イカれた幼馴染を紹介するぜ!! 作:俺の両手は幼馴染
魔法とは、自身の持つ魔力を操作し、火や雷などに変質させ放出する技術である。
変質の幅は異常といっても良い程広く、火や雷といったエネルギーから岩や鉄といった物質まで様々な形に変えることが出来る。極まれば、重力や空間、時間までも扱えるようになるらしい。
万能過ぎるエネルギー、それが魔力であり、魔法である。
黒魔術もその魔法のカテゴリーに入るようで、その中身は変わっているようでそこまで変わっていない。
相手の内側から破壊したり、姿形を変えさせたり、魂を抜き取ったり。黒魔術と聞けばそういったとんでもなく惨いものを思い浮かべるだろうが、魔法でも同じことは出来るらしい。
最も違う点を上げるとするならば、複雑な魔法陣を描かねばならず、生贄や媒体を用意して、それを餌に悪魔に働いてもらうという点だろう。手間はかかるが、働いているのは悪魔なので、自分は魔力を殆ど消費しないというのも大きな違いだ。
ちなみに、悪魔と聞けば羊の頭を持った黒い怪物が思いつくかもしれないが、この世界の悪魔は概念に近いものらしく、直接見ることが出来ないようだ。
前に頑張って悪魔との接触を試みた大魔法使いがいたそうだが、見てはいけないものを見てしまったようで発狂死したらしい。
そんな見ただけで発狂してしまうようなやべー奴に助力をお願いするのが黒魔術である。
サリーナの説明を聞いた感想を言うならば、不安だ。
そんな高次元の存在的なものに、幾らご褒美を用意しているとはいえそう軽々しく助力をお願いして良いのだろうか。
後に、実は黒魔術を使うたびに寿命抜き取られていましたとかならないだろうか。
そんな心配事を吐く俺に、サリーナは笑顔で答えた。
「大丈夫だよ。田舎の子は知らないかもしれないけれど、黒魔術って結構一般的なものだから」
絶対一般化されたらいけないやつだろそれ。
聞けば、普通に商店などで家畜の血が詰まった瓶が売られていることが多々あるらしい。数こそ少ないが、黒魔術専門店もあるのだとか。
正直そんな店がある街には行きたくない。
ただ、一般化されてるといっても、火を起こしたり冷やしたりと、家庭に使える程度の黒魔術のみらしい。魔法陣が刻まれた道具に市販で買える血をかけて火を付けその上で料理をする、みたいな感じで。
前述したような相手の内側から破壊するとか魂を抜き取るとか、そういったものは流石に規制されているようだ。
黒魔術という字面に惑わされるが、実際は生活の便利さを上げるだけの、ただの手段らしい。
しかし、今から教わるのはそんな平和なものではなく、絵に書いたような黒魔術である。
「黒魔術はよく血を媒体にするんだけど、悪魔は知能の高い生物の血ほど好む傾向にあるらしくてね。手っ取り早く強力な黒魔術を発動させたいのなら自分の血をあげると良いよ。もし近くに自分より頭の良い奴がいたら、そいつのを使ってね」
自分より頭の良い奴、という言葉にロニセラは反応し、俺の方をバッと見た。
前世ブーストがあるおかげで俺は年齢より頭の出来が良い。一応、成人並の知能は持っていると思う。かつ、俺は彼女に色々な事を教えていたので、彼女の中では俺=頭良いの方程式が出来上がっているらしい。
あれは別に齢一桁の幼女に知識をマウントを取っていただけで、別に頭良いアピールをしていたわけじゃないのだが、そのツケが回ってきたのだろうか。
今後、血を流す機会が多くなりそうである。
「んで、ここが一番黒魔術で苦労するところなんだけど、魔法陣の描き方を覚えなきゃいけないんだよね。何処にどの文字や符号を付けたらどんな効果になるのかとか、どんな組み合わせをしたらどうなるのかとか。文法が間違ってたら上手く発動してくれないし、スペルミスも怖いし、作図の正確さも問われるし。
