イカれた幼馴染を紹介するぜ!! 作:俺の両手は幼馴染
「彼女作りて~!そう思うよな、■■!!」
「…ああ」
数少ない友人から同調を求められる。俺はあまり共感できず、適当にうなずいた。
これは、いつの記憶だろうか。
ああ、そうだ。これは俺がイリベになる前の記憶だ。血や臓物など見ようとしなければめったに見ない平和な世界。倫理と言うものが確立された秩序ある世界。
そこで出来た数少ない友人から彼女を作りたいかどうか聞かれたのだった。
俺はあまり共感できなかった。一応言っておくが俺は異性愛者だ。女性に対してそういった欲望を抱いていないわけではない。
ただ、俺が欲しかったのは彼女では無く幼馴染だった。今から作るのでは遅いのだ。何せ、俺は今高校生だ。今から知り合った子は果たして幼馴染と言えるのだろうか?
いや、言えない。幼馴染でなきゃ、俺は興奮できない。
それが俺の性癖であり、そして、そうすべきだと遺伝子に刻まれた宿命である。
「なんだお前また幼馴染がどうこうって言うつもりか~?」
「当たり前だろ」
「ったく、そんなんじゃ一生経っても経験できないぞ?」
「俺はもう諦めてる。小学生の、あの時の俺の過ちがそうさせた。小学生特有の”女と話す奴はダサい”という下らない価値観のせいで、俺の未来はお先真っ暗だ……っ」
「…涙吹けよ」
友人からハンカチを貰う。
滲み出た涙を拭き、どうしようもない悔しさを乗せて叫ぶ。
「だってしょうがないじゃん!!!あの時の俺は自分の性癖が幼馴染だとは思わなかったんだから!!というか幼馴染になるためには小学生くらいまでに女の子と仲良くなっておかなきゃいけないのに、肝心の小学生時代の俺にとってはその子は幼馴染じゃないからトキメキようがないんだぞ!!!」
「お、おい落ち着けよ」
「落ち着いてられるか!!ムリゲーだこんなの!!人生2周目でも入らなきゃ不可能だ!!」
俺はこの世の理不尽を叫んだ。
自我もろくに確立されていない幼少期から布石を置かなければならない性癖なんて、満たせないに決まっている。
俺は机にうずくまり、涙を流しながら言った。
「お前は良いよなぁ……ぽっと出の奴らに興奮出来て」
「なんかその言い方むかつくな。俺が変態みてぇじゃねーか」
「うう……うう…」
俺が自身の性癖が幼馴染であると気づいたのは中学二年生の頃。
俺はそれまで女性に対し、あまり興味が湧かなかった。豊満な胸とか、大きなお尻とか、そういったものを見ても魅力的であることは分かるが、どうにも”刺さら”ない。性的興奮へと至る最後のピースが欠けているようだった。
とある漫画のヒロインだった。そのヒロインを見ても、最初は特に何も思わなかった。漫画で良く見る何の変哲もないヒロインにしか見えなかった。幼馴染と言う属性も、当時の俺にとっては意味を感じない設定に過ぎなかった。
しかし、俺は知ってしまった。幼馴染の尊さを。普通の恋愛からでは取れないあの栄養素を知ってしまったのだ。
あの時疾走った電流を俺は忘れない。
「ああ、神よ…どうかこの哀れな子羊に2度目の生をお授けください……」
目が覚めた。
懐かしい夢だった。あの時以降、友人の態度は少し柔らかくなった。あの友人は今どうしているのだろうか。
あちらに残してきた両親も元気にしているだろうか。親よりも先に逝ってしまうなんて親不孝者で申し訳ないと思う。
でも、俺は向こうに帰りたいとは思わない。だって、長年探し求めていた幼馴染が見つかったのだから。
そういえばロニセラはどこに行ったのだろうか。いつもなら隣りにいるのに、今日は居ない。トイレだろうか?
「あれ、裸…?」
何故俺は半裸なのだろうか。いや、下着を中途半端に下ろされているせいでイリベくんが見えてしまっている。これではほぼ全裸だ。
何故かと記憶を掘り返してみると、すぐに思い出せた。
「そうか…気絶したのか…」
あまりに突然だったもんで全く心の準備が出来ていなかったせいだろうか。小心者な俺が憎たらしい。
というか、ロニセラは結構肉食のようだ。まさか、婚約してすぐにワンナイトを強制させてくるとは思わなんだ。
「っ!」
肩が痛む。見てみれば、肩に大きな傷跡があった。
傷が塞がっていることからポーションをかけられたのだろうが、今回のは傷が深かったせいで跡が残ってしまったようだ。マーキングされたみたいで興奮する。
こういうのはよく同人誌で見たことがある。首筋に幾つも虫刺されの痕があれば、その者はすでに誰かの物、というものだ。俺の肩のこれは、それの重傷バージョンといったところか。
思えば、あの時のロニセラは変だった。彼女はよく吸血のために肩を噛むが、今日ほど深く嚙みついたことは無かった。彼女の牙が俺の中の硬いものにぶつかっていたので、多分彼女の牙は骨まで届いていたと思う。
何故こうも他人事のようなのかというと、あの時の俺はアドレナリンでも出ていたのか、全くと言って良い程痛みを感じなかった。むしろ心地良さすら感じた。さらに言うなら、骨まで開いた穴に舌を入れられた時もとても興奮した。
それはもう、彼女に食われるんじゃないかとドキドキした。
「……ん?待てよ」
俺は彼女に食われたいのだろうか?
