イカれた幼馴染を紹介するぜ!! 作:俺の両手は幼馴染
ご注意ください。
「イリくん。私、結婚したくない」
「え」
夜のベッドの上で、俺は頭が真っ白になった。
そのあまりにも突然かつ衝撃的な発言に頭の処理が追い付いていないでいると、ロニセラはハッとし、腕や頭をぶんぶん振って訂正した。
「違うよ!?結婚はしたいよ!?だけど、その、大っぴらにしたくないというか……」
どういうべきか、と彼女は言葉を探していた。
俺は訂正の声に意識を取り戻し、彼女の言いたいことを代弁した。
「……式は挙げたくない…ってこと?」
「!!そうそう!私聞いたよ、式を挙げなくても結婚できるって!」
「事実婚…ね。全然いいけど、どうして急に?」
「え、だって…その、誰かに見せる必要はないじゃん。せっかくイリくんが私のものになるのに…」
「結婚しよう」
「う、うん。するよ?というかもうしてるんじゃない?」
「え?ああ、そうか………そうだな…」
そうか。俺はもう、結婚したのか。
つまり、俺はついに生前から望み続けた願いを叶えたということだ。何十年も蓄積され続けたこの思いが成就するなんて、今すぐにでも狂喜乱舞すべき出来事だ。そのはずなのだが…。
なんなんだろうか、この気持ちは。呆気ないというか、物足りないというか。
歩んできた道の長さに反してあまりにもあっさりし過ぎている結末だ。喜ぶべきなのに、心が空虚になっていく。
そんな俺を見て、ロニセラは不思議そうな表情を浮かべた。
「どうしたの?嬉しくないの?」
「いや、嬉しいんだけど…。なんか、あまりにもあっさりし過ぎてて、結婚したっていう実感が………その…」
「湧かないの?」
「うん…」
「ふーん」
ロニセラは不満そうな顔を浮かべ、すぐに妖艶な笑みを浮かべた。
そして、体をゆっくりと寄せてきたかと思えば、そっと耳打ちをしてきた。
「じゃあさ、する?」
「え…」
俺は彼女の誘いにばっと顔を上げる。
するって何を、だなんて惚けるつもりはない。
彼女は誘っている。俺を慰めるために。そして、結婚したことを実感させるために。
彼女の目を見れば分かる。あれは獣の目だ。
ゾクゾクと背筋が震える。これは恐怖ではない。俺は歓迎しているのだ、あの目を。色々な意味で食われるのを心の底から期待しているのだ。
ならば、この誘いに乗らない選択肢は無い。
俺の目を見て、彼女はより一層笑みを深めた。
「えへへ、それじゃあ―――」
「―――いや俺からする」
「へ?」
俺はロニセラを押し倒した。彼女の力に負けないよう力強く、そして乱暴にしない程度に力を加減した。
突然のことに彼女は顔を赤くして驚いていた。
自分を捕食者だと思い牙をちらつかせていたら次の瞬間には自分が獲物になっていたのだ。驚かない方が無理だろう。
「せ、積極的だね…」
「うん。この日を待ちわびてた」
前回失敗した経験をもとに、こういった時に俺は受けでは無く攻めに回ると決めていた。
そうすれば突然のことで頭が沸騰して気絶するなんてことは起きないはずだ。何せ、攻めは心の準備の表れだからだ。
行動の一つ一つに覚悟がある。だからこそ、俺は意識を保ち続けることが出来るのだろう。そのはずだ。今、この説を立証せんと手を動かす。
彼女の服をはだけさせ、震えた手でゆっくりと胸を触った。
彼女の胸のサイズは決して大きくはないが、しっかりと柔らかい。それに、彼女の鼓動が伝わってくる。息も荒い。彼女も興奮しきっているらしい。
俺ももう限界だ。服をすべて脱ぎ、彼女のも脱がして、適当なところに投げ捨てる。
「…いくよ」
「うん。きて」
その言葉と同時にロニセラは腕を広げた。
俺はその淫靡な受容に遠慮なく飛び込み、脳を渦巻く肉欲の濁流に身を任せた。
鳥のさえずりを目覚ましに、俺は体を起こした。
目の前に広がる見慣れぬ部屋模様に、一瞬、ここはどこだと思考を巡らせるが、俺たちの家であることを思い出す。
隣のロニセラはまだ寝ていて、小さな寝息を立てていた。
俺は彼女の頭を撫で、起こさないようゆっくりとベッドを出る。
窓を開けると涼しい風と共に日差しが当たった。
この理想的な朝を俺は窓に体を乗り出して堪能することにした。
あまりこういった風情を感じる質では無いのだが、自分の家を買い、そこで夜を明かしたという高揚感が俺をそうさせた。
「んん…」
ロニセラが目を覚ましたようだ。
振り返って見てみると、体を起こし目をこすっている彼女の姿が目に入った。
その様子を眺めていると彼女と目が合った。
「おはよう」
「おはよ」
彼女と挨拶を交わす。
ふと、彼女の首筋に目が行く。虫刺されのような跡を見て、俺は昨日の情熱と思い出した。
夢中になった彼女の姿がまだ目に焼き付いている。夢にまで見た幼馴染との行為、あの夜ほど興奮したことは無い。心も体も全て彼女のことしか考えられなくなって、心身ともに燃え盛るような激情に駆られ、それでも燃え尽きることは無いあの感覚。
あれを俺はもう二度と味わうことが出来ないのだろうか?いや、そんなはずはない。
何故なら俺は彼女と結婚したからだ。その気になればいくらでもお代わり可能だ。これから毎日嫁を抱こうぜ?
