イカれた幼馴染を紹介するぜ!!   作:俺の両手は幼馴染

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 長め。
 


初めて

 

 俺は呆然と空を眺めていた。

 

 ロニセラが生贄に選ばれた。

 その事が昨日から頭にしがみついて離れないのだ。

 一体どうして彼女が生贄に選ばれたのだろうか。

 生贄の条件は村一番の若い娘であること。確かにロニセラの顔は整っているが、村一番かと言われると微妙だ。

 なんせ、俺は天使と表現出来てしまうほど美しい少女を見たことがあるのだ。遠目で見ただけだったが、正直ロニセラよりあの子の方が顔が綺麗だった。

 次に生贄になるのはあの子かなと、他人事のように思ったくらいには美人だった。

 

 なのにどうしてロニセラが選ばれたのだろうか。

 彼女は嫌われ者の獣人だ。考えれば考えるほど、嫌な事が思いつく。

 

 負の感情が頭の中に酷く渦巻く。こんな気分は前世含め生まれて初めてだ。

 

 そもそも、何で生贄の文化なんてあるんだ。

 どうせ神なんて居ないのに。居たとしても、こんな辺鄙な所に居るはずがない。天界とか、そんな所にいるはずだ。

 少し距離のある山の中に祭壇があるらしく、そこに生贄を捧げるそうだが、何でもない野生動物に餌を与えてるだけだと思う。

 

 そんな事を親に言ったら、物凄い剣幕で詰め寄ってきた。

 

 「イリベッ!!今すぐ取り消しなさい!!」

 

 「ガルヴァーナ様は存在する、そんな当たり前の事も分からない息子に育てた覚えはないぞッ!」

 

 「そうよ!どうしてそんな事を言ったの!?」

 

 「え、いや、ちょ」

 

 「やっぱりあの子が原因なのよね!?そうなんでしょ!?」

 

 その時に初めて、俺の両親はマトモじゃない事に気が付いた。

 よく考えれば、生贄を快く受け入れている時点で気付くべきだった。

 母のリリスも、父のザルバも、普段は優しい目をしているのに、この時ばかりは狂気に満ちた目をしていた。

 別人のようだった。殺される、そう思ってしまう程だった。

 何だが気味が悪くなって、俺はたまらず家を飛び出した。

 外はのどかだった。

 皆、村人としての幸せを十分に感じているような顔をして暮らしていた。

 一人の住民が死ぬことが決定したのに。

 駄目だ。

 この村の人間は、皆イカれている。

 

 

 「………」

  

 「イリくん。どうしたの、そんなところで寝っ転がって」

 

 草原の中央で寝転がる俺を、ロニセラは覗き込むようにして言った。

 彼女は生贄に選ばれたというのに、いつものように振る舞っていて、何なら俺を心配しているように見える。何ならさっき、しゃがみ込んで頭を撫でてきた。

 

 「よく平気でいられるな」

 

 「ん?」

 

 「生贄に選ばれたんだぞ」

 

 「ああ、そのこと?」

 

 ロニセラは、何だそんなことか、と何でもないような顔で言った。

 俺は訝しげに彼女を見た。彼女は寝っ転がっている俺の隣にドカッと座り、俺の方を見て頬を釣り上げた。

 

 「イリくん。これってチャンスだとはおもわない?」

 

 「何の」

 

 「かみさまをたおすチャンスだよ」

 

 「……は?」

 

 え、今何て言った?

 神を倒す?そんな事が出来るのだろうか。 

 

 「……どうやって」

 

 「がんばって」

 

 「はぁ…」

 

 あまりに大雑把で、それでいて非現実的な提案に、俺は何とも言えないような溜息を吐いた。

 

 何だろう。ロニセラなりに俺を励まそうとしてくれているのだろうか。

 もしそうだとしたら、正直めっちゃ嬉しい。

 でも、何で俺が励まされてるんだ。逆だろ、普通。

 彼女の様子を見る限り、全く狼狽えたりしていない。妙に楽観的だ。今だって尻尾を振っている。

 何だか、楽観的な彼女の姿を見ていると、こうして俺だけがウジウジ悩んでいるのもバカらしくなってきた。

 

