イカれた幼馴染を紹介するぜ!! 作:俺の両手は幼馴染
それなりに優秀な魔法使い―――サリーナ・アルキアイズは冒険者である。
齢13歳で冒険者となり、17歳の今日まで生きてきた、4年のキャリアを持つ少女である。
そんな少女―――私は、自分の家にて、いつもより格段に美味い紅茶を飲んで二人の子供を鑑賞していた。
その二人の子供とは、片や人間♂片や獣人♀の、珍しい友情を持った子達だ。人間の名前はイリベ、獣人の名前はロニセラである。年齢は6、7歳ぐらい。
お互いとても仲が良く、いつもべったりだ。愛情の度合いは大体同じらしく、どちらかが片方に執着するのではなく、相思相愛で気付けば磁石のようにくっ付いている。
歳も行かぬ少年少女が笑顔で抱き着く姿は可愛らしいことこの上ない。
しかも彼らは異種族同士。特に人間と獣人となれば希少な関係だ。
何せ、獣人は野蛮な種族だ。その殆どが、すぐに噛みつくし引っ掻いてくるし殺害を決めるのが早いしで碌な奴らではない。それに食事も汚く、衛生意識も低い。
私の知り合いに獣人の冒険者が居るが、一緒に討伐依頼をこなした時、食欲を我慢出来ず折角討伐した魔物の証明部位ごと食ってしまう事がしばしばあったもんで、正直あまり良い思い出がない。
このように、獣人は野蛮で人のそれとは違った価値観で動く種族だ。
獣人との戦争の記録は数多くあるし、その度にお互い多くの命を散らしてきた。世界各地に遺恨はあるし、お互い嫌い合う事が正義だと思い込んでいる者も多い。
そのため、イリベくんらが住んでいた村でも、獣人に対する排外的な思想が根付いていた。
一応住民として受け入れてはいたけれども、村人達は獣人一家を存在しないものとして無視し続けていた。
大人は勿論、子供までもがごく普通に彼らを意識外へと追い出し、当然のように楽しく暮らしていた。
そんな中、どうしてかイリベという少年だけ、ロニセラという獣人の少女と仲良くなっていた。
普通ならば有り得ない事だ。
獣人は無視する、それが村の共通認識であり、大人から教えられる常識である。
それが、私が村に滞在してきた中で導き出した思想。
子供という白紙は大人という墨にただ無抵抗に染められるだけなのだ。
だというのに、子供であるイリベくんはロニセラちゃんを選んでいる。
本来であれば有り得ないはずのこの関係に、私は興味を持った。
だから攫った。
ちょうどロニセラちゃんは生贄に選ばれたという状況もあって、大義名分を得られたようでやりやすかった。
と言っても、捧げられた瞬間助け出すつもりが寝落ちしちゃったり、いつの間にか祭壇から居なくなったロニセラちゃんを死んだと思って諦めたり、せめてイリベくんだけでもと家に行ったら居なかったり、逃したとショックを受けて不貞寝したり、朝になって思い直して再度捜索したりと色々あったけれども。
何だかんだありつつも目的の者を持って帰れて、私は満足です。
しかし、イリベくん達はそうはいかないようだ。
彼らは私のことをずっと警戒している。いつ私が襲ってくるのか、見定めている目だあれは。特にロニセラちゃんに関しては、今すぐにでも私の喉を掻っ切らんと睨み付けている。
あの時、彼らを気絶させて無理矢理連れて帰ったのは間違いだっただろうか?
しかし、そうもしないと暴れられて連れて帰るなんて出来なかったはずだ。どうか許してほしい。
何て言っても警戒を解いてくれるわけもなく、イリベくんには疑心の目を、ロニセラちゃんには濃厚な殺意をぶつけられる日々である。
そんな日常でも、一切の代わり映えが無い訳もなく、時折イリベくんが話しかけて来てくれる。と言っても、質問攻めのようなものだが。
「どうして、僕達を攫ったんですか?」
「助けたいと思ったからだよ。君達にとって、あの村は窮屈でしょ?」
「…どうして見ず知らずの僕達を助けたんですか?」
「珍しいから、かな。ここで失うのは勿体無いなって思ったんだ」
イリベくんの質問に正直に答えてやると、彼は呆気に取られたような顔をした。
彼の中でどんな返答を想定していたのか分からないが、その顔を見るに、それとは全く違う答えが帰ってきたのだろう。
生憎、私は聖人じゃない。善意で人を助けたりなんてしないんだ。
それ以降質問は終わった。
何かを考え始めたイリベくんとは別に、未だ変わらない殺意をぶつけ続けてくるロニセラちゃんを見る。
イリベくんを守るように少し前に立っており、彼女の内側では身体強化でもしているのか魔力が渦巻いていた。
私はその事実に目を見開いた。
普通、魔法は早くとも10歳以上になった辺りで扱えるようになるもの。何せ、魔法の習得は5年近い修行の末に出来るものだ。才能が無い者ならば10年以上かかる者も居る。
それを6、7歳でやっている。一体、いつから魔法の修練を始めたのだろう。
「その身体強化魔法、何処で覚えたの?」
「グゥルルルルル…っ!」
「そんな警戒しなくてもいいじゃんか」
「グゥルル……っ!」
全く話をしてくれない。
出来る限り安心できるような穏やかな笑顔を向ける私に対して、ロニセラちゃんは牙を剥き続けてくる。何なら爪で引っ掻いてきた。
私は慌ててそれを避ける。飲みかけの紅茶が溢れ、空を切る追撃の爪がその溢れ汁を真っ二つにした。
