前回のifです。“歌姫”は“電子の歌姫”になった。
感想嬉しい…嬉しい……今回も待ってます。
初音ミクが、死んだ。
17歳を前にしてその命を絶った。
「……………………」
誰も彼もがその死を悼んだ。誰も彼もが“歌姫”という存在を悼んだ。
早過ぎる天才の死に、天才故の薄命の運命を知った。
その死は“自殺”だった。自らの家からその身を投げた。
勿論その死には多くの調査がなされた…でも残された遺書。家には誰もいなかった。それら全てを含めて“自殺”と断定された。
『……………え?ミ、ミクが?』
第一発見者はマンションの管理人。柘榴のように飛び散る血と特徴的な青緑色の長髪。その後、警察の指示の元すぐに情報統制が行われ身元確認のため“星野アイ”が呼び出された。……その日は惜しくもアイは撮影日だった。
『じょ、冗談です…よね??』
何度も何度も掛かる登録外からの電話に遂にアイは電話に出た。
掛かってきた電話は……警察から。電話口から聞こえる涙と鼻水を啜る音と共に聞こえる言葉。曰く“ミクが、自殺した”と。
『………………………』
カツン…と地面にスマホが叩き落ちる音がする。
向こうから聞こえる声に冗談でも誤魔化しでも虚報でもないという事に気がついてしまった。もはや今のアイに正気というものが残されているとは言えない。
誰が送ってくれたんだろうか。…多分、斉藤さんかな。そんな現実を受け入れられないまま、アイはミクの前に立つことになった。
『………アイちゃん。』『アイちゃんか……』
『おばさん…おじさん……』
霊安室の前。泣きながら座る2人には見覚えのある顔だった。
ミクの両親。アイにも優しく、一時期は養子として身を寄せていた事もあった。
『……………本当、なんですか』
『っ……ええ。』
アイはまだ信じていなかった。いいや。何がなんでも信じたくなかった。
ミクが、あのミクが自ら命を絶つというほど思い悩んでいただなんて。私はミクの考えがある程度分かっていたというのに。私は最期の最期までその苦しみに気が付かなかったというのか。
『………これを、貴方に。と』
渡された2つのモノ。綺麗にラッピングされた箱ともう1つ。ミクの筆跡で書かれた白い封筒。そこには達筆にも書かれていた“遺書”。既におばさん達は読んだのかその封は開いている。
『……………まずは、まずはミクと会って、いいで、すか?』
まだ。まだ私は信じていない。あのミクが、ミクが自殺だなんて。
震える声と動きたくない、真実を知りたくないと訴える身体をどうにか動かす。
そこには……
『………………ぁ。ミ、ク………っっっっ!!!』
霊安室の奥。頭には白い布。どうやらもう首から上は見れたモノじゃないらしい。
だけどその身体は、その服は私の今朝ミクにと選んだ服そのものだった。
そしてその白い布から微かに見える鮮やかなまでの青緑色の髪はまさしくミクのモノで。………私がアイがミクを見間違えることなんてない。ただ、今だけは見間違えであって欲しかった。
『あ、嗚呼あああ嗚呼ああああああああああああああああああああああ!!??』
熱い、熱い液体が頬を伝う。…うるさいな。この雄叫び。誰が出してるんだろう。
火傷しそうな液体だってそうだ。一体誰が何のために液体を頬に掛けているのか。
……………ああ。そっか。この涙もこの悲鳴も。私の中から。
発狂したのか、それとも現実をこれ以上受け入れられないと脳が情報を遮断したのか直後アイは気絶した。そして次にアイが目を覚ますと、そこは病床の上だった。
「………………─────────────────────────ッッッッッッッ!!!!」
直後。アイはまた現実を受け入れられないとばかりに甲高い声を上げて暴れる。
ただひたすらに自分の体を痛めつけるような暴れようがどれほどアイが何も気がつかなかった自分を恨んでいるか分かるだろうか。この身を焦がすほどの自分への怒りが、この身を殺したくなるような自分への殺意がアイを自傷へと走らせる。
そんなアイに「先生!星野さんが!」「早く鎮静剤をっ!!」……そんな看護師と医者の声を聞いてアイは次第にまた意識を失っていく。
「…………………………………ぁぁ……」
アイがようやく正気を取り戻したのは、ミクが自殺した翌日の夜。
昼の間に多くの人がアイの病室にやってきたのだろう。そこには多くのお見舞い品が転がっている。アイの脳裏にもミクの両親や斉藤が来ていたことをなんとなくボーッと覚えている。…その時はもう何もかもが嫌でただベットに腰掛けていただけだったけど。
「…………………そうだ。読まない、と」
一番手元近くにあったモノ。それはミクの遺書とアイへのプレゼント。何度も何度もアイが暴れたせいで皺くちゃになってたりするけど問題なく原型は留めている。そこまで理性を無くしたわけじゃなかったらしい。
封筒の中には二枚の紙が入っていた。一つ目は本当に遺書。アイとミクの両親に今まで稼いできたお金とこれから入ってくる収入を5:5で分けて分配するという事。
そしてもう1つ。これはアイに向けたミクからの手紙だった。
アイへ
これを読んでいるということは私は既に死んでいるのでしょう
アイはこれを読んだ時どうでしょうか?少しでも悲しんでくれてたら嬉しいようなそんな気がします。
私の歌はアイに全部あげます。歌うにしろ。破棄するにしろアイに任せます。
最後に。
私が自殺したのは私が最初から決めていたようなモノです。アイが気に止むことでもないし、ましてや誰にも責任はありません
それじゃあさようならもし、来世があるならまた親友になってくださいね。
