イカれた幼馴染を紹介するぜ!!   作:俺の両手は幼馴染

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一線

 

 「ええ、分かりますよ。貴方が言いたいこと。どうしてそんなことをする必要があるのか、ですよね。

 結論から申し上げますと”生きる”為です。死にたくないんですよ、私」

 

 「…え、死ぬんですか?」

 

 「ええ。それも、他でもない村人たちの手によって」

 

 「どうして…?」

 

 「ロニセラさんが帰ってきたからですよ」

 

 「ロニィが…帰ってきたから…?」

 

 それとロニセラが帰ってくることのどこに繋がりがあるのだろうか。

 彼女はおよそ8年前に生贄として捧げられただけのはず。

 

 いや、待てよ。

 生贄として捧げられたのに帰ってきてしまえば、それは生贄としての役割を果たしていないことになるのでは?

 この村は豊作や無病息災を願ってガルヴァ―ナに生贄を捧げる。そうすることでこの村は平穏を保てていると村人たちは信じている。

 しかし、ロニセラは帰ってきた。長いこと目撃情報が無かった魔物も現れた。

 そこで村人たちはこう思うだろう。ロニセラは神の口に合わなかった、と。

 

 はっとした俺を見て、エリスは目を細めた。

 

 「分かったようですね。ええ、そうなんです。私、近いうちに捧げられちゃうんです。怖いですね」

 

 「村長から、そのことを?」

 

 「いいえ。お爺ちゃんは私を大切に思っているので私が不安になるようなことは言わないんですよ。全部私の予想です」

 

 「考えすぎ……の可能性は低そうですね」

 

 「おや、この村の思想をよく理解していらっしゃるんですね」

 

 「そりゃまぁ、身をもって」

 

 ははは、と笑い合う。全く面白くないし、多分向こうも面白いと思ってない。

 俺はすぐに愛想笑いを引っ込めて、そういえば、と口を開いた。

 

 「そういうエリスさんはその思想について賛同はしないんですね。この村で育って、さらには村長の孫娘なのだから『ガルヴァ―ナ様のために喜んで死にます』って思ったりしそうですけども」

 

 「私をそこらの狂信者と一緒にしないでください。そもそもお爺ちゃんはガルヴァ―ナを信仰してませんよ。その孫もしかりです」

 

 エリスはそこまで言うと、足を一歩前に出して俺に詰め寄ってきた。

 

 「で、協力してくれますか?」

 

 彼女のおねだりするような上目遣いは何処か威圧感を醸し出していた。

 俺はそんな彼女の目を見ながらはっきりと言った。

 

 「嫌です」

 

 「…理由を聞いても良いですか?」

 

 「正直に言うと、僕たちが協力する理由がありません。先ほども言いましたが、僕はこの村に思い入れがない。この村の奴らが何をしようと、ぶっちゃけどうでもいいんです」

 

 「私のような美しい人が死んでしまうというのに?」

 

 「……確かにエリスさんはお綺麗ですよ。しかし、肝心の解決方法が虐殺では、もしこのことが誰かにバレたらと思うと助ける気が起きません。デメリットがデカすぎるんです」

 

 「なるほど」

 

 そもそもデメリット云々の前に人は殺したくない。

 この世界に生まれて10数年以上が経ち、生き物を殺めるのにも慣れてきたが、人だけはダメだ。たとえ相手が狂った村人だったとしてもだ。

 死ぬのなら自分の知らないところで勝手に死んでほしい。

 

 「……明日」

 

 エリスが閉じていた口を開いた。

 

 「明日、お爺ちゃんの家に大量の村人が押し寄せてきます。そして『今すぐお前の孫を神に捧げろ』と馬鹿の一つ覚えのようにひたすら叫ぶでしょう。ガルヴァ―ナは人を救う神ではなく、ただ人を食らう怪物だというのに…」

 

 「…それで?」

 

 「ああ、きっと煩わしいでしょうね。近頃起きた不幸な出来事を全て”あの獣人が食われなかったせい”にして、自分たちの主張をとことん正当化して、無意味に人を殺める行為を差し迫る。そんな彼らの姿はきっと見るに堪えないものでしょう」

 

 エリスが言った村人の姿を想像してみる。

 確かに見るに堪えないものだと思う。そんなものを見たら確かにこの村は滅ぼした方が世のためだと思うかもしれない。

 しかし、彼女は1つ大事なことを知らない。

 

