!」

 外ではそうしろって言われたけどさぁ。ムズムズするんだよ。

 

 やって来た紅葉と空海は遠慮なく入ってきて、適当に朝飯にパンを食う。

「あんたら朝飯食ってないのかよ」

「どういう暮らししてんのか気になってな。まあ、俺達が二人で暮らしたらこんな感じになるんだな、ってだけだな。

 それで、南米にでも一緒に行こうか?」

 その提案かあ。

「……俺が一緒に行って良いのか?」

「戸籍上も弟になったし、病院で一卵性の双子とも言われたし、家族旅行って事で良いだろ。

 もうお前の事は家族全員知ってるしな」

 ……うじうじ悩んでても仕方ねえよな。

「それじゃ、行かせて貰いましょうかね」

「錦秋も阿弗利に行きませんか? 親は今、そちらをブラブラしているみたいなので!」

 錦秋も僅かばかりに悩んでから。

「そうですね、行ってみたいです!」

 頬杖をついて、ここ辺りのいつもと変わらない人通り、長閑なひと時を眺めながら。

 ……ま、少なくとも。

 俺達偽物も、きちんと生きている事には変わりない、か。

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