「はいこれ、无月の学生証」
「ありがとうございます」
五条さんから学生証を渡された。学生証には
「五条さん、この特とは?」
「それは等級のことね〜。特って言うのは"特級"って言う意味だよ。僕と一緒だね!」
特級とは呪術師と呪霊に割り振られる五つの等級の一つで特級はその等級の最高等級に当たる。五条さん曰く、"単独での国家転覆が可能"な術師のみ与えられる階級らしく一般的な呪術師のナナメ上的な存在らしい。また、この等級は"呪術界そのものを脅かしかねない脅威"の術師に対して与えられる烙印的な物でもあるとのこと。やはり上層部は臆病でくだらない、腐った集団の集まりのようだ。
「にしても口調変えたね。前はなんか荒ぽかったのに」
「道化として死ぬと決めたので、まずは口調から改めようかと」
激情すれば口調が荒ぶるかもしれないが基本的に落ち着いた口調で入れるだろう。一人称も意識すれば簡単に"私"に変えることが出来た。
「それ本気だったんだね。僕としては未来を担う呪術師として長生きして欲しいんだけどね」
「今さら、自分の命が惜しいとかありませんからね。それに、私はよっぽどのことが無い限り死にはしませんよ」
「なら安心だね!早速向かおうとしようか!」
相変わらずテンションが高い人だなと无月は心の中で溜息を吐いた。先陣する五条の後を无月は付いて行き教室へと赴いた。
「私以外に何人生徒がいるんですか?」
「今年の生徒は君を入れて4人。全員、期待出来るよ」
「4人...やはり少ないですね」
「まぁ、呪術師はマイノリティな存在だからね〜。と言うか制服、間に合ったんだね〜、凄い似合ってるよ。そのコートは一昨日買った物?」
「そうですね、自分の身長にも丁度良かったので」
私は制服の上から黒いロングコートを羽織っている。私は高校1年にしては身長が比較的高い方だ。私の制服はスーツのような物だ。黒いズボンにジャケット、そして黒に近い色をした灰色のシャツに無印の黒いネクタイ。そして高専所属を示すためにボタンが渦巻きになっている。全身黒尽くしだ。遠目から見たら完璧に不審者だろう。
「着いたよ。この教室で待ってて、皆んなを呼びに行って来るから」
「分かりました」
「待っててね〜」と五条は鼻歌を歌いながら教室を去っていた。教室の扉を開けると四つの机と席がポツンと置かれており、非常に殺風景な光景であった。
无月は窓際の席に座り、外の景色を眺めて時間を潰すことにした。自然の多いこの呪術高専は无月にはとても居心地が良かったのだ。髪を遊ぶ風に鼻腔を擽る自然の匂い、目を癒す緑豊かな木々は无月の過去を忘れさせ、心を癒した。
─────ガラガラ!
教室のドアが勢い良く開けられ、无月は顔を向けた。ドアに立っていたのは竹刀袋のようなものを肩に引っ掛けている。鋭い目付きの上から丸眼鏡を掛け、髪をポニーテールにして束ねている少女だった。
「君も私と同じ1年生?」
「チッ...そうだよ。
「禪院...私に何度も攻撃を仕掛けて来た呪術界の魔窟の家の一つか」
私の反応に驚いたのか目を見開いている。まぁ、呪術界で有名な御三家の出身だと分かれば媚を売る輩もいるだろうし、容姿目当てで彼女に近づいた奴もいるだろうな。
「攻撃を仕掛けて来たって...お前はどっかの名家出身か?」
「いや、私は一般の出だ」
「ならどうして攻撃されたんだよ」
「私の術式目当てに御三家から執拗に狙われたんだ。70名もの呪術師が私を捕まえるために動員されたのさ。まぁ、全員返り討ちにしたが」
「ほぉ、そりゃすげぇな。お前、面白い奴だな」
「どうもありがとう」
─────ガラガラ
開けっぱなしであった扉が閉じられ、无月と真希は反射的に扉に前を向け、目を見開いた。2人が見た扉には"パンダ"が立っていた。
「おっ、もういるじゃん」
(いや、喋るのかよ)
「テメェ呪骸だろ。んで喋れてんだよ」
「呪骸じゃない、パンダだ。よろしく」
存在自体が謎であるパンダは当然のように席を座った。どうやらこのパンダ?はれっきとした生徒らしい。聞きたいことは山積みの无月と真希だが予想外の出来事に2人は言葉が出なかった。
─────ガラガラ─────ガラガラ
三度目の扉が開く音がした。入って来たのは跳ねた髪型をした口元をマスクで隠した少年だった。
「こんぶ、明太子」
「「「...?」」」
3人いや、2人と1匹は固まった。
こんぶ、明太子と話した少年は黒板に移動し、慣れた手付きで何かを書き始めた。
「ツナマヨ」
黒板には
「いぬまきとげで読み方は合っているか?」
「しゃけ」
无月の問いに狗巻は頷いた。どうやら「しゃけ」は肯定の合図のようだ。
「私は狂餓彌无月。よろしく頼む」
「禪院真希、名字で呼ぶなよ」
「パンダだ」
「いくら、明太子」
─────ガラガラドッシャーン!
