イカれた幼馴染を紹介するぜ!!   作:俺の両手は幼馴染

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何となく区切りがついた気がしたのでここらでロニセラ視点を。
なんてやったら長くなっちゃった。


想い

 

 眼を閉じれば思い出す。イリくんが私に話しかけてきてくれた日のことを。

 

 「こんにちは」

 

 人に囲まれた場所で暮らす獣人に、彼は声をかけてきた。

 それだけならそこらにいる子供たちとそう変わらなかった。彼らは村に一家だけ存在する獣人という存在を面白く、それでいて、気味悪く思っていて、揶揄うために敵意を孕んだ笑顔で話しかけてくることがよくあったから。

 最初、私はイリくんのことを彼らの同類と見なし、適当に相手にすることにした。そうすれば、みんな顔を青くして走って逃げていく。あとでイリくんに教えてもらったけど、きっと”殺意”を向けられたから彼らは逃げていったんだと思う。

 でも、イリくんは違った。

 

 「きょ、今日は良い天気ですね」

 

 声こそ震えていたけれど、彼は逃げ出すことはしなかった。その後もいくつか受け答えしたけども、どっかのタイミングで私との会話を切り上げようとしなかった。

 それどころか、彼は私をかけっこに誘ってくれた。

 

 「いいよ!」

 

 私はつい、うれしくなって、ずっとそっけなくしていたのに急に元気に返事をしてしまった。

 遊びに誘われるなんて初めてだった。友達を持ったみたいでわくわくした。

 そのあとはいっぱい走って、彼は息も絶え絶えな状態になったけど、私は気にせず走った。彼もふらふらになりながらもついてきてくれた。

 

 「ぜェ…ぜェ……じゃあ、またね」

 

 「うん」

 

 だから、夕方になって彼と別れた時、初めて寂しいと思った。

 このまま一緒にいたいと思った。後ろを向いて家に帰ろうとしている彼の腕を掴んでしまいたかった。

 でも、お父さんがいつも言ってた。

 

 『人間は脆い。我ら獣人の爪で簡単に引き裂いてしまえる。ロニセラも、いじめられたら引っ搔いてしまってもいいんだぞ』

 

 「……」

 

 私は自分の爪を見た。鋭利な爪だ。この爪がイリくんの肌を、肉を裂く想像をした。本能で分かった。お父さんの言う通り、彼の体ぐらいなら簡単に裂いてしまえる。

 彼の後ろ姿を見る。ひどく無防備だ。彼をどうやれば狩れるのか、するべきことの道筋が見えた気がした。

 そこまで考えて、私は首を振った。

 彼は初めての友達だ。折角仲良くなれたのに、ここで殺してしまうのはすごくもったいない気がした。

 

 あの日以降、私たちはほぼ毎日のように遊んだ。

 私たちはよくかけっこをした。私は犬の獣人だからか、走るのが好きだった。イリくんも嫌な顔をせずに一緒に走ってくれた。毎回疲労で死にそうな顔になっているのに、日が暮れるころには「またね」と言ってくれた。

 それがうれしくて、朝も昼も夜も、だんだんと彼のことを考えるようになっていった。

 偶に彼からも遊びの提案をしてきて、特にかくれんぼが楽しかった。周りの人間がやってるのはよく見かけてたけど、自分がやるのは初めてだった。

 

 「イリくん、みっけ!」

 

 「あはは、もう見つかっちゃった。よくここが分かったね?」

 

 「ここからイリくんのにおいがするからね!」

 

 「え、ずるっ」

 

 「えへへ」

 

 不満そうに言う彼に、私は笑い返した。

 

 それ以降も、来る日も来る日も、イリくんと遊んだ。

 私のみならず、だんだんとイリくんまで村から孤立し始めた。周りの人間の子供も大人も、イリくんを避けるようになっていった。

 でも、イリくんは気にしなかった。むしろ、彼から他の子と遊ばなくてもいいのかと聞いて来た。当然、私は首を横に振った。彼以外と遊ぶことを想像できなかった。遊びたくないと思った。

 私の答えを聞いた彼はニヤリと笑った。企みが成功したとでも言っているかのようで、その笑顔はちょっと嫌だった。

 それでも、彼とは離れ離れになりたくないと思った。

 

 その日からさらに日が経ったあの日。

 今思えば、あの日こそが獣人生の転機だったと思う。

 

 「またね」

 