お金持ちの坊っちゃんみたいにずっと机に向かって勉強とかして覚えないといけないんだよね」
「面倒くさそうですね…」
「でしょ?でも使いこなせたら強いし、魔力を使わないから継戦能力も高いしね」
「戦闘中に作図してる暇は無いのでは?」
「自己強化系の黒魔術なら大丈夫だよ。普通の自己強化とは違って、特殊能力のオマケがついてくるしね。黒魔術の継続も血を飲むだけで良いし」
えっ、血飲むの。
またロニセラが俺のことを見た。見れば、若干よだれが唇から滴っている。
これ以上飲まれる機会を増やされると本当に失血死しそう。悪い気はしないけれど、せめて結婚してからにしてほしいな。俺はその為に生きてるから、もし結婚前に死んだら悔やんでも悔やみきれない思いをすることになる、絶対。
そんな俺の考えを知ってか知らずか、サリーナは思い出したかのように言った。
「あっ、ロニセラちゃんは魔法で自己強化出来るからそうしてね。そっちの方が手っ取り早いし精神異常も無いからさ」
「うるさい。私は吸いたいときに吸うから」
サリーナさん、助け舟有り難うございます。てか、全然話が噛み合ってないな。
というか精神異常って何?黒魔術ってやっぱヤバいのでは?
「ああ、それはね、まぁ、万能感ってやつだよ。自分を無敵と勘違いしちゃったり、悪魔と思い込んじゃったり。まぁ、大したもんじゃないよ」
「無敵感は何となく分かりますが、悪魔と思い込むとどうなるんですか?」
「んー、黒魔術の自己強化中は相手の血を飲みながら戦うのが基本だからなぁ…。より多くの血を出すために相手をバラバラにしたり相手の肉を食べたりするようになる、まぁ、ロニセラちゃんみたいになると思えば良いんじゃない?」
なるほど分かりやすいな。
「ロニィ、言われてるぞ」
「別に私が悪魔でもイリくんは私のこと嫌いにならないでしょ?」
「あ、はい」
否定しないんだ…。
◇◇◇◇
「うーん……」
サリーナから渡された『赤子でも分かる!黒魔術―入門編―』という本を読みながら俺は唸った。
本の題名の通り、赤子に配慮したような文体をしているが、その内容は全く配慮をしていないと言っても良い。
この本は黒魔術に用いる言語、所謂『悪魔語』を取り扱っているのだが、如何せんその『悪魔語』の文法が難しすぎる。文字の種類が幾つもある上にその用途もバラバラ。少しの意味の違いが絶妙な言葉の差異を生んでいて、兎に角ややこしい。
更に言うなら、一部の黒魔術は詠唱が必要なのだが、それに用いる『悪魔語』の発音が非常にシビア。少し発音を間違えるだけで全く違う意味に変わってしまうのだ。
……なるほど。道理でサリーナは「お金持ちの坊っちゃんのようにずっと机に向かってなきゃダメ」と言った訳だ。これは時間がかかる。この本も入門編のくせしてめっちゃ分厚いしな。鈍器に出来そう。
ちなみにロニセラはというと、俺の肩に顎を載せて一応は学ぶ姿勢を見せている。ただ、時折あくびをしたり、サリーナを威嚇したりと、その集中力は長く続かないようだ。
それでも集中力が続かないなりに、本の一節を指さしてここはどういう意味か定期的に俺に聞いてくる。まぁ、俺も学んでいる立場なのだからその質問に的確に答えられないのだが。
だから俺はその質問の答えをサリーナに聞く。それで答えてくれる。正直二度手間だ。一度、分からないところがあるのならサリーナに直接聞くよう言ってみたのだが、「いや」の一言で片づけられてしまった。
というかサリーナも、せっかく黒魔術を教えようということになったんだから授業をするなりなんなりしてくれよと思う。
何故俺たちを見て笑う。何故そこで座って紅茶を啜ってる?
