イカれた幼馴染を紹介するぜ!! 作:俺の両手は幼馴染
あれから何年経っただろうか。
冬を7、8回ほど経験したと思うので、それ相応の時間は経っているはずだ。自分の身長の伸び具合を見るに、多分、今の俺の年齢は14、15歳ぐらいだろう。
時間の流れとは速いものだと、常々思う。
「あっという間だったなぁ」
「そうなの?」
ロニセラはあまり理解できていないようだ。
それも当たり前かもしれない。彼女は15年程度しか生きていないが、俺は前世合わせれば半世紀にも及ぶ。
ジャネーの法則だったか。生きている年数が長い程1年が短く感じるというものだ。同い年でありながら異なる時間感覚を生きるとは、なんとも不思議な事だ。
確か、人生を80年と仮定した場合、20年生きれば体感上は人生の半分を終えたことになるんだったか。もしかしたら、俺が生きていられる時間は俺が思っているよりも短いかもしれない。そう思うと、どこか切ない気持ちになってくる。
ロニセラが聞いてくる。
「時間が早く過ぎるのは悲しい?」
「……まぁ、うん。ロニィと長く居たいし」
「へへへ、でも、私は悪くないと思うよ!だってそれってさ、その時間がとっても楽しかったってことでしょ?それって良いことじゃない?」
「確かに」
相変わらずのポジティブ思考だ。いや、伝わってないだけか。
それにしても、最近のロニセラを見ると、少々邪かもしれないが、成長したなと思う。
具体的に言うならば、随分女性らしい体型になったと思う。といっても、胸の発達は服の上から僅かに分かる程度なのだが。その代わりお尻がデカい。
俺は正直なところ胸派、それも大きめが好きなのだが、彼女が相手となるとその小さな胸もデカケツも魅力的に見える。貧乳派とお尻派に目覚めそう。
やはり幼馴染という存在は強力だ。若くして死んでしまったとはいえ、前世と後世の間維持し続けていた性癖を捻じ曲げるとは。
当然の事だが、幼馴染は最高だ!
さて、それはそうと、俺は悩んでいる。
悩みの種はサリーナ、もとい、彼女に保護してもらっているこの環境だ。
彼女には感謝している。最初は苦手意識を、というか今もぶっちゃけ苦手意識を持っているが、それでも6年近く育ててくれた。それ以外にも一応は黒魔術も教えてくれた(殆ど紅茶啜ってただけだけど)。この恩は大きい。
え、俺の両親?
それで、俺はサリーナに恩を返すべきかと思っている。彼女に何かしてほしいことはないか聞いてみたが「ないよ」と断られてしまった。
それでも、何かしら恩返しはしたい。どうすべきか考えた結果、王道だがプレゼントを渡すことにした。何を渡すかは決まってないけれど。悩みの種はこれだ。
それとは別に、俺らはそろそろ自立への準備をするべきだと思っている。前世基準で考えるとまだまだその時では無いのだが、ここは異世界、今からでも早くないという事を最近知った。
何故自立したいかというと、俺の人生の目標である『幼馴染と結婚する』を達成するためである。実家(?)暮らしも考えたが、やはり理想なのは二人っきりで幸せな生活を送ることだろう。
ただいきなり自立すると言っても分からないことも足りないものも多すぎる。特にお金だ。今の俺は居候の身なので、ポケットマネーは無一文だ。これでは何もできない。
そんなわけで、人生のゴールに向かうため、そしてサリーナに恩返しをするために俺はお金を稼ぐことにした。
とりあえず、いつものように紅茶を啜っているサリーナに自分はどうやって稼ぐべきか聞くことにした。もちろん、プレゼントの件は内緒だ。
サリーナは口を開け何かを言おうとしたが、俺にくっついているロニセラを見て「あー…」と間延びした声を出した。
「うん。…そうだね。もし、君たち両方が人間か獣人だったらいくらでも候補はあったんだけど……そのペアとなるとねぇ………きびしいかな」
「そこをなんとか」
「ないことはないけど……ものすっごいめんどいよ?」
「教えてください」
俺の返答を聞くと、サリーナはティーカップを静かに置き、近くの引き出しを開けてその中から地図を取り出した。
彼女は俺らの目の前でそれを開いて見せ、真ん中を指さした。
「ここが私の家、つまり現在地ね。見ての通り森に囲まれてる。んで、この森をずぅっと南西に向かって行くと『アルハァナ』ていう街に着く。ここなら人と獣人が一緒でも比較的大丈夫だね」
「……ものすっごいめんどい所以は何ですか?」
「『アルハァナ』はね、世界有数の多種族が同時に生活すること出来る街なんだ。人間や獣人はもちろんのこと、エルフやらドワーフやら竜人やら。その他にもたくさんの少数種族が居て、まるで異種族の見本市みたいな場所なんだ」
「……それのなにが面倒だと?」
「君は今までの人生で何を学んだの?たくさんの種族が同じ場所に住んでるんだよ?」
「……あ」
隣に立つロニセラを見る。
いや、まさかね。彼女がおかしいだけだろう。獣人はロニセラしか会ったことが無いのだ。全てがそうとは限らないだろう。
