イカれた幼馴染を紹介するぜ!! 作:俺の両手は幼馴染
ちょっと展開速いかも。
目が覚めた時にはもう既に日は上っており、葉っぱの隙間から太陽の光が漏れ出ていた。
どうやら、ロニセラが首を切った光景を最後に寝てしまったらしい。
恐らく、度重なるショックで気絶したのだろう。
昨日の記憶が曖昧だ。あれらは本当に起きたことだったのかいまいち確証が持てない。
しかし、さっきから喉の奥が痛む事から、少なくとも繰り返し嘔吐をしたのは夢ではないらしい。
俺はゆっくりと身体を起こすと、近場から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あっ、おはようイリくん。良くねむれた?」
「……おはよう。おかげさまで良く眠れたよ」
目を擦り、座ったままの姿勢で体を伸ばす。バキバキと背中が鳴った。
ついでにミチミチと肉の音も聞こえた気がする。
「ならよかった。だってイリくん、ゲロの上で寝ちゃうぐらいつかれてたんでしょ?ごめんね」
「……うん」
何てバッチィ敷布団だ。
清潔さ、寝心地の良さ、見た目の良さ共に最低レベルだ。
強いて利点を上げるのならば、己の気分次第で何時でも何処でも即席で用意出来ることぐらいだろうか。
「?ゲロの上で寝たにしてはあまり汚れてないな…」
「かわいそうだからそうじしたよ」
「ああ、ありがとう」
おかげで最悪中の最悪な目覚めにならずに済んだ。
ロニセラの優しさが染み渡る。
ミチミチと肉の音が鳴る。
そういえば、この音はなんなのだろうか。
さっきはてっきり背中を伸ばした時にやらかして鳴った音かと思っていたが、伸ばしていない時にも鳴った。
つまり、それとこれとは関係無いということだ。
なんだろう。昨日のトラウマから引き起こされる幻聴だろうか。
そう思いつつ、ロニセラの居る方へと目を向けた。
まず最初に、赤い何かが目に入った。
それは何だと目を凝らして見てみると、昨晩首を切られた見知らぬおっさんだと分かった。
近くの木に吊るされ、腹を開かれ、そこに収まっていたであろう重要器官達は地面に寝そべっていた。
その隣には神もどきの食人鬼だったと思われる肉片が転がっていた。
「うっ」
猛烈な吐き気がしたのですぐさま口を抑える。
胃が必死に中の物を出そうと奮闘しているが、昨日の時点で出し切っているため、上がってきたのは少量の胃液のみであった。
その少量の胃液が傷付いた喉をさらに痛めつけた。
「ゲホッ…ゲホッ…っ!」
「大丈夫!?気分わるいの?」
「おかげさまで…っ」
ロニセラが俺に寄り添い焦った様子で背中を擦る。
そのおかげでより多くの胃液が上り、より喉を痛めることになった。
出来ることなら止めてほしい。しかし、それを言ったり跳ね除けたりする元気が俺には無かった。
少しの間苦しんだ後、俺はロニセラの肩を掴み、やつれた顔で言った。
「ロニィ…人を食べるのはやめよう…!」
「どうして」
「どうしても何も…っ…食べるのは駄目なんだ…!」
俺の懇願するような言葉を聞いて、ロニセラは眉をハの字に曲げた。
「…………お腹が減っても?」
「駄目…!」
「なんで」
「倫理とか病気とか……兎に角、絶対にやっちゃ駄目なんだ……!!」
「…りんり?」
それは、と説明しようとしたところで引っかかった。
倫理を教えたところで、彼女は理解してくれるのだろうか、と。
そもそも、教えるべきなのだろうか。
いや、教えるべきなのは間違いない。だが、教えるのであればこの世界の倫理観だ。
俺が知っているのは前世のもの。この価値観は、きっとこの世界にとっては綺麗すぎる。
なんせ、辺境の村とはいえ生贄の文化があるのだ。
必要とあれば人の死を幸福に思う。
そんな村で育った彼女に、俺の場違いな考えを押し付けるべきなのだろうか。
それに、病気に関しても、獣人である彼女にとってはどうなのだろうか。
獣人は人を基準にすべきだろうか、それとも獣を基準にすべきだろうか。
何だか混乱してきた。
俺はどうするべきなんだ。何をするのが正解なんだ。
彼女が変わるべきなのか?俺が変わるべきなのか?