ああ、そうだ、俺は結婚した。
ならば次は何をするべきか。強敵を探して旅でもするか?いや、そうではない。
何でもない日々の始まりだ。
まずは朝食。
今日のメニューは小麦味が濃いパンと微妙に味が薄いシチューだ。質素に思えるかもしれないが、これはこの世界の平民の平均レベルだ。
前世で肥えた舌からすれば美味とは言い難いが、ロニセラが一緒であれば別である。
それが終われば、次は昼の行為だ。
行為とは何をするのかと聞かれれば、ナニをするだけだ。
長年満たせずにいた欲情がついに満たされる機会を得たのだ。欲しいものが目の前にあるというのにガッつかない者がいるだろうか。いや、いない。
夜だけにしかやってはいけないなどどいう決まりはない。それに、ロニセラも歓迎してくれているので問題はないのだ。
腹が減ったので昼食。
今日はロニセラのたっての希望で肉だ。それも大量に。
肉は良い。品質はあまり良くないが、肉というだけである程度の旨味は保証されている。そこに目の前で美味しそうに頬張るロニセラと言うスパイスが乗ればもう至上の味である。
腹を満たした後は庭にでも出てゆっくりする。
暖かい風に煽られながら談笑したり、ただ寄り添い合ってこの空気を堪能するのもいい。
しばらく経つと、朝で体力を使ったからか俺は眠くなってしまい、急遽彼女の膝を借りることになった。彼女の柔らかい太ももは強い安眠効果を齎し、俺は瞬く間に夢の世界に落ちてしまった。
嗚呼、膝枕とはこんなにも心地いいものなのか。もっと早く知っておけばと思う反面、苦労して手に入れた今だからこそ相応しいと思う心がある。
しかし、そんなことはどうでもいい。今はただこの幸せを噛み締めている。それでいいのだ。
気が付けば日が暮れて夕食の時間がやって来た。
昼に続いて夜も大量の肉である。ロニセラは良いとして、俺の栄養バランスが心配されるが、黒魔術を応用することによってその問題は解決した。口に含んだものを生贄とし、それを代償にエネルギーを得るのだ。
そのエネルギーは体のあらゆる機能を支えることが出来るものなので、むしろ肉だけ食っていれば万年健康でいられる。黒魔術様様だ。
深夜は何をするのか。当然ナニをする。
朝もやって夜もやるのは中々ハードなスケジュールだが、俺もロニセラも性欲旺盛のおかげで問題なくこなすことが出来る。
しかし、体力の問題でどうしても俺が先にダウンしてしまうのが悔やまれる。彼女が気を遣うたびにすぐに息が上がってしまう自分が不甲斐なく思える。彼女を満足させるためにも、もっと体力をつけたいものだ。
こうして何でもない一日が終わる。
この生活を維持するために幾らか冒険者の依頼を受けるが、多忙になることは無い。基本、ずっとこの家で日々を過ごす。
そんな傍から見れば自堕落な生活を、これからも続ける。
何日も、何年も、何十年も。
太陽が昇っては沈み、幾度も星空が顔を出しても。花が咲いては枯れ、小枝が大木となって大地を支えても。
俺たちの生活が変わることは無い。
そう、思っていた。
異変に気付いたのは15年ほど経った冬のある日のこと。
ロニセラが何やら膝を擦っていた。眉をひそめていたので彼女が不快な思いをしているのは一目で分かった。
一体どうしたのか聞いてみると
「最近、膝の調子が悪いの」
「…調子が悪い?痛むのか?」
「うん」
どうやら膝が痛むらしい。筋肉や骨に傷がついたのだろうか。
俺たちは冒険者だ。大抵の依頼は苦も無く終わらせられるが、それでも魔物との命のやり取りをしている。気づかない間にどこかしらにダメージが蓄積されていてもおかしくない。
「…触るぞ。痛いか?」
「全然」
「どうしたら痛くなる?」
「歩いたり、階段を使ったりすると痛くなる」
「…そうか」
彼女の発言からして何か傷を負っているわけではなさそうだが、念のため治療黒魔術をかけることにした。
懐から魔法陣が描かれた紙と血入り瓶を取りだし、魔法陣に血を注ぐ。魔法陣は妖しく光りだし、その光が伝染するようにロニセラが光に包まれた。