 「またね」

 

 彼といつものようにまた会う約束をして、私は帰路についた。

 その日はいつものと違って妙に人の目を引いた。私の存在は基本的に無視されるものだから、誰かに見られるということは無いはず。

 けれど、今日は違って視線を感じた。両親の顔が浮かんだが、彼らは用事がない限り家から出ようとしないから、その線はないだろうと頭から打ち消した。

 

 家に帰って早々、私は机に突っ伏しているお父さんが目に入った。その横ではお母さんが彼の肩に手を置き、慰めの言葉をかけていた。

 

 「クソッ…!人間どもめ…。今に見ていろ……!」

 

 「あなた…」

 

 お父さんが今のような状態になるのは初めてのことではない。これまでにたくさんあった。

 怒りをもって放たれるお父さんの小言は、今まで幾百と繰り返されてきたが、その内容が実現することは今まで一回も無かった。

 お父さんは人間に対して何かトラウマがあるらしく、彼らを見るだけで震えが止まらなくなってしまう。だから、きっと今のように激しい怒りを抱いていても、獣人らしい行動を起こせないのだろう。

 それほどのトラウマを抱えているからか、お父さんは大抵の場合家に引きこもっていて、家を出たとしても絶対に人目のつかない場所に向かって行く。

 そして、体をぼろぼろにして帰ってくる。その度に、今のような怒りを孕んだ台詞を呟く。そしてその怒りをぶつけるように夜にはお母さんと体をぶつけ合う。

 私の記憶にあるお父さんはその姿しかない。

 

 けれど、今日は一段と怒っている気がした。

 

 「おとうさん、おかあさん。ただいま」

 

 「ロニィ!!」

 

 お父さんが勢いよく席を立ち上がり、私の肩を思いっきり掴んできた。至近距離にあるお父さんの顔はいつもより歪んでいた。

 

 「大丈夫だったか!?人間たちになにかされてないか!?」

 

 「ロニィ…大丈夫だった?」

 

 「?…なにが?」

 

 私は何のことか全くわからなかった。

 今日もいつものように、イリくんと遊んで終わった。特に変わったことは無かった。強いて言うなら、帰り際に妙に視線を感じた事ぐらいだ。

 

 「し、知らないのか?ロニィ…」

 

 「なにを?」

 

 「お前、生贄に選ばれたんだぞ!?」

 

 生贄…?

 その言葉を聞いて思い出した。この村には、確か、ガルヴァ―ナとかいう神様が祀られているのを聞いたことがある。そして10年に一回、その神に生贄を捧げることも。

 その生贄に私が?

 

 突然のことで呆然としている私を見て、お父さんは私の肩から手を放し、重く席に座った。お母さんもその横で静かに泣いていた。

 お父さんは舌打ちをして、恨めしそうに言った。

 

 「クソッ!あの忌々しい老骨めッ…!!あれだけ身の安全を保障すると言いながら……ッ!!今すぐ殺してやる!!」

 

 そう言いつつもお父さんは席を立ち上がらなかった。

 見れば、彼の足は酷く震えていた。恐らく彼はその老骨とやらを殺しに行く道中で人間に、または老骨に見られることを想像して、その架空の目線に怯えているのだろう。

 彼は人間だけでなく、いざという時でもトラウマが邪魔して行動に移せない、そんな自分自身にも怒りを覚えているようだった。

 彼は憤怒の形相で涙を流しながら硬く握りしめられた拳で自身の足をしきりに叩いていた。

 

 「クソッ…!クソっ…!」

 

 そんなお父さんの様子を、私はただ眺めていた。

 特に思うことは無かった。心にぽっかりと穴が開いたような、何かに失望しているような、そんな空虚な気持ちだった。

 

 その次の日から打倒神様を掲げて修行をすることにした。

 何故だかイリくんが落ち込んでいて、それを励ますために言いだしたことだけれども、イリくんしか頼れそうな人が居なかったのもあると思う。

 彼は物知りだ。私が知ってることも知らないことも何でも知ってる。修行という、私は言葉だけしか知らないものでも、彼ならスラスラと説明してしまえるだろう。

 その予想は当たっていて、彼は少し悩んだそぶりを見せた後、私に修行の内容を教えてくれた。その大半がいつものようにかけっこをするだけだったのが気になったけど、彼が言うのなら間違いはないだろうと思った。

 それから、彼の言う通りに、私たちは修行に励んだ。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 そして、決戦の日。

