『一番星』は『天使』の手を掴んで離さない   作:ネマ

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今話はアイとミクを第三者視点から。
赤坂アカ先生書き下ろし小説の45510要素を含んでいます。それでも宜しい方はどうぞお進みください。


サイドストーリー『失敗作××達』

 

 

この世界には2人の絶対的なアイドルがいる。

“歌姫”ミク。そして“一番星”アイ。

決して色褪せない星は多くの人の目を眩ませる。

 

けどその裏側でその星に焼き尽くされた残骸がある事を知っているだろうか。

今は、今だけはその残骸の灰をかき集めて耳を傾けるとしよう───。

 

 

 

 

 

 

今日インターネットに上げられた情報が消える事はない。例え一度消えたとしてもそれは必ずどこかしらに残るのは世の常みたいなものになって来た。

そう。それこそ、今となっては語られない“B小町のデビュー時”のデータが見つかってしまうなんてこともある。

 

「……………………………っ」

 

『私』にとってはその数分にも満たないような動画は黒歴史みたいなモノだ。

けど過去を見るという好奇心にも逆らえず一瞬考えるように手が止まった直後にはもう再生するようにダブルクリックしていた。

 

曲はありきたりなアップテンポの曲。今となってはここが悪いだとか…指先が伸びきっていないだとか動きがぎこちないと言えるだろうが、当時はこういう風に1つ形になるだけでも嬉しかったものだ。

 

ああ。でも──────貴方だけは昔も変わらず輝いていた。

 

「アイ………」

 

口からこぼれ落ちる感嘆にも似たその単語にはもうあの時のような熱は無かった。

アイ。それはB小町のかつてのリーダーだった子。初めて会った時からだったが彼女だけは纏う空気が違っていた。まるで慣れているかの様に歌い踊り笑顔を浮かべていた。あの残酷なまでのルッキズム極まり切った芸能界で彼女はただ1人笑っていた。凛としたアイの笑みは幼なくとも大人びて見えたし、その口から奏でられる歌声は同じ曲を歌っているはずの『私たち』でさえ感心して惚れ惚れしてしまう様な歌声。

『私たち』の中の誰かが言ったレベル1のスライムの中にレベル75のキングスライムがいる様な感覚。それがアイだった。

 

勿論、そんなアイに妬みや嫉妬なんて無かったと言われれば嘘になる。……いや。取り繕うことなく言うならば日常茶飯事だろうか。アイから何かを隠してやろうと手を伸ばした子も居た。根も葉もない噂を流していたり。

ああ。でもアイがそれに気がつこうともその表情はただただ笑っていた。それはまるで幼児の癇癪を宥めるような大人の微笑でアイは笑っていたのだ。勿論、そんなアイとは対称的に斉藤社長は烈火のように怒った。それこそ噂を流した張本人、それを面白がって広めた人まで強制的な契約解除更には裁判まで辞さないという態度。いっそ清々しいまでの贔屓に『私たち』は覚悟を決めたモノだ。

でもそんな中でもアイは輝いて…事務所にいれば必ずボイトレや演技の見直しに私たちなんて居ないかのように自主練に取り組むアイの姿は何処か輝いて見えた。

 

 

 

ああ。でも今思えば私たちとの間にあった溝は意識の違いだったのかもしれない。

 

私たちにとってB小町というアイドルは1つの終着点だったようなモノ。

あわよくばそこから上に上に行けたらいいな…程度の考えの中、アイだけは変わらなかった。“ミクはもっと凄かった”、“ミクならこんなの簡単に出来た”アイの口癖のようなそれはいつもアイは自分を追い込んでいった。そう、アイにとってB小町は踏み台の1つに過ぎなかったのだろう。

 

服がもう汗で濡れてない所は無いぐらいぶっ続けでアイは踊った。

声が枯れ果て喉にも炎症が出来ていたのにアイは歌い続けた。

 

ミク。それは当時、新気鋭のソロアイドルとしてデビューした少女。奇抜な髪色とは裏腹にその魔性とも言える様な歌声と感情そのものを揺さぶる様な曲と歌詞。有名になるまでそう時間は掛からなかった。

 

そんなミクにアイは憧れたのだと言う。

そういえばそんな事をいつか言ってたのをなんとなく薄い記憶が蘇ってくる。………ああ。そうだ当時はまだ無名だった動画サイトで撮った生放送の中。今も一部アーカイブが残っている様だ。

