ありふれた職業で世界最強 ~魔王と雷帝~   作:さまようトト

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今回から本編に戻ります。
直球すぎるサブタイトルですが、ようやくあの子の名前が出せる様になって嬉しいです。


LEVEL.12 『ガッシュ』

 

――轟々と風の音が耳に響く。

 

オレは今、底の見えない闇の中を落ちている。

 

 

あの『ベヒモス』との戦いにて、オレとハジメは最後の最後でクラスメイトの魔法が直撃し、石橋の下に落とされた。

 

最低な状況だが、直撃した魔法の威力自体は大した事がなかったため、あの後オレは空中で体勢を整え、現在は着地に備えている。

 

 

(――しかし、既に一分以上は落ち続けている。どこまで深いんだ、この迷宮は)

 

 

時折、壁に空いた穴から滝のように水が吹き出ている箇所があった。上手く利用することができれば、死なずに済むかもしれない。

 

オレは、体全体で風を受け止め、少しづつ壁側に近付く。

 

 

これは賭けだが、やれる事は全てやると決めていた。

 

そして、何とか落とさずにいた直剣を引き抜き、その時が来るのを待つ。

 

 

更に落ちていくと、ずっと闇が広がっていた奈落の底に、ぼんやりと光が見えてきた。

 

 

(――地面だ!!)

 

 

しかも幸運な事に、近くには途中で見かけた壁から水が吹き出している場所があり、滝壺のように水が溜まっている地点があった。

 

 

オレは、引き抜いていた直剣を壁に押し当てる。

 

ギャリギャリと壁を削る音が響き、剣から火花が散る。

 

更に、オレは剣を握っているのとは反対の手を地面に向ける。

 

 

(――威力はいらない。必要なのは、『勢い』と『持続性』だ)

 

もはやほとんど残っていない魔力を掌に集め、オレは呪文を唱える。

 

「ラージア・ザケル!!」

 

掌から放出された雷は、微細な魔力操作によって指向性を制御され、オレの体を僅かに押し上げる。

 

徐々に落ちていく落下速度。

しかし、数秒経つと、魔力が無くなったことで術が中断される。

 

オレは、術が途切れたタイミングで壁を蹴る。少しでも、体が巨大な水溜りの中央に近付くように。

 

 

もうすぐ傍まで迫った水面を見て、オレはそのまま体勢を整えて入水した。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

――バキィッ!

 

 

『――ぐがぁっ!?』

 

 

体が勢いよく壁に叩きつけられる。そのままズルズルと壁を伝って崩れ落ちる体。

 

 

『ぐ……!! ……く、そぉ!!』

 

 

うつ伏せに倒れた体に鞭を打ち、何とか立ち上がろうとする。しかし、そんな事はお構いなしに『敵』が棍を持って突進してきた。

 

ようやく立ち上がったオレの顔を目掛けて、棍が薙ぎ払われる。

 

 

『――ッ!!』

 

体を伏せることでその攻撃を避け、その反動を利用して体全体を使って飛び上がる。

 

己の数倍は大きい体躯を持つ『敵』の顔に掌を向け、術を行使する。

 

 

『――ザケル!!』

 

放たれた雷によって顔を焼かれ、思わず仰け反る『敵』に構わず、地面に着地したオレは更に追い打ちを掛けるべく掌を向け、術を唱える。

 

『ザケルガ!!』

 

 

――バシッ!

 

 

しかし、術が放たれる直前、術の起点となるオレの掌が棍によって弾かれる。

 

検討違いの方向に突き進む術を認識する間もなく、『敵』がこちらに急接近していた。

 

 

『ぐっ!?――ザケル!!』

 

咄嗟に術を放つが、それよりも先に振り下ろされた一撃が頭に直撃し、オレは意識を失った。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

(――う、……ここ、は……)

 

 

目が覚めると、見知ったベッドに横になっていた。どうやら、あの後自室に運ばれたらしい。

 

だが、ここに居るのはオレ一人ではなかった。

 

オレの耳に、誰かがすすり泣く声が聞こえた。

 

『ああ、王よ……なぜゼオン様にこの様な仕打ちを……。まだ幼い子供だと言うのに……なぜ……』

 

 

オレに背を向けて泣いているのは、オレの乳母を務めている女だった。彼女はオレが目を覚ましたことには気付かず、衝撃的なことを口走った。

 

 

『弟君である『ガッシュ』様には自由を与え、なぜゼオン様にはこんなに厳しい扱いをするのですか……』

 

 

(――何、だと?)