 

 この日のために私たちは力をつけてきた。

 たくさんかけっこをして体力をつけてきたのはもちろん、魔法も覚えてきた。と言っても、私は身体強化の魔法だけだし、イリくんに至っては使えないみたいだけど。

 それでも、イリくんが考えてくれた修行をこなしてきたのだから勝てるはず。そう私は確信していた。

 

 その日の朝、私はお母さんのすすり泣きで目を覚ました。

 一体どうしたのか、確かめるために声のする方へ行くと、お母さんが床に座りこみながら泣いているのが見えた。それと、お父さんが玄関のドアの取っ手を掴んで固まっている姿もあった。

 

 「お父さん。なにしてるの?」

 

 「!ロニィ…!お前は、寝ていなさい」

 

 「どうして?今日はだいじな日なんだけど…」

 

 「違うッッッ!!!!!!!!」

 

 突然、お父さんが大声を出して否定してきた。その声量に寝ぼけていた頭がしっかりと動き出した。

 

 「ロニィ…!!お父さんが必ず、悪い人間どもをやっつけてやるからな!!」

 

 「…でもおとうさん、ふるえてて動けないんでしょ?」

 

 「なッ!何を言ってる!!お、俺は獣人だぞ!?人間なんかを恐れることなどッ!!」

 

 そう言いながら、お父さんの足は酷く震えていた。外に出るために玄関扉に手をかけているのだろうが、正直言って、体が震えて碌に立てないから支えにしていると言った方が説得力がある。

 そんな醜態を晒しておきながら、声だけは立派だ。彼にも譲れないプライドがあるのだと思う。

 

 「……おとうさん。なさけないね」

 

 「なッッッ!?」

 

 「どいて。出れない」

 

 私は外に出なければならない。一刻も早く、イリくんと最後の作戦会議をしなければいけないのだ。

 お父さんは扉から手を放し、支えがなくなったためにその場に崩れ落ちた。それがちょうど玄関を塞ぐようになっていて、先ほどよりも通り辛くなった。

 あまりに邪魔すぎて、私は少しむっとした。

 

 「何故だ……どうしてこうなった…!?」

 

 お父さんが頭を抱えてそう言った。

 彼から感じるのは後悔の念。「あの時…あの時…」と過去に犯した過ちを振り返り、戻りようのない現状に絶望していた。

 私は私たち獣人一家が何故この村に居るのかを知らない。私が物心つく頃にはすでにここに住んでいた。その前にお父さん達と老骨、村長との間にどんな会話があったのかを私は全く知らないのだ。

 ただ、村長から定期的に食料が送られてくることと彼の様子を見るに、当時の会話もとい交渉はそう悪いものでは無かったようだ。しかし、時が経ち、実際は違うことに気が付いた。

 

 「人間なんて信じるべきではない…そう分かっていたはずなのに…どうしてあの時の俺はあんな選択をしてしまったんだ!?」

 

 「あなた…」

 

 「………いいからどいて」

 

 私からすればお父さん達の後悔など知ったことではない。

 何せ、私にとって今の状況はそんな嘆き悲しむようなものではないからだ。むしろ、幸運とさえ思っている。イリくんに出会えて、いっぱい遊べて、神殺しのチャンスが貰えて、そして、自分の両親が情けないことを知れた。

 イリくん。そう、イリくんさえ居ればそれで良い。

 

 「な、なぁ、ロニィ」

 

 「なに」

 

 「さっきから外に出たがってるが、外に出てどうするつもりだ…?」

 

 「作戦会議だけど」

 

 「作戦…?だ、誰とだ!?」

 

 「イリくん」

 

 その名を聞くと、お父さんは顔色を変えた。その顔はまるで信じられないとでも言っているかのようだった。

 

 「イリくんって、確か、人間の友達だよな…?」

 

 「そうだけど」

 

 「そいつって、信用できるのか?」

 

 

 「あ?」

 

 

 今、この男は何と言った。信用できるのか、と言ったのだろうか。

 

 「お父さん。いま、なんていった?」

 

 「!?そ、その人間は信用できるのかと言ったんだ!!!たとえお前の友達だったとしてもそいつは人間!!!お前を騙していたんじゃ――――」

 

 「そんなわけないに決まってるだろこのビビりやろうッッ!!!!!!!」

 