 

『あっあー…聞こえる?』

 

変わらないアイの声。溌剌とした中で蠱惑さが滲み出ている声。

 

『聞こえない?じゃあ音量上げて。ミクが作業してるから大声は出せないよ』

 

まるで当たり前と言わんばかりにミクを優先するアイ。

確か、この時よりちょっと前ぐらいからだろうか。アイに指名があったバラエティでミクとの交流を明かしさらには同棲しているとも明かした未だ伝説の回。

 

『なんの話する?ミクの話は…この前社長に雑誌の件で怒られたんだよね。まあ反省も後悔もしてないけど。コメント?コメントを返せばいいの?』

 

そうだった。アイが口を開けばその一言、二言後には必ずミクという単語が出てくる。それは何処であっても変わらず、何事でも変わらずアイはミクだけを見ていた。

 

『今日何食べた?…ミクと一緒にパスタ作ったよ。服のブランド?…ねーミク、この服のブランドなんだっけ?…あーなんか適当なレディースの店ー。好きな本?…ミクと読むならなんでもー。遊びに行く?…ミクと一緒なら何処でもー』

 

アイにとってミクとはそう言うモノだった。まるで雛鳥のようにミクに付き纏うアイを、ミクは喜んでいるように見えた。そのアイの執念の努力がきっと今のAnGel’s ☆という称号なんだろう。

 

アイは大っぴらにしていると言うのにその実、何も答えていない。

そんな見えていて見えないような蜃気楼は魅力的に映るのだろう。

秘密というミステリアスさはその人のカリスマに繋がるのだから。

 

『嫌いなモノ?……うーん。1人で食べるご飯は嫌かな』

 

嘘をつけ。瞬間、『私』の脳内が言葉を吐く。

『私たち』が昼休憩の時間もアイは必ずと言っていいほど姿を消していた。

外食に誘っても“今日はお弁当があるからいいや”とか言って断っていたのが多かったのもアイだ。そんなアイが1人で食べるご飯が嫌?

 

『んー…なんかね。ミクが前で一緒にご飯食べてないと少し不安になる』

 

やっぱり惚気か。と『私』の脳内が告げる。

まあそれでも良い。それも1つの売り方だ。と恐ろしいぐらいに笑顔でいるアイの姿に『私』は得体もしれない無機質さを感じ取っていたのをふと思い出してしまった。

 

『結婚願望?…ミクとなら良いよ?』

 

『好きなタイプ?……うーん。優しくて音楽に夢中になって生活が疎かになりかけてて、それでも歌う姿はカッコよくて優しい緑の髪の女の子かな。』

 

ミクじゃないかというツッコミはどうやらその時の放送にもあったようでアイはケラケラと笑っている。

 

そうだった。アイはそんな子だった。

誰よりも高みを目指して空で舞っている天使を追いかけて。血を吐き捨てるような努力を積み重ねて唯一天使と肩を並べられる存在になった。

 

アイが欠けたB小町は今や見る影も無い。所詮はアイにおんぶ抱っこだったという心無い声の方が大きい。……今もB小町で頑張っている子に聞くとやはり社長はAngel’s ☆の方にかかりっきりだ。それも分かる。だって天下の歌姫と一番星だ。そこで生み出される金も熱量も並のアイドルグループの比では無い。

 

「ああ。でも……………」

 

『私』は今も動画の中で笑っているアイに向けて少しの畏怖と多くの祝福を込めて言う。

 

「おめでとう。アイ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【私】たちの事務所に新しくスカウトされた子が来る。

そう。聞いたのは数年前、当時【私たち】のアイドルグループを見てくれていたプロデューサーからだった。詳細を聞くとどうやらその子は有名な路上シンガーで今やその知名度はその業界ならその名前を知らない人など居ないという程の子らしい。

【私たち】と殆ど同年代の子らしいその子の姿は青緑色に髪の毛を染めていたというあまりにロックな姿に絶句したのが始まりだった。

 

『初音ミクです、よろしくお願いします』

 

まあ容姿とは裏腹にキチンと挨拶をしコミュニケーションを取るその姿は第一印象とは軽くかけ離れており驚いた事を覚えている。ああ。でも仲良く出来た時間はそう長くなかった。

 

『さすがね。初音さん。』

 

彼女は最初っから【私たち】と違った。音楽を作り、歌い、そしてそれを表現するというのを全て自分で行なっていた彼女とただ、プロデュースされるがままの【私たち】と。実力に大きな差が出来るのは今考えれば分かるモノだ。