 

一瞬、思考が停止する。オレに、弟がいる……?

 

 

『――おい。どういう、事だ。』

 

『ゼ、ゼオン様……!?』

 

『先程貴様が言っていた事は、本当なのか? ……オレに、弟がいるというのは?』

 

『ああ……! 私は、何て事を……!!』

 

 

聞き出すと、乳母は悲痛に顔を歪めて、先程の発言を認めた。しかし、これ以上はオレに伝える事はできないのだと、泣きながら謝罪した。

 

 

オレが聞き出せた情報はただ一つ。

 

オレには、『ガッシュ』という双子の弟がいるという事であった。

 

 

だが、オレには気に掛かる点があった。

 

(――オレに弟がいるというのならば、なぜ、そのガッシュはこの城にいない?)

 

オレと同じ出生であるならば、弟も共に鍛錬の日々を送っている筈ではないのか?

 

(先程乳母は、王がガッシュへ自由を与えた、と言っていた)

 

 

オレは、嫌な予感が胸の内に広がるのを感じた。

 

――オレに課せられた、厳しい鍛錬の日々。

 

――直接会うことすら許されない、オレの両親。

 

――そして、隠された弟の存在。

 

 

もしや、オレの今の境遇は、その弟が関係しているのではないか。

 

 

その日から、オレは必死になって調べた。

 

日々の鍛錬によってボロボロな体に構わず、睡眠時間すら削って調べ続けた。

 

しかし、どれだけ調べても、大した情報は得られない。

 

 

気が付けば、弟について調べ始めてから一年が経っていた。

 

だが、ある日、偶然にも情報を手に入れたのだ。

 

その日もオレは、睡眠時間に部屋から抜け出し、もはや日課となっている調査に向かおうとしていた。

 

 

すると、二人の兵士が立ち話をしているのを耳にしたのだ。

 

 

『……どうだった、ガッシュ様の様子は?』

 

『あぁ、一時期は元気が無かったようだが、今は元気に学校へ通っているとの事だ』

 

『……そうか、それは良かった』

 

 

(――ッ!? ……ガッシュ、だと?)

 

 

息を潜め、兵士達の会話を盗み聞く。

情けないが、この機会を逃したら、もう二度と情報は手に入らないかもしれない。それ程までにガッシュの情報は秘匿されていた。

 

 

『王もお喜びになるだろう。何せ、ガッシュ様は親元を離れての暮らしだ。やはり気に掛けておられるだろうからな』

 

『あぁ。……しかし、王はなぜゼオン様にあそこまで厳しく接するのだろうか……』

 

『……それ以上は言うな。王には王のお考えがあるのだ』

 

『だが、あれだけ必死に努力されているゼオン様に『バオウ』が与えられないなど……。あまりにも、報われないではないか……』

 

 

(…………何だと?)

 

 

『バオウ』とは、魔界の王である父が千年間鍛え上げた究極の力『バオウ・ザケルガ』のこと。それは、息子であるオレに受け継がれる筈のもので……。

 

 

――『ならぬ。お前に『バオウ』は与えん』

 

 

以前、父が自分に放った言葉を思い出す。

 

 

『お前に』、『バオウ』は与えない……。

 

 

(――まさ、か)

 

 

ドクン、ドクンと心臓の鼓動が激しくなる。そんな筈はない。父がオレに厳しい鍛錬を課すのは、オレに『バオウ』を受け継がせるためである筈。

 