俺は幼馴染と結婚するために生きてきた。前世の悔いを晴らすため、最弱のヒロインである幼馴染を救うために、今日まで死力を尽くしてきた。
昨日、彼女と婚約した。しかしそれはあくまで約束であり、結婚したという事ではない。
つまり、あの時もし食われてしまえば、目標に辿り着くことなく道半ばで果てるのと同じだ。
それはつまり、前世から受け継がれた『幼馴染と結婚する』という崇高な目標を諦めるという事。そんなこと、許されるはずがない。
そのはずなのだが…。
「なんなんだ……この気持ちは」
俺は、なんで彼女といるんだ?
何がしたくて彼女と付き合ってるんだ?
心に渦巻くこの気持ちは間違いなく愛だ。
幼馴染らしく、恋愛とも親愛とも取れるような、あの形容しがたい感情を俺はしっかりとロニセラに向けている。
そういった感情の行きつく先は目標通り『結婚』だ。
友情で終わることは無い。何故なら、ロニセラは幼馴染ヒロインなのだから。
なのにどうして?
「ああ、そうか」
この気持ちは今の俺、つまりイリベくんのものだ。前世の■■とは違う。
イリベくんはきっと彼女との結婚を望んでいないのだろう。
彼が望んでいるのはそんなありきたりなものでは無く、極度のドМ、被捕食欲求だ。ロニセラに食われそうになるたびに感じていたあの高揚感の正体がこれだろう。
そう考えると、先ほどまでの苦悩が嘘のようにストンと納得がいった。
「結婚したい。食われたい」
それが俺の気持ち。いや、俺たちの、と言うべきだろうか。
今の俺は誰の意思で動いていると言えるのだろうか。■■?それともイリベ?
分からない。分からないが、これだけは分かる。
「俺はロニセラが好きだ」
■■とイリベ。行き着く先が違くとも、出発点は同じらしい。
「私も結婚したいし、食べたいよ。イリくん」
影からそんな声が聞こえた気がした。
あれからまた何度か季節を跨いだ。
かなりの頻度で冒険者の依頼をこなしているので、扉の修理代はとっくに返済し、今は将来に向けてお金を貯めているところだ。
ゼイルスとの関係は悪くない。彼は黒魔術に長けてるらしいので、黒魔術の本を読んで分からないところがあったら彼のもとに聞きに行っている。
黒魔術の本と言えば、つい最近ようやっと中級編を卒業し上級編に入り始めたところだ。
初っ端から相手を不定形の魔物に変える黒魔術のやり方が載っていて度肝を抜かれた。やっと黒魔術らしくなってきたなと思う。
鬼人の少女はあれ以降も毎日のように突っかかってくる。そのたびに突っぱねているのだが、いい加減苛ついてきた。
それをロニセラは察知したのか鬼人っ子を襲い、血濡れの事態に発展してしまった。死者が出なかったのは幸運だったと思う。
そんなこんながありつつも、俺は今日まで元気に暮らせている。
俺は今日も今日とてロニセラと冒険者協会に向かい、適当な依頼を受注して依頼を達成するつもりだ。サリーナは連れてきていない。冒険者として幾つかの依頼に同行した後、もう大丈夫だと判断してくれたらしい。
ざっと依頼を見てみると、目に留まるものがあった。
「…魔物が出現、一刻も早く討伐求む。場所は……リャシャジャ村?」
リャシャジャ村という名には聞き覚えがある。
サリーナに周辺地図を見せてくれた時にその村が目に入ったのを覚えている。
しかし、何故ここまで印象に残っているのかが分からない。
取り敢えずその依頼を手に取り、受注する。
家に帰ってサリーナに周辺地図を貸して貰い、リャシャジャ村を探した。
「あった…」
その村は人里離れた場所に存在していた。
リャシャジャ村やアルハァナの位置関係を見て、俺はハッとする。
その気付きが事実かどうか、念の為サリーナに聞いてみると
「ああ、その村ね。君たちの故郷だよ」
「やっぱり……ここだったのか」
リャシャジャ村。
俺とロニセラが出会った場所。
ある意味俺の人生を狂わせた場所であり、俺の価値観を変えるきっかけになった思い出深い村。
「ロニィ。明日ここに行こっか」
「…うん」
ロニセラもこの村が嫌いなのか、憂鬱な表情をしていた。
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