 まぁ、何があってもロニセラ一途だって心に決めたし、彼女がそう望むのなら、そうしよう。

 どうせ神なんて存在しないしな。祭壇に運ばれたところで逃げてしまえば何とかなるだろう。

 もし本当に神が存在したら、その時は、彼女と一緒に死のう。どうせ一度死んだ命だし、幼馴染を娶るって心に決めてたし、幼馴染と一緒に死ぬのも本望よ。

 

 「…じゃあ、神様を倒すためにどうする?時間はあとどれくらいあるんだっけ?」

 

 「三十日くらい。がんばっていっしょにきたえよ」

 

 「三十日……うん、やろう」

 

 短っ。

 まぁ、いいか。もうどうにでもなれだ。

 

 そんなわけで、俺達は神殺しをするための修行を始めた。

 と言っても、本格的なものではない。

 勿論腕立て伏せとかそれっぽいことはするが、メインはただかけっこしたりして遊ぶだけだ。

 なんせ俺達は未だ幼い身。筋トレしたところで付く筋肉などたかがしれているのである。

 ならば武術を、と行きたいところだが、残念な事にこの村に武術を教えられるものはおらず、居たとしても俺達の扱い的に教えてくれない。

 まったく、それでも武を志す者か?…と居るかも分からない人間に悪態をついておく。

 そんなわけで、兎に角走る。そして少しでも体力と走力を身につけ、生贄文化から逃亡する力をつけるのだ。

 

 それで20日近く費やし、結果を言うと、全く成果がなかった。

 筋力も走力も上がった気がしない。体力は気持ち上がった気がする。

 控えめに言って絶望的。予想していたけれど、鍛錬による成長は全く見込めなかった。

 そんな中、俺達が目をつけたのが魔法である。

 

 つい最近知ったことなのだが、この世界には魔法があるらしい。

 生まれてこの方親もご近所さんも誰も使っているところを見たことが無かったから、全然知らなかった。

 獣人に加えて魔法というファンタジー要素が増えたことにより、俺の中でいっそう神の存在の現実性が増してしまった。

 

 ちなみに、魔法を知った理由は魔法使いがこの村を訪問したからだ。

 盗み聞けば、魔薬の材料がこの辺りにあるから少しの間泊めてほしいとのこと。

 

 出来ることなら直接魔法を教えて貰いたかったが、魔法使いの周りにはいつも人が沢山いて、とても話しかけられる状況では無かった。

 なので魔法使いが魔法を使う様子を遠目で観察して、頑張って見様見真似で出来るか試してみた。

 

 勿論かなり苦戦した。

 というのも、魔力的な何かを操って魔法を使っているっぽいのだが、真似しようにも肝心の魔力が身体の何処にあるのかが分からないのだ。

 魔法使いが村人に魔法についての説明を盗み聞きした中で、どうやら鳩尾辺りに蓄えられている魔力を使うらしいのだが、意識しても全然魔力らしいものが見つからない。

 まるで、超能力者でも無い人が超能力を使おうとしているような、そんな無茶をしているように感じた。

 

 そして、そんな無茶を崩したのはロニセラだった。

 何と彼女は魔力を使っての身体能力強化を実現させたのだ。

 彼女曰く、心臓辺りのムワッとしている何かを全身に広げるイメージをすると上手くいくらしい。

 正直、俺には全く分からなかった。 

 

 「しんぞう近くのムワ〜っとしてるのをぐわ〜っとすれば出来るよ!」

 

 「そうそう!……やっぱ違う!もっとこう…ブワッとして!」

 

 そんな彼女の熱弁を聞いても、俺にはさっぱりだった。

 身体の中のエネルギーがどうとか、そんなのどうやって感じ取れば良いのか。

 そもそも、俺に魔力はあるのだろうか。

 魔力を扱う以前に、そもそもそれがあるのかどうかも怪しくなってきた。

 もう何も分からない。分からないということだけが分かる。

 これって、ひょっとしなくても、

 

 「もしかして俺って才能ないのか」

 

 「そうなの?悲しいね」

 

 悲しいなぁ…。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

  

 

 

 やがて時が経ち、太陽は十回ほど地平線の奥に身を隠した。

 