 「あの、なんとかして僕を頷かせようとしているところ悪いんですが、ガルヴァ―ナはもう死んでますよ」

 

 「……今なんと?」

 

 「ガルヴァ―ナはロニィが返り討ちにしました」

 

 「えぇ…」

 

 エリスは目に見えて困惑した。

 

 「ロニセラさん強すぎません?」

 

 「まぁ、ロニィ曰くガルヴァ―ナは人間だったらしいですけど」

 

 「えぇ…では捧げられた生贄はどこへ?」

 

 「ガルヴァ―ナは食人鬼だったっぽいです」

 

 「そう、でしたか。で、でも生贄は10年に一度ですし……。まさか、ガルヴァ―ナにとって生贄は10年ごとに来るおやつのようなものだった…?いやでも生贄の文化は古くからのものですし……これも長命な種族であれば説明がつきますね…」

 

 エリスは頭を抱え、ううんと唸った。

 しばらくすると彼女は大きな溜息を吐き、俺を睨んで言った。

 

 「もっと早く言ってくださいよ…」

 

 「すみません。じゃあ、この話は無かったということで良いですか?」

 

 「あ、いえ、待ってください。まだ話があります。生贄として捧げられた後、私はどうすればいいのでしょうか?のうのうと帰ってしまってはまた面倒事が起きてしまいます」

 

 「知りませんよ…。僕じゃなくて村長に相談してください」

 

 正直言って、これは俺たちがどうこう出来る問題ではないと思う。

 俺たちの場合はサリーナという存在がいたからどうにかなったし、エリスには村長がいる。彼に相談して、何か案を聞いた方がいいだろう。

 

 もういいだろうと思い、俺はロニセラのところに戻るべく踵を返す。エリスもこれ以上は無駄だと悟ったのかそれを止めようとしなかった。

 

 少し歩いたところで俺は、ああそうだ、と振り返る。

 

 「そういえば、エリスさん。その暗視の魔法はどこで覚えたんですか?」

 

 「ああ、これは昔、この村を訪れたサリーナさんという魔法使いの方が教えてくれたものです。まぁ、使えるようになったのはつい最近ですけど」

 

 何やってんだあいつ。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 喧しい。

 

 外から聞こえてくる大勢の声が、俺を夢の世界から引きずり出した。

 騒音で無理矢理起こされるというのは人にとって非常にイラつく出来事である。つまり、俺は今、ものすごくイラついている。

 怒りに任せて体を起こし、犯人を知るために耳を澄ませた。

 

 『エリスを捧げろ!!』『ガルヴァ―ナ様が飢えてらっしゃる!!早くその身を献上しろー!!』『あの獣人を殺せ!全部あいつのせいだ!!』『私の子が病死したのはあいつが食われなかったせいだ!!!娘を返せ!!!』『今年不作だったのは飢えたガルヴァ―ナ様の怒りだ!!報いを受けろ!!』『エリスは早く生贄になれ!!あの獣人は殺せェ!!』

 

 なんだこれは。

 そうか、これが昨日エリスが言っていた醜い村人たちの声か。

 耳を塞いでも手のひらを貫通するほどの声量。それを早朝からぶちまけている。あまりにも迷惑だ。

 

 「…ん?」

 

 あれ?

 ロニセラが居ない。彼女はどこに行ったんだろうか。

 

 ふと、ひゅうっと横から涼しい風を感じた。

 吹いてきた場所を見てみると、ベッドのすぐ横にあった窓が開いていた。

 

 「まさか…」

 

 俺の頭からさぁっと血の気が引いていく。俺の顔はきっと面白いくらい真っ青になっているだろう。

 俺はベッドから弾かれるように出た。そして、呑気に着替える暇はなく、寝間着のまま玄関へ走っていった。

 いつの間にか、外からの声が消えている。あるのは気味の悪い静寂だけだ。

 もう外に出ても遅い気がするが、俺は焦燥感に任せて様子を見に行くことにした。

 

 勢いよく玄関扉を開ける。バンと大きな音が鳴り、外の景色が飛び込んできた。

 

 「あ、イリくん。おはよ」

 

 「ロ…ぁ」

 