貴方の親友。初音ミクより
「………………ばか。おおばかものだよ……」
A4半分にも満たないようなミクの最後の文。
少しでも悲しんで!?歌をあげる!?決めていた!?また親友!?言いたいことしか無いのにアイから出る言葉はアイの想像と違ったものだった。一度でも、いいから私に言って欲しかった。私を頼って欲しかった。
アイの頬に涙が流れていく。その涙は紙を濡らし文字が滲んでいく。
「愛している……ミク。ずっと貴方をっ!!……愛してるよ…っ!!」
嗚咽と共に吐き出されるアイのミクへの愛の言葉。
でもそれを受け取る人はもうこの世には居なくて…それを理解してアイはまた大粒の涙を拭うこともせず泣き続ける。プレゼントは、髪留めだった。ミクの瞳の色のような大きなエメラルドが嵌まった特注らしい髪飾り。
そうして、ようやくアイはミクの死を受け入れた。
かのように思えた。
その直後。アイはミクの火葬を見届けきっちり49日の精進落としをこなした後、アイは突如“B小町”を脱退。その後フリーのアイドルとしてその活動を多岐に増やし芸能・役者・女優。まるで何かから目を逸らすように打ち込む彼女には次第に“国民的アイドル”から“国民的大スター”として日本人なら誰もが知っているであろう一番星になったのだった。
………ただ。それと同じようにアイにはミクと一緒にいた時のような天真爛漫さは完全に形を潜め、まるでミクの笑みをそのまま出力したかのような笑みを浮かべている事が多くなった。
そう。彼女の昔を知るファンは彼女の事をこう語る。
“ミクが死んだ時、アイも同じように死んでしまった”のだと。
もはやその通りなんだろう。
今のアイはまさしく天才で、究極で、完全無欠で、孤高で、絶対なるスターなのだから。
そしてミクが亡くなった数日後。“VOCALOID”の発売が決定。
歌姫は電子の歌姫となり多くのクリエイターの手に渡った。
だが今でも彼女の命日にはそれを悼む歌が投稿されている。
「妊娠数ヶ月です。」
20歳になったアイは子どもを作った。アイは
父親は完全に居ないものとして伏せられている。金額的には可能だ。彼女は今まで大スターとして稼いできたお金がある。ミクから相続されたお金がある(ミクの両親は受け取る気がないとして全額アイの手に渡った)。
特に趣味も無ければ、最低限美貌を維持するための費用には全てアイ自身が稼いだお金で賄える。というかそれでも増える一方だ。
「………………そっか」
医者から告げられた妊娠の報告にアイはただ一言頷くだけで特に何かするわけでもなかった。ただ無表情に無感情にその事実を受け入れるそのアイの瞳には、まるで宇宙の深淵をそのまま宿したかのような暗い星の光が両目に瞬いていた。
「そっかってお前な。妊娠を……!」
「知ってるよ。その上で言ってるの」
アイの隣で幾分か老けたであろう斉藤がアイのそんな様子に注意をする。
それでもアイは顧みる事なくボーッと空だけを見つめる。
そんなアイの様子に斉藤は一つため息を吐く。ミクが、ミクが亡くなったあの日からこんな感じなのだ。と世間はミクが死んだ時にアイも死んだというがまさしくその通りだ。今のアイはまるで抜け殻みたいに生きているに過ぎないと。
「誰が父親だとか言わないんだな」
「うん…所詮、提供者なだけだから」
あまり価値は無いよと吐き捨てる。
そんなアイの言葉に斉藤はさらに頭を抱える。ほとんどアイにおんぶ抱っこで大きくなってしまったこの事務所。そんなアイが誰とも分からない子を孕みましたなんて世間に言えるわけがない。……しばらくアイは活動休止だろうなと斉藤は冷静に考える。
そして十月十日が過ぎる。
アイは特に問題もなく三つ子を産んだ。
父親方の血なのか金髪で赤い瞳と青い瞳と緑色の瞳をした2人の女の子と1人男の子の三つ子。それでも赤子の美貌は母親譲りなのかとても可愛い赤子だと言う。
不思議なことにこの日からアイは昔のような明るさを取り戻していく。
子供が出来たからだろうか?自分が守るべき存在だと母性が生まれたからだろうか?………その時のお産に立ち会った助産師さんはそうではないと首を振るだろう。
何故ならアイは生まれた3人目を見てこう言ったのだ。
「逃がさないよミク。今度は絶対に……ね?」
それが本当にかつて亡くなった“歌姫”初音ミクだったのかは定かではない。
目も開いていないような赤子が何故、アイは一眼見ただけでミクだと断定したのか。
ただ一つ言えるのなら。
死であってもアイは決して色褪せることは無い、らしい
【とあるプロデューサーの独り言】
「ああ。お前新入りか。…しかも初めてでアイの撮影とは運があるのか無いのか」
「新入り。覚えとけ。アイは“絶対にNGを出さないで有名”は知っているな?」
「おう。基本的にどんなミスでも笑って許すアイだがこれだけは絶対守れ。死にたくないならな」
「それはな。
「どうしてかとか考えるなよ?これさえ守ればアイに潰されねぇ」
「………ん?触れてしまったらどうなるんですか?だって?」
「ああ。全員もれなく首切りだ。」(首を切るジェスチャー)
「前の新入りは間違えて触れてしまい社会的に殺された。とある同業者は髪飾りに触れて今や閑職の閑職ただひたすらに紙を千切るだけの仕事に左遷。髪飾りを揶揄った大物俳優はその数日後重大なスキャンダルが見つかり今や1日を生きるのに精一杯だそうだ。」
「勿論それだけじゃねぇが……まあその様子だと大丈夫か。」
「まだアイなんて楽なもんさ。それだけ守れば基本無害だ」
「…………いや。それともアイは何にも興味が無いだけかもしれないがな。」