これで治療黒魔術は完了だ。普通ならばこれで治るはずだが。
「ロニィ。ちょっと歩いてみて」
「うん」
「……どう?」
「痛い」
効果は無かったようだ。
となると、ロニセラの膝の痛みは病気のものだろう。流石に病気までは治せない。
ということで、医者のもとに行ってみることにした。
獣人を受け入れてくれる医者がなかなか見つからなくて苦労した。正確には、獣人と人間両方に対応した医者だ。
獣人専用の医者ならいるのだが、そうなると人間である俺の同伴が認められなかったのだ。
ロニセラを一人にしては何が起きるか分かったものでは無い。それに、念のため、俺も診察を受けておくべきだろう。
医者にロニセラの症状を伝える。
医者はそれを頼りに問診などをしてロニセラの体に何が起きているのかを調べてくれた。問診、触診などの他に魔法を使うものがあったことが印象に残った。
一通りの診察を終えると、医者は思い悩んだ様子で告げた。
「まず、ロニセラさんは病気にかかっていません。イリベさんも同様です」
「……そうですか。じゃあ、これは一体何が原因で起こっているんですか?」
「お聞きしますが、ロニセラさんの年齢は?」
「30歳ぐらいです」
なるほど、と医者は納得した様子だった。
そして、彼は俺が想像しえなかったことを告げた。
「おそらく、ロニセラさんの膝の痛みは老いによるものです」
「………老いですか?で、でも、ロニィはまだ30代ですよ?」
老いというワードに俺は戸惑った。
確かにまだ全然若いのに「自分はもう年だ」と言う人はいる。だけど、ロニセラはそんなことは言わない質だし、何よりも老いを医者から宣告されるには些か若すぎる。
どういうことだと狼狽えていると、医者は少し困惑した様子で言った。
「ご存じないかもしれませんが、獣人の寿命はおよそ4、50年ほどです。30代であれば老い始めてもおかしくない時期ですよ」
獣人の寿命は4、50年程度。その事実に俺は耳を疑った。
人間の寿命の半分しか獣人は生きられないというのか。つまり、それは、ロニセラが俺よりも一足も二足も先に早くこの世を去ってしまうという事。
あまりにショックな現実を聞いたせいか、俺は帰り道のことをはっきりと覚えていない。
ロニセラが何かを言っていた気がするが、それ以上に、彼女に先立たれることを受け入れたくなくて仕方がなかった。
寿命という、逃れられない運命。
老衰は全ての生命に等しく降りかかるが、その時期までは平等ではない。
種族間での差など考えたことがなかった。
これからだって考えたくない。
その夜は、どうしようもないほどに受け入れがたい未来を忘れるために、いつもより激しく、そして、離れ離れになるのを惜しむように強く抱いた。
けれども、そうしたって結末が変わることは無い。
ロニセラは年々老いていく。
今までの若々しい姿が嘘だったかのように、だんだんと活力を失い、しわが目立っていく。
やがて腰が曲がり、髪が白く染まっていった。
俺は置いてかれたままだ。
肉体の全盛期は過ぎたものの、まだまだ動ける。むしろ、歳を追うごとに動きが洗練されていき、名のある冒険者となった。
昔、俺は彼女と生きる時間が違うと思った。俺には前世があって生きてる時間が長いから、普通よりも体感時間が短いのだと。
実際は全くの逆だった。
一人で依頼を受ける。ロニセラはもう動けない。一人でも問題はない。
お金を手に入れて、今日の飯を買う。
家に帰って、料理して、出来たものを床に伏したロニセラの口に運ぶ。
「……いつもありがとね」
ロニセラが礼を言った。老人のようなしゃがれた声だ。
彼女がベッドから離れられなくなってからこれは毎日続いている。
「……ねぇ」
弱弱しい声だ。
「……あなた」
ロニセラが俺を呼ぶ。
あなた、と初めて言われたときは”らしい”と大喜びしたのだが、今はただ胸を締め付けられる。