 そこには何十もの死体の中心に立つロニセラがいた。

 彼女の全身赤く染まっていて、特に腕は濃い色が多く付いていた。その中で彼女の爪だけが輝いており、その爪で何をしたのかが容易に想像できた。

 

 ロニセラはしゃがみ込み、足元に転がっている肉を拾った。

 

 「イリくんも食べる?」

 

 そう言って彼女は肉を差し出してきた。

 彼女の口の周りに多くの血がついていることから、すでに幾らか齧っているようだ。見れば、彼女の頬は少し膨らんでいて、顎も何度も上下していた。

 

 「オ゛ェ゛」

 

 俺はと言うと、抗えない吐き気に身を任せていた。

 胃酸が喉を焼き、鼻に入って垂れてきた。頭痛もする。誰か助けてほしい。

 死体を見て嘔吐する、そんなこと前にもあったな、なんて思いながら膝をつく。すると、ロニセラが駆け寄って来て俺の背中を擦ってくれた。おかげですぐに出すもの出し終わって吐き気が治まってきた。

 

 「大丈夫?」

 

 「うん…。その、ロニィ、何で殺した…?」

 

 「ん?ああ、あんなにうるさいとイリくんが起きちゃうなって思って、殺した。…ごめんね、静かにさせるのが遅くなっちゃって」

 

 ロニセラは、俺のために何十人も殺したのか。

 彼女の気持ちが嬉しいと思う気持ちもあれば、やめてほしいという気持ちもある。だが、どちらかと言えば、前者の気持ちの方が大きい。

 俺もだんだんとこの世界に馴染んできたのだろうか。人の死に慣れたわけじゃないが、彼女の行動には慣れてきた。

 

 …俺は時々、こんなことを考える。

 

 そろそろロニセラに合わせるべきじゃないかと。

 

 より正確に言うなら、この世界の価値観に染まりきるべきなのではないかと、そう思うことが多々ある。

 俺は未だに前世の価値観を捨てきれていない。何故なら、それは俺の美徳であり、ある意味■■の存在証明に繋がるからだ。

 特に後者の理由は大きい。

 ■■は死を恐れている。それは前世のような肉体的な死ではなく、精神的な死。人の死を嫌い、慈悲を持つという前世の価値観が、そのまま■■という精神の表れとして機能しているのだ。

 それを捨て去ってしまえば、待っているのは完全な死。人は忘れ去られたとき初めて死ぬ、そんな言葉を残したのは誰だったか。

 今日まで彼を殺させまいと守ってきたが、そろそろ潮時かもしれない。

 

 ロニセラと俺とでは価値観が違う。その価値観のせいで苦しむことが多くあった。だが、それでいいのだろうか。

 幼馴染を愛するものとして、思い人に合わせないのは不誠実だ。

 何度もロニセラを俺の価値観で染められないか努力したことがあったが、彼女が獣人だからか、俺の価値観を理解するのは難しい様子だった。ならば、俺が彼女の価値観を学べばいいのではないだろうか。

 昔、俺は前世か彼女、どちらの価値観を持って生きていくべきか悩んでいた。その頃はこの世界について何も知らなかったので判断のしようがなかったが、今なら分かる。

 村はカルト宗教に染まっていて、街は半ばバトルロイヤル状態。ヒントは十分に得ていると言って良いだろう。

 

 「う、うぅ…」

 

 死体の山から、か細い声が聞こえてきた。

 そちらを見てみると、運よくロニセラの攻撃をかわせたのか、軽傷で済んでいる女がいた。彼女は上に乗っている者が邪魔で身動きが取れないようだ。

 

 「イリくん。ちょっと待ってね」

 

 ロニセラは女を一瞥した後、そう言って女の方へ歩いていった。

 女は迫りくるロニセラを見て、いや、俺を見て目を見開いた。

 

 「イリベ…?そう…よね…?」

 

 信じられないというような声で、俺の名前を言う女。

 俺は不思議に思って彼女の顔をよく見てみると、彼女がロニセラより先に俺の方へ目がいった理由が分かった。

 

 「母さん…」

 

 「イリベ……イリベよね!?今までどこに行ってたの!?」

 

 ロニセラが動きを止めてこちらを見てきた。俺は頷き、母のもとに歩み寄る。

 血だまりの前で一呼吸して、踏み入る。震えた足で転がった死体を跨ぎ、びちゃりと水音が鳴った。

 