【私たち】が躓いた所も彼女は軽々と熟す。歌声に乱れは無くボイトレの先生の意見に自己流でアレンジを掛けていてそれも先生に大絶賛される。一度踊れば【私たち】の曲だというのに【私たち】以上の踊りを魅せる。

まさに天才だ。音楽に愛された天才。誰も彼もが持て囃す彼女にはもう新人では無く“新気鋭のソロアイドル”という目で見られていた。

 

勿論、妬みがなかったわけじゃない。けど【私たち】に出来ることなんて無かった。

一度もご飯だとか買い物だとかプライベートを共に過ごしたことが無いのだから連絡先が分からない。荷物もいつも最小限しか持っていていないから隠しようが無い。心無い言葉を投げかけられても彼女はまるで興味が無いように一度冷ややかな視線を向けただけでそれ以降居ないものだと完全にシャットアウトしていた。

そんな逆に【私たち】が疲弊する中でついに上の偉い人にバレた。上は大激怒で猶予なんて与えられないまま速攻契約解除をし卒業ライブでさえも行わない所か大っぴらに情報を開示して以降無いようにすると踏み絵にされていた子が居た。(まあ実際虐め以外の何ものでも無かったから妥当ではあるが)

 

『そうですね……私には今も後ろに迫ってきている子が居ます』

 

いつの時か踊りの先生に言っていた彼女の言葉をふと思い出す。

【私たち】が疲れて端っこで息を整えている間も彼女は踊っていた。一寸の隙もない指先まで意識された踊りを彼女はぶっ続けで踊り続けていた。

……するとそこで踊りの先生が一度中断を呼びかけ、そして彼女にこう聞いたのだ。“何故そこまで頑張れるのですか”と、そして彼女は答えた。

 

『私の背中を追い越そうとしてくるあの子のために』

 

私は誰よりも高みに立っていないといけない。そう彼女はニヒルに笑ったのを覚えている。そうだった“初音ミク”というアイドルは最初っから上だけをただ上だけを目指していた子だった。下を見て安心する凡人が努力する天才に敵うはずがない。

 

『…………………………』

 

いつしか彼女は歌だけで無くバラエティでも顔を見せるようになった。

でもその微笑みは誰も彼もが崩せることが出来ない鉄壁の笑み。まさしく氷の姫。

でもそんな彼女はやっぱりミステリアスでとても魅力的に見えた。

 

『…………アイ!』

 

『ミク!!』

 

ああ。でもいつかの時。アイという別事務所のアイドルと共演した時彼女は初めて笑ったのだ。氷が溶けるような、まるで花が綻び咲くような笑みをミクは浮かべたのだった。

 

そこからの話はみんな知っている通りだ。ミステリアスだけでない側面を見せたミクはさらに多くの活動に手を伸ばしそしてそれに追従するようにアイの人気も高まりそしてつい先日。

 

 

 

『その名も!Angel’s ☆!!』

 

 

 

彼女たちは肩を並べた。

 

 

 

 

そんな輝く彼女たちからすれば私たちは地を這いつくばる塵みたいなモノだろう。

天使も一番星も互いにしか興味がない。そんなの分かっていた話だ。

だからこそ私たちの世代はアイドルの数が少ない。それは分かっている話だ。誰だって頂点の2人を映したいはずだ。完璧で究極のアイドルたちを。

それでも【私たち】は【私たち】なりに足掻こう。

いつか報われる日を信じて。

 

 

 

 






『私』【私】

誰かであって誰でもない子達。
天使と一番星の輝きの前では凡百の光に過ぎなかった。


初音未来(初音ミク)

何かと言いながらアイが大好き。アイならきっと自分を超えられるよ頑張れ❤️がんばれ❤️と言ってる辺りメスガキ適性がある。まあこのメスガキ、覚悟ガンギマリ勢であるが。


星野アイ(アイ)

原作よりも人間味がある(ミクの前だけ)嫌いなものが1人で食べるご飯というのはいつもミクがご飯に異物は入ってないよーと見せて一緒に食べてくれてた事があったから。それ以降大丈夫になってきたとは言えそれでもやっぱり1人で食べるのはあまり好きじゃない。
ミクを超えるために“まだだ”とか“ミクなら出来たよ?ミクなら出来たよ?”と善意でいうタイプ。



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