現世と前世、どちらの考えを基準に行動すれば良いのか分からない。
前世の価値観で動くには、この世界は残酷過ぎる。
きっとこの先、これに近しいことが何度も起こるだろう。それが彼女によって引き起こされるかも知れないし、まだ見ぬ狂人達によって齎されるかも知れない。
その度に嘔吐して、気絶して、こうして悩み苦しむ。
そんな生活、耐えられるわけがない。
幼馴染と結婚するなんて以ての外だ。
かと言って現世の価値観で動こうにも、生きた年数が少な過ぎる。
まだ教養らしい教養を身に着けた事が無いから、何が駄目で何が良いのかが分からない。
そもそもそういった事が教えられるかどうかも。
苦しい。八方塞がりだ。
「イリくん。
私はそのりんりっていうのを知らないけど、イリくんが私のことを心配してくれてるのは分かるよ。だからそんなにも必死になってくれてるんだよね」
「……うん」
弱々しく頷いた俺を見て、ロニセラは肩を組むように抱きついて来た。
「安心して。私は大丈夫だよ」
「…何で大丈夫だって分かるの」
そう聞くと、ロニセラは俺の手を取り、自身の胸に押し当てた。
彼女の突然の行動に戸惑っていると、「手に集中して」と声をかけられる。言葉通りに集中すると、手から彼女の心臓の鼓動が伝わってくる。一定のリズムで、彼女の命がそこにあると知らされる。
「ほら、ドキドキ鳴ってるでしょ。私はいるよ。この心臓は、私が止めるまでけっして静まることはない。イリくんを置いていったりなんてしないから」
それに、と彼女は付け足す。
「いつもおとうさんが言ってたんだ。ムカついたら人なんて食っちまえ!われわれ獣人はそうやって争いに勝ってきたんだ!って。
だから、大丈夫だよ」
「……ははっ、なんじゃそりゃ」
ロニセラのお父さん、そんなこと言ってたのか。
だとすれば、確かに彼女の行動にも説明がつく。
何かと最近、彼女に励まされてばかりだ。
生贄が決まった時しかり、今日しかり。いつも俺が落ち込んでいて、彼女が気を利かせてくる。
彼女には感謝してもしきれない。もしこの子が居なかったら、俺はとっくのとうに狂っていただろう。
いや、そもそも彼女が居なかったら俺はこんな目に合っていなかったのでは?
いや、もし彼女が居なかったらまた別の幼馴染候補が生贄に選ばれて、今回のようにはならずに二人仲良くガルヴァーナの胃袋に収まっていたに違いない。
まぁ、何にせよ、この事を考えるのはもう止めよう。
ロニセラがこんなにも励ましてくれているのだ。ここで元気にならなければ彼女に面倒臭い男の烙印を押されてしまう。
それに、単純に彼女に心配してもらえるのが嬉しすぎる。何だか涙が出そうだ。出さないけど。
「ありがとう。何か元気出たわ」
「じゃ、ごはんにしよ」
ロニセラは嬉しそうに、焚き火に炙られていた料理を持ってきた。
肉だ。問題の肉だった。表面は所々焦げていた。
そんなわけでかなり熱いはずなのだが、どういうわけか彼女は素手で持つことが出来ていた。
よく見れば、彼女の手に若干の魔力が纏わりついていた。身体強化魔法の一種だろうか。
「……いや、食べんよ。ロニィは大丈夫でも俺は駄目だから」
「そうなの?でもおなか空いてるでしょ?がまんは良くないよ」
彼女の言う通り、俺は物凄く腹が減っている。
昨日から何も食べていない。厳密には食べたのだが、すぐに敷布団に変えてしまった。
「いや、そういう問題じゃなくて」
「んー、もうちょっと冷ましてから食べる?」
「……何でそんなに食べさせようとしてくるの?」
「だって、さっきからイリくんのおなかグゥグゥなってる」
……。
腹の虫が鳴る。
いや、駄目だ。そんな考え捨てろ。
こればっかりは断るべきだ。普通に危ない。一時の欲で今後の人生を消されたくない。
今の俺は不味い状態だ。さっさと何か腹に入れなければ、とんでもない間違いを犯してしまいそうだ。
そこで、俺は焚き火近くに野菜が置かれている事に気付いた。
あれは多分、生贄と共に捧げられる予定だった野菜達だろう。
「あれを食うよ」
「ん、わかった」
ロニセラはあくまで俺の意志を尊重するつもりのようで、一度頷き、それ以降肉を勧めてくる事は無かった。
俺は野菜を手に取る。虫が少し寄って来ていて不潔だったので、焚き火を使って軽く炙ってから食べた。
苦くて青臭い。だが、これで多少の飢えは凌げるだろう。
我慢だ。
何となくロニセラを見る。
美味しそうに肉を頬張っている姿が目に入った。
肉を咀嚼している間に地味に慣れた手付きで次の肉を焼いていく。その肉が焼けたら即口の中へ。その合間に次の肉の準備をする。
彼女自身、肉好きかつ大食いなのも相まって、それらの流れが留まるところを知らない。
あまりに次に次にと頬張るものだから、俺はつい気になって聞いた。
「美味しいの?」
「うん。お魚よりは好き」
「魚嫌いだっけ?」
「別に」
そこそこ美味い、ということだろうか。
大丈夫だろうか。もしその肉がロニセラの好物になってしまったらと思うと、未来に対して確定的でハッキリとは見えない不安に襲われる。
少なくとも、善悪で言えば悪の生き方をする事になるだろう。
せめてその回数を減らすことが出来れば良いのだが、それ以上の好物を食べさせる以外の方法が思いつかない。
「そういえば、一番好きな食べ物ってなんだっけ?」
「お肉。でも、このお肉はその中で一番嫌い」
「あんまり好きじゃないってこと?」
「好きだけど、あったら食べたいぐらい」
良かった。ひとまず一安心。
俺としても同族が食べられているのは見ていて良い気分とは言い難い。
美味いものを食べさせ続ければ抑えることが出来そうだ。何だか餌付けしているみたいだが。
そんな事を考えていると、あっ、と何かを思い出したようにロニセラが口を開いた。
「まだ食べたことないけど、絶対おいしいやつを思い出した!」
「おっ、何?」
「それはね―――」
「―――イリくん!!!!」
「……………………………え?」
彼女の突然のカミングアウトに動揺していると、突然彼女が飛び込んできて押し倒された。
「ぐぇ」
「いひひ、つかまえた」
彼女の笑みは獰猛で、その表情は正しく肉食獣だった。
えっ、俺?