 「どうしてあの日急にいなくなったの!?お母さん、ものすごく心配したんだから!!」

 

 どうして。その言葉に俺は眉を顰める。

 俺とロニセラの仲ぐらい、母親として知っててもおかしくないというのに。彼女が生贄にされることがそんなにめでたいか。

 ふと、視線をずらしてみると、父がいた。彼はすでに事切れていた。

 俺はすぐに目をそらし、母に向き合った。

 

 「母さんは、ロニセラが帰ってきたことについてどう思ってる?」

 

 「……どうしてそんなことを聞くの?最悪に決まってるじゃない…!そいつがガルヴァ―ナ様を拒んだせいで大変なことになってるのよ!?」

 

 最悪に決まってる?そいつが拒んだせい?

 …ふざけるのも大概にしろ。

 

 ここまで人を嫌いになったのは初めてかもしれない。

 

 頭に”殺”の一文字が浮かぶ。

 

 いや、でも。

 

 いや、この考えは捨てるべきだ。

 でなきゃ、ロニセラに不誠実だ。

 

 懐から一枚の紙を出す。その紙には禍々しい魔法陣が描かれていた。

 その魔法陣は『相手を不定形の魔物に変える黒魔術』を発動させるもので、この黒魔術は強力なため、発動には多くの血が必要だ。幸い、この辺りには血はいくらでもある。この紙を血だまりに押し付ければ、すぐにそれを吸いつくして期待通りの効果を発揮するだろう。

 

 「な、なにをする気?」

 

 血だまりがどんどん吸い取られていく。通常ならありえない光景に母は怯えた。

 少し経つと、もう十分に吸い終わったようだ。魔法陣を見てみると妖しく光っていた。後は呪文を唱えるだけだ。

 

 「イ、イリべ?私よ?お母さんよ?お願い…やめて…」

 

 「…っ」

 

 前世から続く価値観などそう易々と捨てられるものでは無い。目の前の女に情を感じているわけではないが、ただ、人を殺すという行為自体に忌避感があるのだ。

 しかし、相手が人でなければ問題ない。特に魔物ならば冒険者で慣れている。

 だからこそ、俺はこの黒魔術を使うことにした。

 

 「■■■■■■■」

 

 「う゛ぁ…あガッ!?」

 

 俺が呪文を唱えると、すぐに変化は訪れた。

 母の体が非対称に膨張していき、人間らしい部位が損なわれていく。肉は波打ち、骨が鳴り、その度に激痛が走っているのかしゃがれた悲鳴が上がった。それの体のあちこちから触手が生えていき、膨張と縮小を繰り返している内に肌がどんどん灰のようになっていった。

 その変化は終わることがなく、母だった人物は文字通りの不定形の魔物に姿を変えた。

 

 すぐにその命を終わらせるべく、もう一度懐から紙を取りだし、血だまりに押し付ける。

 次のものは『相手を確実に燃やす黒魔術』。これもまた発動には多くの血が必要だが、確実に息の根を止めるために使わない手は無かった。

 

 「■■」

 

 呪文と共に、それの体が突然発火した。それもゆっくりと燃え広がるのではなく、業火が一瞬で全身を包み込み、悲鳴を上げる暇さえも与えなかった。

 凄まじい炎は不定形の魔物のみならず、周りにいた多くの死体にも燃え広がった。そして、ものの数分でそれらは灰の山と化した。

 

 「ちょっともったいないね」

 

 「………ああ」

 

 少し離れた場所からその様子をロニセラと一緒に見ていると、彼女がそう呟いた。

 俺は何だか達成感のようなものを感じていたせいか、心ここにあらずといったような返事を漏らした。

 

 「そういえば、さっきの答え聞いてなかったから今聞くね」

 

 「?」

 

 さっきのとは。

 俺が頭に疑問符を浮かべていると、ロニセラが手に持っていたものを差し出してきた。

 それは肉だった。それも、本来なら病気の心配が出てくるが、黒魔術を扱う関係上食べても問題がない肉だった。

 

 「イリくん、これいる?」

 

 「…うん」

 

 俺は彼女からその肉を受け取り、齧りついた。

 

 

 

 




エリス「当初の予定通り、ヨシッ」

ということでイリベくんの闇落ちでした。
あと数話ほどで完結予定です。
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