それに、他の種族もそこまで狂った価値観を持っていたりしないだろう。もしそうなら『アルハァナ』が存在出来るはずがない。
もし、万が一そこに住む全員が狂っていたら、そこは地獄よりも酷い場所になっているだろう。大丈夫だと思うが。そう思いたい。
「まぁ、不要な争いは避けるよう、あそこでは種族ごとに派閥があったり、統治側の戦力が高かったりするから治安は思ってるより悪くはないんだけどね」
「問答無用で殺されるとかでなければ大丈夫ですよ。な、ロニィ」
「もし危険だったら先手打ってみんな食べちゃおう」
「ロニセラちゃん?そんなことしたら首飛ぶからやめなときなー?」
サリーナが咎める。
彼女が言った”首が飛ぶ”という発言は、ただの比喩なのか、それともギロチンにでもかけられて本当に飛ぶのか。出来れば比喩であって欲しいが、大量殺人を犯した後に下される刑罰として死刑は当然だし、おそらく彼女が言ったのは後者だろう。
そういえば、一番大事なことを聞き忘れていた。
「その街で僕たちはどう働けばいいんですか?」
「冒険者一択かな。あそこぐらいだよ、異種族のペアが認められるのは」
「冒険者……」
”異世界ファンタジーといえば何か”で一番最初に挙げられると言っても過言ではない職業だ。サリーナが冒険者であることは知っていたが、あらためて名を挙げられると自分が物語のような世界にいることを自覚させられる。
冒険。この言葉が嫌いな男の子はそうそういない。もし冒険者がその名の通りの職業であるならば俺の内なる少年も目覚めずにはいられない。が、十中八九そんなロマンのあるものではないだろう。
冒険者と言うキャッチコピーを聞いてロマンを抱いてすっ飛んできて、いざ働いてみればその実は冒険者とは名ばかりの”害獣駆除係”、なんてのは創作でよくある話だ。
試しにサリーナに聞いてみると。
「まぁ、確かに。だいたいの依頼は魔物の討伐だね。中には特定の地域の探索依頼もあるけど、それも冒険と言うより調査だし」
と言う事らしい。
予想はしてたけど、少し残念に思う。
「給料とか、どれぐらいもらえたりしますか?」
「こなした依頼次第だね。でもまぁ、月に4、5回依頼をこなせば十分なお金は手に入ると思うよ」
「たったの4、5回でいいんですか?」
「だいたいの依頼は命に関わるし、妥当じゃないかな」
全然妥当じゃないと思う。
それってつまり、月に最低でも4回は死ぬ可能性があるということだよな。もしかしなくても冒険者って茨の道なのでは。
これからの未来に不安を覚えていると、ロニセラが俺の肩を叩いて言った。
「大丈夫!イリくんは私が守るから!」
「うん。頼りにしてるよ」
俺よりロニセラの方が強いから、本当に頼りにしている。
俺も黒魔術をある程度習得して戦えるようになったのだが、そもそもの戦闘センスと言うべきものが特別高いわけでは無かったので、自分で言うのもなんだが俺はそこまで強くない。一般人に毛が生えた程度、はさすがに謙遜しすぎか。一般人に剛毛が生えた程度と表現しよう。
ちなみにロニセラは毛が生えすぎてもはや獣だ。獣人だけに。
「それで、行くの?」
サリーナは地図をしまい、紅茶を一口飲んでから言った。
「…行きます」
「ふーん……」
俺の返答を聞き、サリーナはすこし反応を見せ、顎に手を添えて考え事を始めた。俺たちを見定めるような目で見つめ、しばしの間、静寂が流れる。
ロニセラの集中力が切れ、大きなあくびをしだした時、ついに彼女は口を開いた。
「良いけど、私も付いてくよ」
「え、でも」
「分かってるって。でも、初めての場所で色々分からないことだらけでしょ?案内してあげる」
それは普通に嬉しい、願ったり叶ったりだ。
正直、何もかも手探りの状態で月に最低4回の死のチャンスを回避しながら生活するものだと腹をくくってたから、彼女の援助を得られるのは僥倖だ。
しかし、向こうについてくるとなると、この家は大丈夫なのだろうか。ここは森の真ん中に位置するので、外見だけとはいえ、一日掃除を放棄するだけであっという間に廃墟に生まれ変わる。
それを数日、下手したら数年単位で放置することになったらこの家は自然と一体化してしまうのではないだろうか。
彼女なりに何か対処法を思いついていたりするのか。気になるがわざわざ触れるほどの話題ではないだろう。
ここは素直にお礼を言っておこう。
「ありがとうございます。ほら、ロニィも」
「なんで?」
「そうするものだから」
「………ありがと」
「……あはは!どういたしまして!」
ロニセラの感謝が予想外だったのか、サリーナは呆気に取られた顔をして、すぐに笑った。
「じゃ、行こっか」
「え、早くないですか?」
「家の物を何か持って行くわけじゃないし、大丈夫でしょ」
そういうものだろうか。確かに俺もロニセラも個人のものは無いから準備の必要は無いが、サリーナもそうなのだろうか?