閉じられてた扉が勢いよく開けられ、教室に包帯で目を覆い隠した長身の男、
「なーんだ、もう皆んな揃ってたんだ!僕がわざわざ呼びに行った意味無いじゃん!」
「悟が呼びに来る時、大抵時間過ぎてるからな。だから学長に時間聞いて先に来たんだ」
「しゃけ」
どうやらこの男は私が考えていた以上に信用されていないようだ。というか遅刻癖でもあるのか?人を殺している私が言うのもなんだが、人としてどうかと思う。
「ま、いっか。はーい、と言うことで改めて皆んなの担任をするグットルッキングガイの五条悟先生だよ〜!」
「「「「...」」」」
五条の独特な自己紹介は盛大にしらけた。春と言う新シーズンが始まると言うこの時期にこの教室だけお通夜となってしまっている。
「皆んな〜、ノリ悪くな〜い?」
「五条先生の自己紹介が原因ですよ」
「せっかく明るい自己紹介をして場を盛り上げようとしたのに!?」
場を盛りがけようとしたことは悪いことでは無いだろう。問題は自己紹介の内容である。
「はいはい。皆んな〜、一回席着いてね。ノリの悪い君達に変わって、僕が皆んなのことを紹介してあげる」
パンパンと手で叩きながら、3人と1匹に席に座るよう促す。
「
私の紹介内容に全員が驚いている。当たり前だ、特級なんて冗談レベルでしか聞かない等級だろうし、一般の呪術師には馴染みがない等級だ。
「呪具使い、
呪具...最初から呪いが込められた武具。術式が無いのか、呪力が少ないのか、はたまた両方か。その分、身体能力が高い。
「
言葉が呪いにつまり攻撃になってしまうから語彙を絞らなければならないと言うことは分かるが気合いって...適当すぎやしないだろうか?
「パンダだよ。二足歩行するし、喋れるけど気にしない気にしない」
狗巻の上を行ったな「考えるな!感じろ!」て言ってるのと同義だぞ。
「はい!1年はこの4人増えるかもしれないけど仲良くやっていこう!担任はこの僕、グッドルッキングガイの
そう言い残すとスタコラサッサと教室から立ち去ってしまった。
「「「「...」」」」
さて、親睦を深めるのが宿題と言うが...何を話せば良い?全員、出生がまともではない為、互いに会話が困る。
(会話するよりも遊びの方が自然と会話は生まれるか?)
会話するよりも遊びの方が話題が生まれると思った私は術式のお披露目も兼ねて誰でも知っているだろう遊びをすることを決めた。
私は新しく購入した手帳を取り出し、術式を使用した。すると
─────バチン!
と光と音を発した。突然の出来事に真希と棘、パンダは臨戦態勢に入り、警戒するが私の手元を見て、警戒を解いた。私が手に持っていたのはトランプだった。
「術式のお披露目も兼ねてトランプを構築したがやるか?」
「何でいきなりトランプなんだ?」
「私たちはまともな出生ではないし面白い話題もないと思ってね。ゲームをやった方が話題が生まれるだろうと思ったのだが」
「...まぁ、良いじゃねぇか。こいつの言う通り、何かやったほうが話題が生まれるだろう」
「しゃけ」
「じゃあ〜やるか。何やる?」
「無難にババ抜きはどうだい?」
「つまんねぇだろ、スピードにしようぜ」
「俺はやりずらいから嫌だぞ。俺としては神経衰弱が良いと思うんだが」
「いくら、明太子」
「「「いや、分からないから」」」
言いたいことが重なった。そのことがおかしくて4人全員笑った。自然と笑うことが出来た。この空間は居心地が良いと无月は思えた。