 今日、ロニセラが神の生贄として捧げられる。

 

 今日まで魔法の練習は欠かさずやってきたが、残念ながら俺はほぼ進展は無く、唯一の進捗は魔力が可視化出来るようになったことぐらいだ。

 ロニセラは初日から魔法を使う才を見せたものの、その後一切の進展が無く、何故か身体強化の魔法しか使えていなかった。脳筋か。

 

 そんなわけで、俺は魔法が使えないなりにどう戦うか考えていた。

 石を投げたり、砂を巻き上げたり、水を吹っ掛けたり。原始的な方法で如何にして戦うか頭を悩ませていた。

 

 しかし、そんな俺に対してロニセラは言った。

 

 「イリくんは戦わなくて良いよ」

 

 「え?戦力外通告?」

 

 「うん。そこで待ってて。あっ、でも夜には来てね」

 

 「夜?」

 

 「うん!サプライズ用意してるから!祭壇に来てね、絶対だよ」

 

 「…分かった」

 

 この生贄、元気過ぎる…。

 無理に明るく振る舞っているのか、現状をよく理解していないのか、理解してこれなのか。

 なんにせよ、彼女の考えはわからない。

 

 俺としては一緒に行きたかったが、彼女が言うのならば仕方ない。

 何があっても一途で有り続けると、まるで世界が敵になっても僕だけは君の味方だよ、みたいな事を決めたのだ。ここで変に逆らって好感度を下げたくない。

 

 そんなわけで、俺は彼女の言う通りにした。

 

 その後、彼女は生贄になる準備をするために村長の家に呼ばれた。

 衣装やら化粧やら事前に食べるべき果物やら。生贄の仕上げにはそれなりに手間が掛かるらしい。

 そんなわけでロニセラは大人達に連行された。

 

 村長の家が少しの間賑やかになった後、玄関から出てきた村の伝統衣装を身に包んだロニセラは、妙に様になっていた。

 数人の大人に囲まれており、彼らは肉や野菜の馳走を持っていた。

 ガルヴァーナとかいう神にとっては、あれらが前菜で、ロニセラがメインディッシュだろうか。

 贅沢な神だ。

 

 

 

 

 

 日が傾き始めた頃。

 

 まだ約束の時間では無いのだが、彼女が一人で死んでいるかも知れないと思うと居ても立っても居られなくなった俺は、少し早めに家を飛び出した。

 もちろん、親にバレないよう音を殺しながら。

 

 村の中心にあるそれなりに整備された道を目印にしながら、俺は人目を避けるルートを通った。

 背の高い草に身を潜め、見つからないよう迷わないよう、慎重に進んだ。

 と言っても、この時期になると虫やカエルが煩い田舎だったので、足音に関してはそこまで注意せず進んだ。

 

 そうこうしている内に祭壇付近に着いた。

 

 深い森の中に1つ、石造りの台があった。

 木々と草叢に囲まれた大自然の中に立つ1つの人工物など一際目立つ筈なのだが、どうしてかとても背景に溶け込んでいて、むしろ無くてはならないと思えてしまうほどだった。

 

 俺は祭壇の上を見て目を見開いた。

 血だ。それも大量の。

 祭壇の裏に回って見てみれば、壇上から血が滴り落ちており、土が赤色に染まっていた。

 

 まさか、本当に神は実在したのだろうか。

 ロニセラは、ガルヴァーナに食われたのだろうか。

 

 その事をどうしても否定したくて、彼女が逃げた跡が無いか、祭壇周りを注意深く探ってみると、人の、それも子供の足跡があった。

 幾度も見たことがあるから分かる。これはロニセラの足跡だ。

 

 俺は安堵した。

 良かった。彼女は死んじゃいなかった。

 

 しかし、1つ引っかかった。

 なら、この血は誰のだろうか?