ここ数年一緒に暮らしてきたが、彼女については何もわからなかった。生まれはもちろん、何故冒険者になったのかやこれまでの人生について何も語ろうとしなかった。強いて言うなら、四六時中飲むくらいには紅茶が好きなことぐらいだろうか。
まぁ、考えても仕方ないところではあるが。
さて、早速出発し家から10数歩ほど出たところで、「待って」と声がかかった。その声の主はロニセラで、彼女はいつもより引き締まった顔つきをしていた。
彼女が待ったをかけるとは珍しいと思いつつ、どうしたのかと聞いてみると。
「一回戦わない?」
「サリーナと?」
「うん」
「なんで?」
「だって私たち、この人に勝つために修行してたじゃん」
「……そういえばそうだったな」
忘れていた。黒魔術を覚えるのに必死だったせいか、もともと目的を見失っていた。
忘れていた理由としてそれ以外にもサリーナに挑もうという気が俺にあまり無かったのもあるだろうが。俺が強くなろうとしたのはロニセラに言われたからというのもあるが、彼女と自分自身を守るためや、冒険者になった時に足手まといにならないために力をつけたかったというのもある。
そして実際、近いうちに俺たちは冒険者になることが決定した。あの時の彼女の提案に承諾した当時の俺に称賛したいね。
さて、それはそうと。
「…どうします?」
「別に良いけど、まだ早いと思うなー」
サリーナは余裕綽々といった様子で承諾した。
まだ早い、という言葉のせいか、ロニセラの顔が少し険しくなった。彼女はどうやら負けず嫌いらしい。
正直なところ、俺も賛成ではある。
サリーナに挑発されたからというより、ただ単純に自分がどれだけ戦えるのか試したい。前も言ったように俺の戦闘センスは大したもんじゃないが、それでもセンスが無いなりに経験は積んでおきたいと思っている。
これから冒険者という職業につく関係上、自分の実力を知っておいて損は無いだろう。
「…やりましょう」
「あれ、結構乗り気?」
「はい」
「じゃあ、良いよ。ほら」
そう言ってサリーナは腕を広げた。
その姿は素人の目から見ても隙だらけで、明らかに挑発しているのが分かった。そして先手を譲っていることも。
俺はロニセラと目を合わせ、うんと頷く。
俺は自身の腕を切り、溢れ出た血をロニセラに飲ませる。
そして、えっと、ロニセラよ、もう飲まなくていいから。名残惜しそうな顔してもダメだから。俺の飲む分が無くなってしまう。
ロニセラを俺の腕から離し、自分の血を飲む。鉄の味だ。不味いし、飲み込んでも喉にドロっとしたものが残る。
そんな不快感に眉をひそめながら、俺はロニセラと共に呪文を唱えた。
「「◆◆◆◆」」
その悪魔語で綴られた呪文に呼応するように突如として現れた
こうして起こる効果は”身体強化”。通常の黒魔術は魔法陣が必要なのだが、例外として身体強化の黒魔術は血を飲み呪文を唱えるだけで発動できる。
そして、俺はこれで終わりなのだが、ロニセラは終わらない。
彼女はさらに自身に身体強化の魔法を施した。
魔法のものと黒魔術のものはそれぞれ別枠で乗算されるらしく、そのため、今の彼女の身体能力はもはや異常と言ってもいいだろう。それはもう、俺の存在意義を疑うレベルで。
役割としては、ロニセラが前衛、俺が後衛だ。彼女が近接戦闘で相手している内に、俺は後方で”すでに魔法陣が書かれた紙”に血を染み込ませ、ロニセラをサポートするといった感じだ。
一通り準備が終わったが、サリーナに動きは無し。始まりも完全にこちらに任せる気のようだ。
ロニセラと目を合わせ、始め方を決める。
俺は紙を取り出し、再度腕を切り、紙に描かれた魔法陣に押し当てる。すると、魔法陣は赤く光った。
「!」
サリーナは己に何をされたのかを理解したようだ。
俺が今発動したのは相手の動きを止める黒魔術。いわば金縛りだ。たとえどれだけ全身に力を込めてももうピクリとも動かせないだろう。効果が切れるまで解除する方法が無い、最強の拘束技だ。
……動きを止めた相手にしか効かないという欠点があるが。今のように先手を譲ってくれるのならこれを使わない手は無い。卑怯とは言うまいな。
サリーナの表情の変化を察知したロニセラは足に力を入れ始め、すぐに目にも止まらぬ速さで飛び掛かった。
これはサリーナとて避けられないだろう。勝った!
「『
ロニセラが凄まじい勢いで背後の木にぶつかる。
「…あれ…?」
ロニセラの安否を気にする間もなく襲い掛かる猛烈な眠気。瞼が重りのようだ。まさか、サリーナの魔法か?
サリーナの顔がいつもより高い。いや、俺が低いのか。意識が朦朧としていて分からなかったが、俺はもうすでに倒れてしまっているらしい。
「ごめんね。私、あまり真面目に戦わないんだ」
「…………ずっ…る」
そう言い残して、俺の意識は夢の世界へ旅立っていった。