イカれた幼馴染を紹介するぜ!! 作:俺の両手は幼馴染
ご注意ください。
何年もの月日が経った。
家を手に入れるという目標を一刻も早く達成するため、俺たちは依頼の頻度を高めた。
高頻度の依頼は体に大きな負担がかかり、あまり推奨されない行為として受付の人に注意されたが、そんなことはお構いなしに依頼をこなし続けた。
受付も最初は心配そうにしてくれていたが、繰り返し忠告を無視して依頼を受け続ける俺らを見て心配しても無駄だと思ったらしく、途中から何も言わなくなった。
実際、その心配は杞憂に終わった。
俺たちは結構腕の立つ方のようで、大抵の依頼は無傷で達成してきた。
まぁ、目標を達成するための手段の半ばで力尽きるわけにもいかないので、リスクのありそうな依頼は避けていたのもあるだろうが。
そんなわけで、今現在、俺の懐は潤っていた。
あまり豪華なものは買えないが、そこらの一軒家ぐらいなら余力を残して買うことが出来るだろう。
では早速家選び、と行きたいが、俺はもうすでに買う家を決めている。
というか、本格的に稼ぎ始めるころには決めていた。努力するためには目標をあやふやなものにするのではなく、具体的なものに設定するべきだろう。そう思っての行動だった。
家選びには苦労したものだ。特に、ロニセラが「イリくんが選んだものならどこでもいい」と言った時は本当に困った。
こっちとしてはそちらの好みに合わせて選びたい。というのに、本人からそう言われてはあれこれ逡巡してしまって選び辛くなる。
まさか適当なものを選ぶわけにもいかず、多く存在する候補の一つ一つを見定めては頭を抱えたものだ。
というのも、どこに住んでも異種族に関する問題が浮かんでくるのだ。近くに魔人が住んでるだの、騒がしいドワーフが住んでるだのなんだの、一切問題がない物件が一つも存在しなかったのだ。
それでどうしたのかと言うと、人気のない場所にある家を買うことにした。
異種族関連の問題があるのなら、そいつらがいない場所に住めば良いのだ。
俺とロニセラは今そこに向かって歩いている。
場所はアルハァナの外、広い草原の中にそれは建っていた。
「…汚いな」
そこにはところどころ植物に侵食された一軒家があった。
管理人が清掃しておくと聞いていたのだが手を抜いたのだろうか。それとも、清掃してこれなのか。
「ごめん。ロニィ」
俺は何度か訪れたことがあるが、ロニセラは今回で初めてだ。
一応サプライズっぽくしたかったのだが、思った以上に整えられていなかった。
さぞ、彼女もガッカリしただろう。
「別に気にしてないよ。…うーん、そうだ!一緒に掃除しよ?どこに何があるのかとか把握したいし!」
「おお、良いね。俺は何度も来たことがあるし案内するよ」
彼女はガッカリするどころか、これを機会にと家の探検という提案を出した。
もちろん、俺は快諾した。このような手間を取らせてしまったことに後ろめたさを感じてはいるが、彼女は全く気にしていない様子だったのであまり考えないことにした。
俺は彼女と掃除をしながら家の案内をした。
台所や寝室といった主要な部屋はもちろん、余っているいくつかの部屋の位置を確認し合った。それ以外にも、2階へ続く階段下の物置や地下室などがあり、2人で過ごす分には十分すぎる広さを持った家だ。
さらに、人里離れた場所にあるおかげか隣人トラブルは無く、値段も安い。俺の懐にはまだ余裕があるくらいだ。そう思うと、中々良い買い物をしたのかもしれない。
「お!庭もあるんだ!」
「うん。結構広いでしょ?」
「へへへっ、そうだね!!広い!」
ロニセラはそう言って庭をぐるぐると駆け始めた。尻尾も随分と揺れている。
時々ジャンプしながら喜ぶ姿は正しく犬だった。
「今日はなんだかテンションが高いね?」
「当たり前だよ!だってこれからイリくんとここで暮らすんでしょ?楽しみ!」
「おっとっと…!」
こちらに飛び込んで来たロニセラを受け止める。
ここまでテンションが高いロニセラは初めてかもしれない。よほど嬉しいのだろう。
俺だって嬉しい。この日をどれだけ待ちわびたことか。夢に向かって歩き続けて、ようやく掴んだこの未来のスウィートホーム。掃除され切っていなかったことが残念だが、それさえも彼女との親交をさらに深める機会になった。