 

しかし、オレのその想いは、次に兵士から発せられた言葉で否定された。

 

 

『――なぜ、王はガッシュ様に『バオウ』を与えたのであろうな……』

 

『おい、その話はするなと言われている筈だ。口を慎め』

 

 

(…………あ)

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、今まで厳しい鍛錬に耐えることができていた心の支えが、ガラガラと崩れ落ちた。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

あの後、オレはフラフラと自分の部屋に戻り、泥のように眠った。

 

 

そして次の日、オレは訓練に身が入らず、普段よりもボロボロになって地面に這いつくばっていた。

 

 

『……よーし、今日はここまで』

 

今日の訓練相手を務めている、ラジン中将がこちらを気遣ってか、訓練は終了した。

 

 

『ぐっ……!! がはっ、げほっ!!』

 

立ち上がろうとするが、中々起き上がれない。それどころか咳き込んで、血反吐を吐く始末だ。

 

 

オレがそんな無様な姿を晒していると、部屋に重苦しい声が響く。

 

 

『――どうした、ゼオン……?』

 

その声は、最近オレの訓練を見ることは無くなっていた、父のものであった。

 

 

『ッ!? ……その声は、父上!? 見ておられるのですか!?』

 

『――随分と、ヘばっている様だな?』

 

『ぐっ……』

 

 

情けない姿を、父に見られた。オレは、悔しさに歯を食いしばる。

 

しかし、これはまたとないチャンスだと、オレは思った。昨日聞いた兵士達の話が本当かどうか、父に直接確かめる。

 

 

『――父上!! なぜ、なぜ私に『バオウ』をくれなかったのですか!?』

 

瞳から涙が溢れる。今まで辛い思いをしたのは何のためだったのか。そんな気持ちが胸の内を満たす。

 

『――前にも言った筈だ。『バオウ』は持ってはならない力だと。大きすぎる力は滅びをもたらす』

 

だが、帰ってきた返答はオレには納得できないものであった。

 

 

『……しかし、父上は『バオウ』を使って王になったのでしょう!? ならば、『バオウ』は偉大な力です! そうではありませんか!?』

 

『――偉大ではない。アレは、恐ろしい力だ。……お前に使いこなすことはできん』

 

 

ギリ、と思わず歯を食いしばる。

オレには、使いこなせない?それならば、なぜ……。

 

 

『――ならば、なぜ!! ガッシュに『バオウ』を与えたのですか!?』

 

 

オレが叫んだ言葉に、父はしばらく答えなかった。そして、ようやく口を開くと、冷たい声で尋ねてきた。

 

『――ゼオン、ガッシュの事を誰から聞いた?』

 

 

オレは、ガッシュのことを全て話した。

 

秘匿されている筈のガッシュの情報を調べていた事を知られれば、オレに罰が下されることは分かっていた。しかしそんな事よりも、オレはハッキリとさせたかったのだ。

 

――なぜ、兄弟であるオレとガッシュの扱いが、こんなにも違うのかを。

 

 

『ガッシュには『バオウ』という力と自由を与え、なぜ私には厳しい教育と訓練の日々しか下さらないのですか!?』

 

『――ゼオン』

 

だが、その疑問に答えが帰ってくる事はなかった。

 

 

『――ガッシュの話はするなぁ!!』

 

バチリ、と大きく音が鳴ったと気付いたその瞬間には、オレに雷が降ってきていた。

 

『ぐぁあああああ!?』

 

 

いつまでも終わらない電撃。

気絶しそうになっても、痛みによって強制的に意識を戻される。

 

フッ、と永遠に続くかという時間が終わり、地面に倒れ伏す。

 

そこに、怒りが籠もった父の声が響く。

 

 

『――下らん話をする暇があるなら、腕を磨け!! 力を使うお前の心を鍛えろ!!』

 

『――ラジン中将、今日は朝まで訓練を続けろ!! 一時も休ませるな!! 明日からの訓練の時間も倍に増やせ!!』

 