「……ごめんね」
「…何が」
「……ずっと一緒にいてあげられなくて」
「やめてくれ」
「……でも」
「やめてくれ…お願いだ……」
俺は彼女の手を握った。
その手はもう骨と皮だけだった。少しでも強く握ってしまえば折れてしまうだろう。
「……ねぇ」
「…」
「……私、人間に生まれるべきだったかな」
「どうして、そんなことを」
「……だって、そうだったら、こんなことにならずに済んだ。あなたを置いていくなんてことに、ならなくて済んだ」
「…」
「……それに、あなたに、イリくんに、迷惑をかけずに済んだのかもしれないのに」
「迷惑だなんて思ってない」
「……でも」
「確かに振り回されることが良くあった。思いがけないことをして、何度も自分の常識を疑った。でも、それでよかったんだ。ロニィが獣人だったおかげで、俺はすぐにこの世界に馴染むことが出来たんだ。だから、迷惑だとか言わないでくれ…」
あの時ロニセラがネズミで遊んだから、俺は神を殺す手伝いを受け入れられた。
あの時ロニセラが人を殺したから、俺は黒魔術を受け入れられた。
あの時ロニセラが村人を殺したから、俺は過去を清算することが出来た。
今日まで俺が生きて居られるのは全部彼女のおかげなんだ。
「……そうなんだ。うれしい」
俺の言葉を聞いて満足したのか、ロニセラは微笑んだ。
「……じゃあさ、我儘言ってもいいかな」
「いくらでも言ってくれ」
「……ありがとう」
そう言うと、ロニセラは体を起こした。
見れば、彼女の体中に魔力が渦巻いており、身体強化をかけているのが分かった。そうすることによって、衰え切った身体を無理矢理起こしているのだろう。
しかし、それは体に強い負荷をかけることになる。今身体を壊してしまえばそのまま死に直結する。
俺はこれ以上彼女を動かさせないために手で押さえようとするが、彼女に断られる。
一体どうしたのかと問いかける俺に、ロニセラは息を切らしながら答えた。
「……夢があるの。それを叶えたい」
「無理なことは言わないでくれ!!冗談抜きに死ぬぞ!!?」
「……うるさい。老体に響く」
「…っ」
「……それに、もう死にそうだから叶えたいの。お願い」
「……………分かった。なんでも言ってくれ」
本当はやめてほしい。少しでも長生きするためにベッドの上で大人しくしていてほしい。
だけど、起き上がった彼女の姿を見て、俺は確信してしまった。
ロニセラの命はもはや風前の灯火。
魔力による強化と本人の気力でなんとか持ちこたえているが、それでも一風吹けば呆気なく消えてしまいそうなほど脆い。
ここで彼女の願いを拒めば、彼女は未練を抱えて死んでしまう。
ならば、せめてその願いだけでも叶えさせてやるのが俺の役目だ。
ロニセラは俺の肩へ震える手を伸ばし、引き寄せた。
そして、彼女は震えた声で言った。
「……あなたを、食べたい」
―――嗚呼、ロニィ。貴女はいつもそうだ。
俺がしたいこと、されたいことを把握して、誘って、俺を狂わせる。
俺はロニセラに肩を差し出した。
「どうぞ」
「……ありがとう。…イリくん。あなたと、幼馴染になれて、良かった」
「俺もだよ。ロニィ」
ロニセラが俺の肩に齧り付く。
力が衰え、歯が幾つか抜け落ちたせいかすぐに噛み千切ることが出来なかった。
それでも、嚙む力を強めて、必死に俺の肉を、骨を食らう。
血が溢れ出て、ロニセラがそれを飲んで、さらに欲して肉を裂く。
腹を裂き、内臓を口に含む。
骨を抜き、噛み砕く。
頭を砕き、脳を啜る。
皮も、肉も、骨も、内臓も、何もかも食らうべく歯を立てる。
胃が限界を迎えてもなお、食らい続ける。
胃が破裂して、内側から圧迫されても、食らい続ける。
何度も嘔吐しても、それをかき集めて喉へ通す。
そして、そして、
やがて、食らうことが出来なくなる。
身体が動かなくなる。
血に沈み、思う。
(ああ、幸せな一生だった)
これにて完結です。
お読みいただきありがとうございました。