聞き間違いじゃ無いよな?
間違いなく言った。俺は難聴じゃないから、ハッキリ聞こえた。
何で俺を食う話になってるんだ?
俺って、幼馴染に食われるのか?
R-18G?ロニセラってそういう趣味だっけ?
確かによく結構ディープな下の話をした。リョナについても話したりした。
でもその時はあまり反応が良くなかったから、てっきり彼女はそっち方面では無いものだと。
というか、ヤバくないかこの状況。
俺の冒険はここで終わってしまうのか。
あまりに突然過ぎるゲームオーバー。これは予測していなかった。
いや待ってくれ。俺はまだ幼馴染と結婚するという使命を果たせていない。こんなところで幼馴染に食われて死ぬのは流石に嫌だ。
食うならばせめて性的に!
そう思っている、そのはずなのだが。
何だろう、この気持ち。
俺の心の奥底で、確かに感じる高揚感。まるで、このまま食されるのを望んでいるかのような、悪くない気分だ。
俺はグロテスクなのは嫌いなんだ。本来の俺ならするのもされるのも断固拒否するはずだ。
しかし、実際はそうではない。
心臓の鼓動が高鳴る。それは決して恐怖などではなく、興奮から来るものだった。
もしかしたら、相手が幼馴染であるロニセラである事が関係しているのかもしれない。彼女になら性的のみならず食的にも食べられても良いと、そう思っているのかもしれない。
「い、今、お食べになられますか?」
「…………いや。まだ良いかな」
「そ、そうですか」
「でも、血は飲むね」
「あ、はい」
俺は服をずらして肩を差し出す。
ロニセラは爪を立て、浅く一突き。じんわりと溢れ出てくる血を少し眺めた後、ゆっくりと舌で舐め取っていった。
「おいしい……」
恍惚とした表情でそう呟く。
「もうちょっとだけ、飲んでいい?」
「どうぞ」
ロニセラは夢中で傷口から出てくる血を舐め取っていく。
その間も、俺は妙な高揚感に襲われており、少しくすぐったいのも相まって、終始蓋をされた鍋から溢れるような笑みを浮かべていた。
「ごちそうさま」
そう言ってロニセラは、少し名残惜しそうに俺から離れた。
俺としてはもっと飲んでくれても良かったのだが、その後彼女が先程よりも早いスピードで余っていた肉を食べ始めたので、何も言わない事にした。
◇◇◇◇
その後、満腹になったのかロニセラは俺の膝を枕にして寝始めた。俺の膝上で規則正しく寝息を立てている。
よく見れば目の下に隈のようなものがあった。きっと、気絶した俺を守る為に、昨日から寝ていなかったのだろう。
今度は俺の番ということか。
軽く周りを見渡してみる。
木、木、草、木、解体途中のおじさん、解体済の食人鬼、木、焚き火、木、草。碌なものがない。
血の匂いにも酷いもので、嗅覚が麻痺しそうな程臭う。いつ匂いにつられて肉食獣が顔を出すかも分からない。
宙吊り死体に肉片、勢いが落ちた焚き火とそのそばで少年が少女に膝枕をしている。こんな状況、他の誰かが見たらどんな反応をするだろうか。
ビビって逃げてくれるだろうか。それとも、何がなんだか分からず呆然としてくれるだろうか。前者であれば有り難い。
まぁ、勿論見られないのが一番なのだが。
だが、現実は時として非情である。
「あっ」
そんな声と共に、木の影から1つの人影が覗き込んできた。
「やっと見つけた。探したよ」
その人物は、あの時村に突然訪れて来て以来ずっと村に居座っている、魔法使いだった。
感想・評価貰えるととてつもなく嬉しいです。