すると、イリベくんがロニセラちゃんを取り押さえた。獣のような唸り声を上げながらこちらに手を伸ばしてくる。そして、彼が彼女の耳元で「攻撃するな」と囁くと、見る見るうちに大人しくなっていった。当てられる殺意は相変わらず変わらないが。
実はこの流れ、彼らを攫ってから10回目である。物凄い頻度で私を殺そうとしてくる。私の知り合いの獣人でもここまで血気盛んじゃないぞ。
「大変だね。イリベくん」
と、お礼の代わりに息を乱す彼に言ってみる。
「ははっ」
死んだ目で笑い返された。
◇◇◇◇
あのサリーナという魔法使いに気絶させられ、彼女の家に連れてかれて早5日。
彼女の家は広く、そして若干薄暗い上に何故か森のど真ん中にある。魔法使いの家というより、魔女の家といった方がしっくりくる。
今のところ、村に居た以上に平和で安全な暮らしが出来ている。朝昼晩、今まで食べた事が無いような食事が出てくるし、何時寝ても起きても良い。慣れつつも確かに感じていた疎外感も無い。
あるのはサリーナの温かい視線と、快適な暮らしのみ。
けれども、それでも俺はどうしようもない疑惑を覚える。どうして見ず知らずの俺達を助けたのか、将来的に俺達をどうするつもりなのか。
前者について聞いた時、彼女は「珍しかったから」と答えた。可哀想だから、とか、見捨てられなかった、とか。そういうものではなく、珍しいから。まるで珍獣でも捕まえたかのような台詞だった。
珍獣というのも、あながち間違っていないかもしれない。
俺達を見るサリーナの目は、小動物の戯れを見ているかのようだった。
そういった意味では、俺達は彼女に飼われていると言っても過言ではないかも知れない。
「なぁ、ロニィ」
「む?」
ロニセラが俺の方へと向く。
今現在、ロニセラは俺の肩から滲み出る血を舐め取っている途中だったので、彼女の顔は正に目と鼻の先、ガチ恋距離だ。
ちなみに何故また彼女が俺の血を吸っているかというと、あの時吸って以来、癖になって毎日飲まないと気がすまないかららしい。
しかも、あの時よりもちょっぴりだが多く飲んでいるし、日に日にその量は多くなってきている。その内貧血で死ぬんじゃないかと思う。まぁ、望むところだけど。
ちなみに、俺達が今居るのはサリーナに貰った一室だ。子供2人寝るには大きいサイズのベッドか部屋の真ん中に置かれており、片側には子供サイズのこれまた大きな窓がある。その窓からは月光が差し込んでおり、照明をつけていないのにも関わらず部屋は明るかった。
「サリーナのことさ、好き?」
「嫌い」
「だよなぁ…。俺も何かあの人の人を人として見ていないような目が苦手だ」
サリーナは多分、俺達の事を人だと思ってない。人の形をしているだけの、観賞用の小動物だと思っている。
俺とて人間。そんな目を向けられて嬉しい訳がない。そういった趣味も無いし、止めてくれるなら止めてほしいと思っている。
しかしまぁ、それよりも
「これからどうしようか」
やることがない。
いや、あるにはある。ロニセラとの結婚とか、お金はどうやって稼ぐかとか。
しかし、それらをやるにはまず大人にならなければいけないだろう。いくら異世界とてそこは変わらない。
それまでどうやって生活すべきか、それはもう決めてある。サリーナの元で暮らすのだ。
確かに俺はあの人が苦手だ。ロニセラも嫌っている。だが、居候するにはこれ程良い物件が無いのだ。
あの村には戻れないし、戻ったところでまたあそこで暮らすなんてゴメンだ。そして俺達はずっとあの村で育ってきたので、あの村以外の知り合いなんて、それこそサリーナぐらいしか知らない。
まだ見ぬ親切な誰かさんを求め世界中をぶらぶらすれば、その内親切な人が見つかるかも知れないが、あまりに不確定過ぎるので真っ先に候補から排除した。
サリーナは決して親切な人では無いかもしれないが、彼女は絶対に俺達に危害を加えないという確信がある。彼女はきっと、ペットを大事にするタイプの人間だ。
そんなわけで衣食住は確保したのだが、大人になるまでやることがないのだ。
「強くなろう。神様を倒そうとした時みたいに」
そうロニセラが言った。彼女の目にはどうしてか決意の炎が灯っていた。
「……まぁ、良いけど、倒す目標が無くない?」
「居るでしょ?あの女が」
あの女って、サリーナの事か?
「何で倒す必要が?」
「あいつ、私達を一瞬で気絶させた。今度は返り討ち出来るようになりたい」
「ああ、なるほど」
どうやらロニセラは負けず嫌いらしい。
まぁ、この世界ならどれだけ力をつけても損は無さそうだし、彼女の提案はアリかもしれない。
聞いた話によるとサリーナは冒険者らしいし、俺達も将来的には冒険者になるかもしれないしな。純粋に冒険者という職業に興味があるから、彼女に勧められなくとも一度は立ち寄る自信がある。
その時に備える気持ちでやれば良いだろう。
「それじゃ、修行するか!」
「おー!」
次の日、俺達の会話を盗み聞きしていたのか、サリーナは嬉しそうな声質で
「それじゃあ!黒魔術やろっか!」
と言った。
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