 分からない。

 だが、この足跡を辿っていけばロニセラに出会えるはず。彼女なら、ここで何があったのか分かるはずだ。

 気掛かりなのは、足跡に沿うように、少なくない血痕がある事。彼女のものか、それとも別の誰かのものか。

 それを少しでも早く知る為にも、急いで彼女と合流しなければ。

 

 そう思った俺は、地面に残る足跡を頼りに、森の奥へと進んでいった。

 

 しばらく歩んでいると、香ばしい匂いが漂ってきた。

 それは人が作らなければ出来ないような匂いだった。まるで、肉料理でもしているかのような。

 

 森の中で嗅ぐはずの無い匂いに少し奇妙に思いつつ、俺はその匂いの元を辿った。

 

 匂いの元は、案の定肉料理だった。

 そして、その料理人は幼馴染だった。

 ロニセラが手先を真っ赤に染めて、焚き火を利用して肉を焼いていた。

 

 「………」

 

 「あっ、イリくん!」

 

 「うぐっ」

 

 彼女は俺を見るや否や、待っていたとばかりに飛び込んできた。

 尻尾を振るわせながら華奢な両手で俺を締め付けてくる。ミシミシと骨が軋む音がした。物凄く痛い。

 身体に走る痛みを我慢しながら、俺は焚き火に焼かれる肉を見て言った。

 

 「ねぇ、何作ってんの?」

 

 「やきにく!」

 

 見たまんまだった。

 俺は一旦ロニセラのハグを解き、焚き火のそばに座る。

 隣では、彼女が嬉しそうに頬を緩めていた。

 

 「はい、出来たよ」

 

 差し出された肉を手に取る。

 めっちゃ熱い。でも、我慢出来ない程じゃない。

 味見も兼ねて一口齧ってみる。

 

 うん。あんま味がしない。

 強いて言うなら肉の味。素材の味だ。

 塩コショウは…無いか。

 というか、これは何の肉なんだろうか。

 食感を信じるのなら鶏肉だ。

 

 「これ、何の肉?」

 

 「かみさま」

 

 「………………マジ?」

 

 「まじ」

 

 え、ひょっとしてこの子、一人で神様やったのか。

 てか、神様ってやっぱ居たのか。

 え、つよ。怖。

 

 「強かった?」

 

 「そんなに」

 

 えっ、つまり、この村の土着神は幼女に負けるぐらいには弱かったってことか。

 それでも神かよ。今まで生贄にされた子も、実は生きてるんじゃないのか?

 それに、そんな雑魚な神を怖れてガルヴァーナ様がどうとか言って生贄を出し続けている村人達がバカらしく見えてきた。

 ここ一ヶ月間ヒヤヒヤしてたのは無駄だったってことか。

 何というか、迷惑な話だ。

 

 「ちなみに、どんな形してた?」

 

 「私たちと変わらなかった」

 

 「えっ、人の形してたってこと?」

 

 「うん。というか、人だった」

 

 「人…?……神様が?」

 

 「うん。人をよく食べるだけの、人だった」

 

 あれ、俺って確か、さっき神様の肉食ったよな。

 でもロニセラが言うには神様は―――。

 

 「……っごめん。ちょっと席外す」

 

 「?うん」

 

 

 

 

 

 

 

 「おェ゛ェ」

 

 口から色んなものが飛び出す。

 飛び出た黄色い粘液に浮かぶ肉片を見て、俺はまた吐き気を催し嘔吐した。

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 冗談キツイって…。

 こんなの初めてだ。

 出来ることなら経験したく無かった。

 幼馴染に奪われる初めては、決してこんなのじゃない。

 もっとこう、誰もが歓喜するような事なんだ。

 断じてこんな―――っ!

 

 「うぷっ」

 

 …。

 

 「はぁ…はぁ…くそ……」

 

 全く、ロニセラさんったらヤンチャが過ぎるよ。マジで。

 これには流石の俺もノーと言わざる負えない。愛の力にも限界があるんだ。

 

 「これは流石に…止めないといけないよな」

 

 ネズミは百歩譲って許せる。

 だが、これは不味い。

 幼馴染の悪さも矯正させるのも、幼馴染の努めだ。

 今まで意見らしい意見を言うことは避けてきたが、こればっかりは別だ。

 

 止めなければ。

 

 そう決意した俺は、たどたどしい足取りで肉を焼く幼馴染の下へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 彼女の下へと戻った時、ロニセラは丁度知らないおっさんの首を掻っ切っていた。

 リアルに血が吹き出る様を見て、俺は今日一番の嘔吐をした。

 

 

 




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