何十年も夢見た光景が、あとほんの少しの場所にある。このことに気分を高揚させない者などいるのだろうか。
「あははは」
「えへへ」
彼女と笑い合う。
その笑い声は決して大きいものでは無かったが、俺にとっては勝利のファンファーレのようだった。
「というわけで、今までお世話になりました」
「……お世話になりました」
俺とロニセラは今まで養ってくれたサリーナと居場所を作ってくれたゼイルスに頭を下げた。
といっても、ロニセラは俺に言われて仕方なくしている感じが滲み出ているが。しかし、そんなことを気にする相手ではないので、俺も特に注意はしなかった。
俺たちの言葉を聞いて、最初に口を開いたのはゼイルスだった。
「おう。体に気をつけろよ」
「はい」
短い台詞だが、何年も同じ屋根の下で生活していたなりに相応の感情が含まれていた。
彼は俺たちに居場所を提供してくれただけでなく、俺に戦える力を教えてくれた、師匠ともいえる存在だ。彼のおかげで俺は黒魔術をマスターし、その気になれば最上級の黒魔術を発動できてしまえるだろう。
そんな彼への感謝の贈り物として、俺はとある加工がされた瓶を贈った。
それは液体であれば無限に入る魔法の瓶だ。黒魔術を扱う彼にとって、いくらでも入る瓶はかなりありがたい代物となるだろう。
「いいもんだな。ありがとよ」
彼は笑い、それをどこかに仕舞うべく席を立ちあがった。
彼が部屋を出てもなお、サリーナは黙ったままである。紅茶の入ったカップを中途半端に持ち上げたまま固まっていて、未だに情報の処理が追い付いていない様子だった。
「あの…?」
「!」
俺の声を聞いて意識を取り戻したのか、彼女はカップを静かに置いて、また口まで運んで啜り、カップを素早く置いた。
「…………いつかはこんな日が来ると思ってたよ」
「…はい」
「でもね?いやぁ、うん、いざその日が来ると、うん。これは、きついね……。明日から何を見て紅茶を啜ればいいんだろう…って、なるよね…」
「はい?」
サリーナは深いため息を吐いた。
「……本当にいっちゃうの?」
「はい。今までお世話になりました」
「はぁぁぁ…」
再度先ほどよりも深くため息を吐いた。
彼女は頭を抱え、いや、うん、いや、うん、と唸っている。
そして、顔を上げて憂鬱そうな表情を俺たちに見せると彼女は懐から何かを取りだし、ぎこちない笑みを浮かべて差し出して来た。
それは青い水晶玉だった。何やら魔力を纏っているのでただの装飾品ではないことが窺える。
「これ、あげる。お祝いだよ」
「なんですか?これ」
「…お守りだよ。近くの人に幸運を運んでくれる」
「いや、それは監視魔法が刻まれた魔道具だぞ。騙されるな」
ちょうど帰って来たゼイルスが水晶玉の正体を明かした。
サリーナは彼の方を見てむっとし、睨みつけた。
「ちょっと!なんで教えるの!!」
「せっかくのお別れ会だってのに騙そうとするからに決まってるだろ。素直にお別れも出来ねぇのか」
「くっ!……うぅ…だって、だってぇ!!私の大切なカップルがぁ!!」
サリーナは突然涙を流し始め、席を離れて床に膝をついた。
俺とロニセラは一歩下がっていつでも逃げられる準備をした。
「あの時見つけて!今日まで…美味しかったのに…!!私はこれからどうすればいいのぉ…!?やだあああああ手放したくないぃぃぃぃぃぃ!!!!」
「あー、こいつは俺がどうにかするからお前らはさっさと行け。帰ってくんなよ」
「は、はい。あ、これ、サリーナに渡してください。プレゼントです」
「おう」
俺はゼイルスにランタンと紅茶の葉っぱを渡した。
そのランタンは黒魔術で光るもので、1滴血を垂らせば数日は光り続ける最高効率の魔法陣が刻まれている。サリーナの好みが良く分からなかったのでとりあえず便利グッズを選んだ。
紅茶は言わずもがな。彼女は四六時中紅茶を飲んでいるので高いものを贈ることにした。
必要な物を渡し終えると、俺たちはゼイルスの言う通りにさっさと移動を開始した。
そして、背後でサリーナの泣き声が大きくなったのを尻目に、俺たちは家を飛び出した。