 私は父親に飛び掛かりその顔面を殴りぬいた。

 父親は机の方へぶっ飛び、大きな物音を立てながら机が割れた。私はすかさず倒れている彼に馬乗りし、爪で彼の胸を引き裂いた。

 

 「イリくんは私の味方なの!!つかえないおまえと違って!!人間を見ただけでビクビクするようなおまえと違って!!見られることを想像しただけでうごけなくなるおまえと違って!!イリくんはわたしを助けてくれたの!!!」

 

 私は泣き叫びながら父親の体を引き裂き続けた。彼の皮膚がめくれ、肉が裂け、油が爪の間に挟まって、内臓が見えても、骨が見えても、私の気が済むまで引き裂き続けた。

 血で家が水浸しになった頃、私は彼を引き裂くのを止めた。もう彼の原型は残っていなくて、気が付けば私はクズ肉の塊に跨っていた。

 

 「はぁ…はぁ…」

 

 「……ッ…ぁ」

 

 息を切らしていると、母親のか細い声が聞こえた。見れば、顔を真っ白にして私を見て足を震わせている。彼女の足元には眼球が落ちていた。

 その眼球に気が付いたのか、それとも私の目線に気が付いたのか、彼女は声にならない悲鳴を上げ、オレンジ色の水を溢れ出させた。

 

 「…おまえもだ」

 

 ゴト。

 

 母親の首が落ちる。

 切断面から血が噴水のように吹き出した。それによって床のみならず壁や天井までもが赤く染められていった。

 落ちた首は少しの間私を見て口をぱくつかせていたが、すぐに動かなくなった。

 

 「………」

 

 真っ赤な部屋に一人立つ。天井から血がポタポタと雨漏りのように滴り、血溜まりが軽い音を奏でた。

 グぅっと腹の虫が鳴った。そういえば、まだ朝ご飯を食べていなかった。

 朝ご飯を作ってくれる人がいなくなってしまったなと思いながら、私はそこらに散らばる肉を見た。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 「んぁ」

 

 ふと、目が覚めてしまった。

 懐かしい夢だった。と言っても、あの日からまだそう時間は経っていないのだが。それでも懐かしいと感じたのは、あの時と今の状況がかけ離れているからだろう。

 とりあえず、私は目を擦り体を起こした。窓から空の様子を見るに、まだ真夜中だ。朝までまだ何時間もあるだろう。

 私は隣で寝ているイリくんの方へ目を向ける。

 

 「…すぅ…すぅ」

 

 「へへっ、かわいい」

 

 隣で眠るイリくんが小さく寝音を立てる。その姿はいつもの頼もしい姿の見る影も無い。その差異がたまらなく愛おしい。

 彼の手を握る。私たちはまだ幼いからか、その大きさに大して差はなかった。むしろ、爪を合わせれば私の方が大きいまであった。

 単純な力では私の方が絶対に強い。それは人間と獣人の間にある、種族として明確に存在している差だ。戦っても、きっと勝者は私だ。

 けれど、彼の方が格は上だ。その理由を詳しくは説明できない。ただ、私の心にあるのは彼に対する敬意と、あと―――。

 

 「イリくん」

 

 彼に声をかける。聞いてくれることを期待してはいない。だって、彼なら聞かなくても分かってくれているだろうから。

 けれど、私の口から言っておきたい。

 

 「イリくん、ずっと一緒にいようね」

 

 約束だよ。

 そう続けて、私は再度眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 その様子を影から見ていた者は微笑ましいものでも見るかのような顔で、彼らを起こさぬよう呟いた。

 

 「思った通り、人と獣人のカップルって尊いなぁ……」

 

 その日、真夜中にも関わらずサリーナの紅茶を飲む手は止まらなかったという。

 

 

 

 




軽く背景紹介。
ロニセラのお父さん
 …人間と獣人の戦争にて雑兵として戦場に駆り出されたが、人間側に大魔法使いが現れて前線を破壊。戦友も憧れの人も全員殺されてしまい心がポッキリ折れる。その後逃亡し、家族を連れて誰もいない場所を目指したが、村長に見つかる。

ロニセラのお母さん
 …行動力が無い人。

村長
 …天使みたいに可愛い孫が生まれたが、時期的にこの子が生贄に選ばれてしまう事を悟る。なにか方法はないか探してたらボロボロの娘付きの獣人一家を見つけた。見るだけで勝手にビビってくれる相手に交渉()はやりやすかった。

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