 

朦朧とする意識の中、父の言葉が頭に響く。

 

『――ゼオン、二度とガッシュの話はするな!! 二度とだ!!!』

 

 

それきり、父の声は聞こえなくなった。もう、こちらを見てもいないのだろう。

 

 

『……ゼオン様』

 

いつの間にか近くまで来ていたラジン中将が、手を差し出してくる。

 

だが、オレは怒りと憎しみ、そして虚しさで心がぐちゃぐちゃだった。今は、放っておいてほしかった。

 

『……触るな。一人で、立てる……』

 

 

立ち上がるオレを見つめ、ラジン中将が口を開く。

 

『……王が、貴方に次の王になってほしいと思ってのことです。そうでなければ、これほど厳しい特訓はしません』

 

オレを気遣う様に声を掛けるラジン中将が煩わしくて、オレはその言葉を切って捨てる。

 

『……知った口をきくな、中将ごときが。オレが次の王になるのは、当たり前の事だ』

 

 

そうだ。オレが王を決める戦いで勝つなんてことは、当たり前だ。

 

 

『――こんな訓練などしなくても、オレが王になるのは、当たり前なんだ……』

 

 

呟いた言葉は、虚しく消えていった。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

――あれから時が経ち、遂に『魔界の王を決める戦い』の参加者が発表された。

 

今オレは、選ばれた100人の参加者の名簿を見ている。

 

 

『ゼオン様、おめでとうございます!! 見事、魔界の王を決める戦いの100人に選ばれましたな!!』

 

嬉しそうに語るラジン中将の声が届かない程、オレは怒りに震えていた。

 

『――これは、どういう事だ……!?』

 

『ゼオン様……?』

 

困惑するラジン中将に、オレは問い詰める。

 

 

『なぜ、この王を決める戦いに、『ガッシュ』の名前がある!?』

 

ガッシュは、オレの様に厳しい特訓をしていない。ガッシュは、民間の学校で日々遊んでいるだけだった。ガッシュは、ガッシュは……。

 

ずっと、心の中で抑え込んでいた憎しみが爆発する。

 

 

『父上は、オレを王にするために厳しい特訓をしたのではなかったのか!?』

 

『ゼオン様……』

 

 

バチバチ、と体から雷が漏れ出し、手に持った名簿を燃やし尽くす。

 

 

『――やはり父上は、『バオウ』を持つガッシュを王にしたかったのか!?』

 

自分の最強の力を受け継がせた子を、次の王にするために。

 

ならば、ならば今までオレがしてきた事は、何だったんだ……?

 

 

『オレは……! やはり憎まれているだけの子だったのか!?』

 

ガッシュの事を父に尋ねたあの日から、ずっと心に燻っていた疑問。

 

――オレは、両親から必要とされていないのではないか、と。

 

 

『くそったれが……!! ガッシュめ……消してやる……』

 

今まで過ごしてきた、辛い日々の記憶が次々と湧き上がり、心が怒りと憎しみで満たされる。ガッシュが居なければ、オレはこんな思いをしなくて済んだのではと。

 

 

『オレが必ず、お前を……お前が受け継いだ『バオウ』ごと、消してやる!!』

 

 

その日、オレは弟である『ガッシュ』に、オレと同じ苦しみを味わわせることを決意した。

 

 




読んで頂いてありがとうございます。

という訳で、皆大好き、DV空回り魔界と家族大好き魔王こと、ゼオンくんパパの名シーンでした。
原作を読んで思ってたのですが、ゼオンくんへのあの対応は、結果的に上手く言ったとはいえ、割と危ない橋だったのではと思います。まぁ要するに、もっと優しくしてあげてくれよ……。

いきなり回想シーンに突入してしまったので、びっくりした人が居たらごめんなさい。

おかしい……当初は奈落の魔物との戦闘になる筈だったのに、いつの間にか回想になってました。

次回こそは、奈落の探索に入ります。

では、次話もよろしくお願いします。
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