「サリーナさん、僕たちに黒魔術を教える気あります?」
「え?あるよ」
「じゃあ、なんで授業してくれないんですか?」
「いやぁ私人に教えるの下手だからなー」
そういう彼女の目は少し泳いでいた。
そんな彼女の様子に俺はジッと見つめていると、彼女はコホンと咳をして続けて言った。
「でもその本、わかりやすいでしょ?」
「ええ、まぁ」
悪魔語そのものが難しいため理解が困難な部分が多々あるが、それでも俺のような普通の脳みそでも理解できるようかなり嚙み砕いて説明してくれている。
題名の『赤子でもわかる!』という部分に嘘偽りはないようだった。
「それ、私の友人が書いたものなんだ」
「ご友人が…?」
「うん。だって、黒魔術を教えるのって犯罪だからさ?そういうのって市場に売ってないんだよね~」
「え、でも、黒魔術は一般に広まってるって……」
「それは民間用の話。その本に載ってるのは結構ディープな黒魔術でね、使ってるのを見られると捕まるよ」
なんてものを教えてくれてんだこいつ!?
それに、もし本当にそうなら黒魔術は俺の数少ない貴重な戦力になるのに使える場面が限られるということになる。
人目があるところで戦うことになったら俺はどうすればいいんだ。ロニセラに全部任せればいいのか?もしそれで負けたらどうする、成す術無しだぞ。
もしそんな状況になったらどうすればいいのか、サリーナに聞いてみると―――
「じゃあ、もし人目があるところで襲われ――痛ッ!?」
突然、ロニセラに肩を噛まれる。それもいつもより強く。肩がえぐれそうだ。ものすごく痛い。
サリーナに着せられた洋服が血で汚れる。かなり大きな面積が赤色に染まったので洗濯が大変そうだ。
なんてことを考えてる場合ではない。ロニセラはいったいどうしたのだろうか。いつものような血を味わうための噛みつきじゃない、まるで、お仕置きのような、咎めるような噛みつきだ。
冷や汗を掻きながらロニセラの方をゆっくりと見る。すると、見るからに不機嫌なロニセラが目に入った。
「イリくん…。いつまでその女と喋ってるつもり?」
「……ごめん」
「…いいよ。反省してくれるならね」
曇っていたロニセラの顔がやや晴れる。その様子を見ていたサリーナは申し訳なさそうに言った。
「ごめんねロニセラちゃん。仲間はずれにしちゃって…。じゃ、そういうことでイリべくん、お勉強頑張ってね」
そう言ってサリーナは席を外した。そして、少量の荷物を持ってどこかへ出かけて行った。もともと何か用事でもあったのだろうか。その動きはスピーディーなものだった。
この家に残ったのは俺と、俺の肩を嚙んだままのロニセラだけだ。肩から血はあまり溢れて出してこない。何故なら、ロニセラがさっきから血を吸っているからだ。
「……その、ロニィ?」
「?」
「なんか、いつもより長くない?」
「うん」
「うんじゃなくて…」
いつもより傷が深いから出血量が割と洒落にならない。今日が命日の可能性が出てきた。
それはそうとして、一体ロニセラはどうしたのだろうか。日に日に摂取量が増えていっているのは知っていたが、今日は特別長い。サリーナとの会話でストレスが溜まってしまったのだろうか。
もしそうだとしたら申し訳ない。『幼馴染の世界に俺だけいよう大作戦』の立案者として失格だ。しっかりせねば。
「その、ごめん」
「いいよ」
「いやでも」
「いいって」
ロニセラは満足したのか口を離し、近くにあった治癒のポーションを俺に飲ませてきた。肩の傷がみるみる治っていく。確か、そのポーションはサリーナが買ってきたものだ。
ロニセラはやや傷跡が残った俺の肩を見て、その跡を撫でながら言った。
「べつにイリくんが誰と話そうと気にしないよ。でも、ずっと話されるのはいや。さびしくなる」
「ごめん」
「いいって。……だからね、約束。私のことをきにかけてくれる?」
「うん。約束するよ」
俺の返答を聞くと、ロニセラは満足そうに笑った。
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